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乙景が眼鏡ブランド<七六>の取扱をスタートさせた理由とは?

6月24日から乙景で取り扱いがスタートした眼鏡ブランド<七六>。

戦後日本が生んだ合金「サンプラチナ」の無垢材を使った作品たちは、折角堂オーナー高橋賢吏さんがデザインし、聖地・鯖江の職人坂本利一さんの手によって1本ずつ作られています。

今回は、先日の高橋さんのインタビューに続き、乙景店主・山下にインタビューを実施。

折角堂や七六との出会いをはじめ、取り扱いを決めた理由や、七六が生み出してくれるであろう化学反応についても語ってもらいました。

「実は3年前に出会ってたんです」店主・山下と七六の出会い

__最初に七六を知ったのはいつですか?

山下:実は3年前に出会ってたんですよ。まだ梅田にDollarがあった頃に、お客様が「この眼鏡を新しく買ったんだ」と話していたことがあったんですが、その眼鏡が今思えば七六だった。

ただその時は七六の眼鏡としては認識していませんでした。

__ちゃんと認識したのは?

山下:1年弱くらい前ですね。乙景の店主になってしばらくした頃に、折角堂店主の榎さんが来てくださったんですが、その時にかけていた眼鏡が七六でした。

__眼鏡の第一印象はどうでしたか?

山下:月並みなんですが、シンプルに「きれいな眼鏡だな」と。静かで素朴なのに、そこにちゃんと存在していて。ハッとするような美しさを感じました。

__乙景で取り扱いを始めたい、と思ったのはいつ頃ですか?

山下:榎さんが二回目に乙景に来てくださった時ですね。当時僕は乙景を「ただの服屋で終わらせたくない」と思い始めていたんです。

ちょうどcanomaの取り扱いをスタートさせたタイミングだったのもあって、香水以外にもより幅広いライフスタイルを提案できるお店にしていきたい、って。

そんなことを榎さんと話しているうちに、「可能なら七六を取り扱いさせてもらえませんか?」ということになったんです。

七六に決めた理由、セレクトしたモデルに決めた理由

__眼鏡やアイウェアのブランドは他にもたくさんありますよね。どうしてその中でも七六だったんですか?

山下:もちろん榎さんとの出会いも大きいですが、他にも4つほど理由があります。

一つは職人である坂本利一さんが1本1本手作業で作っている点。眼鏡にはどうしても大量生産のイメージがあったんですが、七六の話を聞いて「職人の手仕事を活かして作っている眼鏡もあるんだ」って思ったんです。

乙景で取り扱っているインポートブランドやドメスティックブランド、アーカイブのアイテムには、デザイナーの想いや職人の技術が詰まったものがたくさんあります。

だから七六の眼鏡も乙景に自然と馴染むだろう、と。

__二つ目の理由は?

山下:サンプラチナという素材ですね。この合金はもともと歯の詰め物に使われていたくらい、アレルギーが出にくく、耐久性が高い。

眼鏡って毎日同じものを使う人も多いので、そこで経年劣化が出てしまうとストレスに感じるかなって思うんです。お爺ちゃんになってもかけられるような眼鏡が欲しかったので、サンプラチナは理想的な素材でした。

あと何よりもサンプラチナは光沢が本当に美しい。写真では伝わり切らない部分もあるので、この点はぜひ店頭で手に取って見てもらいたいですね。

__では三つ目の理由は?

山下:曲線の美しさですね。職人の方の手曲げだからなのか、曲線が本当に柔らかい。

丸っぽい形のモデルは当然なんですが、例えばオクタゴン(八角形)のモデルも角張っているのにどこか丸に見えるんです。

__不思議ですよね。機械生産の方が一部の隙もない美を作れそうな気がするのに、手仕事が入ったものの方が美しく見える。

山下:四つ目の理由が、適度な軽さです。この「適度な」というところがポイントです。

__というのは?

山下:軽すぎてもダメだと思うんです。

僕は近頃、できるだけストレスを感じないような服を選ぶようになったんですが、だからと言って生地が軽ければいいというわけでもなくって。

生地の揺れ感や落ち感みたいなニュアンスは、適度な重さがないと生まれません。

眼鏡も同じで、ちょうどいい重さじゃないと心許ないというか、頼りない。七六の眼鏡は、自分がかけた時に「ああ、そうそう。この重さだ」って思えたんです。

__今回乙景では、ラウンド2型、ボストン1型、オクタゴン1型をセレクトしています。これはどうしてだったんですか?

山下:シンプルに自分が一目見て気になるモデル―――年齢を重ねたあとでも、かけているのが想像できるようなもの―――だけをピックアップしました。

あとは今まで眼鏡やアイウェアに苦手意識を持っている人でも「眼鏡姿の自分、けっこうイケてるやん」と思ってもらえるモデル、という裏テーマもあります。

__確かに、眼鏡姿って慣れてないと「似合ってない」って思いがちですね。

山下:そうなんです。七六のフルラインナップを見るためにスタッフの山口と一緒に折角堂さんにお邪魔したんですが、山口がまさに眼鏡に苦手意識を持っているタイプで。

でも今回ピックアップした4型に関しては、どれも「あれ、案外僕イケてますね、これ」と言ったんです。それを聞いて、お客さまにもそう感じてもらえるだろうと思って、この4型にしました。

「昔はとにかく“黒縁太フレーム”にしか惹かれなかった」

店主・山下が最近愛用しているヴィンテージの眼鏡。

__山下さんは、これまでどんな眼鏡をかけてきたんですか?

山下:昔はとにかく“黒縁太フレーム”にしか惹かれなかったんです。これは当時の僕の服の選び方とも通じる部分があって。

__というのは?

山下:目立ちたかった(笑)。だからジャケットもパンツもシャツも眼鏡も、とにかく全部存在感のあるアイテムで固めたかったんです。

__引き算の美学が光る七六とは正反対にある世界観ですね(笑)。

山下:まさに。でも歳を重ねていくにつれて、シンプルでベーシックなスタイルの中で、どんな「ひとクセ」を入れるかを考えるようになってきて。

この秋冬に買ってよかったものは?【乙景編】で紹介したヴィンテージの眼鏡も、同じ観点で選びました。七六はそういう今の僕の志向にドンピシャでハマる眼鏡だったんです。

それに、七六は僕の眼鏡観を変える力も持っていましたしね。

__どういうふうに変えたんですか?

山下:先ほども触れましたが、「人の手で作る眼鏡」というものの存在と美しさを教えてくれました。

僕たちが扱っている服には、手で織ったり、縫ったり、染めたりしたものがたくさんあります。「手仕事」というと簡単ですが、そうやって手ずから作ることによってしか生まれない美しさみたいなものを、僕たちは大切に大切に伝えようとしています。

お客さまの中には、乙景に来て初めてそういう服に触れた方も少なくありません。そんな時、お客さまは「え、そんな服あるの!?」と驚かれます。お客様の「服観」が変わった瞬間です。

私が榎さんから最初に七六のお話を聞いた時、まさに同じような気持ちでした。「え、そんな眼鏡あるの!?」って。

実際、七六の眼鏡からは職人さんの手で作るからこその美しさ、温もりがじんわりと伝わってきます。本当に素晴らしい眼鏡だと思います。

「七六はブランド同士・お店同士の架け橋になってくれると思ってます」

__乙景としても、VISION OF FASHIONとしても初の眼鏡ブランドの取り扱いですが、七六は乙景にとってどんな存在になると思いますか?

山下:ブランド同士をつなげてくれる存在になると考えています。七六は乙景の取り扱いブランド、つまりJAN JAN VAN ESSCHEやZIGGY CHEN、HED MAYNER、ZIIIN、どれと合わせてもぴったりくると思います。

逆に言えば、どのブランドにも合う要素を持っているので、例えばJAN JAN VAN ESSCHEとZIGGY CHEN、HED MAYNERとZIIINみたいにブランドをミックスさせたときのつなぎ役になってくれるんです。

__ファッションを自由に楽しむために、そっと支えてくれる縁の下の力持ち的な。

山下:そうそう。だからめちゃくちゃ重要な存在になってくれるって思うんです。

__では、乙景と折角堂の関係性は今後何か発展していくヴィジョンはあるんでしょうか?

山下:七六が乙景と折角堂をより強く結びつけてくれるような気はしています。

僕たちは主に服を売っていて、残念ながら眼鏡のスペシャリストではありません。だから眼鏡について僕たちが伝えられることにはどうしても限界があります。それは重々承知のうえで取り扱いをさせてもらっているつもりです。

でも折角堂の高橋さん、榎さん、向井さんはスペシャリストですよね。だから眼鏡の楽しさを知るために、乙景のお客さまにもやっぱり折角堂に行って欲しいんです。自分の中の世界を拡げにいく感覚で。

乙景のお客さまにはまだ折角堂を知らない人も多いはず。七六を紹介する中で折角堂のことを知ってもらって、さらに折角堂で眼鏡の楽しさを知ってもらえたら、そんな素敵なことってないよなって思うんです。

今はオンラインでも簡単に人と人がつながれる時代ですけど、それだけで満足するのはもったいない。僕らがお店をやってるのも、リアルのつながりにしかない面白さや魅力があると信じているからです。

だから七六がそうやって、乙景と折角堂の架け橋になってくれたら最高ですね。

<NEWS>
・【6月24日】より、乙景にて眼鏡ブランド<七六>の取り扱いがスタート。
・CONTEXTがリニューアルオープン
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語り手/山下 恭平(乙景店主)
書き手/鈴木 直人(ライター)