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この秋冬に買ってよかったものは?【乙景編】

前回のこの秋冬に買ってよかったものは?【CONTEXT TOKYO編】に引き続き、今回は京都乙景の店主山下恭平と、11月からV.O.Fに参加したスタッフ山口竜輝に2021-22AWシーズンの買ってよかったものを紹介してもらいます。

山下が紹介するのは、京都の古着屋さんで見つけたと言う2本のヴィンテージサングラス。山口が紹介するのはとある彫刻家の作品です。いずれも2人の“今”が色濃く反映された、興味深いお話になりました。

「ハコ、モノ、お客様に見合う自分になるために」店主・山下恭平編

__山下さんが今季買ってよかったものは何ですか?

山下:2本のヴィンテージサングラスです。長く続いていた緊急事態宣言が解除された頃に、ブラブラと京都の古着屋さんを回っていた時にたまたま入ったお店で見つけたものです。

一つはオーソドックスなレンズ型の跳ね上げ式サングラスです。メーカーやブランドの刻印などが一切ない、どこの国のいつの時代のものなのかもはっきりわからない逸品です。お店の人は80〜90年代ぐらいのものとおっしゃっていました。

もう一つは40年代頃のサングラスで、テンプルが180°稼働するというよくわからない仕様で(笑)作られています。レンズの形はオーソドックスですが、フレームが小ぶりなツーブリッジになっているところが特徴です。

__どちらも地味に見えてめちゃくちゃ癖が強いですね……。どうして今回こういったサングラスを買ったのですか?

山下:一言で言うと「ハコ、モノ、そしてお客様に見合う自分になるために」ってところですね。このサングラスは、その第一歩として僕のキャラクターをファッションを通じて伝えていくための相棒みたいな存在なんです。

僕は7月から乙景の店主として店に立つようになりましたが、その中で色々なお客様とコミュニケーションをとってきました。年上のお客様もたくさんいらっしゃいますが、僕よりも若い方々もたくさんいらしてくれています。

乙景のお客様はどの方もですが、特に若い方々は本当に心からファッションを楽しんでいることが伝わってきます。それを見ていて、シンプルに「いいな」と思ったんです。

__確かこの春夏に買ってよかったものは?【乙景店主・山下恭平編】では、ものの選び方が若い頃よりも落ち着いたって話してましたよね。その感覚が、秋冬になって変わってきたということですか?

山下:そうなんです。手前味噌にはなりますが、乙景はハコとしてものすごくカッコいいお店です。セレクトしているブランドやアイテムもめちゃくちゃカッコいい。

加えて、乙景にいらっしゃるお客様も、さっき話したみたいにファッションを心底楽しんでいてカッコいいんです。

店主になってからの数ヶ月で、そういったハコ、モノ、お客様のカッコよさを目の当たりにして、自分ももっとファッションを楽しんでいたいし、お客様にファンになってもらえるような人間になりたいって思って。

今って買い物をしようと思えばONLINEでも欲しいものが手に入る時代じゃないですか。

そんな中でわざわざ乙景に来てくださるお客様に対して、お店としてだけでなく、僕個人としても色々なこと伝えていけたらな、と。ファッションの話も、仕事の話も、人生の話も。

もちろん、僕がお客様から教えていただくこともたくさんあるとは思うんですけど。

小ぶりなツインブリッジフレーム
あり得ない方向に開くテンプル

__2本のサングラスがそのための第一歩になる、というのはどういうことですか?

山下:お客様に「乙景の店主の山下」を認知していただくには、僕なりの色が必要です。確かに乙景の洋服を着ることで僕なりの色を出せないわけではないんですが、毎回同じ洋服を着てお客様の対応をするわけにもいきません。

でも小物だったら毎回同じものを身につけていても違和感がないし、「山下と言えばこれ」というキャラクターを確立できると思ったんです。

そこで見つけたのがこの2本だった。

オーソドックスなレンズ、フレームに跳ね上げ式のサングラスというオツな組み合わせ

__でもこれ……日常的に身につけるには難易度が高いように感じますが……。

山下:その通り。めちゃくちゃ難しい(笑)。例えば跳ね上げ式の方は、一般的なサングラスよりもレンズが2枚多いわけですから、たいていの人が違和感を抱きます。大部分の人がすんなり受け入れられないものというのは、スタイリングも組みづらいんですよ。

でも逆に言えば、これをうまく自分のものにできればキャラクターになる、個性になるわけです。

__どうやって自分のモノにしてやろうかな、という感じですね。

山下:まさに。僕が「買ってよかったな」と思うものって、得てしてそういうものが多いんです。

今は自分にピッタリ似合ってるわけじゃないかもしれない。でも歳を重ねるごとにしっくりくるようになるかもしれない。自分はこいつとどんなふうに付き合っていくんだろう、どんな形で相棒になっていくんだろう。

そんなことを考えてニヤつくことができたら、「買ってよかったな」って思うんですよね。そういう意味で、この2本のサングラスとは本当に良い出会いができました。

乙景1階の古着

__一点ものとの出会いって、古着やヴィンテージの醍醐味ですよね。

山下:そうですよね。

まだInstagramなどを使って紹介したりはしていないんですが、実は乙景もCONTEXT TOKYOと同じく、古着を展開するようになりました。

まだお店に来たことがない方もたくさんいらっしゃるとは思うんですが、1階の畳の部屋に1ラック分、古着を並べてるんです。

だから僕が京都の古着屋さんでヴィンテージのサングラスと出会ったみたいに、乙景でも一点ものとの出会いを楽しんでいただけたらと思っています。

__主にどんなものが並んでいるんですか?

山下:「アジアの美意識」という乙景のコンセプトや、お店の雰囲気に合うもの、自分自身が好きなものがメインです。

例えばコム・デ・ギャルソンやヨウジヤマモトなどのドメスティックブランド、マルタン・マルジェラのヴィンテージや、ミリタリーやワークのヴィンテージなどです。

流行のものをしっかり押さえていくというよりは、乙景にしか出せないようなミックス感を提案していくつもりです。

__乙景は先頃CONTEXT TOKYOに続いて香水の取り扱いを始めましたが(フレグランスブランド「サノマ」の香水が連れてくる、かぐわしき“日本人の記憶”)、眼鏡やサングラスなどのアイウェアをスタートさせる予定はないのですか?

山下:実は……コツコツとネタを仕込んでいます。アイウェアって物理的には小さいものなんですが、それを変えるだけでスタイリングのムードがガラリと変わるアイテムでもあります。

与える影響力の大きさで言えば、アウター級なんです。だから服屋としてはやっぱりやっておきたくて。

アイウェア好きの方はもちろん、今までアイウェアに興味を持ったことがないという人も、ぜひ楽しみにしておいて欲しいですね。

「今手を伸ばさなかったらもう巡り合えない、と思う瞬間があるんです」スタッフ・山口竜輝編

__今回紹介してくれる、買ってよかったものを教えてくれますか?

山口:勝木杏吏(かつき・あんり)さんという作家さんの作品です。金属を使って作品を作っている彫刻家の方で、これも鉄板を加工して作ったオブジェです。鉄板を切り出して、磨いて、熱を入れて、藍染風にしている「藍染シリーズ」という作品です。

__え、藍が入っているんですか?

山口:いえ、独自の手法を使って熱を入れて、鉄を藍色に輝かせているそうです。僕が買わせていただいたのは深く濃い藍色ですが、個体によっては淡いブルーや爽やかなスカイブルーのものもあります。

__これはどんな風に使っているんですか?

山口:小さいものは壁にかけて、大きいものはお気に入りの椅子にオブジェとして置かせてもらっています。買ってからちょうど1ヶ月くらいなんですが、朝でも夜でも外に持ち出して、光に照らして見たりしています。

__めちゃくちゃ気に入ってる(笑)。

山口:もうほんとに!可愛いんですよね、特に小さい方なんかは……(ニヤニヤ)。あと鉄なのでしっかり重いんですが、そこも良い。男の子が好きな「ちっちゃくて重いやつ」なんです(笑)。

ちなみにこのシリーズは、作家さんにお話を伺ったところ水たまりを意識して作ったそうです。だから形もまん丸ではなく、歪にしてあるんですって。

上と下の写真は同一作品。にもかかわらず、光の当たり方でここまで色合いが変わって見える。

山口:勝木さんのTwitterをたまたま見つけて、写真を見た瞬間に「なにこれ!?」って。まさにビビッと衝撃が走ったというか。それで何としてでも手に入れたいと思って、個展に行って買わせていただいたんです。

__もともとこういうアート作品に興味はあった?

山口:ものすごく知識があるわけではないんですが、小学校くらいの時から一人で行くくらい美術館を巡るのが好きな子供だったんです。

__一人で美術館って大人でもハードルが高く感じる人がいるのに、すごい子供だったんですね。

山口:いえいえ、本当に見るのが好きなだけで。

でもそうやってただ見ているだけの時は買うなんてことは全く考えなかったんですが、大学に入って一人暮らしを始めたらインテリアに興味が出てきて、デザイナーズ家具を買うようになったんです。

__美しいと思うものを自分のお金で買う楽しみを覚え始めたわけですね。

山口:そうなんです。自分で色々と調べて、吟味した結果、家具はかなり満足のいくものが集まったんです。そこで次に考えたのが「アートが足りないぞ」だった。

でも―――今もですけど―――学生なので、アート作品の相場なんてわかりませんし、買えないわけです。「この絵は○○○万円です」と言われても、確かに素敵だなとは思いますが、とてもじゃないけど手が届かない。「へえ、そうなんですねえ……」で終わっちゃうんです(笑)。

ところが今年の初めに、あるものに出会ったんです。

__何ですか?

CONTEXT TOKYOに額装されて飾られる『PLETHORA MAGAZINE(プレソラマガジン)』

山口:V.O.Fで取り扱っている『PLETHORA MAGAZINE(プレソラマガジン)』です。デンマークのコペンハーゲンから年に1回発行されている世界限定1,000冊のこのアートマガジンを、社長の菊池さんに紹介してもらって購入したんです。

僕にとっては初めて購入したアートだったので嬉しくて額装して部屋に飾ったんですが、それから部屋の雰囲気が格段に良くなった。

おかげでさらに「やっぱりアートっていいな。一人暮らしで寂しいし、もう少し部屋にアートが欲しいな」と思うようになっていきました。

__そこで勝木さんのTwitterを見つけたわけですね。

山口:そうなんです。しかも近々京都岡崎 蔦屋書店で個展をされることもわかって。いてもたってもいられなかったですね(笑)。

__でもアート作品ってけっこう高いんじゃないですか?

山口:詳しい価格は伏せますが、僕でもなんとか手が届く金額だったんです。ずっと絵画などを見てきたので、自分が買える範囲の価格でアート作品が手に入るとは思いもよりませんでした。

だから「うわあ、買えちゃうやん!」ってテンションが振り切ってしまって、もうそのまま……という感じでした。

__あー……それめちゃくちゃわかります……。「いやいや、そりゃもう買いますわ!」ってなるやつだ。

山口:本当に(笑)。それに家具やアートって、年月が経っても美しさはそのままじゃないですか。毎日に家に帰ったら待ってくれていて、見守ってくれている感じがしますし。

あと、今手を伸ばさなかったらもう巡り合えない、と思う瞬間があるんです。

__直感的に「あ、これは今ここで買うものだな」みたいな感覚がある、みたいな?

山口:そんな感じです。まあ、懐事情で買えない時も当たり前にあるんですけど(笑)。

__じゃあ最後に、竜輝さんが今狙っているものについて教えてください。

山口:……………………買っちゃったもの、でもいいですか?

__沈黙長っ!またなんか買っちゃったの!?(笑)

山口:RICOHのGR IIIxっていうコンデジを一昨日くらいに(笑)。

__買いたてホヤホヤ(笑)。

山口:これを使って乙景のInstagramなどの写真をバンバン撮れるようになりたいって思って買ったんです。

写真もまだこれから勉強する段階なんですけど、僕は鈴木さんや東京の伊藤(香)さんのように文章が得意じゃないので、写真で伝えられたらなって思って。

そういう意味で、このカメラは「これから買ってよかったものにしていく」って感じです。

__素晴らしいですね。竜輝さんはこれまでアートをたくさん見てきたから、きっと写真の上達も早いんじゃないでしょうか。楽しみにしています。今日はありがとうございました!

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語り手 /山下 恭平(乙景 店主)・山口 竜輝(乙景 スタッフ)
書き手/鈴木 直人(ライター)