【京都・乙景】JAN-JAN VAN ESSCHE 2023A/W のバイイングに込めた思いについて
秋分の日をすぎ、ようやく残暑も過ぎ去ったかと思える気候になってきました。ファッションが楽しくなる季節の到来に、ワクワクされている方も多いのではないでしょうか。
V.O.F各店店内はすっかり秋冬ものが並んでおり、多くの作品がお客様の手元に旅立っています。京都・乙景ではとりわけJAN JAN VAN ESSCHEの動きが早く、入荷直後に完売した作品も少なくありません。
そんな今のタイミングで、乙景店主・山下にJAN JAN VAN ESSCHE 2023A/W “RITE”から受けた印象や、山下自身がときめいたもの、「すっごく良いけど内緒にしておきたい」という秘蔵っ子的な作品などについて話してもらいました。
さらには、JAN JAN VAN ESSCHEを含む、2023A/Wの乙景全体のバイイングテーマについても、彼の洋服やお店への想いを交えて語ってもらっています。
「まだ今年の秋冬、何を着るか決めきれていない」という方はもちろん、「もう2023A/WのJAN JAN VAN ESSCHEを買って着ている!」という方も、きっと楽しめる内容になっていますので、ぜひご一読ください。
ブランドとして、「次」に進むためのRITE(儀式)
__JAN JAN VAN ESSCHE(以下JJVE)の2023A/Wのテーマは “RITE”。儀式という意味の単語でしたが、ランウェイショーを見るとまさに儀式じみていました。まずはあのショーの第一印象から聞かせてください。
山下:「彼の今までのクリエーションの総決算」ですね。最初のルックで使われていたボーダーのコートは、2021A/W “SUNU”で登場したロングコートが原型ですし、他にも「見たことあるな」「もう一度見たかったやつだ」というものがいくつも見られました。
“RITE”というテーマは今までの自分を振り返って、ブランドとして「次」に進むための通過儀礼としての“儀式”だったのかな、と思っています。
__今までの総決算、ということはあまり新しいデザインなどはない?
山下:単なる復刻、リバイバルで済ませないのがJJVEらしいところです。1つ1つのデザインを丁寧に見直してアップデートしているので、今までのJJVEを知っている方でもしっかり楽しめるコレクションになっています。
ランウェイショーで一目惚れしたもの
__ランウェイショーを見た時に、一目惚れしたのはどの作品ですか?
山下:”TROUSERS#75″のANTHRACITE FINE COTTON DENIMですね(完売)。
__一目惚れポイントは?
山下:一番はやっぱりディテールですね。大きなパッチポケットに、ダブルニー、ハンマーループとヴィンテージのペインターパンツを踏襲したディテールが、僕の好みにドストライクでした。
__山下さん、ヴィンテージ大好きですもんね(笑)。
山下:ヴィンテージのペインターパンツって生地の性質上、横にシルエットが広がりがちなんですが、そこはやはりJJVEです。サイドシームのないパターンを使っているので、きれいな筒状のシルエットになってるんですよね。ここに感動しましたね。
感動して、乙景だけで5本積みました(笑)。
__5本!? 今まで乙景がJJVEで1品番5点ってありませんでしたよね?
山下:初めてです。でもたくさんのお客様に共感いただいて、あっという間に乙景分は売り切れてしまいました(9月16日現在、全店完売)。本当にありがたい限りです。
__山下さんも個人的に購入されたんですか?
山下:はい。購入して、毎日のように履いています。2022S/Sの本藍染デニム、2022A/Wの墨染デニムとずっと欲しかったのに買うタイミングがなかったので即決でしたね。
__実際に履いてみてどうですか?
山下:シルエットの美しさはもちろんなんですが、生地もめちゃくちゃに良いですね。卵白コーティングによる光沢感と柔らかい肌触りが特徴なんですが、少し履いただけでもものすごく柔らかく育ってくれています。
ヴィンテージのデニムのペインターパンツ同様に薄くて軽いライトオンスなので、真夏含めたオールシーズン楽しめそうなのも魅力ですね。
__JJVEのワーク系って、絶妙なバランス感覚がありますよね。
山下:僕は2022S/Sシーズン、買ってよかったものは?でも紹介したJJVEのデニムジャケットを着るようになってから、もともとヴィンテージ好きなのもあって、JJVEが提案するワークウェアに惹かれるようになりましたね。
というのも、JJVEはワークウェアを作る時にヴィンテージのつくりを踏襲する一方で、自分のデザインに合わせてディテールを削ぎ落とすこともあるんです。
しかもそれが「長く着られる」とか「なるべく生地を切らない」といった、JJVEの哲学に合致するようなやり方で調整されています。
このあたりのバランス感覚が、ワークウェアの男くささとJJVEらしいエレガンスの良い塩梅を生み出しているんだと思います。
__そのあたりを読み解くのも楽しそうですね。
山下:めちゃくちゃ楽しいですよ!今季を含め、今後もJJVEのワークウェアは引き続き乙景で提案していくので、お客様と一緒に楽しんでいきたいなと思います。
デニムに関しては、次の2024S/Sでも2種類の生地が使われていて両方とも仕入れているので、楽しみにしていてほしいですね。
「2023A/Wのバイイングは“自分回帰”がテーマになっていたんです」
__今の話にも通じるところがあるかもしれませんが、今季の乙景のJJVEのバイイングを見ていると、明確に山下さんの趣味が全開になっているように感じました。何かテーマのようなものがあったんでしょうか?
山下:JJVE含め、乙景の2023A/Wのバイイングは“自分回帰”がテーマになっていたんです。
新型コロナウイルス感染症がインフルエンザと同じ5類感染症になったことで、コロナ禍で切り離されていた「日常」と「ファッション」がまた一つになったように感じていて。
__確かに「おしゃれをして外に出る」みたいな感覚が、また戻ってきたように思いますね。
山下:その時に、多くの人が今まで自分が着てきた服とか、自分が今したいファッション、これからも着ていきたい服について、考えたんじゃないかって思うんです。
__以前は着飾って当然、バチっと決めて当たり前でした。でもコロナ禍でそういうものが全部バツンと断絶した。
その経験を経て、今の5類感染症移行後になってみて、自分に合ってるもの、これから着たいものを見直すようになった。こういう感覚は、多かれ少なかれ服好きは持っているかもしれませんね。
山下:その答えは人それぞれだと思います。例えば「この数年でロング丈を着なくなった」というお客様がいらっしゃいますが、それもこのお客様が自分の日常やファッションと向き合って出した一つの答えだと思うんです。
僕の場合は、それがワークとかヴィンテージ、トラッドだったんです。
__だから「自分回帰」。
山下:そうやって自分のルーツを乙景に注入していくことで、僕にしかできない店づくりをすることに、お店をやっていく意義があると思って。だからコレクションの中であんまり目立ってないものでも、自分が良いと思ったら積極的に仕入れたりしているんです。
もちろんこれは、乙景の店主になってからの2年間で、たくさんのお客様が支えてきてくださったから言えることなんですけど。
__でも乙景を見ていると、山下さんのお店というより、スタッフの山口さんと二人で作っているお店という印象も受けます。
山下:店主としてはダメなのかもしれないんですけど、バイイングの時も、普段の営業の時も、僕は彼にたくさん相談しますし、ディスカッションもめちゃくちゃするんです。バイイング期間は深夜2時を過ぎるまで、ああでもない、こうでもないと議論しています。
僕は僕で彼に伝えたい、受け継いでいきたいことがあるし、一回り年下の彼の若い感性から刺激を受けたいとも思っています。だからあくまで二人で、お店も作っていきたいんですよね。
__こればっかりは文字やネットでは伝わらないので、ぜひ実際に乙景に行って、二人と話して、感じてほしいところですね。
一度は試してみて欲しい、おすすめスタイリング
__では、ここまでの内容を踏まえたうえで、9月21日現在で店頭にある作品を使って、おすすめのスタイリングを3つほど教えてください。
山下:わかりました。
一つ目はチェックのボンバージャケットを使ったスタイリングです。ランウェイショーではこのジャケットは共生地のチェックのペインターパンツと合わせていましたが、今回はパンツをデニム生地に変えてコーディネートしました。
ボンバージャケットとペンターパンツの組み合わせは、THE アメカジコーデでカジュアルな雰囲気になると思うんですけど、JAN JAN VAN ESSCHEの作品でコーディネートすると、カジュアルな雰囲気は大幅に抑えられて、むしろ上品な雰囲気に仕上がります。
そこに太フレームの眼鏡を合わせて少しナードさを加えてクセを出しました。足元はレザーシューズで合わせましたが、ローテクのスニーカーなんかでカジュアルに落とし込むのもおすすめです。
二つ目はテーラードジャケットとペインターパンツの共生地のセットアップスタイルです。
こちらはカチッとしたセットアップを着るのに疲れた方や、成人式で20歳を迎える方なんかに着てもらえたらなーと思って入れていた商品達だったんです。
リラックスにセットアップを着たい方には今回のようにロンTを中に着たり、もう少し寒くなってきた頃にはハイゲージのニットを中に着たりすれば長く着回せるし、成人式などフォーマルなシーンで着るときには中にシャツを着てドレスアップして着てもらいたいなと思っています。
JAN JAN のトップスはどれも背面の肩部分に生地が溜まるので、どことなく着物の雰囲気が出ます。なので一つの着物や袴と思って他の方とは違うドレスアップをするのも面白いと思いますよ。
三つ目はドレスシャツに対して、どストレートにウールのスラックスをシンプルに合わせました。でもパンツにはタイトなものを選ぶのではなくて下に生地が溜まるようなワイドなシルエットのものにしました。
というのも、シャツが比翼仕立ての静かなディテールで、かつ少し細めのシルエットなので、パンツをワイドにしてAラインでスタイリングを組む方が、シャツの良さを引き出せると思ったからです。
この上からテーラードジャケットなんかを着てインナーにこのシャツを使うのもいいですよ。ストライプの柄と絶妙なシルクの光沢感があるので柄や生地感で遊びが効くコーデになります。
店主・山下の、「すっごく良いけど内緒にしておきたい」もの
__最後に、今山下さんが「すっごく良いけど内緒にしておきたい」ものを教えてください。
山下:内緒にしておきたいのに……。
__教えてください(笑)。
山下:一つはJJVEの”JACKET#53″のDUSK CHECK CANVAS。ボンバージャケットですね。これに関しては今話すことで「僕が買うので買わないでください」という牽制をしたい、というレベルで欲しい(笑)。
今までずっとマドラスチェックやタータンチェックのようなノリのチェックは着たことがなかったんです。僕は今35歳なんですが、この歳になったからか、意外なほどこのチェックがしっくりきて。
日本の古い織機で織られた生地なんですが、めちゃくちゃ大人なチェックなんですよ。今季のバイイングテーマの一つであるトラッドの要素もあるし、2着あるうちの1着は本当に欲しいんです。
だから、マジで内緒にしておきたい(笑)。でも好きやから、さっきのスタイリングでも使っちゃうという……。
__服屋のジレンマですね(笑)。
山下:あと、”SHIRT#90″ RIDGE STRIPED SHIRTINGも、本当は内緒にしておきたいんです。
__これもさっきのスタイリングで登場してますがな!(笑)
山下:だって好きなんですもん!
“SHIRT#90″は比翼のシンプルなドレスシャツなんですが、僕、実は今まで比翼のシャツを買ったことも、仕入れたこともなかったんです。自分の中で「きれいすぎるな」という感覚があって。
でも今回仕入れてみたら、これこそJJVEの哲学・美学が詰まったシャツだなと思ったんです。
比翼、シルク20%混の光沢のある生地、完璧に柄合わせされたストライプというドレス要素と、背中と袖以外にシームのないワンピース仕立て、コットン80%のやや硬めの生地感、それらによって作られる立体的なシルエットが、絶妙なバランスを作っています。
ドレス要素を引き立てるなら、もっとストンと落ちる生地の方がわかりやすいと思うんですが、あえてこの生地で作ることでちょうど良い違和感が出るんですよね。
またこれ、先ほど話したボンバージャケットと合う!何回試着したかわかりません(笑)。
__JJVEのこの手の作品は、本当に「わかる人にはわかっちゃう」シリーズですね。
山下:僕としてはJJVEの哲学・美学を伝えるのにちょうど良い作品でもあるので、正直最後まで残ってもらっても大丈夫。
__自分が欲しいし(笑)。
山下:そうそうそう(笑)。
それは半分冗談として、今回はJJVEがテーマなので、同ブランドの作品を中心に話しましたが、他のブランドにも推し作品はたくさんありますし、今季から始めたブランドなんかもありますから、ぜひお時間のある方は店頭まで来ていただければ嬉しいですね。
__今回はありがとうございました。
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