VISION OF FASHION

MENU

ITEM

2022S/Sシーズン、買ってよかったものは?【乙景店主・山下恭平編】

V.O.Fメンバーの「2022S/Sシーズン、買ってよかったものは?」シリーズ、第二回は乙景店主・山下恭平編です。

彼が紹介してくれるのは、「お客さまに見て、共感してもらいたくて、安易に買えなかった」と語る、JAN JAN VAN ESSCHEのデニムジャケットです。

1着の服とじっくり、ゆっくり向き合ったからこそのモノ語り。ぜひお楽しみください。

「お客さまに見て、共感してもらいたくて、安易に買えなかった」JJVEのデニムジャケット

__山下さんにとって2022S/Sはどんなシーズンでしたか?

山下:色々な面で挑戦したシーズンでした。ファッションの分野で言えば、アーカイブ作品、今季の作品含めてJAN JAN VAN ESSCHEをよく買いましたね。

__どうしてJAN JAN VAN ESSCHEの作品を買うことが挑戦になったのですか?

山下:僕にとって未知の素材が多かったからです。例えば今季の作品で言えば、”TUNIC#30″LEAD LINEN BAMBOO CLOTH。他にもヘンプ100%のツイル生地であったり、ペーパーが織り込まれている生地であったり。

あまり一般的ではない素材なので、僕も今まであまり着てこなかったんです。そういう服を買って、着て、洗って、どんなふうに育っていくのかを見てみたかった。だからJAN JAN VAN ESSCHEの作品を買うことは挑戦でした。

__ファッション以外の分野も含めて、挑戦してみたくなったきっかけは?

山下:「飛び込むしかない!」って思ったからです。

2022S/Sのデリバリーがはじまったのは今年の1月。ちょうど僕が乙景の店主になって半年くらいのタイミングです。そこから半年経って、先月6月でちょうど1年になりました。

僕にとってこの1年は、乙景の取扱ブランドへの理解を深める期間でした。

しかし理解を深めると言っても、店頭で見たり、試着したりしているだけでは限界があります。だからもう「飛び込むしかない!」って思ったんです。

__では色々と買ったなかで、今シーズン一番の買ってよかったものはどれですか?

山下:悩みに悩んだんですが、先日ようやく手に入れたJAN JAN VAN ESSCHEのデニムジャケットですね。

__先日買ったばかりなのに、今シーズン一番の買ってよかったものなんですか?

山下:はい。お店にデリバリーされたのはシーズン立ち上げ直後の1月だったんですが、実はその頃からずっと欲しかったんです。

この作品はその後一度だけ再入荷しているんですが、そこからは寝ても覚めても「あのデニムジャケット、欲しいわ〜」って感じで。それでも買わずに我慢して、ようやく7月に入って購入しました。

丸半年間、店頭で眺めたり、お客さまにおすすめしたり、時には自分で袖を通したりしていると、まだ買ったわけでもないのに自分の中でこのデニムジャケットが育っていくんです。感じ方、見え方が変わっていくというか。

だからもうすでにこのデニムジャケットは、今シーズン一番の買ってよかったものなんです。

__感じ方、見え方はどんなふうに変化していきましたか?初めて見た時、再入荷で再会した時、購入した時に分けて教えてください。

山下:最初は、「すごくきれいな色だな」「見たことないデニムジャケットやな」くらいの印象でした。

__確かこのデニムの染めは徳島の本藍染ですよね。

山下:はい。僕は藍染と聞くと、少しムラ感のあるイメージだったんですが、JAN JAN VAN ESSCHEのデニムはきれいに染まっていて、一般的なデニムの持つ粗野な印象がなかった。淡い、藍のブルーが本当にきれいなんです。

__「見たことない」というのは?

山下:背中のシーム(縫い目)の裏を、生地の耳(生地を織った際の端)で接いでいるのを見て、「なんやこれ!?」ってなったんです。

その後、CONTEXT TOKYOで即完売になったと聞いて、「まあ、あのデニムジャケットはカッコよかったもんな」と思い出したりはしましたが、正直最初はその程度の思い入れでした。

__確かに、山下さんのこのデニムジャケットへの気持ちは、再入荷のタイミングから急上昇したイメージです。

山下:そうなんです。乙景に再入荷したタイミングで「もっとパターンをよく見てみよう。背中のシームもいったいどういうふうにできてるんやろう?」って、じっくり観察したんです。

そこからはもう驚愕。一気に欲しい気持ちが高まりました。

__どういうことですか?

山下:あれこれ見たり、調べていると、このジャケットが基本的にたった2枚の生地から作られていることがわかったり、古い織機(旧式力織機)で織られた生地がそのまま裁断されずに使われていることがわかったり…….。

__生地がそのまま裁断されずに……?

山下:古い織機は、現代的な織機に比べて狭い幅でしか織れない構造をしています。その幅は29インチ(約73cm)です。

このデニムジャケットは背中の中央から、ボタンのついた前立ての部分まで継ぎ目のないパターンで作られていますが、この長さがなんとちょうど29インチ(約73cm)なんです。

JAN JAN VAN ESSCHEは生地に対する強いリスペクトから、できるだけ生地を切らないパターンを考えるブランドですが、その哲学がこの1着に込められているんだなと強く感じましたね。

__その話をしてくれた4月くらいから、山下さんは暇さえあればデニムジャケットを試着して「やばいな……」って呟いていました(笑)。

山下:完全に欲しい熱が上がりきってしまったんです(笑)。

__にもかかわらず、山下さんは他の服はあれこれ買いながら、このデニムジャケットには手を出しませんでしたよね。あれはなぜだったんですか?

山下:お客さまに見て、共感してもらいたくて、安易に買えなかったんです。

先ほども触れましたが、このデニムジャケットはJAN JAN VAN ESSCHEの哲学をわかりやすく形にした1着です。だからお客さまにJAN JAN VAN ESSCHEのすごさを感じていただくにはもってこいなんです。

もちろん自分で買って、着て、伝えるのもいいんですが、1着しかないものだったので、もしお客さまが僕の話に共感してくださって「どうしてもこれが欲しい!」って思ったら、すぐに買っていただける状態で置いておきたかった。

自分が欲しいっていう気持ちより、お客さまに見て、共感してもらいたいっていう気持ちの方が強かったんですよね。

__我慢に我慢を重ねてようやく手に入れてみてどうですか?

山下:正直なところ、まだ着た感じは試着してた時と一緒なんです。そりゃまあ、あくまで「自分の中で育ってた」というだけなので、当たり前なんですけど(笑)。

でもこのデニムジャケットは、先日の乙景店主・山下の“思い入れの1着”で紹介したTHOM BROWNEのジャケットと同じく、何年も着込んでこその服だと思うので、これから長いこと付き合っていけたらいいなと思っています。

それが僕の、服との向き合い方なので。

__では最後に、次に狙っているものについて教えてください。

山下:SCHAのArt#1014 Canotier „D”/ Natural。カンカン帽ですね。JAN JAN VAN ESSCHEのデニムジャケットを着たいのはやまやまなんですが、京都の夏は暑くてぶっちゃけ暑い(笑)。だからこれからの夏本番はあのカンカン帽を被りたいな、と。

でもあれもラスト1点なので、店主の僕が買うよりも、お客さまに手に取ってもらいたいという思いがあって、なんとも悩ましい限りです(インタビュー後、SOLD OUT)。

__どんな形であれ、買い物は悩んでいる時が一番楽しいと言いますから、引き続きお楽しみください(笑)。今日はありがとうございました。

<NEWS>
・東西各店にJAN JAN VAN ESSCHE 2022-23A/W COLLECTIONが到着。
▼京都・乙景 Instagram
▼東京・CONTEXT Instagram
▼VISION OF FASHION Instagram

語り手/山下 恭平(乙景店主)
書き手/鈴木 直人(ライター)