ZIGGY CHEN 2022SS “今シーズンおすすめしたい逸品”【京都・乙景編】

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ZIGGY CHEN 2022SS “今シーズンおすすめしたい逸品”【京都・乙景編】

【考察】ZIGGY CHEN が 2022SS COLLECTION “INACGRAPHY” で伝えたかったものとは?でご紹介したように、今季のZIGGY CHENのシーズンコンセプトには古代中国の老荘思想が深く関係しています。

特に荘子が提唱した「世間一般で役に立たないとされているものでも、見方を変えると別のところで大きな役割を果たしていることがある」という考え方(無用の用)。

そして「荘子が夢の中で胡蝶になり、自分が胡蝶か、胡蝶が自分か区別がつかなくなった」という説話で語られる世界観(胡蝶の夢)は、今季のアイテムに色濃く反映されています。

今回、京都・乙景店主の山下が紹介してくれるHYBRID VEST JACKETも、そんなアイテムの一つ。ZIGGY CHENが私たちに提案してくれる“服好きにとっての喜び”を含め、たっぷりと語ってもらいました。

シャツ?ベスト?ジャケット?どっちが表でどっちが裏?全てが曖昧な一着“HYBRID VEST JACKET”

__今日はZIGGY CHENの“HYBRID VEST JACKET”について話してくれるということですが、なぜこのジャケットだったんでしょうか?

山下:今シーズンのZIGGY CHENのデリバリーが届いた時点で一目惚れした1着だったからです。

CONTEXT伊藤が語るZIGGY CHENの魅力とは?—— 2着のJACKETから見る同ブランドの哲学で伊藤さんも話してくれていましたが、このジャケットのデザイン源は1940年代のイギリスの鉄道員が来ていたジャケットです。

もともと僕はヴィンテージが好きなので、このジャケットにも自然に惹かれていました。

それに加えて、あちこちに散りばめられているZIGGY CHENらしさにも強く魅力を感じましたね。

オリジナルのヴィンテージでも、ベストでも、ジャケットでも、ボタンが7つあるものは珍しい。

__そのZIGGY CHENらしさというのは?

山下:まずボタンが多い。普通この手のヴィンテージのジャケットのボタンは、せいぜい3〜4つです。HYBRID VEST JACKETという名前になっていますが、ベストもボタンの少ないアイテムですよね。

でもこのジャケットのボタンは7つある。これってメンズシャツのボタンの数なんですよ。

__ジャケットでもなく、ベストでもなく、シャツなんですね。

カフスのディテール。中央に1枚生地を挟むことで、サイズ調整が可能になっている。

山下:ぱっと見は確かにジャケットだし、上からコートを着ればベストにも見える。でもボタンの数はシャツだし、生地もシャツ並に薄い。

カフスの仕様もシャツみたいにプリーツが入っていたり、ジャケットみたいにボタンで袖口のサイジングを調整したりと、色んなアイテムの要素を巧妙に組み合わせています。

全てが曖昧。誰もこの1着を「この服はジャケットです」「いえ、ベストです」と定義づけることはできないんです。

__最近、ZIGGY CHENはそういう曖昧性を強く意識していますが、確かにそう言われてみるとこのジャケットは極めてZIGGY CHEN的だ。

山下:とまあ、表側だけでもこれだけ語るポイントがあるんですが、HYBRID VEST JACKETは裏地もすごいんです。

今季は柄物の印象が強かったし、ZIGGY CHENといえばコート、ジャケットという話になりがちですが、個人的にはこのジャケットの裏地が一番ツボでした。

__その心は?

山下: 表側を見ると、一見シンプルな黒のジャケットに見えますが、実は上下のポケットの上にシーム(縫い目)があったり、肩や袖にシームが入っていたりします。

黒の生地同士を縫い合わせているだけで目立たないので、正直最初は「何の意味があるんだろう?」と思う人が多いと思います。

でもこれ、各シームにパイピング処理を施しているので、裏返すとその部分が縦横のラインがデザインとして活きてくるんです。

__そのための“地味なシーム”ってこと!?

写真はハンガーにかけているので生地の重さでズレているが、平置きにすると袖のパインピングとボディのパイピング、そして生地の長さが完全に一致する。

山下:そう。しかも、伊藤さんがCONTEXT店主・伊藤が2021-22AWシーズン“もっと”おすすめしたいZIGGY CHENでニットのボディと袖の柄が揃うという話をされていましたが、このジャケットはそれをパイピングを使ってやっているんです。

ほら、肩と胸のパイピング、袖とお腹のパイピング、ぴったり揃っているでしょう?

__……え、こわい……。

山下:もう一つ怪談を話しておくと、HYBRID VEST JACKETの袖って異様に長いんです。

__ひょっとして意味がわかると怖い系の話始まった?

山下:僕ね、これ、入荷当初から「おかしいなー、なんでだろうなー」って思ってて。

__稲川淳二さんの「やだなー、こわいなー」みたいに言うのやめてください。

山下:それでね、ふと思い立って、カフスを除いた袖の長さと、身頃の生地の長さ、測ってみたんです。そしたらね、この2つの長さがcm単位で一致してるんですよ……。

もしかしたら、これね、生地をあらかじめ裁断して縫い合わせたあと、全部にパイピング処理を施してから、身頃はそのまま使い、袖は筒状にして使ったんじゃないかと思うんです。だから長さがぴったり一致する。

Ziggy Chen氏はこの長さを揃えたかった。すると必然的に身頃の生地の長さ+カフスの長さが袖丈になります。これが袖が普通より長い原因なんです。

店に1人でいる時に気づいたんですが、本当に戦慄しましたよ(笑)。Ziggy Chen氏は良い意味で完全に変態だと思います。

__怖い怖い怖い!なんで裏でそんなことしてるの!?

山下:鈴木さんが書いた今シーズンのZIGGY CHENの考察を読めば、なぜこんなことをしたのかがわかりますよ。

__え、僕が書いた考察でわかるんですか?僕まだわかんないんですけど……。

「荘子の思想を服の形にしたのが今季のHYBRID VEST JACKETなんです」

山下:鈴木さんは考察の中で、今シーズンを象徴するプリント柄SCHOLAR(学者) PRINTに使われた人物を、古代中国の思想家・荘子ではないかと推理していましたよね。

__はい。荘子の根本思想である無為自然(あるがままでいること)と、今シーズンのテーマである造語“INACGRAPHY”を構成する単語の一つ“INACTION(不作為)”が全く同じ意味だったので、古代中国絵画の歴史なども踏まえ、この学者は荘子なのではないかと考えました。

山下:荘子の思想である「世間一般で役に立たないとされているものでも、見方を変えると別のところで大きな役割を果たしていることがある」という考え方(無用の用)。

そして「荘子が夢の中で胡蝶になり、自分が胡蝶か、胡蝶が自分か区別がつかなくなった」という説話で語られる世界観(胡蝶の夢)。

Ziggy Chen氏は、HYBRID VEST JACKETを通じてこうした荘子の思想を服の形にしたんだと思うんです。

__まさか……?

山下:一見目立たない表側のシームは、いわば「世間一般で役に立たないとされているもの」。

でも裏返す=見方を変えると、縦横を走るパイピングがデザインとして立派な役割を果たしていることがわかります。まさに“無用の用”。

ジャケットなのか、ベストなのか、シャツなのかもわからない。裏側を作りこむことで、どちらが表でどちらか裏かもわからない。袖と見頃は同じ生地が使われていて、そこに主従関係もない。

この曖昧性は「自分が胡蝶か、胡蝶が自分か区別がつかなくなった」という“胡蝶の夢”の世界観です。

__ここまで徹底してシーズンテーマを貫くデザイナーなんて、Ziggy Chen氏くらいなんじゃないでしょうか。

山下:すごいですよね。だから今回のスタイリングは、そうしたZiggy Chen氏の哲学に敬意を表して、ジャケット、ベスト、シャツ、3つのパターンの着こなしをしてみました。

ぜひこのジャケットを手に入れるお客様も「これはアウター」などと境界線を引かないで、色んな着こなしを楽しんで欲しいですね。

ZIGGY CHENがくれる“服好きにとっての喜び”とは?

__ZIGGY CHENの作品って、こうやって考察して、それを自分のファッションに落とし込む楽しさが半端じゃないですよね。

山下:しかもそういう着る喜びだけじゃなくて、ハンガーにかけて眺めるだけでも楽しいし、デザイナーの工夫を発見するのも楽しい。

Ziggy Chen氏自身が楽しみながら服作りをしている感じがビシバシ伝わってくるんですよね。「これ、気づいてくれたら嬉しいな」みたいな。

こっちもそこに気づけると「うおー、すげえ!」って嬉しくなる。こういう服はなかなかないです。

__何重にも工夫が凝らされているから、多分山下さんや僕でも気づいてないところもありますよね。

山下:あるでしょうね。だからお客様にはぜひ店頭に来て手に取っていただいて、自分なりの解釈みたいなのも見つけて欲しいなと思います。

ZIGGY CHENの作品はそうやって色々な見方、着方に耐えうる魅力を秘めた服だと思うので。

なんというか、めちゃくちゃ陳腐な言い方になるんですけど、改めて「服っていいなあ」って思わせてくれるんですよ。

僕はこれまでそんな裏地をまじまじと眺めたり、生地の長さがどうとか、パイピングがどうとかってこだわったことなかったんです。

でもZIGGY CHENの作品を見ていると、そういう普通は見過ごすようなところにこだわっているからこそ、ハイレベルな服ができあがるんだということがわかってくる。だから「もっと知りたい」と思って、生地の長さを測ったりしたくなるんです。

自分でも変だなって思ってるんですけど、最近気づくとメジャーを手に細かいところの長さを測ってるんですよね(笑)。「まだ見過ごしてることがあるんじゃないか」って思って。

__わかります。僕もV.O.Fのブランドの服に触れるようになって、より服やファッションへの解像度みたいなものが上がった気がします。今までに比べて、ずっと「よく見える」ようになったというか。

山下:妥協のないモノづくりをしているから、どんどんファンが増えていくんだろうなと思います。特にZIGGY CHENって年齢に関係なく、沼にハマっていく人が多いんですよ。

20歳くらいの若い子もいれば、40代、50代の大人の人たちも。先日はコートを女性が買って行ってくれました。老若男女、みんな大好き。

__正直今シーズン、乙景入荷分が届いた時、「黒ばかりで面白みがないなあ」と思ったんですが、全然そんなことなかったですねえ……。

山下:一見地味に見えるけれど、だからこそじっくり見て、触って、着て、感じて欲しいですね。そこには必ず驚くような創意工夫が凝らされているので。

__それこそ表だけじゃなく、裏返しても見て、触って、着て、ってして欲しい。

山下:通販も便利で良いですけど、やっぱり店主としては実際に店頭に来ていただきたいです。そこでああでもないこうでもないって話しながら、ZIGGY CHEN談義に花を咲かせたい。一緒に興奮して、一緒に楽しみたい。

今シーズンのZIGGY CHENは、今回紹介したHYBRID VEST JACKET以外にも服好きがうなる作品が目白押しですし、その他のブランドも服好きとしての喜びが爆発する作品ばかりです。

気候もいよいよ暖かくなってきたので、春夏を満喫できる1着を探しにきてもらえたらと思います。

<NEWS>
・ ZIIIN 2022S/Sの第一便が乙景、CONTEXT、ONLINEに到着。
・ZIGGY CHEN 2022S/Sの第二便が店頭に到着。

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語り手/山下 恭平(乙景店主)
書き手/鈴木 直人(ライター)