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CONTEXT店主・伊藤が2021-22AWシーズン“もっと”おすすめしたいZIGGY CHEN

東京は急速に、関西もゆっくりと、秋の空気が色濃くなってきました。シャツ1枚、カットソー1枚の毎日がようやく終わり、ファッションが楽しい季節になりますね。

各ブランドからのデリバリーも落ち着き始め、店頭にはたっぷりと今シーズンのアイテムが並んでいます。「そろそろ狙っていたあのアイテムを……」と考えている方も多いのではないでしょうか。

ZIGGY CHENの2021-22AW COLLECITIONも2nd deliveryがあり、CONTEXT TOKYOには素晴らしいアウターが追加入荷しています。

そこで今回は前回同様に、新入荷のアウターを軸にしながら、CONTEXT店主・伊藤が2021-22AWシーズンおすすめのアイテムをご紹介します。

SWEATER Art.#005

__最初に紹介いただけるのは、前回のデリバリーで入荷したSWEATER Art.#005とのことでしたが、まずはデザイン面の特徴について教えてくれますか?

伊藤:ぱっと見でわかるのは、左右非対称な植物の柄とサイドのスリットですね。スリットは右側にだけ入っています。

去年の秋冬のニットは左側に入っていたのですが、人は右利きの方が比率的に多い。今年のスリットが右側になったのは、その点を考慮してのことではないか、と思います。

__この柄はポドカルプス、日本名ではマキ属マキ科の植物で、代表的な品種は「ナギ」という種だと聞きました。日本、台湾、中国に多く分布する種で、庭園や寺院に植えられていることも多いそうですね。

伊藤:そうなんですよ。今季のテーマは「SUGARDENS」ということで中国の古典的な庭園がテーマになっていますが(※)、だからといって作品の柄もなんとなく庭園に植えられている植物を持ってきただけではないんです。

中国では、ナギは「竹柏」という名で、情熱の象徴なんですって。富や円満を築き、庭に置くことで空気を浄化して健康と幸運をもたらすそうですよ。

日本の修験道でも、ナギは葉っぱ一枚一枚に金剛童子という修行者を守護する神様が宿っていると考えられていた、とても神聖な植物。

だからこのニットにも、今で言えばコロナのような災厄から着る人を守ってくれる、こんな時でも笑っていられるように。そんなイメージが込められていると思っています。

あと、ナギの葉って繊維が縦に走っているにもかかわらず、なかなか裂けないくらい丈夫なんだそうです。

「縁が切れない」ということで、縁結びのお守りとしても大切にされてきました。このあたりも、コロナ禍で分断されがちだった人と人の縁を結び直すような祈りが込められているのかもしれませんね。

※今シーズンのテーマの詳細については、考察記事もご参照ください(その1その2その3その4)。

__あ、相変わらず奥が深すぎる……!

伊藤:技術的にもなかなかすごいことをやってくれています。というのもこのニット、腕を下ろすとボディと袖の柄がぴったりと一致するんです。

袖とボディの柄が完璧に一致している。

__え……ヤバくない……?

伊藤:ヤバイですよね(笑)。前から見ても、横から見ても、ぴったり柄が合うようにできています。

あとにも触れますが、こうした柄同士を徹底して一致させることで、見た目のノイズを丁寧に丁寧に取り除いているんです。

おかげで、あれこれデザインを盛り込んでも、どれも洗練された都会的な作品になっています。

__ZIGGY CHENのニットといえばベイビーカシミヤ(生後5ヶ月〜1歳未満のカシミヤ子山羊から刈り取られる産毛)ですが、このニットにも同様の素材が使われていますね。

伊藤:はい。もう最高の肌触りです。特に今季の生地は、今までに比べて若干肉厚に作られていて、もっちり感もあります。

__あ、それ試着した時に感じました。けっこう頼りがいのある生地だなって。

伊藤:薄すぎず、かと言って厚すぎずのちょうどいいラインですよね。カットソーとニットの中間というか。このあたり、前回も話したスタイリングの内と外の区別を曖昧にしようという意図があるのかな、と考えています。

__ただ、僕は暑がりなので、ニットというと「洗濯できない、できても大変」というイメージがあり、つい避けがちなんですよね。

伊藤:え、でもこのニット、手洗いできますよ?

__え!?

伊藤:洗濯表示でも手洗い可になっています。だからメンテナンス面から言っても、洗濯機でガンガン洗えるカットソーと、ドライクリーニングしかできないニットの中間なんですよ。

__あ、え、うわああああ……。

伊藤:ど、どうしたんですか!?

__す、すみません。このニットを買わない、一番大きな理由がなくなっちゃったって思って、ちょっと混乱しちゃって……。

伊藤:(笑)。いやほんとに素晴らしいです、このニットは。着ていくごとによりふわっふわになっていきますよ。最高の肌触りなので、なるべく素肌に触れるようにガバッと着て欲しいですね。

SWEATER Art.#005の販売ページはこちら

COAT Art.#105

__続いては、伊藤さんが3月のバイイングの時点で自分用にオーダーしていた、COAT Art.#105についてお聞きしてもいいですか?

伊藤:このコートに関しては、ともかく生地がめちゃくちゃに良いんですよ…。

最初スワッチ(生地のサンプル)が送られてきた時点で、どんなアイテムに使われているかも知らなかったけど「この生地は絶対バイイングしよう!」って思ったくらいです。

__この生地のどんなところに惚れ込んだんですか?

伊藤:ヴァージンウール77%、カシミア23%という組み合わせが最高に上品なんです。

ZIGGY CHENは一昨年までは上質なウールにコットンやメタルなどを混ぜ込んだ生地を使って、生地の重さを利用した落ち感の強い物作りをしていました。

また去年からはウールをヴァージンウールにすることで、軽やかさを表現するようになりました。それがこの生地ではカシミアをブレンドすることで、より軽やかに、より上品な見た目と着心地を生み出しているんです。

__着心地の良さは驚きました。見た目のデザインはけっこう強いのに、触ってみるととても柔らかで、着てみると軽くて暖かい。一見すると癖がありますが、いつまでも着ていたくなるくらい着心地がいいんですよね。

伊藤:しっかりとデザインをしながらも、買って着る人のことを最後までしっかり考え抜いていた物作りをしていますよね。

__このチェック柄自体は、けっこうオーソドックスな柄なんでしょうか?

伊藤:一見すると、普通のウインドーペーンとオーバーチェックの組み合わせのように見えるんですが、実はこれ、向かって右側が童子格子、左側が翁格子という、東洋的なチェック柄なんです。

__和服に使われてきた格子柄ですね。歌舞伎の衣装とかにも使われているような。

伊藤:これまで何度か、ZIGGY CHENは陰陽太極図をイメージしたものづくりをしているとお話ししてきましたが、ここでも童子=子供と翁=お爺さんを対比させるような柄選びをしているんです。

__ただ、ネットで調べるとわかりますが、元々の童子格子と翁格子はけっこうカジュアルな柄というか、素朴な感じがしますね。

伊藤:そういう柄を、ヴァージンウールカシミヤっていう物凄く優美な表情を持つ素材で作るというのが、ZIGGY CHENの凄さだと思います。

ただ単に西洋に憧れて衣服を作るのではなく、きちんと東洋の文脈に置き換えてクリエーションをしているあたり、流石ですよね。

あと、このチェックは中国庭園における「亭」の位置づけにあるんじゃないかとも思っていて……。

蘇州古典園林の一つ、退思園。
photo by Gisling

__中国庭園は池・石・木・橋・亭、5つの要素を組み合わせて造られるそうですが、このチェックがそのうちの建物を意味する亭に当てはまるのでは、ということですか?

伊藤:はい。5つのうち池・石・木は自然だから曲線ですよね。だから今季で言えば、先ほど紹介したニットのポドカルプスなんかは曲線です。橋は人工物ですが、中国庭園の橋は曲線的なものが多いんですよ。

対して、亭は人工物であり、同時に直線的に造られます。だから直線と直線が交わって生まれるチェック柄は、亭を表しているんじゃないかって。実際、昔中国に行った時に見た建物の天井ってこういう格子柄でしたし。

__で、でもさすがにそこまでは考えていないんじゃ……。

JACKET Art.#909
COAT Art.#103

伊藤:でもJACKET Art.#909やCOAT Art.#103を見てみてください。

__色んな色の糸を混ぜ合わせて作った生地を使った、チェック柄のブルゾンとコートですね。これがどうかしたんですか?

伊藤:例えばブルゾンには、細かく見ると5つの裏地が使われています。

コットンキュプラのストライプ生地に、ヴァージンウールのオリーブカラーの生地、深いブラウンのキュプラの生地に、織柄の入ったブラウンの生地、そして植物柄のプリントが施された生地の5つです。

__5つの要素って、それはつまり……池・石・木・橋・亭……?

まるで建物の窓から庭を眺めているかのように見える裏地。

伊藤:そう考えると、このチェックの柄やパイピングなんかも窓枠や柱のように見えてくるんです。ね、あながち間違ってなさそうじゃないですか?

__こ、コートの方は?

伊藤:このコート、ZIGGY CHENでは珍しいくらいぱっと見で端正なイギリスのダブルのコートみたいに見えますよね。

__それはわかります。ものすごく都会的ですよね。

伊藤:一方で、ブルゾンと同じく裏地には植物や土の香りがするような素材が使われていたり、窓枠や柱をイメージさせるパイピングが入っていたりします。中国庭園の美学は人間と自然との調和で、今季のZIGGY CHENのテーマも同じ。ということは……。

__このコートそのものが、人間と自然との調和を象徴しているってことですか?

伊藤:かもしれないな、って。いろんな要素が組み合わさっています。このシーズンのテーマ「SUGARDENS」、「S」がついて複数形になってるじゃないですか。いろんな要素を抽出してくっつけてるんですよ。

__とんでもねえ……。ZIGGY CHENの衣服って、着るだけでもめちゃくちゃ楽しいのに、あちこちにこういった「解釈の余地」があるからたまりませんね。

袖、ボディ、ポケットのフラップに至るまで、ピタリと柄が合っている。

伊藤:あとこのコートとJACKET Art.#902に関しては、徹底した柄合わせにも注目して欲しいですね。

__先ほども少し触れたお話しですね。

伊藤:はい。ニットの柄合わせもすごかったですけど、こっちがまたすごいんですよ…。ポケットのフラップ、サイドシームや袖の合わせの部分、背中の細かなパーツに至るまで、徹底的にチェックの柄が一致しています。

ぱっと見ただけでは縫い目があるなんてわからない。ジャケットの方はこれでもかっていうくらいに生地の切り替えがありますが、それも全部ぴっちりと柄合わせされています。

__狂気さえ感じますね(笑)。

伊藤:いや本当に。ZIGGY CHENの生産国タグって、少し前まで「MADE IN SHANGHAI」だったんですが、最近のものは「MADE IN CHINA」に変わりました。

ちょっとした変更なんですけど、中国のブランドとしてここまでの物作りができるんだっていう誇りを感じますよね。

__こういう柄合わせの技術を見ると、特にそういった強い意志を感じますね。

伊藤:ここまで自信と誇りを持って作り込んできてくれて、でも決して自分から主張はしてこないんです。着て、見て、細部の意匠に気がついたらそりゃ心動きますよね。

だからこそ、毎回頑張って手に入れたくなるし、長く手放せない存在になるんです。

COAT Art.#105の販売ページはこちら】
JACKET Art.#909の販売ページはこちら】
COAT Art.#103の販売ページはこちら】

COAT Art.#110

__最後に、テーラードジャケットとダブルのコートをドッキングさせたCOAT Art.#110の魅力について教えてください。

伊藤:左右のドッキング自体は去年から引き続きのデザインなんですが、今季はそれをダブルで、かつ黒で表現されたことで、ものすごく都会的なデザインにアップデートされていますね。

テーラードジャケットと言えば、西洋の衣服の完成された象徴ですが、そこに中国の皇帝が着ていたような着物のシルエットのコート(※)をドッキングしているあたりも、ここ最近のZIGGY CHENのテーマである「東洋と西洋のブレンド」とリンクします。

※ZIGGY CHENのダブルのコートの多くには、中国王朝の皇帝が着用していたオーバーサーズの着物によく似たシルエットが取り入れられている。

__僕自身、このコートにものすごく惹かれているのですが、やはりかなり癖の強い一着なので、正直ちょっとビビっています。

伊藤:ただそこは流石ZIGGY CHENで、着心地にもきちんと心配りがされているんですよ。

__どういうことですか?

伊藤:このコートには、ジャケット側がメタル混のヴァージンウールコットンの生地、コート側がボイルドのヴァージンウールの生地が使われているんですが、どちらも軽やかで左右の分量を微妙に調整することで、ボタンを止めた時に重量の左右差がなくなるように作られているんです。

真っ直ぐに並んで“いない”ボタン。

例えばボタンが外側から内側に向かって微妙にずらして付けられているので、止めた時にコート側の重量をボタンが支えてくれるようになっています。

左右を中央で縫い合わせるのではなく、あえてアンバランスに縫い合わせている。

一方で背中側は、コート側の生地をジャケット側に寄せることで、重量がジャケット側にも乗るような作りになっているんです。

__これも先ほどのチェックのコートと同じように、パワーがもらえるようなデザインと着る人に寄り添うような物作りを両立させているんですね!

伊藤:このバランス感覚、ZIGGY CHEN最高、です。左右のデザインは全く違うのに、袖の長さはきっちり左右で揃えているあたりもいいですよね。

あと、このコートにも冒頭のニットと同じお守り的な意味が込められているんですよ。

コート側の裏地にプリントされたナギ。

__どういうことですか?

伊藤:ジャケット側の袖の裏地には、今年の春夏から使われていたストライプのコットンキュプラの生地が使われているんですが、コート側の裏地にはナギの柄が入った生地が使われているんです。

__このコートは袖が長く作られているわけではないので、わざわざ裏返さないと気付けませんね。

伊藤:この秘めている感じがミソなんです。これは日本の文化の話なのですが、昔の日本人は鏡の裏にナギの葉っぱを入れたり、守り袋の中に入れて魔除・厄除にしていたそうです。

同じようにこのコートの裏地も、ナギを秘めている。ここにすごく意味があるんじゃないかなあって思います。

__おいおいおい……めちゃくちゃいいなあ……おい!

伊藤:(笑)。鈴木さん、このコートのことずっと良いって言ってますもんね。僕は、去年のアシンメトリージャケットを持っているんですが、今年もヘビロテしてますよ。

今年のはジャケットも、コートも楽しめるなんて、いいなあ……。

__ちなみに、今回のインタビューで白のニットもめっちゃ欲しくなってます(笑)。でも今季もうだいぶ服買っちゃってるからなあ……。

伊藤:いやあ、ほんと辛いですよね(笑)。

__辛い!お金ない!でも欲しい!(笑)

伊藤:いやあ、鈴木さんは本当にファッションもショッピングも楽しんでくれてますね。

__おかげさまです。ちょっと……本当に欲しくなったら連絡しますね……スゥーーー(深呼吸)。

伊藤:お待ちしています(笑)。

今回のコレクションのムービーは、黒や白でまとめた都会的なルックから、緑や砂を感じる自然の色味へと変化をしていきます。

僕はあのコレクションムービーを見た時、映画『INTO THE WILD』が思い浮かんだんですよ。H.D ソローの『WALDEN 森の生活』を読んでいた主人公が、何を感じ、何を求めたのか。(※)

もちろん、豊かさを求めたうえで人類が到達した現在を否定したいわけではありません。国が成熟すれば、多かれ少なかれ本来生きるために必要のない“贅沢”はあって当たり前だからです。

しかし本当の意味での豊かさーーー心の豊かさというものは、個人個人の在り方を見つめ直し、場合によっては生き方を変えることでこそ生まれてくるのだと思います。

ZIGGY CHENの洋服は、決して媚びることがなく、純粋に服を着ることの喜び、ファッションを楽しむとはどういうものだったのかを教えてくれます。

特にこのシーズンは、最高の洋服との出会いをきっかけに生き方を変えてみたくなる、そんな可能性を秘めた、勇気をくれるコレクションだと思います。

素敵な出会いを、お楽しみ下さいね。

COAT Art.#110の販売ページはこちら

※『INTO THE WILD』は2007年公開のアメリカ映画。原作は同名のノンフィクション小説。舞台となったのは、1992年のアメリカ。環境にも才能にも恵まれていたはずの青年が、2年間の放浪をへてアメリカ最北部アラスカ州の広野で遺体として見つかるところから物語は始まる。遺体の傍らにはH.D ソローの『WALDEN(森の生活)』があった。なぜ彼はすべてを捨てて荒野へ向かったのか、なぜ命を落とすことになったのか。現代における“自由”や“豊かさ”に強烈な疑問を突きつけた2000年代の名作。

※『WALDEN(森の生活)』は1854年に出版された、アメリカのノンフィクション文学。産業革命で急速に発展したアメリカで、ウォールデン湖畔の森に入り、自作の小屋の中で一人、生活を送ったH.D ソローの著書。文明が生み出す豊かさに疑問を持ち、真の豊かさについて問うた作品として、世界中で読み継がれるアメリカ文学の傑作とされる。

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<NEWS>
【新入荷】
・HED MAYNERの2021-22AW COLLECTIONが東西各店に入荷。
・ZIGGY CHENの2nd deliveryがCONTEXT TOKYOに入荷。
・SCHAの2021-22AW COLLECTIONが東西各店に入荷。
【リニューアルオープン】
・リユースサイト「ARCHIVE OF FASHION」がリニューアルオープン。

書き手/鈴木 直人(ライター)
話し手/伊藤 憲彦(CONTEXT TOKYO店主)