JAN-JAN VAN ESSCHE 2021-22AW “今シーズンおすすめしたい逸品”【東京・CONTEXT編】

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JAN-JAN VAN ESSCHE 2021-22AW “今シーズンおすすめしたい逸品”【東京・CONTEXT編】

少しずつ、本当に少しずつ、秋の気配が漂い始めた昨今、「そろそろ秋冬支度でも始めようかな」と考えている方も増えてきているように思います。

そんな中、東京・CONTEXTと京都・乙景では次々と各ブランドの2021-22AW COLLECTIONが出揃い始めています。

今回は前回の【京都・乙景編】に引き続き、JAN-JAN VAN ESSCHEの今季のアイテムから、東京・CONTEXTの店主伊藤のおすすめアイテムをピックアップ。バイイングのテーマも含めて、たっぷり語ってもらいました。

JAN-JAN VAN ESSCHEについて

JAN-JAN VAN ESSCHEは、2010年にスタートしたベルギー・アントワープを拠点とするブランドです。デザイナーであるJan-Jan Van Esscheは“自由”であることを大切にしており、その思想は彼のクリエーションにおける一本の太い柱です。

例えば彼の作る衣服からはできる限りディテールが省かれています。結果として衣服が持つ男性性・女性性が排除され、老若男女問わず自分らしいファッションを楽しめる作品となっています。

また自然や、そこから生まれる素材への尊敬の念も、彼のクリエーションの軸です。色選びは黒を主軸に据えながらも、素材本来の色を生かした無染色の生地を使うことも少なくありません。

パターンも大きな特徴で、世界中から選び抜いた生地の美しさを衣服に仕立てるために、できるだけ縫い目が少なくて済むような独特のパターンメイキングを行っています。

JAN JAN VAN ESSCHEの衣服は機能性や実用性のみならず、より哲学的・思想的な充足感をもたらしてくれます。

2021-22AW COLLECTION “SUNU”についての考察その4

今月はこれまで3回にわたって、JAN JAN VAN ESSCHE 2021-22AW COLLECTIONのテーマ“SUNU”( ウォロフ語で「私たち」という意味)について、筆者の考察をご紹介してきました。

考察その1
考察その2
考察その3

今回は東京・CONTEXTの店主伊藤のインタビューのプロローグとして、コレクションムービーから読み取れる、今シーズンの衣服に込められた“外”への意識について触れたいと思います。

18分で構成されるコレクションムービーのロングバージョンは以下のような流れになっています。

・主人公が恋人に電話をし、「真夜中だけど会いたい」と告げる。
・主人公はJAN JAN VAN ESSCHEの衣服に身を包み、夜明け前の街に出る。
・とある倉庫に到着した主人公は、ヒロインと出会う。
・二人は感情を交換するような、独特のダンスをする。
・ヒロインは走り出し、主人公は追いかける。二人はどんどん上階へ上がっていく。
・ある階で彼らは様々な人種で構成される人々と出会い、主人公は彼らとダンスをする。
・主人公はヒロインを見失うが、屋上で彼女の姿を見つける。
・夜は明け、東の空には美しい太陽が上り始めている。
・その刹那、彼女は黒い風となって姿を消してしまう。
・主人公の悲しみに寄り添うかのように、先ほど登場した人々と屋上で登場するアフリカ系の男性が彼を抱きしめる。

鬱屈した夜から抜け出すために、朝に向かって外へ出る。失うものもあるけれど、同時に人の温もりに触れ、悲しみや苦しみを癒していく。

そんな喪失と回復の物語が、このムービーには込められているように思います。

そして、同様の物語は、今シーズンの衣服にも託されています。以下では伊藤の“おすすめの逸品“をお楽しみいただくとともに、コレクションムービーと衣服との関連性についても思いを巡らせてみてください。

紹介してくれるのは、レギュラーカラーのシャツ、泥染シルクのノースリーブコート、そしてヤクウールを混ぜ込んだ生地で作られたシンプルなカットソーです。

“SHIRT#85” STRIPED COTTON CLOTH

__ではまず、SHIRT#85からお話を聞かせてください。

伊藤:このシャツはですね、最強です。

__………………え、終わり!?

伊藤:そういうわけにもいかないので、説明しますね(笑)。

__お願いします(笑)。

伊藤:このストライプの生地は21SSで登場したストライプの生地と同じ、愛知県の尾州のものなんですが、今シーズンは縦縞の幅が狭くなりました。これによって、僕はドレッシーな印象が強くなったと感じています。

__民族衣装的なムードが、一気に都会的になりましたよね。単純に着こなしやすくなったように思います。

伊藤:パターンにしても、かなりスッキリしたシルエットになるよう変更が加えられています。 例えば今までのJAN-JAN VAN ESSCHEのシャツは、着ると着物みたいに背中の部分がやや張り出すように作られていました。

もちろんそれもカッコいいんですが、今回のシャツは背中のセンターにアクションプリーツが施されていて、生地がスッと下に落ちるように作られているんです。結果、後ろ姿がとても洗練されて見えるようになりました。

__それは今季のパンツにも言えるかもしれません。昨シーズンはボリュームのあるヒップが特徴的でしたが、今季はヒップの生地量を減らして、すっきりと見せる方にパターンが変更されていました。

伊藤:うんうん、パンツも最高の一言ですね。そして、身頃のパターンもぜひ見て欲しいポイントの一つです。このシャツの身頃は胸元のステッチから生地が下に流れて、脇の下を通って背中をぐるっと周り、また胸元に戻ってくるパターンで作られています。

__生地を極力切らずに使うためのパターンですね。

伊藤:要は胸元を中心に、ぐるりと“円”を描くパターンなんです。人間の肩関節や肩甲骨の動きは、基本的に円運動です。そのためこのシャツを着ていると、とても動きやすいんですよ。

さらには肩に縫い目がないので、生地がしっかり肩全体に吸い付くように乗ります。おかげで肩全体にシャツの重量がばらけるので、着心地が軽くなるんです。

__ドレッシーな印象というところで言うと、ノイズの少なさも影響していそうです。背中のプリーツは極力ストライプの模様を邪魔しないように施されていますし、縫い目が少ないので模様が途切れませんよね。

しかも縫い目のあるところは柄合わせをする、果ては襟と胸元の柄まで合わせると、徹底してノイズを取り除いています。もはやその技術は感動的ですらある……。

伊藤:本当に、ひたすら美しいですよね。この感動はなかなか感じられないレベルのものだと思います。あとからじんわり来る良さというか……かなりニッチな魅力ですよね。

この削ぎ落とされた、美しさ。ぜひみんなに味わってみて欲しいなあ。

ただこのシャツは、ストライプの生地だけでなくてレッドウッドの生地のバージョンもすごく良いんですよ。

__けっこう新鮮な色ですよね。

伊藤;僕自身は、色物ってあんまり着ないんですよ。モノトーンがメインで、取り入れるとしてもカーキやグレーが多い。アメリカものにハマってた時にはサックスブルーのシャツとか着てましたけど、最近はこういう明るめの色ってあまり選ばないんです。

でもこの色は、そんな僕でも全然違和感なく着こなせるんですよ。「あ、こんな色も似合うんだ」って、新しい自分に出会えるんですよね。

__やっぱり日本古来の樹であるアカマツをイメージした色だからでしょうか。

伊藤:そうだと思います。ビビッドな元気をくれる色というよりは、自然由来の生命力に溢れた癒しの色というか。エネルギーがいい加減に抑えられているというか。

__これと同じ色のパンツもありますけど、あれもめっちゃいいですよね。

本来は4タックのワイドパンツですけど、今回CONTEXTがセレクトしたXSって、履くとワイドパンツっていうより適度な太さのストレートパンツになる。それが生地の質感と合わさって、ものすごくドレッシーになるんです。

あれはすごく良かった。

伊藤:それ、まさに僕が狙ってたところです。今シーズンの僕のバイイングテーマは、JAN-JAN VAN ESSCHEに限らず、各ブランドの都会的なエッセンスを抽出して、よりドレッシーなイメージを打ち出すことだったんです。

だからこのパンツも、ウエストにゆとりを持たせてルーズに履くというよりは、スマートに履いて欲しかった。

__これをレッドウッドのシャツとセットアップにして着たら、めちゃくちゃかっこいいんじゃないですか。

伊藤:展示会の時に、Jan-Jan Van Essche本人が、あの床につきそうなくらいの長髪を頭の上でまとめて、このレッドウッドのセットアップを着てました。めちゃくちゃにかっこよかったですよ。

__……!!(カッコ良すぎて絶句)

伊藤:とはいえ最初はちょっと不安だったんです。日本人にこの色が似合うのかなって。でも実物の色を見てめちゃくちゃ感動しました。「やべー!これ欲しー!」って(笑)。

__この生地の質感もすごく都会的ですよね。シャツはヤクウールが入っているし、パンツはウール100%なので風合いもありますが、野暮ったさは全くない。

伊藤:2021SSのJAN JAN VAN ESSCHEは着心地の良さというか、自分たちの原点である「大地の恵みを感じよう」みたいなところに回帰していました。今季はそうやって自分を振り返ったあと、家から飛び出して外に出かけるっていうイメージだと思うんです。

もちろん今のご時世、外出には注意が必要ですが、こういうシャツを着ていたら、きっと楽しい時間が過ごせると思うんです。いやほんと、最強なんですよ。

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“SHIRT#85” REDWOOD COTTON YAK FLANNELの販売ページはこちらから
“TROUSERS#65” REDWOOD DRY WOOL TWILLの販売ページはこちらから

“SLEEVELESS COAT#2” PADDED MUD SILK

__続いてスリーブレスコートですが、コレクションムービーに出ているのを見て、めちゃくちゃかっこいいって思いました。

伊藤:僕は常々「ファッションを自由に楽しんで欲しい」と言っていますが、JAN-JAN VAN ESSCHEのこのコートのスタイリングは衝撃でした。ショート丈のジャケットの下にこのコートを着せたり、フーディの下に差し込んだり……めちゃくちゃ自由だなって思って。

伊藤:袖がないのがまた良いんですよね。ごわつかないので、上からなんでも重ね着できる。中綿が入っているので、コートの下に着ても単純に暖かいですし。

__生地もまた良いですよね。中国の泥染シルク。シンプルに透湿性などの機能面でも優れていますし、風合いにも独特の魅力がある。

伊藤:今シーズンはシンプルなデザインが多いからか、いつにも増して素材にこだわっているように感じましたね。

__もう……各店主へのインタビューしんどい……欲しいものが無限に増えていく……。

伊藤:(笑)。加えて、これはJAN-JAN VAN ESSCHEのアウター全般の特徴なんですが、めちゃくちゃポケットが大きいんです。

このコートの内ポケットは、僕の13インチのMacBookがすっぽり収まるほどのサイズがあります。これが都会的でいいんですよね。

__どうして都会的なんでしょう?

伊藤:だって、カバン持たないでいいなら持たなくていいじゃないですか。惚れた、コレだ!ってカバンをアクセサリーの一つとしてスタイリングを組むのはありだと思います。けど、なるべく持たない方がスマートかなって思うんです。

コートのポケットに必要な荷物だけ入れて、ポケットに両手突っ込んで歩く。それくらいがカッコいいんじゃないでしょうか。

__そういえば、JAN-JAN VAN ESSCHEがそのコートと合わせていたヤクウールのジャケットも、CONTEXTにありますよね。

伊藤:はい、これもとてもおすすめです。パイピングの部分がアメリカ軍のM65コートのライナーっぽくて使いやすいですし、生地が薄くて作りが大きいので、厚めのニットを合わせることもできます。

__無染色のヤクウールの生地がまた良いんですよね。いやあ……参っちゃう、参っちゃうなあ……。

伊藤:(鈴木さんが物欲でおかしくなっちゃった……)。

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“JACKET#44” NATURAL BROWN YAK WOOLの販売ページはこちらから

” TEE#70″ GREY MELE YAK PANCAKE JERSEY

伊藤:さっき素材へのこだわりの話を出しましたが、最後に紹介するTEE#70はまさに素材で勝負している一着です。

__パンケーキジャージーという名前がついていますが、名前の由来ってどこにあるんでしょう?調べても出てこなくて。なんなら食べる方のパンケーキの情報ばかり出てくる。

伊藤:わかりません(笑)。料理好きのJan Jan Van Esscheたちのことなので、もちもちふわふわのこの生地を触って「パンケーキっぽいよね?」ってなったのかもしれない(笑)。

__その光景、想像するとちょっとかわいいですね(笑)。

伊藤:デザインの元ネタは、アメリカのヴィンテージ古着とかにある、杢(もく)のコットンカットソーですが、ヤクウールが入っているので肌あたりは柔らかく、かつすごく暖かい。

ぜひ最高級インナーとして素肌に着て、上からジャケットを羽織るような着方をして欲しいですね。

__なかなかに贅沢な着方ですね。

伊藤:僕、冬でもあんまり重ね着ってしたくないんです。着込めば着込むほど動きにくくなるし、スマートじゃなくなっていく。

地方なんかだと仕方ない部分もあるのかもしれませんが、CONTEXTは東京にあるので、もっと都会的でスマートな着こなしがしたいですよね。そんな時にこのカットソーは大活躍してくれるんです。

__素材以外は普通のカットソーなんですか?

伊藤:パターンに色々と工夫があります。まずは肘から下のパターンがやや細めに作られています。おかげでアウターを着た時にごわつかず、とても快適に着られます。

一方で肘から肩にかけて、あるいは脇の下はややゆとりのあるパターンになっています。おかげで動きやすいですし、腕を上げても裾がめくり上がりにくい。

__タイトなインナーだとジャケットを脱ぐのを少し躊躇いますが、これくらいのサイズ感なら1枚でもサマになりますね。

伊藤:その通り。インナーって難しくて、肌あたりや他のアイテムのシルエットを邪魔しないといった、名脇役に徹することができるかどうかは大事です。でも、同時にある程度値段を出すなら1枚でも着たいところですよね。

その点TEE#70は素材はもちろん、シルエットもいいので、主役にもなってくれるんです。めちゃくちゃおすすめです。

僕はグレイのSサイズを買いましたが、ここ最近東京が肌寒いので、週5ペースで着ています。帰ったら、洗って、干して、次の日の朝着る。実は黒も欲しくなってきてるんですけど、我慢してます(笑)。

__おかげさまで、欲しいものがめちゃくちゃ増えました。楽しみながら悩みたいと思います。今日はありがとうございました。

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<NEWS>
【新入荷】
・乙景にてZIGGY CHEN 2021-22AWコレクションが販売開始。
・CONTEXT TOKYOでは英国のユニセックスブランドXENIA TELUNTSの2021-22AWコレクションが新入荷。

<MOVIE CAPTURE CREDIT>
Clothing:
Jan-Jan Van Essche
Film:
Ramy Moharam Fouad
Jordan Van Schel
Music:
Willem Ardui
Choreography:
Sidi Larbi Cherkaoui
Shoes:
Petrosolaum

書き手/鈴木 直人(ライター)
語り手/伊藤 憲彦(CONTEXT TOKYO店主)