HED MAYNER 2021-22AW “今シーズンおすすめしたい逸品”【京都・乙景編】
先月半ばにHED MAYNER 2021-22AW COLLECTIONが到着して早1ヶ月。先日のJOURNALでも書いたように、今季のHEDはよりエレガントに、より大人に、より都会的に仕上がっており、店頭でも多くのお客様から好評をいただいています。
衣服の魅力は、見て、触って、着てこそ感じられるものですが、一方で少し触れるだけではわからない魅力があるのも事実。
そこで今回は、乙景店主・山下にインタビューを行い、“今シーズンおすすめしたい逸品”を2つピックアップしてもらいました。今季のHEDのより深い部分を、ぜひとも一緒に見ていきましょう。
HED MAYNER 2021-22AW COLLECTIONの印象
__まずは今季のHED MAYNERの印象から教えてください。
山下:今季、乙景でセレクトしたHEDの作品は、イギリスの香りがするものが多いですね。
例えばHARRINGTON JACKETは後でも説明するようにイギリス発祥のスポーツウェアがデザインソースになっていますし、素朴な表情のツイードや高級感のあるフランネル、あとはハウンドトゥース柄なんかもイギリスがルーツになっています。
CROPPED PEACOATとか、TURTLENECK PULLOVER SWEATERあたりは、イギリス軍の衣服がデザインソースですね。
Pコートのルーツはイギリス海軍が着ていたことで有名ですし、このタートルネックセーターのぎゅ〜っとすぼまったネックや裾も、イギリス海軍のセーターによく似た仕様です。
ただそうやってクラシックなものづくりを大切にしつつ、ブランドらしさも大切にしています。
__例えばどういうところに「らしさ」が出ていますか?
山下:このあたりは鈴木さんも書いてくれていましたが、一つは色選びです。例えば本来Pコートは深いネイビーで、海の保護色になっていますが、HEDはイスラエル出身のデザイナーらしい砂漠の色に変えています。
もう一つは独特の逆三角形のシルエット。ただ今季は今までと比べると格段にとっつきやすいです。
というのも、Pコートやハリントンジャケット、タートルネックセーターなど、カジュアルなアイテムを多用しているからです。
堅めの印象が強いテーラードジャケットであの逆三角形のシルエットを見せられると驚いてしまう人も多いかもしれませんが、もとからオーバーサイズのものが多いカジュアルなアイテムが多いから、今季のHEDは着やすい、使いやすいと感じるんだ思います。
__今までHEDと距離を置いていた人も、ぜひ今季はトライして欲しいですね。
山下:そうですね。
HARRINGTON JACKET
__では今回の“おすすめしたい逸品”について話を聞かせてください。
山下:一つ目は先ほど話にも出たHARRINGTON JACKETです。鈴木さんの中でハリントンジャケットと聞いたら何を思い浮かべますか?
__やっぱり1950年代アメリカの映画スター、ジェームズ・ディーンですね。彼が着ていた真っ赤なハリントンジャケットを思い出します。
山下:でもあれ、イギリスのブランドのものなんですよ。
__え、そうなの!?
山下:彼が着ていたのは、1937年創業の英国ブランドBARACUTAのG9というモデルのジャケットです。もともとゴルフウェアとして作られたモデルで、冷気が入らないように袖や裾はゴム付きリブになっていました。
__あれ、でもHEDのHARRINGTON JACKETは袖はボタンカフスだし、裾は何もディテールがないですよね?
山下:1940〜50年代のスポーツジャケットのディテールなんですが、実はこれハリントンジャケットの定番であるG9ではなく、G4・G5といったややマイナーなモデルのディテールでもあるんです。
おそらく「HEDのシルエットを作るには、ゴム付きリブじゃない方が良かった」ということだと思うのですが、個人的にはデザインソースにしたのが定番モデルじゃないというところがオツだなあと感じましたね。
__にしても、ハリントンジャケットって言うからアメカジからのオマージュかと思いきや、ブリティッシュファッションからだったとは……。
山下:ちなみにハリントンジャケットの主な用途だったゴルフですが、これもイギリスのスコットランドが発祥だという説があるんです。
なんでも、羊飼いたちが羊を追うための棒で、ウサギやモグラの巣穴に石を打って入れて遊んでいたところから、ゴルフが始まったのだとか。
__使っている素材もイングランド産のものですし、そう考えるとHEDのHARRINGTON JACKETは生粋のブリティッシュな1着なんですね。
山下:そこまで徹底したうえで、キャメルカラーにしたり、ビッグシルエットにしたりして、しっかりHEDの文脈に落とし込んでいる。流石だなと思います。
__どんな着こなしがおすすめですか?
山下:このジャケットに関しては、正直コレクションルックと同じにするのが一番かっこいいです(笑)。ただ手持ちにHEDのワイドパンツと同じようなシルエットのものを持っているという人は少ないと思います。
膝まではめちゃくちゃワイドなのに、そこから急激にテーパードになっているんですが、こういうパンツはなかなかない。
__確かに……。
山下:だから今回僕は、ルックと同じ白パンを選びつつ、裾までズドンと太いものを選びました。
__細いパンツではダメ?
山下:どうしてもバランスが悪くなります。でも「HEDのJUDO PANTSのようなシルエットのものを選ぶか、もしくはズドンと太いものを選ぶ」というポイントさえ抑えていれば、このジャケットは多くの人が難なく着こなせるはずですよ。
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BACK SLIT UNBUTTONED COAT BROWN HOUNDSTOOTH
__2つ目に選んだBACK SLIT UNBUTTONED COATは、文字通り背中にスリットの入った、ボタンもベルトもない個性的なコートですね。
山下:このスリットはおそらくベンチレーションでしょうね。
ボタンもベルトもないとなると「寒いんじゃないか?」と思うかもしれませんが、前身頃にしっかり生地量を確保しているので、自然と前が合うような作りになっています。
個性的に見えて、きちんと作り込まれた1着ですよ。
__今回このコートを選んだのは、作り込みが丁寧だからですか?
山下:もちろんそれもありますが、このコートにはもう一つ興味深いポイントがあるんです。それはこの柄です。
__ハウンドトゥース、日本では千鳥格子と呼ばれる柄ですね。
山下:たいていは白黒を使ったモノトーンカラーの生地が多いんですが、ここでもHEDはベージュとブラウンの優しいコントラストを使っているので、遠目で見ると柄があるかどうかわからないくらい、主張しすぎない柄になっています。
実はこのハウンドトゥースもイギリスのスコットランド発祥の柄なんです。
__「イギリスのスコットランド」と言うと、怒る人は怒りますけどね……。大英帝国とスコットランドは気の遠くなるほど昔から喧嘩してますから。
山下:そうですね。このスコットランドのうち、標高の高い地域をハイランド地方、低い地域をローランド地方と呼んだそうですが、ハウンドトゥースはこのうちローランド地方の人が自分たちの氏族(クラン)を示すものとして使っていた柄だそうです。
一方でハイランド地方の人たちは―――この柄の名前は知っている人も多いと思いますが―――タータンチェックを自分たちを示す柄として使っていたそうです。
__柄には何か意味があったんでしょうか?
山下:ハイランド地方は大英帝国との国境から遠く、かつ敵対心も強い地域でした。そのためタータンチェックには「対立」とか「敵対」という意味が込められているそうです。
__確かにタータンチェックは、チェックの中でもパワーが強い印象があります。パンク・カルチャーを作ったヴィヴィアン・ウエストウッドなども好んで使っていますし、対立・敵対という意味があるのも納得できます。
山下:対してローランド地方の人たちは、国境が近かったこともあってか、親英派の人が多かったそうです。そのためハウンドトゥースには「中立」などの意味が込められていると言います。
これを知った時、HED MAYNERがハウンドトゥース柄を使うことの意味に思い当たったんです。
__どういうことですか?
山下:デザイナーのHedが生まれ育ち、現在も住んでいるイスラエルでは、数千年単位で争いが起きてきました。
そんな場所を拠点とするHedが中立という意味を持つハウンドトゥースをコレクションに使う……ここには何かしら祈りのようなものが込められているような気がするんです。
__なるほど。もう少し妄想を膨らませれば、ボタンやベルトをなくすことで内側と外側のボーダーをなくす=民族や宗教の境目をなくす、みたいな意味もありそうです。
山下:あ、そうやって妄想を膨らませてもいいなら、僕ももう一つ話しておきたいことがあります(笑)。
__ぜひ聞かせてください。
山下:ハウンドトゥースの柄はここ数年のトレンドでもあるんですが、このトレンドを作ったのは2019-20AWのCHANELだと言われることがあります。
CHANELはこのシーズンに限らず昔からハウンドトゥースをうまく使っていて、VINTAGEのCHANELでもセットアップスーツやバッグで、この柄を使ったものが少なくありません。
ネットで検索すれば出てきますし、ファッション好きの方ならあの印象的なハウンドトゥースの生地を覚えているかもしれません。
__2019-20AWのCHANELと言えば、故カール・ラガーフェルドにとっての最後のコレクションですね。
山下:はい。その直後なんです、HedがLVMHプライズでカール・ラガーフェルド賞を受賞したのは。
__あ……!
山下:だから、もしかしたら彼の中でハウンドトゥースは「いつか使いたい柄」だったんじゃないか……なんて思うんです。もちろん、僕の妄想の域を出ないんですけど。
__いえ、面白い話だと思います。このコートはどんな着こなしがおすすめですか?
山下:そうですね。さっき話にもあったように、既成のボーダーから自由なコートなので、バランスをとって中にはカッチリとした服を着てみてはどうかと思っています。例えばこんなふうに、セットアップにダービーシューズを合わせたり。
今回はそこにちょっと挑戦の意味合いを持たせて、レザーのベルトでウエストマークを入れてみました。
__なるほど、これなら真似できそうですね。ウエストマークも、最初は勇気がいるかもしれませんが、他のアイテムの主張が激しくないので、すぐに慣れていきそうです。
山下さんの着こなしは、いつも取り入れやすくて、自分でも挑戦してみたくなるものが多いですね。
山下:そうですか?
__はい。例えば美容院でガチガチにスタイリングしてもらっても、一回お風呂で流しちゃったら自分では再現できないですよね。
服も同じで、めちゃくちゃかっこいいスタイリングがあったとしても、自分が日常的に取り入れられないような着こなしだと「真似したい!」ってならないと思います。
その点、山下さんの提案は日常の延長線上というか、等身大というか……。僕が接客を受けている時も、圧倒的正解をバンと出してくるというより、一緒に悩んで考えてくれるイメージがあって。
山下:な、なんだか照れくさいですね(笑)。ありがとうございます。
やっぱり服は着てなんぼですから、毎日着たいし、着られるものを選んで欲しいって思って接客しています。テンションをぶち上げてくれる服や着こなしもめちゃくちゃ大事ですが、あくまで日常的に楽しめる服であることが前提だというのが僕の考えです。
__このJOURNALでも楽しんでもらえるように頑張って書きますが、ぜひ店頭で接客を受けて、HEDのアイテムの魅力とともに、山下さんの提案の魅力も味わって欲しいなって思います。
山下:あんまりハードル上げないでください(笑)。でも、そうですね、やはり見て、触って、着ていただかないとわからないことも多いので、皆さんのご来店をぜひともお待ちしています。
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<NEWS>
【新入荷】
・ZIIINの2021-22AW COLLECTIONが東西各店に入荷。
書き手 /鈴木 直人(ライター)
語り手 /山下 恭平(乙景・店主)