この秋冬に買ってよかったものは?【代表菊地×ライター鈴木編】

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この秋冬に買ってよかったものは?【代表菊地×ライター鈴木編】

【CONTEXT TOKYO編】【乙景編】と続いてきた、2021-22AWシーズンの「この秋冬に買ってよかったものは?」シリーズもついに最終回。

今回は11月から地元岩手に拠点を移し、新たなプロジェクトを進めているV.O.F代表菊地央樹と、JOURNALの運営・執筆を担当するわたくし鈴木直人の「この秋冬に買ってよかったものは?」を対談形式でお届けします。

代表菊地が選んだのはV.O.F発のブランドZIIINの新作“GIOVANNI”。ライター鈴木が選んだのはJAN JAN VAN ESSCHEのフーディジャケット。偶然にも、2人はそれぞれの1着に自分の未来を重ねていました。

「地元岩手の“文化資産”を着る、ということ」代表菊地編

鈴木:まずは菊地さんにとって、2021-22AWがどんなシーズンだったか教えてください。

菊地:ライフスタイルがガラリと変わったシーズンでしたよね。10年以上拠点にしてきた大阪を出て、地元岩手の花巻に引っ越したわけですから。

今目の前に広がるのは山・田んぼ・雪。家で作業をしていたら、近隣の方が「リンゴあげるよ」って持ってきてくれるような場所です。

大阪にいた頃も近くに大きな公園はありましたけど、駅前の住宅街で高い建物がひしめき合っていました。見える景色も、空気も、人も、全部が変わりましたね。

鈴木:Instagramでも拝見しましたけど、めちゃくちゃ寒そうですよね。

菊地:大阪に比べて10℃くらい寒いです。ここ最近はだいたい−3℃〜3℃の中で生活しています。結果として今までとは洋服の役割が大きく変わってきたんです。生きるために洋服を着るようになった。

鈴木:ちゃんと防寒しないと命の危険があるレベルの環境ですから、身を守るために洋服を着ないといけなくなったわけか。

菊地:そうなんです。僕は化学繊維がそんなに得意ではないんですが、もう本当に寒い時は化学繊維だろうがなんだろうが、とにかく着込まないとどうしようもない(笑)。

ただ確かに暖かいんですが、どうしても乾燥を感じたりして、やっぱり積極的に化学繊維で解決したいとは思えなくて。

そこで選んだのが、今回紹介するZIIIN “GIOVANNI 21AW” UNCONSTRUCTED JACKET / GALAXY BLUEなんです。

鈴木:ZIIINの新作のアンコンジャケットを、岩手が世界に誇る生地「花巻ホームスパン」で作ったものですね。

花巻ホームスパンを使ったアイテムだと“CAMPANELLA 21AW” DOCTOR JACKETもありましたが、なぜGIOVANNIだったんですか?

菊地:あちらもカッコいいなと思ったんですが、僕よりも似合う人がいるような気がしたんですよね。GIOVANNIはかなりミニマルな作りで、どんな人にも似合うジャケットだと思っていて。

だからこそ花巻ホームスパンという素晴らしい生地をずっと長く着られる一着になってるなと感じたんです。

あとは立場上、テーラードジャケットを着ていけたらいいなあという時も多いんですが、今まで着たいと思えるものがなかった。

でもGIOVANNIはシルエットがボックスだったり、肩が少しだけ落ちていたりして、「これなら長く着られそうだな」という直感があったんです。

鈴木:実際どうですか?

菊地:オンオフ両方使えて、めちゃくちゃ重宝しています。テーラードだからフォーマルな場所にも着ていけますし、生地の柔らかさもあってリラックスしたいときにもバサッと羽織れるので。

鈴木:その生地は本当に素晴らしいですよね。しびれるくらい寒くて、雪が音を呑み込んでしまった夜の澄んだ空みたいな、深い、深いネイビー。GALAXY BLUEとは言い得て妙です。

菊地:ホームスパンとはHOME(家)SPUN(紡いだ)で、もともとはスコットランドの家庭内で作られていた羊毛を手染めし、手で糸につむぎ、手で織られた生地のことです。

それが江戸期か明治期かに、岩手で布教活動をしていたスコットランドの宣教師から伝わったのが日本でのホームスパンの始まりだそうです。

最初に大きく栄えたのは日露戦争の時。戦死者のかなりの割合が凍傷だった日本に対し、凍傷で亡くなったロシア兵はほとんどいなかったことがわかった。調べるとどうやらロシア人はウールの軍服を着ているから凍えずに済んでいるらしい。

政府は国を挙げて羊の飼育とウール製の洋服の生産を行うよう奨励しました。結果岩手にもホームスパンが根付いたんです。それが今や地元の文化資産的な産業になっているわけです。

鈴木:岩手の文化資産を着て、花巻の地からV.O.F代表として日本や世界の手仕事・物づくりを発信していくというのは、めちゃくちゃ説得力がありますね。

菊地:僕らみたいな規模の会社が洋服を通じてできることって、どうしても限られてくると思っています。「日本や世界の手仕事・物づくりを発信していく」と言っても、全てを満遍なく伝えられるわけじゃない。

だからもっと地に足をつけて、自分たちに縁(ゆかり)のあるところでまずは学んで、発信していくところから始めたいって考えていて。その上で各地と縁(えん)を結んでいって、段階的に色々な地域の地場産業を伝えていけたらいいな、と。

tamaki niimeの製造工場の様子。

鈴木:東西各店で取り扱いのある、播州のtamaki niimeのストールもその一つとして伝えていきたいですよね。

菊地:その予感はあります。実際CONTEXT TOKYOでも乙景でもたくさんのお客様に手に取っていただいていますし、花巻の人たちに見せても反応が良いんですよ。

V.O.Fが扱っているようなモードブランドとも相性が良いのに、花巻の山や畑の多い風景ともマッチするんですよね。tamaki niimeは岩手でもきっと広がっていくような気がしています。

このGIOVANNIは、そうやって岩手や各地の地場産業を伝えていくにあたってのお守り的な意味合いもあるなあと思います。そっと寄り添ってくれるというか、「ここから始めたんだ」みたいな印になってくれるというか。

鈴木:着込んでいって育っていくのが楽しみな生地でもありますしね。

菊地:うんうん。今思い描いているビジョンが形になったときに、この生地がどんな顔をしているのか楽しみです。

「僕のファッションのルーツともつながっている一着なんです」ライター鈴木編

菊地:鈴木さんにとって、2021-22AWはどんなシーズンだったんですか?

鈴木:一人のファッション好きとしてもV.O.Fライターとしても、春夏までの型から離れて、新しい型を探したシーズンでした。

菊地:型?

鈴木:剣道や茶道なんかで言われる「守破離(しゅはり)」という考え方があります。修行における3つの段階を示したもので、簡単に言うと、

型を守る:師や流派の教えを忠実に守り、確実に身につける段階
型を破る:他の師や流派の教えを取り入れ、身につけたものを発展させる段階
型を離れる:これまでの師や流派から離れ、独自のものを生み出す段階

ということです。型を身につけてもいないのに、型を破ったり、離れたりする人のことを「型なし」と呼んだりもします。

僕って実はV.O.Fライターになる前は、ほとんどモードファッションに触れたことがなかったんです。だから去年の秋冬は完全にモードファッションの型を習う段階だったんです。

菊地:確かに、ものすごい勢いでV.O.Fの洋服を買ってくれていましたもんね。……それは今もか(笑)。

鈴木:それはそう(笑)。でも2021SSになって、型の中で自分なりに工夫したり、他のお店や今まで買っていたブランドのエッセンスを取り入れたりして、身につけたものを発展させる段階に入っていったような感覚があって。

もちろんまだまだファッションについて勉強することはあると思うんですけど、振り返るとそういう要素があったんですよね。

だから2021-22AWは離の段階に入った。自分だけのスタイルを生み出せないかと、試行錯誤している感じです。

菊地:そんな中で出会ったのが、今回の買ってよかったものですか?

鈴木:そうです。JAN JAN VAN ESSCHEのヘンプフーディジャケットですね。2020SSのアイテムなんですが、今年の秋口にJan Janたちが運営しているセレクトショップAtelier SolarshopのONLINE SHOPで買いました。

届いてみて、着てみて、今の自分にとって最高の買い物ができたと思いました。

菊地:どのあたりが最高だったんですか?

鈴木:2020-2021AW、2021SSの僕は明確に黒を避けてたんです。洋服の形もできるだけ大人っぽいものを選んで、インテリジェンスとかエレガンスを意識していました。

でもこのジャケットは真っ黒な上に、フーディだし、丈もミドルくらい。もちろんJAN JAN VAN ESSCHEらしいインテリジェンスやエレガンスはありますが、下手をすると雨ガッパやポンチョにも見えます。

菊地:確かにそう考えると、この1年の鈴木さんの型とは全く違うベクトルの服なんですね。

鈴木:僕がファッションに最初にハマったのってHIPHOP系なんです。超オーバーサイズのゴリゴリのストリートファッション。

膝上くらいのパーカーにドゥーラグっていうターバンみたいなものを巻いて、NEW ERAのキャップとフードを被り、首からめちゃくちゃゴツいネックレスをぶら下げてたんです。そういうネックレスのことをブリンブリンって言うんですけど。

菊地:その話、聞くたび毎回意外すぎてびっくりします(笑)。

鈴木:今とは180°近くイメージが違いますからね(笑)。でもそういう意味でこのジャケットは、モードファッションとは全然違う文脈だけど、僕のファッションのルーツともつながっているんですよ。

だから型から離れて独自のスタイルを作っていきたいっていうときに出会う服としては、これ以上ない一着だなって。

菊地:なるほど!先ほど「一人のファッション好きとしてもV.O.Fライターとしても、春夏までの型から離れて、新しい型を探したシーズン」だったと話していましたが、V.O.Fライターとしての型とこのジャケットにも何かつながりがあったりするんですか?

鈴木:はい。自分のスタイルを作っていく、という意味で全く同じなんです。

ありがたいことに、V.O.FのJOURNALには少しずつファンの方がついてきてくれています。実際11月にCONTEXT TOKYOに行ったとき、たくさんのお客様から「読んでます!」「面白いです!」って言ってもらえて本当に嬉しかったです。

11月から乙景で働き始めた山口竜輝さんも「ずっと前からJOURNALのファンで、全記事読んでます」って言ってくれたりして。

いつもPC上のプレビュー数しか見ることができなかったので半信半疑だったんですが、「本当に読者って実在したんだ」みたいな感覚になりました(笑)。

菊地:僕も色んな人にJOURNALのことを伝えて読んでもらっているんですが、反応はかなり良いです。

鈴木:でも、だからこそ、僕は次の段階に進みたいって思うんです。

菊地:独自のスタイルを生み出していく、ということですか?

鈴木:はい。すでにショップブログとしての独自性の高さには自信があります。でも一方で僕の中ではあくまで従来のショップブログの延長線上なんです。

そこから抜け出すためには、今の路線は維持しつつも、頭ひとつ抜けたような記事を掲載していく必要がある。

菊地:具体的なビジョンはあるんですか?

鈴木:「ファッション哲学」や「ファッション批評」と呼ばれる研究分野と、現場の生々しいファッションをリンクさせていきたいと思っています。そのために今は関連書籍を読みあさっているところです。

ただ、小難しいことばかりを並べたJOURALにするつもりはありません。難しいことを書くのは簡単ですが、それがV.O.Fのお客様や服好きの人たちに伝わらないと意味がありませんから。そこはプロのライターの腕の見せ所です。

ショップブログとしても、おそらくはフリーライターとしても、初めての試みになると思います。

菊地さんはGIOVANNIのことを「ここから始めたという印だ」とおっしゃいましたが、このJAN JAN VAN ESSCHEのヘンプフーディジャケットは僕にとっての「ここから始めたという印」になりそうです。本当に買ってよかったですね。

菊地:うんうん、とても興味深い挑戦になりそうです。一緒に頑張っていきましょう!

<NEWS>
・2022年1月2日〜16日、京都藤井大丸にてZIIINのPOP UP STOREを出店。一部モデルの限定カラーも出品予定。
場所   京都藤井大丸 四階
開催期間 2022年1月2日-16日まで
営業時間 10:30-20:00

ONLINE SHOP
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語り手 /菊地 央樹(V.O.F代表)
書き手/鈴木 直人(ライター)