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JAN JAN VAN ESSCHE (ヤンヤンヴァンエシュ)2024-25A/W“BEYOND”について – 彼らが乗り越えたもの、僕たちが乗り越えるもの【京都・乙景】

V.O.F各店のお客様にすっかり浸透した感のあるJAN JAN VAN ESSCHE。

2024-25A/Wの彼らのクリエイションは、初めてJAN JAN VAN ESSCHEに触れる方々はもちろん、これまでのJAN JAN VAN ESSCHEを見てきた方々にとっても、一つ大きな壁を乗り越えたようなものとなっています。

そこで今回は、乙景店主・山下に話を聞き、彼らが今シーズンのテーマ“BEYOND”に込めたものや、クリエイションの変化について感じたことを話してもらいました。

JAN JAN VAN ESSCHEがテーマ“BEYOND”に込めたもの

PROJECT#12 – BEYOND is a humble contribution to alleviate and reframe the state of mind.
In dark times, sheer beauty and poetry seek their relevance in the light.
With a series of newly developed garments, Jan-Jan Van Essche voices the feeling of urgency to contemplate beyond imposed constructs limiting interconnectivity.
To acknowledge resistance and to evolve past it…. to move as one.


PROJECT#12 – BEYONDは、精神を癒し、再構築するためのささやかな貢献である。
暗い時代だからこそ、美しさと詩は光の中にその妥当性を求める。
JAN JAN VAN ESSCHEは、新たに創り上げた一連の衣服で、人と人とのつながりを制限する押し付けられた価値基準を超え、切迫した「熟考すること」の必要性を表現している。
抵抗を認め、それを乗り越えて進化すること……ひとつになって動くこと。

__まずは、今シーズンのJAN JAN VAN ESSCHE(以下、JJVE)のテーマ“BEYOND”について聞かせてください。

山下:BEYONDは「超える」という意味の英単語ですよね。これは明らかに今の世界の情勢や、各国が置かれている状況などを前提としたテーマだと思います。

__というと、やはり2022年2月に勃発したロシア・ウクライナ戦争でしょうか?

山下:まさに。僕たちがパリで2024-25A/Wのコレクションを見たのは、2024年1月なんですけど、その時点でも戦火は収まるどころか悪化を続けているような状況でした。

ヨーロッパでは、物流や経済に大きな影響が出ていることもあり、今回の戦争をとても深刻に受け止めていて、若者を中心にかなり暗いムードが漂っているみたいなんです。

JJVEは、そうした状況をファッションを通じて少しでもポジティブにしたい、という思いをコレクションに託して“BEYOND(超える)”をテーマに選んだんじゃないかと思っています。

__これは、あまり言うべきことではないのかもしれませんが、正直日本人からすると、実感しにくい話題ではあります。

山下:そうかもしれませんね。でも「暗い時代にある」という意味では、日本も同じなんです。経済的な危機、文化的な危機……というと話がぼんやりしますけど、「トンネルの出口が見えない感じ」というのは、多くの人が身に覚えがあるんじゃないでしょうか。

__確かに、目指すべきものがなく、同じような毎日をただひたすら繰り返して、どこに向かっているかもわからず、漠然と不安を抱えている。そんなムードはコロナ禍あたりから漂い続けているような気がします。

山下:JJVEの“BEYOND”はそうした課題というか、壁みたいなものも想定しているように思います。だから今回のコレクションは、誰にとっても他人事ではないんです。

JAN JAN VAN ESSCHE 24-25A/Wの「推し生地」

__となると、けっこう今シーズンのテーマは、ネガティブなイメージなんでしょうか?

山下:それは明確に「違う」と言えます。パリでJan Jan本人に話を聞いた時、彼は「戦争やコロナ禍を通じて、色々な衝突・対立が起きている。でも僕たちは、それを超えた先にある美しい世界をみんなで目指していきたいんだ」と言っていました。

ポジティブ全開ではもちろんないけれど、ネガティブ一色でもない。暗闇の中にキラキラときらめく光を見出すような、そんなスタンスの大切さを表現したコレクションなんです。

今シーズン、乙景が特に力を入れてラインナップした生地は、そんな“BEYOND”のスタンスを反映したものを選びました。

__どの生地ですか?

山下:Wool Linen Canvas Black MeleとYak Wool Twill Night Blueです。

__どちらも暗い色の生地ですね。

山下:でも、どっちもただの黒じゃないんです。モード・ファッションの人間はずっと実感してきたことですが、「黒」と一口に言っても色々な黒がありますよね。この2つの生地も一見黒に見えるんですが、近くで目を凝らしたり、太陽光に照らしたりすると、それぞれに表情があります。

Wool Linen Canvas Black Meleは、個人的にJJVEが過去のコレクションで作ったウールリネンのパンツがめちゃくちゃ気に入っていて、ぜひお客さんにもJJVEのウールリネンを知って欲しいという思いでピックアップしました。

この生地は黒の糸の中に少しだけ白の糸を混ぜることで、奥行きのある表情を作り出しています。ちょっとカッコつけて言えば「星空」みたいな生地なんです。

__真っ暗な夜空に、点々と輝く星の光。まさに今シーズンのテーマとリンクするわけですね。

山下:Yak Wool Twill Night Blueは名前の通り黒じゃなく、Night Blueなんです。黒の生地の上に濃いネイビーの生地を重ねたような絶妙な色合いの生地です。

__室内の灯りだと、完全に黒に見えますが……。

山下:真っ黒の生地と並べたり、太陽の下で見るとけっこう青く見えますよ。じっくり観察しないと、あんまりわからないんです。

__……もしかして、JJVEからリリースされたテーマについてのテキストに「切迫した『熟考すること』の必要性(the feeling of urgency to contemplate)」とあったのは、こういうこと?

山下:だと思っています。「ああ、黒だな」と思い込むんじゃなく、近くに寄って、触って、目を凝らして、きちんと観ること。思考するのを止めずに、しっかり向き合い続けること。そういうことの大切さを伝えたかったのかな、と。

__ついつい僕たちは、メディアやSNSの価値観を鵜呑みにして、善悪を決めつけたりしがちですが、JJVEのコレクションはそうした態度に警鐘を鳴らしてくれているのかもしれませんね。

山下:この2つの生地に関しては、「JACKET#58 Loose Fit Eisenhower Style Double Breasted Jacket」「SWEAT#62 Kimono Collar Woven Sweat」「TROUSERS#78 Oversized 6 Pocket Denim」の3型で多めに展開しています。

すでにけっこう売り切れも出ていますが(9月11日現在)、ぜひ店頭でじっくり見てもらいたいですね。中でも、JACKET#58は僕もスタッフの山口も、バイイングの時点で個人オーダーしていたイチオシです。

__これ、かぁっこいいですよねえ!試着して頭抱えましたよ(笑)。

山下:(笑)。このジャケットですごいのは、ほぼ直線で作られているところです。服を作る過程で、ほとんど無駄な生地が出ていないんじゃないかっていうくらい、曲線が最小限に抑えられている。

でも一方で、袖はラグランスリーブになっているので、直線パターンで作った服にありがちな、独特のだぶつきみたいなものは一切なし。すっきり、都会的なシルエットに落ち着いているんです。

__僕は2021-22A/Wシーズンのショートジャケットを持っているんですが、それは全体的に可愛い感じのシルエットなんです。でも今シーズンのJACKET#58は、着た瞬間に「うわ、かっこいい!」と思いました。

山下:ちょっと見ただけではわからない変化なのに、着ると全然違うんですよね。本当にすごいですよ。

Wool Linen Canvas Black Meleのバージョンは売り切れてしまいましたが、まだYak Wool Twill Night BlueとHerringbone Yak Wool Black&Whiteのバージョンが残っています。ぜひ、鈴木さんもご検討ください(笑)。

__うがあああああ〜〜〜!(欲しすぎて悶絶)

「#1」が物語るもの———JAN JAN VAN ESSCHEにとっての“BEYOND”

__気を取り直して……。今も話に出ましたが、今シーズンのLOOKを最初に見た時に感じたのは、シルエットの変化でした。そのあたりについて、山下さんはどう感じましたか?

山下:シルエットも含め、シーズン全体を通して挑戦をしているように感じました。乙景でも何点か入れているのですが、今回のコレクションでは「#1」とついているものが多いんですよね。

__その形のものでは、初めて作った第1号という意味ですね。

山下:そうです。具体的にはHOODPIECE #1やANORAK #1(完売)です。

ここには、JJVEとして「今までの自分たちを超えていこう」という意図があるんじゃないかと思っています。

去年のA/W、“RITE”のクリエイションは、彼らにとって総決算的なものでした。だからこそ今年のA/Wでは、そこを乗り越えて次のステージを目指したんじゃないかって。

乙景ではそういったJJVEの意図を汲んで、#1や新型で出てきたものを提案しているので、ぜひともお客様には挑戦してもらいたいと思っています。

東京のCONTEXTでも、あえて#78 Oversized 6 Pocket Denim のブラックを入れず、ナイトブルーに絞ってピックアップしています。

伊藤さんは「確かにブラックは使いやすいし、お店側も販売しやすいけれど、お客様にはこのナイトブルーでコーディネートを組んでファッションを楽しんでもらいたい」と言っていました。

各店がそれぞれの解釈で提案をしているので、お客様にも色々な角度で味わってもらいたいですね。

__「#1」の存在以外で言うと、どんなところに挑戦を感じましたか?

山下:例えば「JACKET #58 Loose Fit Eisenhower Style Double Breasted Jacket」や「TUNIC#37 Kimono Collar Loose Fit Tunic With Side Buttons」に見られるような足し算ですね。

先ほども触れたJACKET #58はこれまでも作ってきたショートジャケットなんですが、今まで平面で作っていた胸ポケットにマチをつけて立体的にしたり、これまでコットン100%だった裏地を初めてキュプラにしています。

TUNIC#37もお馴染みのアイテムですけど、サイドをボタンで開けるようにしたうえで、中にポケットをつけています。

これらは全て、JJVEの服をより着やすく、使いやすくしてくれています。過去のJJVEの服作りでも十分100点満点だったんですが、こうした足し算をすることで110点、120点にまで引き上げてきた感がある。

一方で、逆に引き算をしたアイテムもあります。

__というのは?

山下:「TROUSERS#83 Oversized Dress Pants」(完売)、「TROUSERS#82 Tapered Leg Trousers」は、これまでのディテールに引き算をすることでやはりより着やすく、使いやすくしているんです。

TROUSERS#83の原型は、JJVEの代表作の1つとも言える、左右に大きく4本のプリーツをとった袴パンツです。しかし今シーズンはこのプリーツを超幅広の1本に減らしています。

TROUSERS#82の原型は、去年のA/Wにリリースされていたペインターパンツです。その名残としてハンマーループなどは残っているんですが、ダブルニー(膝上から裾までに当て布をした)仕様をなくし、裾にダーツを入れることでスマートなシルエットに洗練されています。

__本当に細かい調整を入れているんですね。自分たちが作ったものに、真面目に向き合っているからこその服作りだなあ……。

山下:ですね。当然、毎シーズン毎シーズン、全力でクリエイションしているのだと思います。それでも、後から見直せば、彼らの目には解決しないといけない課題が見えてくるんでしょう。

それと1つ1つ向き合って、丁寧に洗練させていく。この作業は、なかなかやろうと思ってできることじゃないんですが、JJVEは細かい微調整まできっちりやってくる。彼らが世界で評価される理由は、こういうところにあるのかもしれません。

乙景の店内が薄暗いのはなぜか?———JAN JAN VAN ESSCHE 24-25A/Wの楽しみ方

__そう言えば、乙景の店内、ちょっと暗くなりました?

山下:はい、実はJJVEの入荷があってから暗くしています。

__え?これだけ生地の色味がわかりにくいアイテムばかりだと、普通逆に明るくしませんか?

山下:おっしゃる通り(笑)。でもこれは乙景なりの提案なんです。強い照明をバーっと当ててしまうと、パッと見ただけでわかった気になってしまいます。「ああ、黒か」「ああ、こういう服か」って。でもそれだと、今シーズンのJJVEの服の魅力は半分も伝わらない。

「暗くてよく見えないな」と思って、近づいて目を凝らす。
手で触れて、生地の質感を感じる。
気になって、試着してみる。
「お、かっこいいな、これ」となる。
外の光で生地を見る。
暗い色の生地に隠れている、それぞれの表情に気づく。

そこまで来てやっと、70%くらい伝わる。そういう服だと思っていて。

__まさにJJVEたちが言う「人と人とのつながりを制限する押し付けられた価値基準を超え、切迫した『熟考すること』の必要性」を空間で表現しているわけですね。

ちなみに、あとの30%は?

山下:そりゃもう、着ていかないとわかんないです。やっぱり服は着てナンボですから。

ともかくもそうやって、昔JOURNALで書いていた乙景の原点(乙景の店内が薄暗いのはなぜか? – 乙景の空間づくりについて)に戻って、あえて照明は落とすことにしたんです。

そういう、乙景らしい提案も含めて、JJVEのコレクションを楽しんでもらえたら嬉しいですね。

__ありがとうございました。

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