ZIGGY CHEN 2022-23A/W “今シーズンおすすめしたい逸品”【京都・乙景編】
季節はすっかり秋になり、ファッションをたっぷり楽しんでいる方も多いのではないでしょうか。
ZIGGY CHEN 2022-23A/W COLLCTION “ILLUSAITS”は、10月にデリバリーが完了し、多くのお客様にご好評いただいています。
今シーズンも粒揃いの作品ばかりで、お客様と同様に(もしかしたらそれ以上に)東西各店のメンバーも大いに興奮しています。
そこで今回は毎シーズン恒例の“今シーズンおすすめしたい逸品”ZIGGY CHEN編として、まずは乙景店主・山下恭平に今季のZIGGY CHENについて語ってもらいました。どうぞお楽しみください。
今シーズンのテーマ「ILLUSAITS(ILLUSION+PORTRAIT)」の意味するところ
__今シーズンのZIGGY CHENのテーマは、ILLUSION(錯覚)とPORTRAIT(肖像画)を組み合わせた造語“ILLUSAITS”です。このテーマはどのように作品に反映されていたと思いますか?
山下:いろんなヴィンテージのアイテムからディテールを引っ張ってきて、それを1つの作品としてドッキングさせることで、「一見○○に見えるけど、別の角度で見ると△△に見える」という形で表現した、という印象ですね。
例えば僕自身が個人オーダーしたFIELD VEST。これはぱっと見、US AIR FORCEのC-1ベストのディテールで作られているんです。
でもボタンのところのディテールを見ると、ハーフムーンといってハンティングベストやハンティングジャケットで使われるデザインが使われています。
もしこっちを先に見ていれば、「ああこのベストは、ヴィンテージのハンティングベストがインスピレーション源なんだな」って思うはずなんです。実際、僕も最初はそう思いましたし。
でも実物を見て、前から見るのと、後ろから見るのとでは全く違うアイテムに見えることがわかった。ぱっと見で「この服はこういうアイテムから引用してる」って、勝手に決めつけてしまってたな、と気付かされました。
__まさに錯覚(=ILLUSION)なんですね。
山下:そうなんです。CLASSIC TWO BUTTON BLAZERにも、錯覚を起こすようなギミックが隠されています。
このジャケットは、背中よりのところにサイドシームを設けて、色の違う生地を縫い合わせています。この色の切り替えは、前合わせのところでも起きているんですが、実はこっちにはシームがありません。織り柄なんです。
__それを知ると、どっちにシームがあって、どっちにシームがないかわからなくなりますね……。
山下:生地の色も同じです。この生地、ブラウンとかベージュっぽく見えるんですが、実はその手の色は使っていない。赤、緑、黄の糸を複雑に混ぜ合わせて作ってるんです。いかに僕たちが「ぱっと見」で決めつけているかがわかりますよね。
FIELD JACKET WITH BACK CAPEはFIELD VESTと逆の現象が起きています。
__逆の現象というのは?
山下:こっちは布の面積が大きいだけあって、やっぱり前面のハンティングのディテールが強いんですが、後ろはC-1ベストのディテールで作られているんです。
あと、このBACK CAPEシリーズは文字通り裏地に仕込まれたケープが面白いですよね。本来ハンティングジャケットで言えば、捕らえた獲物をしまいこむためのポケットです。
ZIGGY CHENはそれをボタンで折りたたんだり、伸ばしたりできるようにしました。
FIELD JACKETの場合、このギミックを伸ばすとワーカーコートみたいになるんです。ハンティングジャケットかと思いきや、C-1ベスト、かと思いきやワーカーコート。僕たちの服への先入観を、ことごとく打ち破る、めちゃくちゃ面白い発想ですよね。
__特定の年代のディテールを見ると、つい「あ!これは○○年代の服から引用してるんだ!」って思いたくなりますもんね。
山下:そうやってすぐには答えが出せないように、いろんな年代のディテールを掛け合わせて服を作ってるんですよね。しかも考えても考えても、それが正解か不正解っていうのは、人それぞれの解釈によって変わってくる。
今季のZIGGY CHENを見ていると、なんだか日常生活でもあまり先入観を持って物事を見ないようにしないとな、と思わされますね。
__ILLUSION(錯覚)については納得がいったんですが、PORTRAIT(肖像画)についてはどうでしょうか?
山下:言葉の意味としては肖像画なので、最初は特定の人物を指しているのかと思ったんですが、作品を見て、もしかしてこれは「ハンティングジャケット」「C-1ベスト」みたいないわゆる定番モデルのことを指しているんじゃないかと思うようになりました。
有名なヴィンテージアイテムの肖像画を、あれこれ組み合わせてILLUSION(錯覚)を作り出した、みたいな。
__見る角度によって、見え方が変わる肖像画とかもありますから、その解釈は的を得ているのかも。
山下:だったら面白いなーと思って。
戦慄さえ感じる、ZIGGY CHENの柄合わせの技術
__肖像画といえば、肖像画がプリントされた総柄のFIELD VESTの柄合わせ、ものすごかったですね。
山下:今季のZIGGY CHENの柄合わせは、いつにも増して変態的ですよ……。このベストで言えば、ボタンを留めると前合わせのところの肖像画の柄が合うようになっていたり、立体ポケットとボディの柄合わせがされていたり。
__もう何がどうなってんだって感じですね(笑)。
山下:CUTOUT BACK WORKER JACKETはアイクジャケットと言って、アメリカの元大統領ドワイト・D・アイゼンハワーが第二次大戦中に着ていたジャケットがインスピレーション源になっています。
ZIGGY CHENのこのジャケットでは、胸ポケットの内布とボディ、サイドポケットの内布とボディ、裾の切り替え部分でもラインの柄が合っています。
確かにアイクジャケットにも胸ポケットはありますが、柄を合わせたいならポケットをなしにすることだってできたはず。なのにZIGGY CHENはそうしないんですよね。
入荷してすぐパンツの方が売り切れてしまったんですが、CLASSIC TWO BUTTON BLAZERのセットアップもすごかったですよ。
__どういうことですか?
山下:上下セットで着ると、全く同じラインで生地の濃淡が入れ替わって見えるように作られているんです。
しかもこのパンツ、DOUBLE BREASTED OVERSIZED COATと合わせると生地の濃淡が今度はぴったり一致する。単体だけじゃなく、他のアイテムとも柄を合わせてくるんですよ。
__なんかこう、もはや鳥肌が立つレベルですね。
山下:FIELD JACKET WITH BACK CAPEの柄合わせもえげつないですよ。ボディ、扇形のポケット、ウエストのポケットフラップ、ポケット、全部柄が合ってます。
__やっば!……これはあくまで僕の推測なんですが、デニムって縦落ちするじゃないですか……?
山下:……それだったら怖い……。
__着込んでいって、色落ちしていった時に、墨染リネンのストライプ柄の合う説、どうでしょうか?
山下:ありえるかもしれません。怖くなってきた……。
__こういう柄合わせって、やりたいデザイナーは多いかもしれませんけど、なかなかできることじゃないですよね。
山下:パターンはコンピュータで描けるかもしれませんが、工場との連携や職人さんとの信頼関係がないと、絶対に実現できませんよね。
いくら設計図が描けても、縫製がずれたらおしまいですから。本当にすさまじいことですよ。
1着でも、2着以上でも楽しめる、計算されたレイヤリング
__今季のZIGGY CHENは、以前山下さんがJAN-JAN VAN ESSCHE 2022-23A/W “今シーズンおすすめしたい逸品”【京都・乙景編】で話されていた、長短のレイヤードが多用されていましたね。
山下:FIELD JACKET WITH BACK CAPEなんかは、それを1着で見せてくれてますよね。前が短くて、後ろだけインナーが出ているみたいなレイヤード、今まで見たことありませんでした。
ただZIGGY CHENがすごいのは、こういうレイヤードを2着以上でも楽しめるようにしているところです。
例えばCUTOUT BACK WORKER JACKETとFRONT SLIT POCKET SHIRTを組み合わせると、FIELD JACKET WITH BACK CAPEと同じ形のレイヤードになるんですよ。
__え?
山下:このシャツのスリットはやや前寄りに設けられていて、かつボタンで開閉できるようになっています。このボタンを全部外して、前だけタックインして着ると、後ろだけインナーが見えるようにレイヤードできるんです。
__すごっ……。
山下:正直最初は「これなんでボタンつけたんやろ?」って思ってたんです。でもお客様が試着されている時に「これ、タックインしたら面白いんじゃないですか?」とおっしゃって。「いや、それですね!」ってなって(笑)。
__今季のJAN JAN VAN ESSCHEにしろ、ZIGGY CHENにしろ、スタイリングやレイヤードに対する考え方が変わるようなクリエイションですね。
山下:これまでの秋冬のトレンドがオーバーコート1枚着て終わり、みたいな感じだったので、その反動としてレイヤードがフューチャーされてるのかもしれません。
ただ今までのレイヤードって、「ジャケットの裾からシャツがチラ見えする」くらいだったんです。今シーズンのJAN JAN VAN ESSCHEやZIGGY CHENみたいに、長短を極端に見せるレイヤードは多分今までなかった。
だからお客様にも、先入観を捨てて、この新しいレイヤリングを楽しんでもらえたらって思いますね。
<NEWS>
・東西各店に新ブランドJurgen Lehlの最終便が到着。
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語り手/山下 恭平(乙景店主)
書き手/鈴木 直人(ライター)