乙景店主・山下の“思い入れの1着”<13年前に買ったTHOM BROWNEの紺ブレジャケット>

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乙景店主・山下の“思い入れの1着”<13年前に買ったTHOM BROWNEの紺ブレジャケット>

V.O.Fメンバーはライターの私鈴木を含め、代表・菊池も、CONTEXT店主・伊藤も、乙景店主・山下も、今のところ全員が34歳世代。

人に歴史ありとは言いますが、服好きの歴史には服があるものです。

そこで今回は乙景店主・山下にフォーカスを当て、今まで買った洋服の中で、今も手元に置いている「思い入れの1着」について語ってもらうことにしました。

あの頃の思いや時代のムード、そして今だから言えること……。服っていいな、大切に着続けるっていいよな、そう思えるお話になりました。全服好き、必読です!

13年前に買ったTHOM BROWNEの紺ブレジャケット

__山下さんの「思い入れの1着」は何ですか?

山下:13年前に買ったTHOM BROWNEの紺ブレジャケットですね。今とは別のアパレル企業で社会人2年目をやっていた時のことです。

__社会人2年目でTHOM BROWNE!?気合い入ってますね。

山下:入ってましたね〜。定価が15〜20万円くらいで、めちゃくちゃ背伸びして買いました。給料1ヶ月分か、もしかしたら超えてるくらいの値段ですからね(笑)。

__13年前っていうと、THOM BROWNEは全盛期って感じでしたよね。

山下:そうですね、日本国内に入ってきたくらいのタイミングだったような。僕は梅田の阪急メンズ館で初めて実物を見たんですけど。

__THOM BROWNEはいわゆる「ネオトラッド」のパイオニアでした。

山下:当時ラグジュアリーブランドとかモードブランドでアメリカントラッドをベースにしたショーをやるようなところってなかったんです。歴史がありすぎて、新しくアップデートする切り口が見当たらなかった。

僕は個人的にHELMUT LANGと古着のミックスとかをしていたので、ラグジュアリーやモードとアメリカントラッドのミックスには憧れてたんですが、正直難しさを感じていました。

__しかもあの頃って、猫も杓子も細身のピッチピチテーラードにスキニーパンツ。アメリカントラッドのサイジングってどうしても野暮ったく見えました。

山下:そうそう。僕もスキニーパンツは履いてましたし。だからTHOM BROWNEが出てきた時に衝撃を受けたんです。「なんじゃこのアメトラは!?めちゃくちゃカッコいいやん!」って。

__自分で買った時は相当テンション上がったんじゃないですか?

山下:そりゃもう街中をドヤ顔して歩いてましたよ(笑)。

カフスや首のトリコロールテープとか、前身頃のブランドタグとか、今で言うロゴドンTシャツ(胸元に大きくロゴをプリントしたTシャツ)みたいなもんですからね。

知ってる人が見たら一瞬で「あ、あの人THOM BROWNE着てる!」ってわかる、超ミーハーアイテム(笑)。当時目立ちたがりだった僕からしたら、イキるのにこれ以上ないアイテムでした。

__トリコロールのテープなんて、「かわいい!」って女の子にモテそうですよね。

山下:確かに。でも飲み会とかには絶対に着ていきませんでした。大事すぎて汚したくなかったから(笑)。

服にハマった時から抱き続けた「テーラードジャケット」への憧れ

__でもTHOM BROWNEっていうと、定番はグレーのスーツのイメージがあります。どうして紺ブレジャケットだったんですか?

山下:実際デザイナー自身もグレーのスーツをいつも着ているような人だったので、やっぱりTHOM BROWNE=グレースーツですよね。でも僕にとってそれはコスプレのように思えたんです。

THOM BROWNEは好きだったけど、彼自身になりたいわけじゃなかった。そうじゃなくて、あくまでも自分のスタイルにTHOM BROWNEを取り入れたかったんです。だからあえて紺ブレジャケットを買った、という感じですね。

あとは長年ずっとテーラードジャケットに憧れていたというのも大きいかな。

__どうして憧れていたんですか?

山下:そもそも服にハマったきっかけがテーラードジャケットだったんです。

中学生の時に初めて兄貴に連れて行ってもらった古着屋でテーラードジャケットを着て、なんだか自分が一気に大人っぽくなった気がして嬉しくて。

そこから「おしゃれな大人はテーラードジャケットだ」みたいな憧れがずっとあったんですが、社会人になって働き始めたらまさにそのおしゃれな大人がいたんです。

__会社の先輩?

山下:そうです。先輩にRALPH LAURENが好きな人がいたんですけど、その人がブレザーとかボタンダウンシャツとか、そういうアメリカの服をめちゃくちゃカッコよく着こなしてて。

体格もいいし、キャラにもハマってて、本当にRALPH LAURENがよく似合ってた。でもだからと言って、その人をそのまま真似することはできなかったんですよ。

__どうして?

山下:13年前の僕って、かなり華奢だったんです。だからHELMUT LANGなんかは着こなせたんですけど、RALPH LAURENとかを着ると完全に「着られてる感」が出ちゃってた。

でもだからこそ、アメリカントラッドのジャケットにさらに強い憧れを抱いたんですよね。

__なるほど、THOM BROWNEの紺ブレジャケットは手に入れるべくして手に入れた1着だったんですね。

「雑誌に載りたい」という夢を叶えた、13年前のスタイリング

__13年前はどんなふうにこのジャケットを着こなしていたんですか?

山下:この紺ブレジャケットにボタンダウンシャツを着て、細身のデニムパンツをロールアップしたうえでオールデンのダービーシューズを履いていました。

実はこのスタイリングになったのには、色々と経緯があって……。

__ぜひ聞かせてください。

山下:僕がもともとアパレルの業界に入ったのは、雑誌に載りたかったからなんです。中学の時に兄貴の友達が雑誌のスナップ特集に載ったんですが、そこで

「一般人でもおしゃれやったら雑誌に載れるんか!すげえ!」
「おしゃれって言うたらやっぱり服屋の店員やろ。よし、ショップ店員になろう!」

って思って。

__山下少年、純粋で可愛い(笑)。

山下:(笑)。で、THOM BROWNEを買った後に「よっしゃ、雑誌に載るぞ」って思って、某大手ファッション雑誌のコーディネートコンテストに応募することにしたんです。

でもただなんとなくおしゃれをしても賞はとれないだろうと思って、過去の号を徹底的に研究したんですよね。

__本気で狙いに行ってる(笑)。

山下:研究の結果、過去の受賞者に3つの法則が見えてきた。それは「トレンドアイテムかトレンドブランドを身につけている」「小物でもおしゃれをしている」、そして「髪の毛がくるくるパーマ」。

__髪型まで法則があったのか、あの雑誌のコーディネートコンテスト……。

山下:当時の受賞者は本当にこの3つの法則に完璧に当てはまってたんです。だから僕もトレンドど真ん中だったTHOM BROWNEを軸に、眼鏡、バッグ、靴に至るまで計算してスタイリングを組んだわけです。

__それがさっきのスタイリングだったんですね。

山下:はい。ちょうど手元に掲載してもらった時の写真があるんですけど……。

当時THOM BROWNEを着るってなると、まんまグレースーツスタイルの人も多かったし、紺ブレジャケットってなるとチノパンやコットンパンツ、ミリタリーパンツを合わせるのが一般的だったんです。でも僕は少し捻ってデニムパンツにしました。

あとTHOM BROWNEと言えばクロップド丈ですが、それもロールアップすることで近いシルエットにしたんです。THOM BROWNEっぽいんだけどTHOM BROWNEっぽくない、みたいなラインを目指した。

__そうだそうだ。13年前ってパリコレとかでも9部丈やクロップド丈が徐々に増えてきた時期でしたよね。

大学生の頃『FASHION NEWS』という雑誌を購読してたんですが、パリコレ特集とか見ると色んなブランドがクロップド丈をやっていて。僕も高知の大学でクロップド丈のパンツを履いて歩いてました。

山下:そのムーブメントを作ったのがTHOM BROWNEだったんです。でもパリコレとかの流行ってなかなか街に落とし込まれるまでは時間がかかるから、大阪でもあんまりクロップド丈の人って少なかったんですよ。

そのあたりが賞の選考員の目に留まったのかなって思いました。

13年経った今だからできる、THOM BROWNEの着こなし

THOM BROWNE 入園式ルック。

__この紺ブレジャケットは、今も着ることはありますか?

山下:先日の子供の入園式で着ましたよ。ジャケットを着なきゃいけない場が減っているから登場回数は減っていますが、これからも大事な日には着たいと思っています。

__そういう時はどんなスタイリングにするんですか?

山下:昔とは逆に、オーソドックスにベージュのチノパンにシャツみたいな感じで合わせています。あとは今こうやって乙景で店主をやっているからこそできるスタイリングもしてみたいですね。

今だからできる、THOM BROWNE MIXスタイル。

__どんなスタイリングですか?

山下:COMOLIのシルクシャツにtomo kishidaのリネンスカーフをして、ZIGGY CHENの千鳥格子のワイドパンツみたいな。ドメスティックブランドとアルチザンにTHOM BROWNE。

__どうしてそんなスタイリングをしたいと思ったんでしょう?

山下:当時の自分はやっぱりTHOM BROWNEに引っ張られてたなって思うんです。せっかくTHOM BROWNEを着るんやから、THOM BROWNEを軸にしてスタイリングを組みたい、みたいな気持ちが強かった。

アメリカントラッドにはルールがあるんだから、ベースの部分を崩しすぎるのは良くない、という勝手な思い込みもあったし。

でもそういう気持ちって、ファッションを窮屈にしかねないんですよ。「このブランドはこう着ないとダメ」みたいな固定観念を作ってしまう。

もちろん合う・合わないはあるんですけど、合わせ方次第でファッションは自由に楽しめるものです。

THOM BROWNEはTHOM BROWNEとかアメリカントラッドと合わせる必要はないし、JAN JAN VAN ESSCHEやZIGGY CHENも同じブランドや系統のアイテムと合わせなきゃいけない理由はどこにもない。

自分もそういう固定観念に縛られたくないし、お客様にも自由にファッションを楽しんで欲しいから、今回「こういうTHOM BROWNEもアリじゃない?」という意味でスタイリングを提案したかったんです。

今、このジャケットと向き合ってみて思うこと

__今回、インタビューを通じて改めてこの紺ブレジャケットと向き合ってみて、自分の中で服やファッションへの想いに変化はありましたか?

山下:インタビューが決まってから今日まで何を話そうかと考えていくうちに、自分の中にあった色々な思考が整理されていった感じはあります。

先ほども言ったように僕はHELMUT LANGが好きで集めていたんですが、あのブランドのアーカイブ作品は二次流通の市場で値段が上がっていました。僕が持っていたものも含めて。

一方でTHOM BROWNEは一次流通の量も多いので、二次流通の市場価値はそこまで高くないんです。でも今回色々考えるうちに、あらためて「そこじゃないよな」って思ったんです。

__というのは?

山下:自分が好きな服の価値は自分で決めたらいいんです。そりゃもちろん、自分が好きなブランドだし、一時代を築いたブランドだからもっと評価されて価値が上がった方が嬉しいです。

でも僕にとっての価値と市場価値の高い・低いは無関係だよな、と。世間の評価に振り回される必要はないよな、と。

__「売る時これくらいの値段になるから買ってもいいか」とかじゃなくて。

山下:そうそう。あくまで自分がどういう想いで買ったのか、どういう想いで着てきたのか、みたいなところを大事にしたいし、お客様にも大事にして欲しい。

V.O.FとかA.O.Fのアイテムは確かに1点あたりの価格は安くありません。僕も含めて、多くのお客様にとっては、やっぱり気持ちを込めて買うことになるはずです。

だからこそずっと着ていったり、なんなら子供にあげるくらいの勢いで大切にして欲しいなって思いますね。

__今日はありがとうございました。

<NEWS>
・【7月1日】より、東西各店、ONLINE SHOPにてSUMMER SALEがスタート(対象商品が30〜20% OFF)。
・CONTEXTがリニューアルオープン
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語り手/山下 恭平(乙景店主)
書き手/鈴木 直人(ライター)