KARIM HADJABとは?大量生産・消費ファッションへの痛烈なアンチテーゼ

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KARIM HADJABとは?大量生産・消費ファッションへの痛烈なアンチテーゼ

こんにちは、V.O.Fライターの鈴木です。今回はこんな質問から始めたいと思います。

皆さんにとって、ファッションとは何でしょうか?
「服を着る」とはどういうことでしょうか?

日頃はあまり考えないかもしれませんが、いざ考え始めるとなかなか答えの出ない問いです。

例えばファッション業界のゴミ問題が注目されている昨今では、「現代の大量生産・消費ファッションを受け入れるか?それとも拒絶するか?」なんて切り口からも考えられます。

この深遠な問いに、自分なりの答えを出してみせたブランドの一つが、今回取り上げるKARIM HADJAB(カリーム・アジャム)というブランドです。

京都・乙景や東京・CONTEXTでもA.O.Fの商材としてしばしば買い取らせていただき、店頭やONLINE STOREに並ぶこともあるので、目にしたり、手に取ったりしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

以下ではこのKARIM HADJABがどんなブランドなのかを紹介するとともに、クリエイションから筆者が感じた同ブランドの哲学についてご紹介します。

アンチ・ファッションの体現者、Karim Hadjab

KARIM HADJABは、フランス生まれの同名デザイナーによって作られたブランドです。同ブランドの作品は製作方法の違いによってラインが分けられています。

代表例は4saisons(4つの季節)でしょう。このラインにはヴィンテージウェアを自然の中に文字通り1年間(=4つの季節)放置し、雨や雪、風や日の光に晒すことで経年変化させた作品が並びます。

A.O.Fでもこの手法で製作されたミリタリーコートをお取り扱いしていた時がありました。

筆者は実際に試着しましたが、もともとヴィンテージとして古びていたはずのコートが、1年間自然に晒されたことでさらに朽ちており、ただならぬムードを放っていたことを覚えています。

Bactorというラインも象徴的です。これはコットンの繊維を食べるバクテリアを、コットン×化学繊維の服の上で培養し、コットン部分だけをあえて分解させて作品を作るラインです。

現在京都・乙景や東京・CONTEXT の店頭にもあるFragileは、プラスチックのレジ袋や、医療用の非常に薄いプラスチック素材など―――言ってしまえばゴミを使って、ヴィンテージウェアにプリントを施したラインです。

製作手法だけでもパンチが効いていますが、プリントに使われている写真のパンチもなかなかのものです。上の写真は今東西両店にあるFragileラインのプリントの一部です(3月9日現在、ONLINE未掲載)。

この他、KARIM HADJABとは別に立ち上げたブランドAPRÉSでは、ゴミの山からピックアップしてきた今にも崩壊しそうな衣服をスキャンし、新品の衣服にプリントした作品も発表しています。

いずれにしても従来のいわゆるファッションブランドが行ってきた手法とはかけ離れたやり方でクリエイションを行い、アンチ・ファッションを体現しているのがKarim Hadjab氏なのです。

“Garbageization(ゴミ化)”による価値観の転倒

新品の衣服こそが正しい。
清潔な衣服こそが美しい。

いわばファッション業界の主流であるこうした価値観にNOを突きつけたデザイナーとしては、反モードを掲げてリメイクファッションを提案したMartin Margielaや、以前のJOURNALでも紹介したリサイクルデザインの先駆者Geoffrey B . Small氏が頭に思い浮かびます。

ではKARIM HADJABの独自性はどこにあるのでしょうか。それは”Garbageization(ゴミ化)”だと筆者は考えます。

例えばKARIM HADJABのInstagramで4saisonsの作品が作られている様子を覗くと、それらは(誤解を恐れずに言えば)ゴミに見えます。

地面に無造作に打ち捨てられ、土や埃に塗れているその作品を見れば、ファッションに興味がない大半の人は(もしかしたら興味がある人も)ゴミ袋に入れたくなるでしょう。

Bactorも同じです。このラインはおそらく土の中に埋められた衣服がバクテリアによって分解されていく仕組みをクリエーションに引用したもの。要するに衣服をゴミ化することで作品としているわけです。

FragileとAPRÉSはこの手順を逆にしています。つまり衣服をゴミ化することで作品にするのではなく、ゴミを衣服化することで作品にしているのです。

Fragileのプリントに使われている素材は、前述のようにプラスチックのレジ袋や、医療用の非常に薄いプラスチック素材など。APRÉSのプリントに使用されているモチーフは、ゴミ山から引っ張り出してきたボロボロの衣服。

まさにゴミを衣服にしているわけです。

しかもKarim Hadjab氏は、昨今流行りのリサイクル素材のようにゴミを繊維や生地にして、そこから衣服を作るのではありません。

レジ袋をそのまま服に貼り付ける。ボロボロの衣服を写真に撮ってそのままデザインとして使う。要はゴミをゴミのままファッションにしてしまうのです。

ファッション業界とゴミ問題ほどタイムリーな話題はありませんが、Karim Hadjab氏はこれまでのファッション業界のあり方を彼なりの手法で痛烈に批判しているのでしょう。

Karim Hadjab氏が作った衣服を着るということは、彼のそうした主張に賛同し、そのメッセージを身にまとうということに他ならないのです。

「あなたは“ファッション”といかにして向き合うか?」を問う衣服

人類史上、わたしたちヒトは次の5つの理由に基づいて衣服を着てきました。

・保護…体を守るため。
・表示…身分や所属する組織を表すため。
・羞恥…身体の一部を隠すため。
・装飾…着飾るため。
・呪(まじな)い…無形の力を得るため。

ファッションの自由化が大幅に進んだ現代においては、これらに加えて「自分の価値観や人生観を表現するため」に服を着るケースも増えてきていると筆者は考えています。

KARIM HADJABの作る衣服は非常にデザイン性が高く、素直にファッションとして楽しむことも十分できます(装飾)。

しかし彼の実践している”Garbageization(ゴミ化)”の手法は、「自分の価値観や人生観を表現するため」の衣服として非常に強力なメッセージ性を持っているように感じます。

このように考えるとKARIM HADJABは服好き、ファッション好きの人にはもちろんのこと、衣服やファッションと真剣に向き合い、そのあり方について考え続ける人にはなおさらおすすめできるブランドと言えます。

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<NEWS>
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書き手/鈴木 直人(ライター)