GEOFFREY B.SMALLの静かなるパンク精神———その歴史と功績、そして哲学とは?

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GEOFFREY B.SMALLの静かなるパンク精神———その歴史と功績、そして哲学とは?

GEOFFREY B.SMALLは1979年から続く、同名デザイナーによるファッションブランドです。

弊社VISION OF FASHIONのJOURNAL読者の方々にとっては、アルチザンブランドの代表格として知っているという人も多いのではないでしょうか。

しかしGEOFFREY B.SMALLは知る人ぞ知るブランドでありながら、インターネット上には意外なほどに情報が落ちていないのも事実。

というのも、GEOFFREY B.SMALLにスポットを当てる日本語メディアがほとんどないからです。

弊社リユースサービスサイト「A.O.F(ARCHIVE OF FASHION)」と東西各店では、お客様から託していただいたGEOFFREY B.SMALLの作品をお取り扱いしていますが、ブランドの背景がもっと伝わって欲しいと日々感じています。

そこで今回は、海外のファッションメディアや同ブランドの公式ホームページの情報を参照しながら、GEOFFREY B.SMALLの歴史と功績、そして哲学について、昨今のファッション業界の流れともリンクさせてご紹介したいと思います。

GEOFFREY B.SMALLとは? ———その歴史と功績

GEOFFREY B.SMALLはイタリアを拠点に、同国に残る手仕事をフル活用して作品づくりを続けるアルチザン(職人)ブランドです。

同ブランドでは取扱店がオーダーする際、表地・裏地からボタン、ディテールや始末に至るまで、全てを細かく指定することが可能ですが、これは多くの優秀な職人と仕事をしているからこそできることと言えるでしょう。

そんなGeoffrey氏の服作りは、実家の屋根裏部屋でSINGER社製の古いミシンを使って友人のために衣服を作る、というところからスタートしました。1979年、今から40年以上も前のことです。

彼の技術は、ボストンのデザイン学校で基礎を学んだ期間を除けば、あとは全て数十年かけて独学で身につけたものでした。

というのもGeoffrey氏はアメリカの医師家庭に生まれましたが、彼の母はアメリカ初の女性医師の1人として働いていたため忙しく、Geoffrey氏に使い方を教える時間がなかったそうです。

にもかかわらず彼は服作りを初めて間もない頃に、Calvin Klein氏など当時のファッション界を代表する審査員に選ばれて、北米最大のファッションデザインコンテストで優勝します。

パリのランドマーク、エッフェル塔。
photo by Tristan Nitot

GEOFFREY B.SMALLの1枚の白シャツは『アメリカン・ヴォーグ』誌で取り上げられた結果、1984年から1987年にかけて約100万ドルを売り上げました。

これで注目を集めたGeoffrey氏はアーティストの衣服を手がけるようになり、ボストン屈指のオーダーメイドデザイナーとして有名になっていきました。

1994年には、パリ・クチュール組合から史上3人目のアメリカ人デザイナーとして認定を受け、正式にパリコレデザイナーとしてデビュー。2001年には拠点をアメリカからイタリアに移します。

ナポレオン・ボナパルト

Geoffrey氏はデビュー以降様々な功績を挙げています。近年で言えばナポレオン時代の衣服を現代に復活させたのは、実はGEOFFREY B.SMALLです。

読者の中には、ヴィンテージやアンティーク、リメイクのナポレオンジャケットを見たり、着たりしたことがある人もいるかもしれませんが、あれをファッションに持ち込んだのがGeoffrey氏だったのです。

発端となったのは2004年1月にGEOFFREY B.SMALLが発表した「Brumaire revisited」というコレクションです。“Brumaire revisited”を直訳すると「ブリュメール再訪問」。

ブリュメールとはナポレオンが革命に成功し、皇帝に即位した「ブリュメール18日のクーデター」のこと。

要するにGeoffrey氏はこのコレクションを通じて革命を起こそうとしたのです。

実際に革命は起き、「Brumaire revisited」以降多くのモードブランドがナポレオン時代の衣服をもとにしたファッションを提案するようになりました。

「メゾン・マルタン・マルジェラ」の実店舗(2011年・ニューヨーク)
photo by ღ ℂℏ℟ḯʂ ღ

しかし、彼がファッション界にもたらした最大の功績と言えば、やはりリサイクルデザインです。

リサイクルデザインと言えばMartin Margiela氏が有名ですが、Geoffrey氏も当時このデザインコンセプトを打ち出し、普及させたうちの1人でした。

例えば彼が生み出した下記のようなリサイクルデザインの技術は、Martin Margiela氏や
COMME des GARÇONSの川久保玲氏をはじめ、多くのデザイナーによって取り入れられてきました。

・camouflage(カモフラージュ)
・painted leather(ペイントレザー)
・painted jeans(ペイントジーンズ)
・holes(穴)
・slashed knitwear(切り込みの入ったニットウェア)
・antique patches(アンティーク調のパッチワーク)
・overdying(オーバーダイ)
・customizing repairs(カスタムリペア)
抜粋:GEOFFREY B.SMALL公式サイト(全33種の技術が紹介されています)

GEOFFREY B.SMALLはあまり表舞台に立つようなブランドではありませんが、このようにファッション界に大きな功績を数多く残しているのです。

GEOFFREY B.SMALLの哲学———洗練された手仕事で紡ぐ、未来のためのファッション

『Sebastian』 (Hostem Mag)という雑誌の2011年5月号に掲載されたインタビューで、Geoffrey氏は自身が大量生産に傾くアメリカではなく、手仕事が息づくイタリアに強くリスペクトを抱いていること、そのために長年作品づくりにおける手作業の割合を増やし続けていることを語っています。

「手仕事に重きを置いているアルチザンブランド」と言うと、ヴィンテージやアンティークの服作りを現代に再現することにこだわりを持っているブランドのように聞こえるかもしれません。

ただGeoffrey氏、そしてGEOFFREY B.SMALLは過去のクリエイションにリスペクトを持ちながらも、単に懐古主義的な発想で手仕事を多用しているわけではありません。

大量の電気や石油、機械が必要なく、温室効果ガスを排出することもない―――つまりはできる限り環境を破壊せずに衣服を作り出せる技術だからこそ、手仕事を重要視するのです。

実際彼らは先ほど挙げたリサイクルデザイン技術のように、今ある手仕事の研究を通じて手仕事の新しい可能性を模索し続けているのです。

手仕事の技術は、職人の技量に依存します。継承されなければ、技術は職人とともに失われていきます。

Geoffrey氏はそれを理解しているので、1日の半分を仕事や人生におけるスキルを誰かに教えることに使っているのだそうです。

教える相手は様々で、例えば他のブランドのデザイナー、同僚、チームメンバー、自身の子供たちなどです。

この姿勢は社内でも徹底されていて、人材教育をする際も必ず1人の見習いに対して1人の師匠がつくような形で、質の高い技術継承が行われるような体制を確立しているのです。

どれだけ彼らがエコロジカルな技術としての手仕事を大切に思い、それを未来のファッションのために受け継いでいこうと努力しているかがわかります。

“There is only one goal:to make the best clothes in the world today that are still humanly possible, that is all we care about.”
(目標はたった一つ。今日の世界において、人の手でなしうる限りの最も優れた衣服を作ること。それだけが私たちの関心事だ。)
引用:GEOFFREY B.SMALL公式サイト/訳文:筆者

この文章は、GEOFFREY B.SMALLの公式サイトのトップページに書かれているものです。“still humanly possible”という書き方に手仕事を大切にし続けるGEOFFREY B.SMALLらしさを感じます。

GEOFFREY B.SMALLの静かなるパンク精神———クリエイションの特徴と魅力

ここまでの内容を読むと、Geoffrey氏に対して「研究者」「求道者」などの、言ってみれば保守的なイメージを持つかもしれません。

しかし筆者はGEOFFREY B.SMALLの歴史や功績、インタビューでの発言を読んでいて、既存の価値観やルールに対して強烈なNOを叩きつけるパンク精神を感じました。

そしてこのパンク精神こそがGEOFFREY B.SMALLの魅力なのではないかと考えています。

例えば各シーズンのテーマを拾うだけでも、Geoffrey氏のパンク精神がはっきりと見て取れます。

先ほど紹介したように2004年1月に発表した「Brumaire revisited」はフランス革命と自分たちが起こすファッションにおける革命を重ねたものでした。

また2006年10月に発表した「Back to the future」は、当時の世界が向かおうとしている方向に警鐘を鳴らすコレクションでした。

首都バグダードで銃撃戦を行う米軍兵士。
引用:Wikipedia

2006年前後と言えば、ロンドン同時爆破テロや誤情報をきっかけにイラク戦争が始まったことが明るみに出た時期です。

2005年にはYouTubeが創設され、2006年にはGoogleが同社を買収。他にも正式にiTunesでPodcastのサポートが始まったりと、一気にインターネットを通じて発信ができるWeb2.0の時代が到来します。

カズオ・イシグロが長編小説『わたしを離さないで』を通じて、人と人、社会と人とのつながりが幻想に過ぎないことを暴こうとしたのも2005年のことでした(ネタバレを含むあらすじはWikipediaをご参考ください)。

そんな中で、GEOFFREY B.SMALLは「Back to the future」というメッセージを打ち出したのです。

彼らが使う手仕事の技術が、人と人、人とモノの関係が今よりずっと密接だった時代から受け継がれてきたものだと考えると、このメッセージが当時の世界に対する強烈なNOだということが見えてきます。

他にも国際政治を批判するシーズンがあったり、女性の権利を主張するシーズンがあったり、地球温暖化や気候変動に警鐘を鳴らすシーズンもあれば、反原発をテーマに掲げたシーズンもあります。

こうした未来へのメッセージを、手仕事という技術とファッションという言語を使って紡いでいる―――だからGeoffrey氏のクリエイションは懐かしさや温もりがありながらも、しっかりと新しいのかもしれません。

GEOFFREY B.SMALLの作品は、東西店舗・ONLINEにて販売・買取中です

アルチザンブランドの代表格でありながら、同時に時代の最先端を歩くGEOFFREY B.SMALL。

単なる懐古主義的なクリエイションには終わらず、かと言って見る人があっと驚くようなアバンギャルドな衣服を作っているのではない……このバランス感覚があるからこそ、GEOFFREY B.SMALLは長年多くの人に愛されているのではないでしょうか。

GEOFFREY B.SMALLの作品は、弊社リユースサービスサイト「A.O.F(ARCHIVE OF FASHION)」のほか、東京・CONTEXTと京都・乙景にて販売・買取中です。

今回のJOURNALを読んでGEOFFREY B.SMALLに興味を持った方には、ウェブや店頭に彼の作品を見にきていただきたいですし、“次の誰か”に託したい作品があれば、ぜひとも私たちにお任せ頂ければ幸いです。

A.O.FのTOPページでリユースアイテムを見る

<参考>
GEOFFREY B.SMALL 公式サイト
THE COLLECTED WORKS OF KEVIN SOAR

▼京都・乙景 Instagram
▼東京・context Instagram
▼ARCHIVE OF FASHION Instagram

<NEWS>
・V.O.F ONLINE STORE、東西各店で20〜30%OFF SALEを開催中。(ONLINE SALE会場はこちら

書き手/鈴木 直人(ライター)