キーワードは「透け」 – 東西の貴族に学ぶ、“夏の黒“着こなし術

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キーワードは「透け」 – 東西の貴族に学ぶ、“夏の黒“着こなし術

ここ最近、日中はシャツ一枚でも良いくらいの暑さになってきましたね。そろそろ頭の隅で考え始めるのは「夏の着こなし」のこと。

夏でもオシャレしたい!なんなら黒着たい!けれど見た目的に暑苦しいよな……こう思う服好きの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そんな「重たく見えがちな黒を着て夏を乗り越えるにはどうしたら良いのか」について私、伊藤香里菜は一つの答えに出会いました。それは「透ける」生地を選ぶこと。

透ける生地が涼しいのなんて「当たり前」なのに、なぜこんな話をするのか。それは「肌が透けるほどの生地」に対して、多くの日本人は苦手意識があるのではないかと、お客様とお話をする中で感じたからです。

そこで今回は、「透け」の装いを昔から上手に取り入れていた東西の貴族たちを通じて、「夏の黒」の着こなしをご紹介していきたいと思います。

平安貴族も「透け」を楽しんでいた―――源氏物語絵巻からみる、東洋の黒×透けの着こなし

源氏物語絵巻第38帖「鈴虫」(12世紀、五島美術館蔵)
引用:Wikipedia

東洋の透けた黒の装いを見せてくれるのは、「源氏物語絵巻」の貴族たちです。

夏から秋にかけての場面が描かれた画像の「鈴虫 二」では、向かって右2人に「透けた黒」の着こなしが見られます。

彼らは男性貴族の日常着である直衣姿(のうしすがた)にプラスして、「下襲」(したがさね) と呼ばれる薄手の肌着を身に着けています。

その薄さは、下襲を掛けている匂欄(こうらん=てすり)の木材が透けるほど。

色は藍下黒(あいしたくろ、青みのある墨色)という重ための色ですが、「透け」を取り入れることで軽やかに見える仕掛けとなっています。

平安貴族の透けた黒の装いは、着て涼を取るだけではなく、目で見る涼しさも演出していたのでしょう。このように日本人も昔は「透け」を楽しんでいたわけですから、令和に生きる日本人が着てもハマるはずです。

透けを恐れる必要はない―――東洋の黒×透けを使ったスタイリング

下襲のような東洋的な「透けた黒」は、ZIIINの21-22A/Wからの新型モデル、BEARSLEY(ビアズリー)で表現してみました。

素材であるアイリッシュリネンは夏の定番生地ですが、「透け」の要素が加わることで視覚的な涼しさがアップして、黒でも重たく感じないという効果があります。生地の光沢感も相まって、上品な「透け」が表現されています。

太陽の下ではほんのり肌の色が見えるくらいの透け感なので、これまで肌が透けるほどの服を避けてきた人にも、ぜひ一度挑戦してみて欲しい一着です。

こちらはJAN-JAN VAN ESSCHE “KIMONO#11″DARK VARIANTを使ったスタイリングです。

黒の濃淡や白いラインが目を引くKIMONO#11には、コットンリネン、ウールヘンプ、ヤクシルク、アルパカ糸など様々な素材が織り込まれています。

手織りで甘く織られた生地なので、「透け」感は抜群。

タンクトップの上にさらっと羽織っても良いのですが、「肌が透けすぎるのがどうしても気になる……」という方は、写真のように明るめのシャツを下に着ると、自分の肌を見せずに「透け」の魅力を最大限に引き出すことができます。

他にも魅力が詰まった美しいアイテムなのですが、平安貴族が楽しんだ「透け」を、街で羽織れるように進化させたJJVEらしい一着です。

「透け」は美しさの象徴だった―――新古典主義の絵画から見る西洋の黒×透けの着こなし

Gérard Laure de Bonneuil
引用:Wikipedia

西洋の「透けた黒」の着こなしでは、ナポレオンの公式肖像画家でもあったフランソワ・ジェラールの「サン・ジャン・ダンジェリー伯爵夫人の肖像」を取り上げます。

彼女は、モスリンと呼ばれる透けた生地のドレスを身にまとい、ショールのような布でウエストを高くマークしています。袖周りは、肩のラインがはっきり見えるほど透けていますね。

この装いは、当時18世紀中頃から19世紀初頭に発生した新古典主義と呼ばれる芸術様式に基づきます。

新古典主義とは、古代ギリシアやローマの美しさを理想とした芸術運動のことで、ありのままの身体こそが「永遠の美」であると考えられていました。「透け」は美しさの象徴である身体を見せるための着こなしだったのです。

モスリンは服飾史上最も薄い生地であり、多くの女性貴族を肺炎にさせたという逸話も残っています。彼女らは体を病んででも美を追求しようとしたのです。

西洋貴族らがそうまでして求めた「黒の透け」の美しさを、現代で着こなしてみるとこんな感じでしょうか。

こちらはGeoffrey B.smallのシャツ。コットンをベースに柔らかく織られたであろう、非常に軽やかな一着です。

先ほどご紹介したBEARSLEYと同じく、光の加減で肌が透けるか透けないかくらいの挑戦しやすい透け感となっています。

形は身幅に程よいゆとりのあるボタンダウンシャツ。生地をよく見てみると、ストライプの織り柄が入っているのも特徴です。

「透け」だけではなくGeoffrey B.smallらしい抜け感と、西洋的なシャツの美しさを味わえるアイテムです。

最後にご紹介するのは、XENIA TELUNTSのAnorak ShirtRestful Pantsのセットアップです。

ミリタリーのスリーピングシャツのようなゆとりのあるシャツと、リラックスしたシルエットのパンツには、日本産のコットンが使われています。

柄は、地の色と同系色で織られた格子模様。色は黒ですが、自然光の下で見ると透けた生地が肌のトーンと重なって、深いこげ茶色のような美しい色味になります。

写真からも分かるように、生地に凹凸感があるので、汗をかいてもさらりとした着心地を保ってくれるでしょう。

西洋貴族らが追求した「透け」の美的感覚にプラスして、コロナ禍の現代人が求める「快適さ」という価値が取り入れられたセットアップです。

“夏の黒”には「透け」を取り入れるべし!

東西の貴族に見られた「黒×透け」は、その時代を彩る美しい装いでした。

「透け」の歴史は深く、黒を着て夏を涼しく過ごすには、やはり取り入れるべき着こなしなのです。

今まで「透け」に抵抗感があった方も、今回のジャーナルを通じて「案外良いもんだな」と感じてくだされば、あとはお店に向かうだけ。

夏本番に向けて、お気に入りの「透け」を探しにいらしてくださいね。

<参考文献>
『西洋服飾史』

<NEWS>
・ ZIIIN 2022S/Sの第一便が乙景、CONTEXT、ONLINEに到着。
・ZIGGY CHEN 2022S/Sの第二便が店頭に到着。

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書き手/伊藤 香里菜(CONTEXT TOKYO スタッフ)
編集/鈴木 直人(ライター)