ZIGGY CHEN 2022-23A/W “今シーズンおすすめしたい逸品”【東京・CONTEXT編】
日中の気温も下がり、ジャケットやコートの着こなしも楽しめる季節となりました。
ZIGGY CHENは今シーズンも粒揃いの作品ばかりで、絶えず進化を続けるクリエイションにはV.O.Fメンバーも感激しています。
今回は毎シーズン恒例の“今シーズンおすすめしたい逸品”ZIGGY CHEN編として、CONTEXT店主・伊藤に、今季のZIGGY CHENについてこれでもかというほど語ってもらいました。
「今シーズンのキーワードは“胡蝶の夢”」
__まずは今シーズンの全体的な印象について教えてください。
伊藤:今シーズンのキーワードは“胡蝶の夢”なんです。22S/Sでは道教(※)の思想家をテーマにしていましたが、そのうちの一人である荘子の思想“胡蝶の夢”を掘り下げたという印象が大きいですね。
※道教についてはこちら。
胡蝶の夢というのは、荘子が残した「荘子が夢の中で胡蝶になり、自分が胡蝶か、胡蝶が自分か区別がつかなくなった」という説話。今自分が認識しているのは現実なのか、夢の世界なのか、あるいはその逆なのか……。そういうイリュージョン的な世界観です。
__今シーズンのZIGGY CHENのテーマ「ILLUSAITS」はILLUSIONとPORTRAITを組み合わせた造語ですから、まさに胡蝶の夢とぴったり重なります。
伊藤:テーマを表すタグは、ニュートンの「創造的休暇」をモチーフにした絵画がもとになっています。
ニュートンはペストの大流行の際、感染対策のために故郷の田舎で約1年半を過ごしたのですが、その期間に生涯成し遂げた研究の大半を考えついたと言われています。
このあたりは、コロナ禍の世界情勢にリンクさせたテーマ設定になっています。
コーディネートを考える時間って、とっても楽しいじゃないですか。家の中でいろんな組み合わせを試してみたり。
今期のZIGGY CHENの洋服は、今まで以上にコーディネートの組み合わせを考えられる洋服であふれています。
店で買って終わりではなく、家に持ち帰って色々な服と組み合わせて、実験的にコーディネートを考えてみる。そんな、「創造的休暇」な洋服たちをぜひ見ていただきたいですね。
__今期のZIGGY CHENは、なんとなく「渋い!」と言いたくなる作品が多いようにも思いますが、そのあたりはどうでしょう?
伊藤:そうですね、今シーズンは今までのZIGGY CHENの総決算を、ものすごく洗練させた形でまとめている印象もあります。
17-18A/Wや20A/Wなどのコレクションで使ってきたディテールや生地を随所に織り込んでいるのですが、今までのようにある程度わかりやすい表現ではなく、都会的な表現に落とし込んでいるんです。
今日はこのあたりのことを実際の作品と照らし合わせながら、お話しできればと思います。
ULTRA LIGHTWEIGHT 2 BUTTON BLAZER
伊藤:例えば、こちらのULTRA LIGHTWEIGHT 2 BUTTON BLAZER。生地に使われているウルトラライトギャバジンは、VIRGIN WOOL85%、POLYAMIDE15%という素材です。
冬向けのウールの生地なんですが、裏地に使われている生地の模様が透けて見えるほど薄いんです。
__裏地はボーダー柄なんですね。
伊藤:この生地はいつもストライプ(縦縞)として使うんですが、今回はあえてボーダー(横縞)になるよう作られています。表地に使われている生地は無地なんですが、実は縦にシワが入っているんです。
一見、シンプルな無地のピークドラペルジャケットなのに、よく見ると縦と横のラインが交差する、という仕組みになっているわけです。これが今季のZIGGY CHEN流のイリュージョンの一つです。
__渋すぎぃ……。
伊藤:またこのジャケットは、見た目の重厚感に対してものすごく軽いんです。着心地はまるでシャツ。すでに完売してしまいましたが、同じウルトラライトギャバジンで作られたパンツは、見た目はしっかりとしているのに、着心地はまるでパジャマのように快適でした。
この、見て感じる重さと実際の軽さの対比は、胡蝶の夢で描かれた現実と非現実の曖昧な境界と重なります。
今までのZIGGY CHENは、複雑な切り替えを前面におしだしたり、シーズンを象徴するような生地を多用したりと、わかりやすいギミックを効かせた作品が多かったですが、今シーズンはそういう部分を隠した作品が多いように感じますね。
FRONT PLEATS HALF DRAWSTRING TROUSERS
伊藤:FRONT PLEATS HALF DRAWSTRING TROUSERSの白と黒も、同じ流れの作品です。一見すればドローストリングがついていて、ワイドシルエットで、白は横方向に、黒は縦方向にラインが入っているだけのパンツです。
でも実は、あちこちに色んな工夫が凝らされているんです。
__今までのZIGGY CHENって、ハンガーに吊っているのを見るだけでなんとなくわかった気になってしまうような情報量がありました。でも徐々にそうじゃなくなってきてますよね。
伊藤:多分これはZIGGY CHENで初めてなんですが、この2本のパンツにはサイドシームがないんです。縫い目がなくなるので横から見たときのドレープが本当に美しい。
でももちろんこれだけではなくて。
白はヴァージンウールコットン、黒はコットンヴァージンウールメタルと、いずれもヴァージンウールを使った生地なので、履けば履くほどとろみが出てきますし、メタルが入った黒いパンツは自分だけのシワが形成されてきます。
白の方はポケットの内布も含めてきれいにラインが柄合わせされていて、黒は片側にだけ縦に太いラインが入り、アシンメトリーなデザインになっています。
加えて、裾に2本のダーツ(生地を折りたたんで縫うことで、立体感を出す技術)を入れ、緩やかなテーパードシルエットを作り出しています。ちなみにこれはヴィンテージのパラシュートパンツのディテールを引用したものですね。
__めちゃくちゃ細かい調整を入れているから、一見シンプルに見えて、独特のムードが出ているんですね。
伊藤:しかも履いてみるとすごく着心地が良いんです。これにも秘密があります。
この2本のパンツは、どちらも総裏仕様で、裾まで裏地がついています。この裏地も肌触りが良くて、全部袋縫で縫い付けられています。サイドシームがないだけでなく、裏地の縫い目も出ていないので、履いた時に肌に何も当たらない。ヴェールをまとっているみたいです。
__でも総裏だと重いんじゃないですか?
伊藤:去年のA/WまでのZIGGY CHENは確かに重みのあるパンツが多かったんです。でも今シーズンのこの2本は、どちらもものすごく軽いんですよ。たった1年でここまで進化するなんて、本当に驚きです。
__2本の違いは、色とラインだけですか?
伊藤:黒の方は、左のお尻のところに縦の切り替えが入ります。右側はラインも切り替えもないシンプルな作りです。こういうところでも、東洋の左右非対称の美を表現しているんです。
__言われてみて気づいたんですが、その切り替えも含めて「縦の黒・横の白」という構成なんですね。さっきのULTRA LIGHTWEIGHT 2 BUTTON BLAZERの表地のシワと裏地の縞の構成と同じだ。
伊藤:確かにそうですね。今シーズンはそういった図形的な遊びみたいなものもテーマになっているようです。GEOMETRIC PATCHWORK SHIRTでは、特に図形的な表現が際立っています。
GEOMETRIC PATCHWORK SHIRT
__今シーズンのCONTEXTはGEOMETRIC PATCHWORK SHIRTを、3種類の生地で仕入れていましたよね。
伊藤:そうですね。黒、白(完売)に加えて、今シーズンのアイコンがプリントされた生地の3種類です。
このプリントは、楕円形の枠の中に肖像画(=ポートレート)を描いていますが、実はここにも胡蝶の夢に重なるイリュージョンが隠れています。
__どういうことですか?
伊藤:この枠、よく見ると鏡なんです。この鏡を見る僕たちと、鏡の向こうからこちらを覗き込む肖像画の人物。どっちが「鏡の中」なのか?まさに胡蝶の夢です。
__他の生地のGEOMETRIC PATCHWORK SHIRTは、どんなところでテーマを表現していたんでしょうか?
伊藤:完売してしまった白は、左の前身頃と右袖にラインが入っていました。前見頃のラインはまっすぐ縦に入っていて、右袖のラインは肩の前から手首にかけて、捻れるように入っています。
実はこの右袖の捻れたラインは、着た状態で腕を下ろすと縦方向、やや斜めになります。
これに対して前見頃のまっすぐ縦に落ちるラインは、GEOMETRIC PATCHWORK SHIRTがかなり身幅を広く作ってあるので、着ると同じく縦方向、やや斜めに歪みます。
結果、2つのラインが平行になるんです。
__ひょええ……まさにイリュージョン……。
伊藤:どの生地のバージョンも、全部ものすごく軽いですしね。見た目と実際の重さの違いは、ウルトラライトギャバジンよりも大きいかもしれません。手に取るとびっくりすると思います。重厚感があるのに軽くて、かっこよくて、あったかい。全部盛りです。
さらに言うなら、近年のZIGGY CHENの思想が色濃く現れた作品でもあると思っています。
__その心は?
伊藤:シャツなのか、ブルゾンなのか、カテゴライズできない作品なんです。
西洋のファッションはカテゴリーがきっちりしています。これはシャツ、これはブルゾン、これはコート、みたいに。でも人種、国籍、性別の境界が曖昧になってきている現代では、カテゴライズできないことが増えてきていますよね。
こういう、シャツに見えるけどブルゾンとしても着られる、あるいはブルゾンだけどシャツ感覚でも着られるという作品は、そういう西洋的なカテゴリーを崩して、新しいファッションを提示しようとするZIGGY CHENの思想が表れていると思うんです。
右前身頃に縫い付けられたパッチワークからも、同じ思想が感じられます。
__これ、大胆なパッチワークですよね。
伊藤:上から順番に、四角、三角、丸という図形なんです。
__本当だ!
伊藤:どれも幾何学のベースになる図形ですが、四角は脇のところで途切れていて、三角は頂点の一つがなくなっていて、丸は体側の方でやはり途切れています。基本中の基本となる図形さえ曖昧にして提示するあたりに、ZIGGY CHENらしさが出ていますよね。
MANDARIN COLLAR POCKET SHIRT
伊藤:こちらのチェックシャツは、初見の方だとピンとこない場合も多いんですが、実は今シーズンのテーマを色濃く感じる1着なんです。
__胸元に生地の切り替えが入るブザム(イカ胸)バンドカラーシャツですね。どんなところにテーマが表現されているんでしょうか?
伊藤:このシャツは、一見すると比較的シンプルなチェックシャツです。でもよく見ると、今までZIGGY CHENが培ってきた服作りの技術を思い切り詰め込んでいることがわかるんです。
プリントではなく、ジャガード織りのチェック生地に低温染めを施す。バッファローホーンのボタンを使い、イカ胸・裾・ポケットに裏地をつける。カフスと背中に細かいプリーツを入れて、ヨーク(背中側の肩の部分)は背中のカーブに沿って湾曲させる。
__手間のかけ方がシャツじゃないですよね。
伊藤:そう、ジャケットレベルの手のかけようなんです。
さらにあちこちで生地の切り替えをしたうえで、徹底的に柄合わせをしています。イカ胸の部分、袖や背中にも切り替えがあるんですが、遠くから見ると全くわかりません。
これに加えて、ZIGGY CHENならではの、西洋的な衣服の中に東洋的な要素を入れ込む技法も使われています。
__というのは?
伊藤:もともとブザムシャツというのは、タキシードの中に着るための正統派のシャツです。これをチェック柄にして、染めムラの出る低温染めにしているわけですが、このチェックは東洋で昔から使われてきた「童子格子」という格子柄なんです。
そして、ここまでやったうえで、胸ポケットにイリュージョンを仕込んでいます。
__まだあるの!?
伊藤:完璧に柄合わせをしているのに、この胸ポケットのところだけ、まるで重力が歪んでいるように柄がずれているんです。
__伊藤さんの言うとおり、「ぐにゃん」と曲がってますね。すごい……本当に思い切り詰め込んだシャツなんだ……。
伊藤:しかも、このシャツは裏でも着られるし、着て欲しいんですよね。
__今季はリバーシブルの作品は少ない印象でしたが、(伊藤さんが裏返しで着たのを見て)……全然いけますね(笑)。
伊藤:イカ胸の裏地は縫い目が見えないように袋縫にされていて、表と変わらない作りになっています。今季のテーマになったタグは背中の中央ではなく、左側の腰あたりに付けられていて、デザイン的なアクセントにもなっています。
裏なのか、表なのか、どっちが本当のこのシャツの姿なのか。まさに胡蝶の夢です。
多くのブランドがやりたいこととできることのバランスを取っているなかで、ZIGGY CHENはひたすらやりたいことを全部やりきっているような印象があります。特にこのシャツに関しては、本当に「最強」という感じですね。
ちなみに同じく童子格子のROBE COATは、このシャツとスタイリングしたくてセレクトしたんですよ。
__ああ、確かに同じ柄ですよね。
伊藤:同じ柄ではあるんですが、シャツはヴィスコースコットンリネン、コートのメイン素材はヴァージンウールコットンと別の生地を使っています。でも、コートの前立てのところだけ、シャツと同じ生地なんですよ。
__わ、本当だ!
伊藤:だから合わせて着ると、「どこまでがシャツで、どこまでがコートなのか」という胡蝶の夢コーディネートが完成するんです!
__なにその2着揃えて初めて発動する相乗効果!?しかもそれ、シャツの生地とコートの前立てで柄合わせされてませんか……?
伊藤:されてますね。
__なんなのよ、それ……。もう怖いよ……。
FOLDABLE HYBRID WORKER JACKET
伊藤:次に紹介するのが、僕が「翼を授けるジャケット」って呼んでいるFOLDABLE HYBRID WORKER JACKETです。
これはフレンチのカバーオールをベースにした作品で、使われているストライプの生地も30sのフレンチワークパンツなんかにありそうな柄になっています。
背面には今シーズンのモチーフの一つである、アンティークのフランスのぬいぐるみに翼が生えた姿がプリントされています。
中には2018年のコレクションにも登場した、ハンティングジャケットのディテールがついていて、このボタン開閉式のフラップを伸ばすと、着る人に翼が生えるという。
__気分に応じて、翼をしまったり、生やしたり。
伊藤:こういうドラマチックなシルエットの変化も、イリュージョンですよね。
あと、このジャケットの柄合わせも驚異的ですよ。ボディのあちこちで切り替えがされていて、かつポケットが斜めにつけられていたりするのに、全部きれいに柄が揃う。なんの違和感もない。
__襟の横からボディにかけての切り替え、なんでその角度で切り替えて柄が合うの?
伊藤:しかも、フラップを伸ばした時にも裏地のストライプと、前身頃のストライプが揃ってくるんです。
__……っ(絶句)。
FIELD VEST
伊藤:このジャケットに組み合わせて欲しいのがコットンデニムとリネンのFIELD VESTです。
このブラックデニムはZIGGY CHENで初めてのデニムじゃないでしょうか。デニムといえばアメリカですが、そこに墨汁で染めた東洋的な縦縞の生地を組み合わせている、東西混淆の1着です。
__ディテールはアメリカ空軍のC-1ベストから引用していますよね。
伊藤:C-1ベストはパイロットのための緊急脱出用ベストで、戦闘機が攻撃されたり、故障したりして座席ごと抜け出す時に、そのまま前準備なく脱出できるように、MA-1の上からバサっと羽織っているものです。
大きなポケットがいっぱいついているのは、これだけ着ればレーションや包帯、止血剤などが全部入れておけるから。特徴的な背中のディテールは、サイズを調整してどんな体型の人でもアウターの上からでも着られるようにするためです。
ここに21S/Sのサファリジャケットに使われていた、体の前から後ろまで続くサイドポケットのディテールを組み合わせて、ZIGGY CHENの世界観に落とし込んでいます。
__アウターの上に着るベストなんですね。
伊藤:もちろん中に着てもかっこいいんですが、もともとはジャケットやブルゾン、コートの上から着るベストですね。
ただ、ポケットの容量を考えるともはやカバンでさえあります。カバンなのか、ベストなのか……これもカテゴライズの難しい作品です。
CUTOUT BACK WORKER JACKET
伊藤:CUTOUT BACK WORKER JACKETは、もともと当時アメリカ軍の大佐だったドワイト・D・アイゼンハワー(通称アイク)が第二次大戦中に、バトルドレスって言われる英国軍のフィールドジャケットを研究して作った「アイクジャケット」がもとになっています。
基本的にはこのアイクジャケットをZIGGY CHENの生地で再現しているんですが、背中のCUTOUT BACKは、21-22A/Wからの引用です。
ボタンでとめられているフラップを開くと、中国の建物にある門をモチーフにしたこういう形のディテールが表れる、という。
これも他の作品と同じく、見た目の重厚感に反して、めちゃくちゃ軽いんですよね。
__いったいこういう素材はどうやって作っているんでしょうね。春夏も「見た目はしっかりしたリネンかと思いきや、実際に着るとものすごく軽い」という生地がありましたが、どうしてそんなことができるのか……。しかも軽いのに、着込んでいってもあんまりヨレないんですよね。
伊藤:しかもCUTOUT BACK WORKER JACKETも総裏仕様なんですよ。
__いよいよ、どうしてここまで軽いのかがわからなくなってくる……。
伊藤:あとこのジャケットに関しては、シルエットのバランスが新鮮です。ZIGGY CHENに対して「肩周りがゆったりしていて、縦に長く、下重心の服作りをしている」というイメージを持っている人も多いと思います。
でもこのジャケットは、肩周りはゆったりしているものの、丈が短く作られています。少し長めのシャツやニットでレイヤードをしてバランスをとる感じが、ZIGGY CHENとしては新しいなと思います。
DOUBLE BREASTED OVERSIZED COAT(完売)
伊藤:DOUBLE BREASTED OVERSIZED COATは裏地に秘密があります。というのも、右側の袖裏に先ほども話した翼の生えたぬいぐるみがプリントされていているんです。
__もはや裏地として終わらせる気のない、ガシッとした生地にプリントされてますね。これも裏で着られるようになっているんですか?
伊藤:ぜひ着て欲しいですね。
僕はこのぬいぐるみをガーゴイルなのではないかと思っています。ガーゴイルというのは守り神で、西洋の教会では銅像が飾られています。
__ディズニーの『ノートルダムの鐘』で観ました!
伊藤:そう、あれです。以前話したことがありますが、このコートや先ほど紹介したMANDARIN COLLAR POCKET SHIRT、ROBE COATに使われている童子格子は、もともと東洋の建物の天井などに使われていたものでした。
だからこのDOUBLE BREASTED OVERSIZED COATは、いわば建物的なイメージで作られているんです。その建物の中、つまり裏地にガーゴイルがいる。こういう意味で、このコートはお守りの意味合いがあるコートだと思っています。
21A/Wのコートには梛の葉っぱがプリントされていました。梛の葉っぱも、疫病から身を守ってくれるお守りのモチーフで、このガーゴイルは今シーズンのお守りモチーフです。
ただ、この作品は、そういうコンセプチュアルな部分だけではありません。
__だって、ZIGGY CHENなんだもの。
伊藤:このコートの胸ポケットをみると、縁が少し湾曲しているのがわかりますか?
__確かに、少しカーブを描いていますね。どうしてなんですか?
伊藤:これはイタリアの最高峰のジャケットの仕立てに使われるディテールなんです。ポケットの縁をカーブさせて作るのはとても難しくて、イタリアでは職人が仕立ての技術の高さをアピールするためにこのディテールを使うんです。
ジャケットのラペルの裏にも、そういった最高峰のテーラーがやるような技術が施されていたりします。
最近のZIGGY CHENは、ジャケットやコートであまりラペルを立てて着るような作りにしていませんが、これはZIGGY CHENがクラシックなテーラーリングに原点回帰しているかだと感じています。
__ZIGGY CHENはそれを、カジュアル・ファッションでやっちゃうんですね。
伊藤:肩周りや全体的なシルエットは、東洋の着物や中国の皇帝が来ていた羽織などをモチーフにしているので、カジュアルに見えるんですよね。
今シーズンのZIGGY CHENは、そうやって東洋的な要素と西洋的な要素を、より高次元で組み合わせているな、という印象です。
__リラックスした着心地に、重厚感のあるルックス、西洋が脈々と培ってきた技術と東洋の衣服文化。これらを全部まとめてバランスさせたという感じ。新しい地平を切り拓いてると言ってもよさそうです。
伊藤:洋服というジャンルを、さらに一次元上げてきた感があります。洋服という概念を壊して再構築したのではなくて、洋服を洋服のまんま引き上げた。やっぱりものすごいデザイナーだなと思います。
どれだけ語っても「実際に着ること」に勝るものはない
伊藤:……と、たっぷりとお話したんですが、結局のところ着てみないとわからないことの方が多いんです。どれだけ語っても「実際に着ること」に勝るものはない。
__確かにそうですね。作品が持っている魅力が10あったとしたら、言葉で語り切れる部分は3~4割くらいしかないような気がします。残りの6~7割は、実物を見て、着て、触ってみないと感じられない。ZIGGY CHENをはじめ、VISION OF FASHIONで取り扱うブランドの作品は、それくらい底知れない魅力があります。
伊藤:誰もが東京や京都に来られるわけではない、ということもわかっていますし、そのためにONLINE SHOPがあるわけですが、やっぱり洋服は着てこそのものだから、実際に着て選んで欲しいと思いますね。
__今日はありがとうございました。
<NEWS>
・東西各店に待望のHED MAYNER 2022-23A/W COllECTIONが到着。
▼京都・乙景 Instagram
▼東京・CONTEXT Instagram
▼VISION OF FASHION Instagram
語り手/伊藤 憲彦(CONTEXT TOKYO店主)
書き手/鈴木 直人(ライター)