どうして「帽子は難しい」のか? – SCHAのハットで体感して欲しい「新しい自分」の楽しみ方
みなさんは帽子を「被る派」ですか?それとも「被らない派」ですか?
CONTEXT TOKYOスタッフの私伊藤香里菜は、前までは「被らない派」でした。被らなかった理由としては、単純に「違和感」があったからです。
「なにか落ち着かない……」「自分に似合う帽子はないのかもしれない……」など、帽子を被り慣れていないからこそたくさんの悩みがありました。
今回は、こうした違和感がなぜ生まれるのかを考えるとともに、私が帽子への苦手意識を克服するきっかけとなったブランドSCHAの魅力を、スタイリング写真を使いながらお伝えできればと思います。
違和感の正体は「新しい自分」に出会うから
私は初めて帽子を被った時に感じる「落ち着かない……」という違和感の原因を、「新しい自分」に出会わざるを得ないからだと考えています。
私たちは、自分にせよ、他人にせよ、誰かを認識する際にまず「顔」に注目します。よく見る場所・よく見られる場所だからこそ、私たちはスキンケアをしたり、お化粧をしたり、時には美容整形に頼り、顔=自分をより良く見せようと工夫するわけです。
顔とはすなわち、「他者から見られる自分/自分が見る自分」を構成する主要素なのです。
帽子はそんな顔の形を大きく変えます。ビーニーなどはまだ骨格の延長線ですが、ハットになると頭の横からツバが張り出すわけなので、鏡を見たときに「いつもと違う自分」を感じて当然です。
私は、ここにこそ帽子の楽しさがあると感じています。なぜなら「いつもと違う自分」とは、「新しい自分」に他ならないからです。
ファッションの楽しさは「新しい自分」との出会いにある
ファッションの楽しみ方には色々ありますが、私はそのうちの1つを「新しい自分」との出会いだと考えています。
アメリカの心理学者アブラハム・マズローは「欲求五段階説」の中で、人間の最上位の欲求は自己実現欲求であると指摘しました。
これを衣服に当てはめると以下のように考えることができます。
―生理的欲求:社会的に死なないために服を着る。
―安全の欲求:寒さや暑さに対応するために服を着る。
―社会的所属の欲求:自分が所属するグループで浮かないために服を着る。
―社会的承認の欲求:自分が所属するグループで一目を置かれるために服を着る。
―自己実現欲求:なりたい自分になるために服を着る。
なりたい自分とは、今の自分とは違う自分、すなわち新しい自分です。
先ほど「いつもと違う自分」=「新しい自分」と出会えることが帽子の楽しさである、と書きました。これは「新しい自分」との出会いが、人間の最上位の欲求である自己実現欲求を満たすことに繋がるからなのです。
確かに最初は違和感があるかもしれません。一般的に「新しい自分」への変化はゆっくりですが、帽子による見た目の変化は一瞬だからです。
でも、もし少しでも「帽子を被ってみたい」「帽子を楽しめるようになりたい」という思いがあるのなら、はじめの一歩を踏み出して欲しい。なぜなら帽子に感じる違和感は、新しい自分に慣れていないことからくるものだからです。
難しく考えすぎず、まずは被ってみること。それが帽子を着こなすための第一歩なのです。
帽子を取り入れて新しい自分へ―――SCHAの秋冬新作を使ったスタイリング
しかし「なかなかその一歩が踏み出せないんだよな……」と思う方もいらっしゃると思います。そこで今回はV.O.Fでお取り扱いしているドイツのブランドSCHAから手に取りやすい帽子、3型をご紹介します。
最初にご紹介するのは、Art#1147です。肌触りの良いウールフェルトを使った、スタンダードな幅のブリム(つば)を持つ帽子です。
つばには縁取りのリボンがついているのですが、ぐるりと一周分ついているのではなく、前後だけついています。そのためこのハットには、ウールフェルトの持つ柔らかな素材感と、リボンによる直線的な素材感が同居しています。SCHAらしい、カジュアルとドレスの絶妙なバランスです。
今回は本体がメランジグレイに黒いリボンのものと、本体・リボン共に黒のアイテムをご紹介します。
black × blackを使ったスタイリングはこちら。コート・パンツ・カットソーはそれぞれZIIINのSANZOH・WARHOL・DARMAです。
dark grey melangeには、ZIIINのジャケットGIOVANNI・パンツDARMA・カットソーWARHOLを組み合わせました。
どちらのスタイリングでも、帽子と馴染みが良い暗色を使って統一感を持たせました。ゆとりがあるZIIINのアイテムと、程よい幅のブリムを持ったArt#1147を組み合わせたこれらのスタイリングからは、エレガントなモード性を感じます。
暗い色でまとめたスタイリングはモードの要素ですが、ブリム部分の不規則なうねりや、ZIIINの余白あるシルエットに「動き」があります。これがスタイリング全体にエレガンスをもたらしてくれます。
もちろんArt#1147を被っていなくともスタイリングは成立します。しかしハットがあることで、よりエレガントな自分を演出することができるのです。
次にご紹介するのはArt#927。Art#1147同じウールフェルトの生地で、色はdark grey mélangeと dark greenの二色です。他のアイテムと比べてブリムが小さいため、扱いやすいハットとなっています。
またブリムにはワイヤーが入っており、写真のようにワイヤーを曲げることでどこか女性的な柔らかなニュアンスを持たせられるのも魅力の一つです。以下ではこの魅力を生かしたスタイリングを紹介します。
dark grey mélangeを使ったスタイリングはこちら。ニットはXENIA TEUNTS、パンツはイギリス軍のマリンパンツ(スタッフ私物)です。
dark greenと合わせたのは、ZIGGYCHENのCOAT Art.#126。それぞれ、ヴィンテージやミリタリーの土っぽさを感じるアイテムを使ったスタイリングにしました。
土っぽさのあるアイテムは、得てして男性的なムードが強くなりがちです。しかしそこに女性的な柔らかさを持つArt#927を組み合わせることで全体に中性的なムードを出すことに成功しています。
男性のお客様には、ヴィンテージやミリタリーなどのアイテムをたくさんお持ちの方も多いと思います。そうしたアイテムとArt#927を合わせることで、今までの「男っぽい自分」とは違う「ジェンダーレスな自分」に出会うことができるかもしれません。
最後にご紹介するのは、Art#789です。先にご紹介した2型と同じウールフェルト生地で、クラウン部分には生地の色と同色のステッチが入っています。ストリート感のあるバケットハットのようでもありますが、どこかクラシカルなムードも感じるハットです。
こちらがArt#789を使ったスタイリング。dark greenでは、JAN-JAN VAN ESSCHE JACKET#45とZIIINのシャツANGOとパンツDARMAを組み合わせ、dark brownには、HED MAYNER HARRINGTON JACKET、ZIIIN OSCAR、ZIIIN VENKEIを選びました。
このスタイリングからは、クラシックとストリートという相反する要素を感じます。使用したアイテムの影響もありますが、Art#789にこの2つの要素が同居しているからです。
ウールの上品な生地感がクラシカルなムードを、コットンキャンバスのバケットハットとよく似た形がストリートファッションのムードを醸し出しているのです。
そのためArt#789は、普段ストリートファッションをしない人からすれば「ストリートな自分」を楽しめる帽子であり、ストリートファッションをする人にとっては「よりクラシカルな自分」を楽しむことができる帽子なのです。
SCHAの魅力とは―――知的さとラフさを持ち合わせた「被りやすい」帽子
知的すぎる帽子は被る人を選びます。しかしラフすぎる帽子は、スタイリングをカジュアルに大きく寄せるため、V.O.Fの提案するファッションとは別物になってしまいます。
今回紹介しているSCHAのハットは、この知的さとラフさのバランスが良いからこそ、他にはない被りやすさを持っているのです。
SCHAのハットの知的さは、削ぎ落とせるところまで削ぎ落とした、洗練されたデザインから来ていると私は考えています。
例えば今回ご紹介した3型は、1つずつ蒸気を当てながら形を作っているため、ワンピースパターン(一枚仕立て)となっています。
そのため縫い目もなければ、パーツが作り出す凹凸もありません。リボンやステッチが入るモデルもありますが、それも本体の生地を生かすようにさりげなく配置されています。
一方、SCHAのハットは柔らかい生地を使い、被り方や被る人のスタイルに合わせて自由に形を変えることができますし、Art#927のようにワイヤーを使ってブリムの形が変えられるものもあります。
見た目は知的なのに、形や仕様はラフ。このさじ加減が絶妙なのです。
一般的なハットは形が決まっていて、被る人の好みに合わせて変えることはできません。似合うスタイリングも限られてくるので、その帽子のムードに手持ちの服が合わなかったり、服の趣味が変わるとしっくりこなくなってしまったりするのです。
その点、SCHAのハットは自分の被りたいように被ることができ、自然と自分の着こなしに寄り添ってくれます。
結果、同じハットでもSCHAのハットの方が最初に被った時の違和感が小さくなり、普段ハットを被らない人でも取り入れやすくなるのでは、と私は感じています。
被ったときの違和感は抑えつつ、「新しい自分」もしっかりと楽しませてくれる、SCHAのハットにはそんな力があるのです。
SCHAの帽子を被って「新しい自分」を楽しんで
帽子は「被ってみよう!」という最初の一歩が踏み出しにくいアイテムですが、不安を感じるのは結局のところ「新しい自分」に慣れていないから。だからともかく慣れるために、まずは「寝癖隠し」くらいの感覚で取り入れてみてもいいのかもしれません。
最初は少し気恥ずかしいかもしれませんが、SCHAのハットなら大丈夫なはず。まずは特に取り入れやすい、今回紹介した3型から挑戦してみてください。帽子というアイテムを使いこなせるように慣れば、きっとファッションがもっと楽しくなると思います。
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書き手 /伊藤 香里菜(CONTEXT TOKYO スタッフ)
編集/鈴木 直人(ライター)