JAN-JAN VAN ESSCHEの TUNIC#27が「夏の装いに最適」な理由とは?- 歴史と被服科学から考える“涼”をとる着こなし
最近「夏」を感じる日が増えてきましたね。日本は梅雨が明けた途端に、灼熱の真夏がやってきます。今から考えるだけでうんざりする、という人も多いかもしれません。
この時期に私、伊藤香里菜がcontextでお客様の対応をしていると、「夏のオシャレを楽しめない」という声をよく耳にします。
私も暑さが苦手なので気持ちがわかるのですが、それではもったいないなとも思います。夏には夏にしかできないおしゃれがあり、工夫によっては涼しさを確保できるからです。
そこで今回は、夏の素材としてすっかりメジャーになった「麻」と、日本人の深い関係についてご紹介したいと思います。みなさんの夏のおしゃれの手がかりになれば幸いです。
「上布」「あらたえ」―――日本人と麻の歴史
麻と日本人の関係は、縄文時代から始まります。古代の貝塚から出土した「アンギン」という麻の編み物がありますが、これは後年の「織物」に通じるものとされています。
その後も麻は、硬い樹皮や高価な絹に比べて、加工や栽培が楽であったことや、涼しさや耐久力などの機能性から多くの人に親しまれてきました。
麻には、「上布」という手つむぎの糸で作る高級な麻布もあります。越後・宮古・八重島・近江・奈良など、産地特有の技法で作られるのが特徴です。
例えば、代表的な越後(新潟県)の上布「小千谷縮」はとても美しい白い生地ですが、雪晒しと言って2~3月の快晴の日に、雪の上に布を広げ、漂白することで作られます。
早春、蒸発した雪の水蒸気がプリズムの役割を果たし、太陽の紫外線を増幅させることで漂白効果を生むのだとか。
上布は軍需や献上物にも重宝されたという記録もあり、鎌倉・室町時代には武士にも好まれ、鎧の裏地にも使われました。
麻は伝統的な神事とも密接な関わりを持ちます。天皇が皇位継承の際に行う儀式を「大嘗祭(だいじょうさい)」と呼びますが、この際に納められる供物に「麁服(あらたえ)」と呼ばれる麻の布があります。
繊維の中でも白色に近い麻は、神聖なものの象徴とされたといいます。
このように歴史を振り返ると、日本人と麻の関係の深さに驚かされます。時代にも、身分にも関係なく好まれてきた麻は、「日本の代表的な素材」と言えるのではないでしょうか。
「煙突効果」と「麻」の組み合わせで涼をとる
「夏といえば麻!」と感じる人もいるように、麻は機能性の面で夏にぴったりですが、麻の衣服を着ればそれで十分というわけでもありません。
なぜなら、着方次第で麻の機能性をより引き出すことができるからです。
だからぜひとも着こなしに「煙突効果」をプラスで取り入れて欲しい。簡単にいうと、「熱を逃がす通り道を作ってあげる」んです。
着こなしのどこかに“開口部”を作ると、ちょっと風が吹いただけで全身にまとわりついていた空気が交換されたような気持ちよさを感じることができます。
例えばJAN-JAN VAN ESSCHE / “TUNIC#27”のような構造は、衣服の中の熱を放出しやすくなっています。
というのも、生地に麻が使われているだけでなく、広く取られた袖幅、広く開いた裾、たっぷりとした身幅など、空気が移動しやすい構造になっているからです。
「着心地が良い」という文脈だけで語るにはもったいない一着ではありますが、「美しく、かつ着心地が良い」というのは、夏のオシャレに悩む人にとって重要な要素ではないでしょうか。
また、着こなしを変えるだけでも煙突効果を得ることはできます。例えば、着物の世界には「えり抜き」という着こなしがあります。
もともとは江戸時代、女性が後ろに結った髪と、襟の布がつかないように考えられたもので、後襟(衣紋)を引き下げて、襟足が見えるように着ることから「抜衣紋(ぬきえもん)」とも呼ばれます。
温められた空気は性質上、上に移動しやすくなります。襟足がきちっと締められていると、この空気は服の中にこもってしまいますが、えり抜きをすることで逃げ道ができるわけです。
今回は、麻と日本人の関係にまつわる奥深さ、夏を楽しむための着こなしについてご紹介しました。「この夏なに着よう…」と悩んでいた人も、麻の衣服を上手く使って夏のおしゃれを楽しんでみてください。
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