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Edwina Horl “HEMD ”は、なぜ「挑戦しやすい柄シャツ」なのか? – ブロックプリントに見るインドの手仕事と風土

先月までは薄桃色の花をつけていた桜はすっかり新緑へと変わり、少し歩くだけで汗をかくようになりました。

今月末に移転を控えたCONTEXT TOKYOで働く私、伊藤香里菜も、移転前最後の1ヶ月を過ごしながら、猛暑の気配をひしひしと感じています。

東西各店でも夏服が出揃うなか、私が今オススメしたいのはEdwina HorlのHEMD<freiheitsliebe> シリーズ。インド発祥の技術「ブロックプリント (木版プリント)」の生地を使った「柄シャツ」です。

というのも、このアイテムは「柄物は派手で難しい……」と思う人でも挑戦しやすいアイテムだからです。

今回はなぜブロックプリントの柄シャツが挑戦しやすいのか、その魅力を探り、スタイリングと共にご紹介していきます。

手仕事が生み出す「揺らぎ」が、柄に柔らかさをもたらす

柄シャツに苦手意識を持ってしまう原因の一つは「インパクトが強すぎて着こなしが難しい」というイメージがあるからです。しかし、ブロックプリントはこの問題点を解決してくれます。

なぜなら各工程を手作業で行っているために、柄に「揺らぎ」が生まれるからです。この揺らぎが生み出す柔らかさが、柄の持つインパクトを和らげてくれるのです。

同じインドのものでも、産地や工房によって方法は多少変わりますが、ブロックプリントはおおむね以下の手順で製作されていきます。

1.ブロック作り:堅く伸縮しにくい木材を使って、手彫りでデザインを彫っていく。
2.生地にプリントする:ブロック(木版)に染料を付け、手作業で押して柄を描く。色ごと、模様の数だけこの作業を繰り返す。
3.色を定着させる:薬品に付けてから、染料を定着させるために石の板に叩きつけるようにして水洗いをする。
4.天日干しで十分な日照時間のもと、プリントを乾燥・発色させて完成。

2の工程はプリントのガイドラインを引かずに、職人の感覚だけで行う場合もあります。結果、ところどころプリントの位置がずれていたり、滲んでいる箇所があったりと、仕上がりに揺らぎが生まれます。

例えば、車や人などが整然と並んでいると威圧感が生じますが、雑然としているとそうした威圧感は和らぎますよね。

これと同じように、揺らぎのある柄はきちっと印刷される機械プリントの柄と比べると柔らかな印象になるため、着こなしやすくなるのです。

今回入荷したEdwina Horlのシャツの柄も、簡単な連続柄ですがプリントをよくよく見ると、微妙なニュアンスの違いがあることが分かります。

生地を見ながら「ここは柄がピッタリ合っている……!」「このあたりは集中力が切れていたのかな……」なんて考えられるのも、機械プリントにはない面白さです。

インドの手仕事の揺らぎがあることで、洋服に仕立てても程よい抜け感が表現され、挑戦しやすい柄シャツになっているというわけです。

ブロックプリントから感じる「風土」―――職人による、気候との上手な付き合い方

ブロックプリントに使用する木版。
photo by Hubertl

加えて、インド北西部発祥のブロックプリントを使った生地は、同国の風土を文字通り肌で感じられるのも魅力です。

なぜならこの技法は、インドの雨季・乾季・暑季と呼ばれる3つの季節と、職人たちが上手く付き合うことで、生まれたものだからです。

プリントに必要なブロック(木材)は、雨季の湿気や染料による膨張がないように、数年かけて乾燥させることが多いそうです。

土地の気候を理解した職人たちが、その日の気温や天気によって染料の配合を変えたり、プリントする力に絶妙な調整を加えたりすることで、安定した生地に仕上げています。

生地にプリントを施している様子。
photo by Kashif11

仕上げである生地の天日干しは、晴れ間が続いて空気が乾燥する乾季と、気温がぐんぐん上がる暑季を利用します。

しかし雨季に入ると天日干しの工程を進められなくなる、というわけでもありません。

というのもインドの雨は日本のような長雨ではなく、スコール(短時間に降る豪雨)のため、職人が雨のリズムを捉えられれば、作業を進めることができます。

このようにブロックプリントは、インドの気候とそこに住まう職人たちの経験があるからこそ生まれる、インドの風土が詰まった生地なのです。

Edwina Horl “HEMD <freiheitsliebe>”を使ったスタイリング

それでは、最後にEdwina Horlのブロックプリントシャツを使ったスタイリングをご紹介します。

一着目は、生成り色ベースのコットン生地に赤い花と植物がプリントされたシャツです。

1枚目の鞄はJAN-JAN VAN ESSCHE “BAG#22”、パンツはTaigaTakahashi ENGINEER TROUSERS(SOLD OUT)。

2枚目の羽織は、JAN-JAN VAN ESSCHE “PARKA#9″POPPY COARSE HEMP COTTONです。

夏は一枚でさらっと羽織るのがオススメですが、「やっぱり総柄は気恥ずかしいな……」という方は写真のようなレイヤードスタイルでも、襟元から覗く味のある生地を、長い季節で楽しむことができます。

ブロックプリントのオリエンタルな空気がありつつも、現代的な開襟シャツのシルエットのおかげで、都会的に着こなせるシャツとなっています。

二着目は深い緑色がベースのコットン生地に、黄色い花らしき柄がプリントされた一着です。

2枚目に合わせている羽織は、JAN-JAN VAN ESSCHE “PARKA#9″LEAD LINEN BAMBOO CLOTHです。

Edwina Horl “HEMD <freiheitsliebe>”には2種類の柄があり、先程の一着目はポピーの花柄、この二着目はズッキーニの花柄なんじゃないかと筆者は考えています。

なぜかというと、ポピーから取れるポピーシードは「コルマ」、ズッキーニは「サブジ」と呼ばれるインド料理によく使われ、インド国民にとって親しみある食材だからです。

プリントのデザインでもインドの風土を感じられる柄になっているのではないでしょうか。

インドの魅力を「肌」で感じて

好き嫌いが激しいとされている「柄シャツ」。

その中でもこのブロックプリントは、インドの職人技が醸す温もりと、インドならではの風土が生み出す魅力によって挑戦しやすい柄シャツとなっています。

これまで柄シャツを着てこなかった人でも、柄シャツ大好き!の人でも、気軽に袖を通してみてください。

魅力溢れる生地と共に、開放的な夏を過ごせるはずです。

<NEWS>
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書き手/伊藤 香里菜(CONTEXT TOKYOスタッフ)
編集/鈴木 直人(ライター)