tomo kishida 2023S/S Exhibition を振り返って【乙景店主・山下】
2023年5月4日〜7日の4日間、京都 乙景ではtomo kishida 2023S/S Exhibitionが開催されました。
店内入ってすぐのラックをtomo kishida作品で構成し、奥座敷では同プロジェクトについてのYouTubeムービーを上映(WataruBobロン毛氏制作のものをお借りしました)。
tomo kishida主宰の岸田氏にも全日在廊いただき、作品だけでなく、自身の活動についてお客様にお伝えいただきました。
使われなくなったスーツの生地やプロジェクトの出発点ともなったシーチングを使用した裂織り生地を使った新作を中心に展示・販売。
ゴールデンウィーク中の開催ということもあり、たくさんのお客様に絶えず新しいアプローチをし続けるtomo kishidaの世界観を味わっていただくことができました。
そこで今回は、京都乙景店主・山下に、イベントで感じたtomo kishidaの新しいアプローチや、それを体験されたお客様の様子、そして3回目のイベントを終えた感想について語ってもらいました。
イベントに来てくださった方も、「次こそは行きたい!」という方も、ぜひご一読いただければ幸いです。
「tomo kishidaの“挑戦”が見えたイベントになった」
__今回のイベントでは、新型のお披露目があったと聞きました。
山下:はい。岸田さんの“挑戦”を感じる新型でしたね。今回はオーバーサイズのコートのほか、ダブルのショート丈ジャケットなどの新型が発表されました。ダブルのジャケットの方は見ようによってはライダースジャケットにも見えました。
__“挑戦”というのは?
山下:和裁の手法を大胆に取り入れているんです。和服は、生地を長方形のパーツを切り分けて、それを縫い合わせて作られます。生地は基本的に長方形ですから、この作り方をすれば余計な端切れがほとんど生まれません。
これは岸田さんが今回の制作にあたって織り上がった生地を裁断した時の様子です。これを見た時は、本当に何一つ無駄な生地が出ないんだということがわかってびっくりしました。
__確かに、本当に1cmも無駄が出ていませんね。
山下:今までのように洋裁のパターンニングを使って作品を作ると、カーブがあるのでどうしても端材が生まれていました。tomo kishidaではそれをネッカチーフやスカーフにしていましたが、和裁のやり方で作ればそもそもその端材が生まれないんです。
もっと言えば、tomo kishidaの場合は和裁に使う反物の平均の長さ36cm幅よりも広い90cm幅で生地を織ることができるうえ、自分で生地の長さを調整できます。
だから反物の36cm幅では背中部分で2枚の生地を縫い合わせる必要があるんですが、tomo kishidaの場合は背中部分に縫い目を作ることなく、服にできるんです。
__もしかして、この写真の右側の生地1枚でコートの前身頃と後身頃ができてしまうってことですか?
山下:そう!面白いですよね。逆に先ほど見せたダブルのジャケットの方は、生地を継ぎ足して作ることで独特なシルエットを作り出しています。
単に和裁の手法を持ち込むだけじゃなく、tomo kishidaの文脈にしっかり落とし込んでいるあたり、新境地だなと感じました。
それに、全く無駄を出さない服作りができるという点で、tomo kishidaのコンセプトにぴったり合っているところも素晴らしいと思います。実際、本人も「和裁とtomo kishidaの作品作りは相性がいいんです」と話していました。
__ボリューミーな見た目ですが、実際着てみるとすごく軽く感じますね。やっぱり手織りだからかな。
山下:それもあると思いますが、後身頃から前身頃までが一枚の生地で作られているのも大きいですね。
一般的なジャケットには肩の部分に縫い目がありますが、このジャケットにはそれがないので、どこか一点に服の重みが集中せず、ショールを肩にかけている時みたいに、肩や背中などに重みが分散するんです。
あと今回のkimonoシリーズの場合、全部手縫いだからというのもあると思いますよ。
__全部手縫い!?
山下:和裁ではミシンを使わないらしいんです。自分の体型に合わせたり、親が着ていたものを子供に着せるための作り直しや寸法直しがしやすいからだそうです。手縫いならミシン縫いに比べて、糸がほどきやすいからでしょうね。
また、裏地付きの和服を洗濯する時は、生地がひきつらないようにそれぞれのパーツを外してから手洗いするそうなんですが、その時も手縫いの方が外しやすいという理由があるようです。
ミシンを使うと生地が硬くなるんですが、そうすると生地に負荷がかかってしまい、生地が裂けやすくなるんです。これを防ぐためにも、全部手縫いで制作したのだと思います。
__うーん、これは確かに色々な意味で“挑戦”を感じる作品ですね。
「開店前から並んでくださったお客様もいました」
__イベント中の様子について教えてください。
山下:全日すごくたくさんのお客様に来ていただけたんですが、1日目はすごかったですよ。なんと6〜7名のお客様がオープン前から並んでくださっていたんです。
__乙景史上、前代未聞ですね(笑)。
山下:本当に嬉しかったです。話をお聞きすると「どうしても全部見たくて!」という方や「このイベントを目掛けて遠方から来たので、気が急いてしまって」という方もいました。
__どこからいらっしゃっている方だったんですか?
山下:千葉や三重、岐阜、大阪の方、あとは海外からのお客様もいらっしゃいました。
__やっぱり皆さん、tomo kishidaのユーザーなんですか?
山下:もちろんそういう人もいましたが、初めて実物を見るという方もいらっしゃいましたよ。
ファッションの系統も色々で、アルチザン系が大好きという方もいれば、カジュアルなファッションの方もいました。tomo kishidaが世代やジャンルを問わず色んな方に知れ渡ってきているんだと感じましたね。
__イベントが始まってからはどんなお客様が?
山下:普段から乙景に来てくださっているお客様はもちろんですが、前回のtomo kishidaのイベントに来てくださっていて、半年ぶりの再会を果たせた方もいらっしゃいました。
あとは「最近ファッションにハマり始めて、ついこの間tomo kishidaを知って見にきました」なんて方も。
__思想や哲学が深いtomo kishidaだからこそ、ファッションに興味がない人にも伝わるんでしょうね。
山下:今回のイベントはそういう方にも喜んでいただけるものになったように思います。
奥座敷でtomo kishidaについてのYouTubeムービーを上映していたので、そこでも岸田さんの想いや言葉を聞くことができましたし、疑問や感想があればすぐそこに岸田さんが立っているので、その場で話ができたからです。
実際、今回の和裁の新型に感動してくれているお客様も多かったですし、彼の活動への解像度が上がったと話してくれるお客様も多かったので、奥座敷をシアター形式にしたのは正解でしたね。
3回のイベントを経て、深化してきたtomo kishidaへの想い
__乙景でのtomo kishidaのイベントは今回で3回目です。山下さんは昨年の第1回から1年間、作品を着られていますが、生地などはどのように変化していますか?
山下:僕にとってこのジャケットはもうすっかり普段着になっています。
洗濯もガンガンするし、夏以外は基本的に季節関係なく着ているので、生地は裏地の存在を忘れるくらい柔らかくなっていますし、あちこちから裂織りの糸が飛び出たりもしていますね。
ポケットには穴も空いているし。
ただこれは僕がポケットにズボッと勢いよく手を突っ込みすぎているのと物を入れすぎているからだと思います(笑)。
基本は意外なほどタフに作られていて、肘なんかにはダメージはありません。近々岸田さんにポケットのリペアをお願いして、さらに着倒していきたいですね。
破れたりしても直してもらえるという信頼があるので、穴が空いてもほつれても全く気にならないです。リペアしてもらった後の表情がどうなるのかも楽しみですし。
__確かにそのジャケットはもう山下さんのトレードマークになっていますよね。そうやって岸田さんの作品を着たり、イベントごとに岸田さんとコミュニケーションを取ったりする中で、tomo kishidaというプロジェクトへの想いに変化はありますか?
山下:彼の作品を一生着ていきたいし、お客様にもそうやって着ていって欲しいという想いが、どんどん深まってきているように感じています。
岸田さんは購入した後のケアとしてリペアや染め直しにも対応されていますが、これはあくまで彼が自身の作品を長くきてもらうためのきっかけをくれているだけだと僕は考えています。
なぜなら結局のところ、「一生物」と言われる服を本当に一生着るかどうかというのは、お客様次第だからです。お客様自身が大切に着たい、ずっと手元に置いておきたいと思うかどうか。
でも、岸田さんがそうしているように、僕や乙景スタッフの山口にも「一生着たい」と思ってもらうためのサポートはできます。なので、そのためにも今後は今まで以上に“憧れの一着”を“愛着のある普段着”にするお手伝いがしたいと考えるようになりましたね。
「“憧れの一着”を“愛着のある普段着”にするお手伝いがしたい」
__「一生物」と言われる服にも色々ありますが、確かに「背伸びをして買ったはいいものの、なんだかいまいちしっくりこなくて、あまり着ないまま手放してしまった」みたいなことはけっこうあるように思います。
山下:そうなんです。「めちゃくちゃカッコいい!」とモノに惚れ込んで買うのも楽しいんですが、自分のファッションに落とし込んで着られないと、結局自分にしっくり来る服ばっかり着てしまって、着なくなったり、手放したりしてしまうんですよね。
でもどんなに素晴らしい服でも着てなんぼです。毎日でも着て、自分の肌や生活に馴染んでいってこそだと思うんです。
そうしていく中で、その服を着て出かけたい場所、会いたい人が出てきたり、自分の身の回りや自分自身が変わってきたり……人生が楽しくなってくると思っていて。
__だから「“憧れの一着”を“愛着のある普段着”に」なんですね。
山下:はい。普段どんな服を着るかというのは、本当に人それぞれです。だからファッションは自由で楽しいのですが、逆に言えば「着るか、着ないか」の基準も人それぞれですよね。
ファッション的に合っていたり、その人のルックスに似合っていたりしても、その人の日々の生活と服にフィットしていなければ、着なくなってしまいます。
__“憧れの一着”を毎日のスタイリングに取り入れるのって、本当に難しいんですよね。
山下:でもたいていの場合、合わせ方、着こなし方でカバーできるんですよ。それをきちんと提案して、お客様それぞれのスタイルに落とし込んであげるのが、僕たちファッションを仕事にしている人間の仕事だと思っています。
__自分の家のクローゼットをお店に運んで来られればいいんですけど……。
山下:クローゼットごとは難しいでしょうけど(笑)、私物を持ってきて合わせてもらうのは大歓迎ですよ。それはtomo kishidaのイベントのような場合でも同じです。
それに乙景は古着も取り扱っているので、わざわざもってきていただかなくても、似たような服があればそれと合わせてもらうこともできるんです。
__ああ、なるほど!確かに色々なジャンルの服が置いてありますもんね。
山下:そうなんですよ。
あとは、「着ていく場所・シーン」の提案もしていきたいなと考えています。
__どういうことですか?
山下:TPOという言葉がありますが、やっぱり時と場合によって似合う服というのは変わります。おしゃれすぎると浮く場所もあれば、おしゃれだからこそ馴染めるシーンもあるわけです。
京都にはそういうお店やイベントがたくさんあります。僕たちがお客様の好みに合わせてそういった「着ていく場所」をご提案できれば、もっとファッションを楽しんでもらえると思うんです。
__そういう場所に行くと、けっこう乙景のお客様とお会いしたりしますしね。僕も先日、京都国際写真祭で偶然、面識のあるお客様とお会いしました。
山下:そうやって服を通じて人の輪が広がったり、深まったりして、その時着ていた服への愛着が深まって、さらにはお客様の人生が豊かになっていったら、お店をやる人間としてめちゃくちゃ嬉しいですよね。
__服屋冥利に尽きる、という感じですね。
山下:tomo kishidaの次回のイベントは11月〜12月を予定していますが、そのときは今までのイベントはもちろん、今話したようなことも踏まえて、新しいアプローチでtomo kishidaに触れてもらえるようにしたいと思っています。ぜひ楽しみに待っていてください。
__ありがとうございました。
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