自分への、大切な人への贈り物に – ジュエリーブランド「律動」デザイナーインタビュー<2>
前回のジュエリーブランド「律動」デザイナーインタビュー<1>では、デザイナー中村憲一からブランドの成り立ちや、作品に込めた思いについてご紹介しました。
第二弾となる今回は、律動の作品一つ一つにまつわる記憶や思いについての物語り。共感していただける作品があれば、もしかしたらそれが今のあなたにとって、ぴったりの律動なのかもしれません。
自分への、あるいは大切な人への贈り物のご参考になれば幸いです。
“MEVIUS” シリーズ———「停滞した自分のエネルギーを、循環させたかった」
__律動として、最初に作ることになったアイテムはどれですか?
“MEVIUS” BANGLEです。前回もお話しましたが、「メビウスの輪」からインスピレーションを得て作ったものです。
__どうしてメビウスの輪だったのでしょうか?
当時の私はすごく悩んでいたんです。色々とうまくいかないことが続いて、落ち込んでいて。自分の中のエネルギーが停滞し、運命の歯車のようなものがとまってしまっていることを強く自覚していました。例えるなら、せせらぎに枯葉が溜まって水溜りが出来ているような感覚でした。
「この停滞した自分のエネルギーをなんとかして循環させたい」。そう願っていた時に、メビウスの輪が浮かびました。
__バングルを選んだ理由はありますか?
そこは単純で、バングルに対して日常で付けられるお護りの数珠みたいなイメージがあったからです。でも実際に数珠をつけるのは違う。だからバングルを作ろうと思ったんです。
__MEVIUSシリーズにはリングやピアスもありますが、いずれも輝き方が独特ですよね。
「輝き」にはかなりこだわっています。このモデルは光の当たる角度によって輝く面と影になる面に分かれるようになっています。
これはアジアの陰陽思想から着想を得たものです。すべての存在は相反する二つの性質を持つものの調和から成っていると考える思想ですね。
__陰のエネルギーと陽のエネルギーが背中合わせになっていると考える陰陽思想、表と裏が一体となってエネルギーを循環させるメビウスの輪。東洋と西洋の思想がぴったりと一致しているのが“MEVIUS” シリーズなんですね。
“ZODIAC” RING———“強力な後押し”から生まれた、星の力が宿るリング
その次に生まれたのが“ZODIAC” RINGです。これは星の力を借りたいと思って作った作品で、12星座をイメージした誕生石を、よりシンプルにした“MEVIUS” RINGに埋め込んだものです。
基本のカラーは“MEVIUS”と同じくシルバーのゴールドコーティング。オーダーで18金のイエローゴールドやプラチナにすることもできます。
__石の輝きを含めても、“MEVIUS”よりかなりさりげない印象ですね。
最初からピンキーリングとして、小指にさりげなく光るアクセサリーとして作ろうと思ったからです。ペアリングとしてつけてもらってもいいし、月替りで付けてもらってもいい作品ですね。東京・contextには12個のリングが収納できる特注のジュエリーボックスも置いています。
__“ZODIAC”は私もダイアモンドが埋め込まれたものを、18金のイエローゴールドで作ってもらいましたが、つけ心地も見た目もずっとつけていられるほど肌に馴染んでくれます。実は1月は私の誕生月なので、年が明けたら誕生石のガーネットでオーダーしようと考えています(笑)。
おめでとう(笑)。
__この作品を作ろうと思ったのはどうしてですか?
実はこれは、とても強力な後押しがあって生まれた作品なんです。“MEVIUS” シリーズを作ってしばらくした頃、盛岡のお店にマウリツィオ・アルティエリが訪ねてきてくれたんです。
__カルペディエムの創始者であり、m_moriabc(メモリア)のデザイナーでもあるマウリツィオが?
そうです。ひょんなことからパリで意気投合したのですが、彼が私の店へひょっこり遊びに来てくれて。そこで“MEVIUS” を見て「おいケン、なかなかいいものを作ってるじゃないか」と言ってくれました。で、“MEVIUS” RINGをペアで買っていってくれたんですよ。
__それは確かにとても勇気が出ますね。
マウリツィオだけではなくて、JAN JAN VAN ESSCHEのデザイナーであるヤンヤンにも後押しをもらいました。
彼には“MEVIUS” BANGLEをプレゼントしたんです。彼との会話で生まれたインスピレーションもたくさんありましたし、初めて自分の作品が出来た喜びと感謝の気持ちでした。
そのあとパートナーのピエトロが「彼は毎日ケンのバングルをつけてるよ。あんなに気に入るなんて珍しいよ」と教えてくれたんです。
__強烈な個性を持っているデザイナーが気に入って身につけてくれたというのは、励みになりますね。
はい。「自分がやっていることは間違ってないんだ」という自信につながりましたね。
AMIDAシリーズ———「本当に祈る気持ちで作った作品」
__次に生まれたのが“AMIDA” BANGLEですね。
そうです。これは阿弥陀如来の法輪から着想を得て作ったものです。
__どんな意味があるのでしょうか?
この法輪は仏様や菩薩様の体から発せられる光で、すべての生き物が持つ煩悩を砕く慈悲や智慧の光と言われています。“AMIDA”はそうした仏教的な力を借りたいと思ったんです。
__そう考えるきっかけがあったのですか?
当時私の母が病気で入院したのがきっかけでした。母が良くなるよう、本当に祈る気持ちで作ったのをよく覚えています。
母はそのまま逝ってしまうのですが、お葬式の時は数珠のつもりで“AMIDA” BANGLEをつけていき、仏前に手を合わせました。そういう意味では、一番思い入れの強い作品ですね。
__デザインとしてはシンプルで上品ですが、構造はかなり凝っていますよね。
そうですね。1枚の板の上に計4本のバーを載せて、その隙間にエッジの立った小さいパーツを入れ込んでいます。角度を変えると光が当たるパーツの面が変わる仕組みです。
技術的に難しいらしく、制作をして頂いている下川原学さんは、最初とても苦労したとおっしゃっていました。
“LOTUS”シリーズ———「いつも肌身につけることで生まれる”奥行き”を楽しんで欲しい」
__次に作ったのはどの作品ですか?
“LOTUS”シリーズですね。ヘアゴムのヘッドピースに始まって、ピアスにもなっていますし、”ZIIIN”の前身である”K”というブランドのシャツにも使っていました。
__モチーフになっているのは蓮の花ですか?
そうです。蓮は、泥の中から美しい花を咲かせるという性質を持っています。その姿は、私たち人間に自然の生き方を諭してくれているように思えます。
__これもシルバーのゴールドコーティングですか?
はい、シルバー925の上にゴールドコーティングしています。デザインに凹凸が多いので、ゴールドがはがれてくすんでくる部分と、シルバーになって黒ずんでくる部分、そして変わらず輝く続ける部分が出てくる。使っているうちに輝きに奥行きが出てくるんです。
もしかすると、この作品が一番ゴールドコーティングの魅力を楽しめるかもしれませんね。
__どうしてヘアゴムのヘッドピースを作ろうと思ったのですか?
私が欲しかったからです。伸ばしている髪をまとめるときに、仏教的なデザインのものを身に付けたかったんです。“MEVIUS” のバングルと同じですね。
“MIKADO” BANGLE———「日本人に合う、オリエンタルな十字架を」
そこからはしばらく、ここまで紹介した4つのシリーズで展開していたのですが、2年前に京都にやってきて生まれたのが“MIKADO” BANGLEです。
__律動唯一のクロスモチーフですね。
はい、日本人に合うオリエンタルな十字架を作ろうと思ったんです。インスピレーションを得たのは、嵐山の竹林の小径でした。
風がさっと通り抜けて竹が軽やかな音を立てて揺れる。さわさわと竹同士がおしゃべりしているように。それがとても気持ち良くて……その時でした、“MIKADO” BANGLEのデザインを思いついたのは。
__だから“MIKADO” BANGLEは竹の節のようなデザインになっているんですね。
そうです。横のラインは竹の節、そこに縦に1本のラインを入れて十字架にしました。
__“MIKADO” という名前はどこから?
西洋のクロスと言えば、神の子イエスです。では日本のクロスなら?と考えたところ、天皇=帝(みかど)というイメージが湧いてきました。
ただ、“MIKADO” という名前をつける以上、ゆかりのある人に無断で拝借するわけにはいきません。だからこの作品を作るにあたっては法隆寺まで行って、この国のかたちを作り上げた聖徳太子に挨拶に行きました。
__許可をもらうようなイメージなのですか?
はい。このようなものを作りたいと思います、宜しくお願い申し上げます、と。無断でやるのはよくないですからね。私は何かを頼りにするときは、必ずこの儀式をするようにしています。
“ROKKAKU”シリーズ———「霊感 – インスピレーションを求める人たちへのお守り」
__最後はネックレスとブレスレットからなる“ROKKAKU”シリーズですが、これは何がイメージソースになっているのでしょうか?
京都に来て空海のことを知ろうと本を読んでいたところ、「六根」という思想に出会いました。これはいわゆる五感に第六感を加えたもので、仏教には「六根清浄」と言って、六根を清らかに保つことで正しい道が開けるという考え方があります。
その真意についてはまだまだ勉強中なのですが、はじめこの話を知った時に「六」という数字に惹かれるようになったんです。
実際、鞍馬山の本堂金堂前にも六角形が描かれた“金剛床”と呼ばれる石畳がありますし、西洋でも6は特別な意味を持つ数字と聞きました。だから“ROKKAKU”はその六角形の不思議な力を借りる気持ちで創作しました。
第六感は、いわゆる勘、霊感、予兆などに当たるかと思うのです。自然の囁きと言いますか。つまりは「見えないもの」です。それを「見える形」にしたかった。
__中村さんにとって、それはどういうイメージだったのですか?
揺れ、そして転がる光です。光が自分の動きと共鳴し、他者から自分と光が一つになっているように見える−−−そんな作品にしたいと思いました。
__各パーツがクルクル回転するので、動くたびに色々な輝きを放つのが印象的な作品です。
実は“ROKKAKU”は京都に来た2年前からデザインスケッチは完成していたのですが、プロダクトとして完成するまでに丸2年かかった労作でもあります。
__どうしてそんな時間がかかったのですか?
うまくパーツが転がるように鎖を何度も見直したり、見た目を上品にするために色々な留め具を試したり……試行錯誤を繰り返したからです。職人の学さんにもずいぶん協力してもらいました。でもおかげで素晴らしい作品に仕上がったと自負しています。
__本当に美しい作品だと思います。それこそ自分の中の第六感を洗練させてくれそうです。
“ROKKAKU”は霊感、インスピレーションを求めている人に捧げます。自分のなかにある何かが変化する、かもしれません。光を身につける、って素敵じゃないですか。
※2020年12月13日(日)を除き、京都・乙景は現在予約制になっております。
ご希望の日時とご氏名を記載のうえ、下記のメールアドレス、もしくはInstagramのDMでご連絡ください。
ken@auric.co.jp
聞き手/鈴木 直人(ライター)
語り手/中村 憲一(京都・乙景)