JAN JAN VAN ESSCHE 2022S/S SPECIAL INTERVIEW – “HANDWOVEN series”に込められた想いとブランドの哲学

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JAN JAN VAN ESSCHE 2022S/S SPECIAL INTERVIEW – “HANDWOVEN series”に込められた想いとブランドの哲学

JAN JAN VAN ESSCHEが衣服を通じて「癒し」と「再出発」を表現しようとした2022S/S COLLECTION“CYCLE”(コレクション考察についてはこちらのJOURNALをご覧ください)。

POPPY REDをはじめとする生命力溢れる色選びや、PANCAKE COTTON JOURSEYのような肌も心も癒される手触りの生地選びなど、今シーズンもJAN JAN VAN ESSCHEのクリエイションに、多くのお客様から共感をいただいています。

その中でもとりわけ目を引く作品が、文字通り手織りの生地で作られた“HANDWOVEN series”です( “KIMONO#11”DARK VARIANTLIGHT VARIANT)。

本作の生地は、実はJan Jan Van Essche氏たちの友人であり、チームの一員でもあるLamine Diouf氏の手によって織られたもの。繊細で軽やかで、かつ息を呑むほど美しい素材ですが、当然ながら製作には膨大な時間と労力が必要です。

また“HANDWOVEN series”の価格は、同ブランドの他のアイテムに比べて販売店とブランド側の利益率が低くなるように設定されています。

これは、販売店とブランド側が協力することでできるだけ多くの人に手に取ってもらえる価格にしつつ、同時に職人であるLamine氏には正当な報酬を支払うための試みです。

いったいなぜJAN JAN VAN ESSCHEはここまでしてLamine氏の生地を使うのでしょうか。

今回は直接デザイナーのJan Jan氏にコンタクトを取り、Lamine氏との出会いや関係性、作品が生み出されるまでの過程に加え、彼やデザインチームが“HANDWOVEN series”に込めた想いや哲学について特別インタビューにご協力いただきました。

「彼が織物を始めたその日から、天賦の才があることは明らかでした」“HANDWOVEN series”の織り手について

“HANDWOVEN series”の織り手、Lamine Diouf(ラミン・ディウフ) 氏
photo by Wannes Cree

__まずは、この生地の作り手の方について教えてください。

Jan Jan Van Essche氏(以下、Jan Jan):私たちのコレクションに使われているすべての手織り生地の作り手は、私たちの親愛なる友人であり、様々な意味でのミューズ(※)であり、私たちのチームの一員でもあるLamine Diouf(ラミン・ディウフ)です。

※インスピレーションを得るためのモデルや、ブランドを象徴するモデルのこと。

__ラミン氏はどのような経緯で手織り生地の製作を始めたのですか?

Jan Jan:彼はもともと私たちの友人なんです。彼は2013年の冬にアントワープにやってきたあと、頻繁に私たちのアトリエを訪れるようになりました。

アトリエには私たちが使っていた小さな織機があったのですが、彼が「一度織ってみたい」と言うので使い方を教えました。ラミンはその時初めて織り機に触ったのですが、織物を始めたその日から、天賦の才があることは明らかでした。

当時私たちは2014A/WシーズンのPROJECT#2 – REDEEMに取り組んでいた最中でしたが、そのシーズンで使用した裂き織の生地以来ずっと、ラミンはずっと私たちのチームメンバーとして製作に携わってくれています。

__ではラミン氏は誰に指導を受けるわけでもなく、独学で技術を磨いてきたのですか?

ラミン氏が織り、着用モデルも務めた縄編み生地のベスト。 
photo by Pietro Celestina

Jan Jan:そうです。当時の私は織機のセッティングや織り方を少し知っている程度でしたが、ラミンと一緒に納得のいく結果が得られるまで試行錯誤を繰り返しながら、実践の中で学んでいきました。

最初の作品はPROJECT#2の裂き織で、その次がPROJECT#3の縄編みが中心でした。ラミンは今ではすっかり私より織物の技術や織機について詳しくなっています。

__ラミン氏とは2013年のアントワープで知り合ったのですか?

Jan Jan:いえ、違います。彼と出会ったのは、2006年にセネガルとマリ(いずれもアフリカの国)を旅した時です。セネガルの首都ダカールに滞在先を探していたところ、彼と彼の家族の家に滞在することになり、すぐに兄弟のように仲良くなりました。

だから2013年に彼がアントワープに引っ越してきたときも、自然と交流するようになり、私たちのチームの一員となったというわけです。

彼はモデルやパリのファッションウィークのショールームスタッフなど様々な仕事をこなしてくれ、最終的には私たちのチームの手織り職人になりました。

__とても心が温まるエピソードですね。ラミン氏の作品のどこに惹かれ、JJVEのコレクションに取り入れることにしたのでしょうか?

Jan Jan:難しい質問ですね……。というのも、あまりにも自然な流れだったからです。2006年の初めて会った日に友達になって以来、私たちみんなが彼と特別な絆、つながりを感じていました。

この絆は彼がアントワープに住むようになってからさらに強くなりましたし、芸術的な部分でもお互いを知り、一緒に仕事をするようになりました。だから彼の作品をコレクションに取り入れることには、何の疑問もなかったんです。

それに私はいつも手織物のような工芸をチームの中に取り入れたいと夢見ていたので、才能あるラミンと一緒に作品を作り上げていけることにわくわくしていました。

「シリーズの作品は彼との対話の中から生まれています」“HANDWOVEN series”のデザインについて

“KIMONO#11″DARK VARIANT

__各アイテムはすべてJAN JAN VAN ESSCHEデザインチームがデザインしているのですか?それとも、ラミン氏のアイデアも含まれているのでしょうか?

Jan Jan:デザインは彼との対話の中から生まれてきます。私はすべてのアイテム、特にシェイプをデザインしていますが、生地のデザインはラミンからインスピレーションを受けています。

彼は何度もテストや実験を行なっているので、そこから新しいアイデアが生まれることも少なくありません。

また、私がインスピレーションを受けたアイデアやイメージを彼に伝え、次のコレクションでどんな生地を製作するのかを一緒に決めていくこともあります。

彼は職人でありながら才能あるアーティストでもあるので、アイデアや感情に含まれる意図を読み取る能力に長けていますし、それらを美しい方法で手織物に反映させるのがとても上手なんです。

ところで彼は詩人でもあります。今度の2022A/WシーズンのPROJECT#10 – A HORIZONのプレゼンテーション・フィルムのナレーションは、ラミンがこのコレクションのために書いた詩の抜粋を朗読しているんですよ。

__ラミン氏が作る生地の魅力はどこにあると思われますか?

Jan Jan:私は手織りの生地というのは、ラグジュアリーの真髄であり、とても貴重なものだと考えています。一枚一枚に献身的に込められた時間、エネルギーは、何物にも代えがたい価値があります。

手織りの作品は、他のアイテムではできないような方法でコレクションのイメージを完成させてくれますし、ブランドのストーリーや哲学を余すことなく伝えられます。

__その魅力を活かすために気をつけていることは何ですか?

Jan Jan:私はいつも生地の声に耳を傾け、最も敬意を払うことのできる使い方をするよう心がけています。“HANDWOVEN series”の場合は、無駄が出ないように生地を切らないで済むような方法で製作しています。

この生地はとりわけ膨大な時間と労力をかけて作られた貴重な素材ですから、それを最大限に生かさないのはもったいないですから。

“KIMONO#11″DARK VARIANTの脇の縫い目。生地を無駄にしないように、耳部分を縫い合わせて作られている。

__今回、KIMONO#11にポケットがなかったのも、生地を切らないためでしょうか。

Jan Jan:脇の縫い目を利用したりすれば、生地を裁断せずにポケットをつけることもできました。

しかし、今回はあえてそうしませんでした。というのも、今シーズンの生地は夏に向けたものとしてとても軽く仕上げたのですが、生地を軽くするほど耐久性はどうしても下がってしまうからです。

ポケットをつけるとなると、そこに手や物を入れても生地が耐えられるようにしなければなりませんが、そのためにはこの生地は薄すぎました。だからポケットはつけなかったのです。

作品のステッチは全て手作業によるもの。袖にも生地を切らないで済むパターンが使われている。

__この生地を扱ううえで、難しいなと感じることはありますか?

Jan Jan:難しさはありませんよ。手織りには手織りの特徴があるので、それを尊重しなければなりませんが、それは他の素材にも言えることですから。

強いて言うならば手織物は繊細なので、それに対応するための新しい構造(デザイン)を見つけなければなりません。また、手織物の生地幅の狭さ―――広い幅の生地を手織りするとなると大変なので―――はデメリットになり得るかもしれません。

しかしこれは裏を返せば、自分の思い描くデザインに合わせたバランスで織ることができる、ということでもあります。このように、生地の持つ個性は考え方次第でポジティブにもネガティブにもなるものです。

「工芸や手仕事を未来に残すために」“HANDWOVEN series”に込められた想い

__このシリーズは、JJVEデザインチームと販売店が利益率を下げ、職人であるラミン氏の利益を確保する形で販売価格を決定しています。

素晴らしいスタンスだと感じますが、一方でなかなか他のブランドでは採用しないやり方だとも思います。なぜここまでして職人をサポートしようとしているのですか?

Jan Jan:これは私たちにとって、工芸や手仕事というものを守るための方法なのです。私たち人類はすでに多くの遺産を失っていますが、このような製品は次の世代に受け継いでいくべき大いなる遺産の一つだと感じています。

仮に時間と労力をかけて作られたハンドメイドの製品に通常の計算方法で価格をつければ、非常に高価になってしまい、一般的なお店に置くことができなくなるでしょう。

そのような製品を理解してくれるお客様を見つけるとなれば、話はもっと難しくなります。だから販売店の皆さんと協力して少しでも価格を引き下げ、工芸や手仕事を守っていこうと考えたのです。

__ 今後、JJVEデザインチームがコレクションに取り入れたいと考えている工芸や技術はありますか?

JAN JAN VAN ESSCHEの過去のコレクションで展開された、手編みのニット(ライター私物)。
同じく過去のコレクションで展開された本藍染の生地(同上)。

Jan Jan:たくさんの工芸にインスパイアされているので、選ぶのは難しいですね。

例えばバスケット編みにはとても興味をそそられているので、いつかコレクションに取り入れたいと思っています。

また、ベルギーの伝統工芸であるレース作りは、技術があればどんな形や模様も作れるそうなので、実験的にやってみるのも面白いかもしれません。

私たちは手編みの作品やかぎ針編み、手作業で成形するフェルトの帽子などのほか、藍染、柿渋、墨、中国古来の泥染シルク絹などの天然染めもコレクションに取り入れてきました。こうした工芸は今後も引き続き色々と取り入れていきたいですね。

日本の泥染めにも興味があるので、近いうちに奄美に行きたいと思っています。

__ 一人のJAN JAN VAN ESSCHEファンとして、ものすごく楽しみです。“HANDWOVEN series”について語り足りないことはありますか?

Jan Jan:大丈夫だと思います。鋭い質問をありがとうございました。今回の話をあなたのコミュニティやお客様とシェアできることを願っています。

__インタビューをする中で、JAN JAN VAN ESSCHEのことがもっとずっと好きになりました。“HANDWOVEN series”はもちろんですが、クローゼットに並んでいる過去のシーズンのアイテムも、今まで以上に愛おしく感じるようなお話でした。

今回はご協力ありがとうございました。これからもJAN JAN VAN ESSCHEのクリエイションを楽しみにしています。

<NEWS>
・ONLINE STOREにてUMA WANG,Taiga Takahashi,Edwina Hoearlが掲載開始。

ONLINE SHOP
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▼東京・context Instagram
▼VISION OF FASHION Instagram

語り手/Jan Jan Van Essche(JAN JAN VAN ESSCHEデザイナー)
聞き手/鈴木 直人(ライター)
翻訳/伊藤 香里菜(CONTEXT TOKYOスタッフ)

<MOVIE CREDIT>
Carate Urio Orchestra ‘Lover’.
Composed by Joachim Badenhorst
Lyrics by Erik Heestermans
From the album ‘Lover’ (KLEIN 2016)
Video by de Imagerie
starring Lamine Diouf
Musicians:
Joachim Badenhorst
Sam Kulik
Frantz Loriot
Pascal Niggenkemper
Brice Soniano
Sean Carpio
Nico Roig