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【考察】JAN JAN VAN ESSCHE は 2022SS COLLECTION “CYCLE” で何を伝えようとしたのか?

まだまだ寒い日が続いていますが、ファッション業界の流れは早く、すでに2022SSシーズンのデリバリーが始まっているブランドもチラホラと出てきています。

JAN JAN VAN ESSCHEもそんなブランドの一つで、東京・CONTEXT、京都・乙景には早くも2022SS COLLECTIONのアイテムが到着しており、店頭に春の訪れが近いことを知らせてくれています。

ONLINE STOREへの掲載はもうしばらくお時間をいただくのですが、今回は2022SSシーズンにJAN JAN VAN ESSCHEが伝えようとしたことを、V.O.Fライター鈴木の目線で考察してみたいと思います。

考察のヒントにしたのは、JAN JAN VAN ESSCHEチームから送られてきたメッセージと社会情勢、そしてV.O.Fに届いた作品たちと9分弱のCOLLECTION MOVIE。

衣服は体で着て、目で見て、触れて楽しむものでもありますが、頭で考えて、感じて楽しむものでもあると思います。そのような視点から、この考察もお楽しみいただければ幸いです。

癒しと再出発の叙情詩————社会情勢と作品から考える “CYCLE”の意味

PARKA#9

以下の英文はJAN JAN VAN ESSCHEのチームから今シーズンのCOLLECTIONについて送られてきたメッセージの引用です。翻訳は筆者が行いました。

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As we, the world and all creation are experiencing a collective transition, a new future awaits us all.

Space & time become utter necessities for the acceptance of a new state of being, while our wounds slowly heal.

In all humbleness, the CYCLE collection offers an alternative to help us through the now.

A bright red, encouraging life force and passion for creation… an ode to love. Smoothly textured fabrics with soft caresses, sensible colors chosen to highlight the new cycle we are entering.

The elements are in constant rotation.

私たち、世界、そしてすべての創造物が同じ変化を経験している最中も、新しい未来が私たち全員を待っています。

私たちの傷がゆっくりと癒されていく間、新天地を受け入れるためになくてはならないのは空間と時間です。

CYCLEコレクションでは、そんな今を生き抜くための選択肢を提示したいと思いました。

鮮やかな赤は、生命力と創造への情熱、そして愛へのオード(叙情詩)です。滑らかな手触りのファブリックと柔らかな撫で心地、そして私たちがこれから迎える新しいサイクルを強調するために選ばれた感性豊かな色彩。

万物は常に巡るものなのです。
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さて、2022SS COLLECTION “CYCLE”は、2020-21年の秋冬頃にデザインされました。

当時、Jan Janたちのいるベルギーでは、新型コロナウイルスが急速に拡大。2020年10月末には1日で数万人規模の感染者が発生し、「欧州最悪の基準」と言われるまでになっていました。

同年11月から翌年1月半ばまでは厳しいロックダウンが実施され、生活必需品を取り扱うお店以外は軒並み営業停止を言い渡されています。

ベルギーの人々がコロナ禍に苦しみ、不安や孤独、恐怖を覚えていたことは、2021年の11月、首都ブリュッセルで行われたコロナ規制に関するデモが暴動に発展したことからも見てとれます。

このような状況下でクリエイションが行われたのが“CYCLE”でした。おそらくJan Janたちは、ウイルスがはびこり、人々の心身が鬱屈している「今此処」ではないどこかへ向かわなければならないと考えたことでしょう。

しかし、どこへ向かえばいいのか。彼らが提案しようとしたのは“an alternative to help us through the now(今を生き抜くための選択肢)”―――言い換えるとするならば、 「癒し」と「再出発」でした。

例えば今季のテーマカラーであるポピーレッドは、名前の通り赤いポピーの花をイメージした色です。

見るからに生命力に溢れた赤ですが、Jan Janたちが先ほどのメッセージの中で“an ode to love(愛への叙情詩)”と書いたのは、ポピーの花言葉が「いたわり」「思いやり」であり、赤いポピーの花言葉が「慰め・感謝」だからでしょう。

また今季、京都・乙景で積極的にバイイングしているPANCAKE COTTON JOURSEYは、滑らかな肌当たりと、もちもちとした優しい手触りが特徴の生地(赤の他に黒も取り扱いアリ)。袖を通せば誰もが癒されるはずです。

今を乗り越え、新天地に再出発するためには、何よりもまずエネルギーが不可欠で、エネルギーを蓄えるためには癒しが必要です。

JAN JAN VAN ESSCHEは2022SS COLLECTION “CYCLE”の衣服を通じて、それらを提示しようとしているのです。

生命力と情熱、そして円環———COLLECTION MOVIEから考える“CYCLE”の意味

Jan JanたちがCOLLECTIONに込めた想いは、9分弱のCOLLECTION MOVIEにもぎっしりと詰まっています。まずはじっくりと美しい映像を堪能してください。

このムービーのストーリーを簡潔にまとめると、「夜明け直前の薄暗がりの中、様々な人種・性別の人々は各々の道を進み、同じ方向を目指す。湖畔に着いた彼らは、来るべき朝を待つ」といったところでしょうか。

夜とは不安、孤独、恐怖の象徴であり、朝は生命力、情熱、未来の象徴であり、この2つは常に循環(CYCLE)しています。

ムービーの中では、朝を迎えるために人々がエネルギーを高めていく様子が、さまざまな角度で描かれています。

こちらはリトアニアの民族楽器「カンクレス」。弓を使わず指で弾いて演奏する楽器としてはハープが有名ですが、撥弦楽器と呼ばれるこのジャンルの楽器は、原始的な楽器として紀元前の時代から人々の耳を癒してきました。

着用されているのは、今季V.O.Fでも取り扱いのあるチュニックと手織りの生地で作られた羽織でしょうか。奏者のIndrė Jurgelevičiūtėさんの優美な仕草とカンクレスの優しい音色を引き立てる、美しい作品です。

こちらは日本人の我々にとっては馴染み深い太鼓の演奏シーン。演奏しているのは、アントワープ在住の日本人、堀つばささんです。

生命の鼓動のような力強さを感じる演奏ですが、太鼓もまた縄文時代から伝わる原始的な楽器です。体全体を使って演奏する堀さんの姿からは、生命力そのものを感じる人も多いのではないでしょうか。

堀さんが着用している半袖シャツも、V.O.Fで取り扱いのあるRAIN KASURI生地のもの。これだけ激しい動きをしても着崩れないのは、JAN JAN VAN ESSCHEのパターン技術の成せる技です。

コンテンポラリーダンスを踊るのは、KIMONO JACKETやPARKA#9などを身にまとう3人のダンサーです。くるくると回りながら絡み合っていく彼らのダンスは、生命エネルギーの流れを体現するかのようです。

日本人の男性がコウヅキ・カズトミさん(愛称:ツキ)。作曲家やシンガーの顔を持ちながらも、ダンサーとしてもベルギーやドイツなどを中心にヨーロッパの高名なステージに立ってきた人物です。

日本人の女性はカトウ・ミサコさんというバレエダンサー。15歳の時にボリショイ・バレエ学校への入学資格を得てモスクワへ移ったのち、3年後に卒業。その後カナダ、日本、ドイツ、フランスのバレエ団を経て、現在はアントワープのフランダース王立バレエ団に所属している方です。

長髪の西洋人の男性がShawn Fitzgerald Ahernさんです。パリ、ベルリン、アメリカを拠点に活動するフリーランスの振付師であり、ダンサーでもある人物で、ダンスフィルムの世界的な賞も受賞しています。

パフォーマンスだけでなく、太鼓、円形の舞台、丸い湖、そしてこれから上ってくる太陽と、そこかしこに散りばめられた円(CYCLE)のイメージも、JAN JAN VAN ESSCHEのチームがこのムービーに織り込んだ想いを反映しているように思えます。

このように、9分弱のムービーには2022SS COLLECTION “CYCLE”の世界観が丁寧に丁寧に表現されているのです。

2022SS COLLECTION “CYCLE” はJAN JAN VAN ESSCHEからのエール

コロナ禍によって、日本を含む世界全体が“これまで”と“これから”に大きく分断されました。

中には、仕事や私生活、人間関係に大きな変化が生じた人もいるのではないでしょうか。もしかしたら、そうした変化は必ずしもポジティブなものではなかったかもしれません。

しかし苦しい変化を経験した人、もしくは現在進行形で経験している人にも、きっと希望に満ち溢れた未来が待っている。なぜなら世界は循環(CYCLE)しているから。来るべき夜明けのために、心身を癒し、エネルギーを蓄えよう。

2022SS COLLECTION “CYCLE”は、JAN JAN VAN ESSCHEからのそんなエールなのではないか。筆者はそう感じました。

皆さんもぜひ店頭やONLINE STOREで彼らの作品を見て、触れて、JAN JAN VAN ESSCHEが何を伝えたかったのか、感じてみてください。

<NEWS>
・2022年1月22日AM10:00より、2021-22AW COLLECTIONのMORE SALEがスタート(一部商品除く)。
・東西各店にJAN JAN VAN ESSCHE 2022SS COLLECTIONが到着。

ONLINE SHOP
▼京都・乙景 Instagram
▼東京・context Instagram
▼VISION OF FASHION Instagram

<Movie credit>
Clothing:
Jan-Jan Van Essche – @janjanvanessche

Film:
Ramy Moharam Fouad – @ramymfouad
Jordan Van Schel – @jordanvanschel

Music:
Willem Ardui – @willem_ardui

Choreography:
Sidi Larbi Cherkaoui – @sidilarbicherkaoui

Shoes:
Petrosolaum – @petrosolaum

書き手/鈴木 直人(ライター)