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ファッションは「若者のもの」か?- ロラン・バルトのエッセイから考える“カッコいい大人”

みなさん、こんにちは。V.O.Fライターの鈴木です。

コアなファッション好きは得てして社会的に少数派になりがちですが、ファッション好きで、かつ中年〜高齢の男性ともなると、さらに希少な存在になっていきます。

そのためか、日本ではどこかで「ファッションやおしゃれは若者のもの」という認識があるように思います。だからこそ「あの人はおじさんなのにおしゃれ」みたいな話にもなるんじゃないかなあ、と。

でも筆者などは、カッコいい大人って内面はもちろんとして、ファッションを含めた外見でもちゃんとカッコいいんだと信じたい。何より自分が、歳を重ねても堂々とおしゃれを楽しめる人間でありたい。

そこで今回は、フランスの哲学者ロラン・バルトが1960年代のCHANELとcourrègesを対比したエッセイ「シャネルVSクレージュ」をきっかけに、ファッションが若者のもの、という風潮になってしまった原因を探ります。

そのうえで、こういった考え方がもはや今の時代に合っていないということを指摘してみたいと思います。

「若さ/新しさ」が「モード/ファッション」と結びついた1960年代

1960年代courrègesの女性用スーツスタイル。
Photo by Jacqueline Barrière Courrèges – André Courrèges Patrimoine

こういうわけで、一方には伝統があり(その内部での刷新がある)、他方には変革があり(しかも暗黙の一貫性がある)。一方にあるのは古典主義(感じやすくても)であり、他方にあるのはモダニズム(親しみやすくても)である。
引用:『ロラン・バルトのモード論集』p53

バルトは 1967年9月、フランスのファッション雑誌『marie claire』に寄稿した「シャネルVSクレージュ」の中で、CHANELに伝統、古典主義、品格といった言葉を使い、courrègesに変革、モダニズム、若さといった言葉を使いました。

当時CHANELは女性のパンツスタイルやスーツスタイルなど、禁欲的で男性的なファッションを提案していました。対してcourrègesはミニスカートや極端に丈の短いジャケットなど、女性の身体を積極的に表現するファッションを提案しました。

思い切って単純化するとすれば、身体を隠すCHANELのファッションは大人の女性のためのもの、身体を魅せるcourrègesのファッションは若者のためのものだったと言えます。

なぜなら「若者にとっては身体が唯一の財産だから、若さは俗物である必要もなければ『品格』をもつ必要もない」からです。

事実、1960年以降、若さはファッションと深く結びつくとともに、社会的な価値を持つようになります。

引用:Wikipedia

courrègesやMARY QUANTが流行させたミニスカートは、まさに若さを前面に押し出したファッションでした。

イギリスのモデルで女優だったツイッギーは、それまでのグラマーで成熟した女性に対し、スレンダーなスタイルと幼さの残る少女的な美しさで世界を魅了しました。

1960年代は世界中で、若者たちによるカウンターカルチャーが花開いた時代でもあります。ヒッピーカルチャーが生まれたのが1960年代後半。学生運動がアメリカ、中国、イタリア、ドイツ、フランス、日本で全盛期を迎えたのも同じ頃です。

こうした旧来の価値観や、社会的な体制への反発や否定は、わかりやすく言えば「ダサい大人」の告発と破壊です。大人を悪と見なし、若さを正義としたのです。

結果として世の中は若さの価値を認識することになります。その意味で1970年代にやってくる第一次アイドルブームは、少年少女たちの幼い美しさに日本人が価値を見出し、夢中になった時代と言えそうです。

一方で、日本の男性が「若さ=ファッションを失うことこそ、大人の階段を上ること」と考えるようになったのも1960〜70年代なのではないか、と筆者は考えています。

当時日本は高度経済成長期を迎えていましたが、同時にいわゆるサラリーマンとして働くことが世の中のスタンダードになった時代でもありました(1960年には60%弱、1970年には70%弱がサラリーマンになっていた。いずれも厚生労働白書より)。

世界的に若さの価値を高まっていくのを横目に見ながら、日本の若い男性たちは「スーツを着ることこそが大人になることであり、社会的に価値のあることだ」という、真逆の価値観を受け入れなければならなかったのです。

このような背景を考えると、現代の日本人が「ファッションやおしゃれは若者のもの」と考えるのも無理はないのかもしれません。

ファッションは「若者のもの」か?

ITベンチャー企業が相次いでオフィスを設けた六本木ヒルズ。

しかしながら、この考え方は2022年1月現在において成立しなくなってきています。

まずIT業界の拡大や、フリーランスとして活躍するプロフェッショナルの増加は、スーツ=社会人という図式を崩しはじめています。

また、コロナ禍によってリモートワークが普及したこともこの図式を崩す要素の一つでしょう。

コロナ禍が収束すれば状況は変わるかもしれませんが、かといって元通りになるとは考えにくく、社会全体で在宅勤務をする人の割合はコロナ以前よりも少なからず増えるはずです。

ファッションは若者のものという考え方が覆るような状況は、ファッション業界にも起きています。

例えば先日紹介したGeoffrey B . SmallやMartin Margielaが行ったようなリサイクルデザインは、若々しいものや新しいものの価値を疑い、老いたもの、古びたものの価値を再定義しました。

このような状況を考えると、ファッションは若者のものという考え方は、もはや成立しないことがわかるのではないでしょうか。

「ファッションは人と時代を映す鏡」
ファッションとは、人と時代の変化にともなって、絶えずかたちを変えるもの。
着る人のアイデンティティや時代のムードが変われば、自ずと装いも変わっていきます。
わたしたちは、そうしたファッションのうつろいに“寄り添う”存在でありたい。

これは弊社V.O.FのPHILOSOPHY冒頭の文章です。ファッションが一人ひとりを映す鏡なのだとしたら、当然年齢、性別、国籍の区別なく、ファッションは楽しんで良いものだという見解が出てきます。

だからこそ私たちは、あらゆる人がファッションを楽しめるようなクリエイションをしているブランドばかりをセレクトしているのです。

例えばベルギー・アントワープを拠点に活動をするJAN JAN VAN ESSCHEは、ブランドのコンセプトからしてあらゆる境界を乗り越えることを目指しています。

JAN JAN VAN ESSCHEの作品は、◯◯年代の◯◯というディテールとか、男性的・女性的なディテールといった、年齢、性別、国籍などと結びつくようなデザインを慎重に排除し、誰もが自由に、朗らかに日々を過ごしていけるようなファッションを提案しています。

またV.O.F発のブランドZIIINは、むしろ大人のファッションにフォーカスをあててクリエーションをしています。

実際、V.O.F発のブランド「ZIIIN」とは?ブランドに込めた想いと、立ち上げまでの経緯でもデザイナー自身が「着物は年齢を重ねた人ほど板について、格好良く見えることがありますよね。ZIIINもそうした日本の大人を格好良く見せる服にしたいのです」と語っています。

もはやファッションは若者のものではなく、大人でもファッションを楽しんで良い時代が来ている。

そしてV.O.Fがセレクトするブランドのように、年齢、性別、国籍などから自由になれるファッション、もしくは大人になったからこそカッコよく着こなせるファッションもある。

それならもう、ファッション楽しんじゃえばいいんじゃないか。そう思うのは、筆者だけでしょうか。

“カッコいい大人”ってなんだろう?

大人になると、家族とか仕事とか、ファッション以外にもたくさん価値のあるものが見えてきて、「自分ももう大人だし」とファッションから離れてしまう人も少なくありません。

もちろんこれも一つの生き方です。実際ファッション以外にも価値あるものはたくさんあって、それらを大切にすることで豊かな人生を送っている人も数えきれないほどいるはず。

でも、ただ「大人になったから」というだけで大好きなもの=ファッションから距離を置いて諦めてしまうのは、ちょっともったいないような気がします。

10代で起業する人もいれば、70代で恋する人だっている時代、大人になってからファッション楽しんだっていいでしょ、って思うんです。

落ち着いた大人もカッコいいけど、年齢に関係なく、自分の好きなものを無邪気に楽しんでる大人もカッコいいもんじゃないでしょうか。

今回このJOURNALを書きながら、少なくとも自分はそうありたいな、と筆者などは思ったのでした。

<参考>
『ロラン・バルトのモード論集』(ちくま学芸文庫)

<NEWS>
・2022年1月22日AM10:00より、2021-22AW COLLECTIONのMORE SALEがスタート(一部商品除く)。
・東西各店にJAN JAN VAN ESSCHE 2022SS COLLECTIONが到着。

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書き手/鈴木 直人(ライター)