CONTEXT伊藤が語るZIGGY CHENの魅力とは? -2着のJACKETから見る同ブランドの哲学

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CONTEXT伊藤が語るZIGGY CHENの魅力とは? -2着のJACKETから見る同ブランドの哲学

V.O.Fの主力ブランドの一つ、ZIGGY CHEN。21SSコレクションはONLINE SHOPでも店頭でも大変好評をいただいています。

そんなZIGGY CHENの魅力を、CONTEXT TOKYOの店主伊藤憲彦に聞いたところ「ZIGGY CHENって『STAR WARS』なんですよね」なんて驚きの切り口が……!

今回は、彼一流の視点から見たZIGGY CHENというブランドについて、たっぷりと語ってもらいました。

「このブランドは“足し算”が上手いんです」ZIGGY CHENにときめく理由とは?

引用:ZIGGY CHEN

__伊藤さんにとって、ZIGGY CHENはどんな魅力のあるブランドですか?

一言では語り尽くせないんですけど、僕はこのブランドの服に毎シーズンものすごくときめいています(笑)。

__恋をしているの……?どういうところにときめいているんですか?

本当に、着ていて楽しい。彼の服は、着ていると様々な発見があるんです。

一着の服の中に色々なディテールが織り込まれてる。「あ、ここは○○年代の□□のディテールだ。こっちは△△だ」みたいな。

いつかの時代の、どこかの服をそのままサンプリングするんじゃなくて、すごく自由にミックスさせているなと思います。言ってしまえばカオスなんですけど、それを高いレベルで作り込んでいるんですよね。作り手の「好き」が伝わってきます。

__めちゃくちゃ男心をくすぐってくる感じ。

そうそう。だからこそ、コーディネートをすごく楽しめるブランドだと思います。

__いろんなものが混ざっていると、コーディネートしにくくなったりしないんですか?

逆です。色んなデザインが入っているので、軍モノを持ってきても、ラグジュアリーなトラウザーズを持ってきても、どこかで調和します。

__そもそもZIGGY CHENのアイテムがカオスだから、逆に何を合わせてもかっこいいということですか?

そういうことだと思います。ただし、これはZIGGY CHENのハイレベルな服作りあってこそです。

服としての土台をしっかり理解したうえで、一度咀嚼してその上にどんどん足し算していくイメージ。このブランドはその足し算が上手いから破綻しないんですよ。

JACKET Art.#931は「ZIGGYの原点が表現された一着」

引用:ZIGGY CHEN

__21SSコレクションで言うと、どのアイテムにZIGGY CHENの魅力が表れていますか?

JACKET Art.#931じゃないですか。今季のテーマを一番現していると思います。

__今季のZIGGY CHENのテーマというと「COLLAGEMORY」ですね。

はい、「COLLAGE」と「MEMORY」を組み合わせた造語で、要は「記憶」を「コラージュ」したシーズンなんです。21S/Sは、世界がコロナ禍で1年間苦しんだあとの厳しいコレクションでした。

各ブランドがその中で「自分たちに何ができるのか」あるいは「自分たちはこれまで何を大事にしてきたのか」を考えて、原点に立ち返ったんじゃないかと思っていて。

__どうしてそう感じたんですか?

各ブランドのアイデンティティがものすごく濃く出ていたからです。例えばJAN-JAN VAN ESSCHEはすごくシンプルに削ぎ落とされて、クリーンになっていましたね。

自分たちが忙しい日々の中で忘れていた「恵み」に気づき、自然に触れ、服を身につけるという、根源的な喜びを改めて思い出させてくれました。

ZIGGY CHENは原点である、旅やアーティスト、ヴィンテージが好きという部分が強く出ていました。

今までは中国神話とギリシャ神話をモチーフにした柄物を使ったり、けっこうコンセプチュアルだった。でも今季は自分と向き合ったような印象を受けました。

ハンナ・ヘッヒの肖像画
photo by Ronn – Drents Museum, Assen

__今季のテーマの一つであるコラージュは、反体制的なアート運動であるダダイズムがインスピレーションになっていると聞きました。

今シーズンのコラージュの手法は、ドイツのダダイストであるハンナ・ヘッヒからインスピレーションをうけています。

だから今季のアイテムには2017年に旅したインドの聖地バラナシで撮った写真のほか、生地の切り替えや配置、スタイリングに至るまで、コラージュの技法が散りばめられているのだと思います。

自分の記憶や経験といったものをいったん咀嚼し、それを再構築した。いわば今までの自分に対して反体制的な目線を向けたというか。いわば自身の原点にあるものをコラージュしたんじゃないかなあ。

__そうした目線から生まれたのが、このArt.#931だと?

そうです。これを見たときに、最近のZIGGY CHENにしては思い切りヴィンテージに寄せてきたなと思ったんです。

__どういうことですか?

このブルゾンは1940年代のイギリスの鉄道員が来ていたジャケットがモチーフになっているんです。ヴィンテージの中でも弾数の少ないアイテムなので、ヴィンテージショップでもなかなか良い値段がついているものなんですけど。

加えて、袖に使われているストライプの生地も、どこか昔の生地を感じさせるものだったり、ボディも1950年代のヴィンテージシャツに使われているような透かし織の生地で作られています。

ちなみにこの生地は、世界的な生地の産地である名古屋の尾州で100年前の織り機を使って織られたものです。

1950年代のイギリスのヴィンテージシャツ

このチェックのシャツは、まさに1950年代のイギリスのヴィンテージ物なんですが、生地の組織がよく似ているんです。ちなみに、今季のZIGGY CHENのシャツは襟の形や大きさ、開き具合までこのシャツとよく似ていますね。

最近のZIGGY CHENはモードに寄っていたイメージでしたが、今季はそれが適度に抜けて、ヴィンテージに回帰したような印象があります。

__このブルゾンは、ポケットのディテールも特徴的ですよね。

前についている三日月型のポケットは1930〜40年代のハンティングベストに使われていたもので、後ろについている大きなポケットはゲームポケットと言って、ハンティングジャケットに付けられている、仕留めた獲物を入れておくためのものです。

ベースになっているのはさっきお話しした鉄道員のジャケットですが、その他の部分で色々な要素をミックスしているんです。

インドのサファリに行ったんじゃないかなあ。そのイメージでのハンティングなのかなあとか妄想したり…。このあたりが、ZIGGY CHENらしいですよね。

__どんなコーディネートがおすすめですか?

ショート丈なので、Tシャツをインナーにしてレイヤードしたり、最近の緩いシルエットのパンツともドレッシーなパンツともバランスよく合わせられますよ。

さっき話したみたいに、どんなものを持ってきてもサマになる合わせやすいバランスだと思います。

JACKET Art.#934は「静かに見えて激しい、ZIGGY CHENらしい一着」

__他に今季で「これは!」というアイテムはありますか?

僕がおすすめしたいのはJACKET Art.#934ですね。

__先ほどのブルゾンと比べると、かなり静かなデザインですね。

それがね、このジャケット、全然静かじゃないんですよ。わかりやすく言うと、左右で縦が横が錯綜しているんです。

__どういうことでしょうか?

よく見るとわかるんですが、向かって右側はまず胸元に縦のラインのポケットが付いています。

でも下のポケットのところは横のラインに切り替えが入っているんです。しかもこの切り替え、ポケットのフラップの中まできちんと切り替わってて。

さすがですよね。一見静かなんですけど、切り替えでコラージュを表現しているんです。

__なにそれ、すごぉ……。

一方で向かって左側は上下に横方向のポケットが付いていて、脇腹のところに縦のラインの切り替えが入っています。しかもこの切り替えの部分には、しっかりキュプラの裏地が付いていて、チラチラと見えるようになっています。

__文字通り縦横無尽なんだ。静かに見えて、めちゃくちゃに激しいジャケットだなあ。ちょっと写真では確認できないので、ぜひ読者の皆さんには店頭で見てもらいたいですね。

そうなんです。写真で眺めてるより、実物を見て、着るのが楽しいブランドなのでぜひ遊びに来て欲しいですね。

ところで静かに見えて激しい、というところで言えばTROUSERS Art.#503もそうですね。

__なぜですか?

このパンツも、さっき話したブルゾンの袖と同じ、ストライプの生地で作られているのですが、よく見るとあちこちに切り替えが入ってるんですよ。

でも全ての切り替え部分が繋がるように柄合わせされているので、全然大袈裟じゃないんです。柄が合ってなかったら、多分もっと主張の激しい服になっていたと思います

一見気がつかなくて着ていくと、「あれ、なんだか切り替えが入ってる」「しかもこれ、柄が揃ってないか……!?」って気がつく。凄みと楽しさが後々に増していく洋服ですよね。

「ZIGGY CHENは『STAR WARS』なんですよ」

JACKET Art.#931の裏地。
JACKET Art.#934の裏地。
TROUSERS Art.#503の裏地。

__ZIGGY CHENは裏地の作り込みも凄いですよね。

そうですね。今季はリバーシブル仕様のものも多かったんですが、正直本来リバーシブル仕様じゃないアイテムでも、十分裏返して見せられる服が多いです。

このジャケットもパンツも、どちらもリバーシブルではありませんが、問題なく裏返しでも着られると思います。ZIGGYの洋服は表裏一体なので、表だけじゃなく、裏もしっかり見てみて欲しいですね。

__どうしてZIGGYはここまで裏にこだわるんでしょう?

それはね、ZIGGY CHENは『STAR WARS』なんですよ。

__へ?

僕、『STAR WARS』が大好きで(笑)。あの作品って、光と陰の調和を描いたスペクタクルなんですよ。

監督のジョージ・ルーカス氏は、東洋哲学に強い興味を持っている心理学者のC.G.ユング氏に大きな影響を受けているんです。

だから衣装をはじめ、そこかしこに東洋の思想やカルチャーが色濃く反映されています。黒澤明監督の『七人の侍』からも大きく影響を受けていたり。

そんな『STAR WARS』の作中で、ルークが「全てはバランス。強い光には強い闇がある」と言う場面があります。これ東洋思想の一つ「陰陽思想」そのものなんですよ。

__陰陽太極図ですよね。

陰陽太極図の一例。
引用:Wikipedia

そうそう、これです。見たことがある人も多いと思います。この思想では、陰も陽も強すぎてはいけないとされていて、お互いが補い合う関係こそが理想なんです。

__あれ、これZIGGY CHENにちゃんと着地します?(笑)

しますします(笑)。というのも、ZIGGYの洋服は『STAR WARS』と同じように、表が裏を、裏が表をそれぞれ補完して高め合っているように感じるんですよ。

表と裏、モード(未来)とヴィンテージ(過去)、デザインと着心地、西洋と東洋。どれをとってもバランスが良く、どちらか一方だけ強すぎるということがないんですよね。

ZIGGYの洋服は、まさに森羅万象、この世の成り立ちを表現した陰陽太極図なんです。自分で言っててあれですけど、すごいスケール(笑)。でも本当に、それくらいすごい服作りをしていると思います。

「ZIGGY CHENはファッションの楽しさに気づかせてくれる」

__いやあ、こうやって伊藤さんの話を聞いていると、ZIGGY CHENの服が欲しくなってきます。

鈴木さんのサイズ、まだ残ってますよ(笑)。冗談は別として、僕がCONTEXTでやりたいことと、ZIGGY CHENの作る服は本当に相性が良いと思っています。

__どうしてですか?

うちの店は新しいものとアーカイブを一緒にやっていて、かつジャンルも年代も国籍も、限定せずに取り扱っています。新しいものを光とするなら、アーカイブは陰と言えますよね。

この辺りがZIGGY CHENの陰陽思想的な服作りとリンクしているなと思うんです。

__ただ、どうしても価格がネックになる場合は多そうです。

そうですね。やはり学生のお客様や、社会人でもそこまで洋服にお金をかけられないという人が多数派だと思います。でもファッションを楽しむなら、そこで妥協はして欲しくなくて

同じくらいクオリティの高い服を、頑張れば手がとどく価格で紹介してもらえたらドキドキするじゃないですか。

何より、作り手が大切に残してきた作品たちはアートにしろ家具にしろカメラにしろ、時を越える力があるんです。大量に生産され、大量に消費されていくものよりも、僕はそんな作品を知ってもらいたいし、好きになってもらいたいし、残していきたいんですよ。

__それがファッションや服を好きであり続けてくれるきっかけになれば、みたいな?

はい。諦めずに、「私とは違う世界の人が着る服だ」なんて思わずに、手に入れて欲しい。そういうところからファッションっていいなとか、夢があるよな、楽しいなって思って欲しくて。

もっとファッションを自由に楽しめるものにしていきたいですね。

__価格的な自由、ということですか?

価格も、ブランドも。ファッションを楽しむ上で大切なことって、「いくらのものを着ているから偉い」とか「どこのブランドのものを着ているからカッコいい」という話ではなくて、その人自身が何を着たくて、何を表現したいのかだと思うんです。

今はデジタルで全てが完結してしまうことも多い時代ですが、便利さや効率が重視されることで失われていくものがあると思います。アナログだからこその良さに立ち返って欲しいですね。

かつて19世紀のイギリスで詩人であり、思想家であり、デザイナーでもあったウィリアム・モリスが率いたアーツ・アンド・クラフツ運動(※)のように、ビジネスのために大量に生産されたものではなく、作り手の温もりを感じるものを伝えて、残していきたいと思っています。

だからうちでは、価格や名前のフィルターなしに、感覚的に楽しんでもらえるようにしています。

ZIGGY CHENは服作りを通じて、あらゆるものをフラットに、自由に扱って、ファッション本来の楽しみを教えてくれます。そこがうちの店とパチっとハマっているなって。

※ヴィクトリア朝の時代、産業革命の結果として大量生産による安価な、しかし粗悪な商品があふれていた。モリスはこうした状況を批判して、中世の手仕事に帰り、生活と芸術を統一することを主張した。モリス商会を設立し、装飾された書籍(ケルムスコット・プレス)やインテリア製品(壁紙や家具、ステンドグラス)などを製作した。(引用:Wikipedia

__今回はZIGGY CHENのまた違った魅力を知れたインタビューになりました。伊藤さん、ありがとうございました。

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<NEWS>
【乙景 営業日変更】
・6月より土・日・月曜日の営業に変更。

聞き手/鈴木 直人(ライター)
語り手/伊藤 憲彦(CONTEXT TOKYO)