HED MAYNER 2021-22AW “今シーズンのアイテムで語る、ブランドの魅力”【東京・CONTEXT編】
立冬(11月7日)からはや2週間が経ち、早くも冬の足音が聞こえ始めてきました。街にはコート姿の人も少なくありません。秋冬のファッションもいよいよ本番というところでしょうか。
今回は前回のHED MAYNER 2021-22AW “今シーズンおすすめしたい逸品”【京都・乙景編】に続き、東京CONTEXTの店主でありバイヤーでもある伊藤にインタビュー。
彼の視点から見たHED MAYNERというブランドの魅力を含め、今シーズンのクリエーションについて聞きました。
「HED MAYNERのキーワードは“イスラエル”と“ユダヤ”、そして“ピュア”」伊藤が感じるブランドの魅力とは?
SCARF COLLAR SHIRTに見るHED MAYNER、3つのキーワード
__伊藤さんから見て、HED MAYNERの魅力はどこにありますか?
伊藤:キーワードは“イスラエル”と“ユダヤ”、そして“ピュア”だと感じています。
__デザイナーのHed Maynerはイスラエル出身で、現在も同国に拠点を置いていますね。
伊藤:はい、だから彼のクリエーションにはしっかりと砂漠の国イスラエルのエレガンスが根付いているんです。
今季で言えば、SCARF COLLAR SHIRTです。アフガンストール(シュマグ)に代表されるように砂漠の民族は、首や頭の周りに布を巻いていますよね。
あれは砂を吸い込んで肺に負担がかかるのを防いだり、髪の毛が砂で傷まないようにしたり、服の中に入り込んだりしないようにするためのものなんです。
__口や目を守ることもできますし。
伊藤:HED MAYNERのSCARF COLLAR SHIRTも、いわば砂と共存するために生まれたある意味で実用的なディテールなんです。
スカーフ状になった襟は垂らしたまま着ても、胸の前で結んでも、首に巻きつけてもエレガント。まさに中東の地が生んだ美ですよね。
__正直、あのシャツをはじめに目にした時「派手なディテールだなあ」と思いました。僕は今までレギュラーカラーやバンドカラーのシャツしか見てこなかったから。
しかしその話を聞くと、このシャツはエゴや装飾的な要素が丁寧に排除された1着なんですね。
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HED MAYNERのテーラリングに見る“東洋性”
__HED MAYNERと言えば、けいけんなユダヤ教徒の衣服に見られるようなテーラリング技術も、特徴としてよく挙げられますよね。
伊藤:着る人の体型を強調する西洋的なテーラリングと違い、ユダヤのテーラリングは禁欲的です。
そのためHED MAYNERのテーラードジャケットに見られるように、着る人の体型が出ないような―――言ってみれば、着る人の個性を隠すような―――服作りをするんです。
HED MAYNERのテーラリングは、どこか仏教などの東洋的な思想に影響を受けているYOHJI YAMAMOTOのテーラリングと重なる部分がありますが、それは根底に同じような思想が流れているからだと思っています。
__確かに、海外のメディアのインタビューでデザイナーのHedが山本耀司氏や川久保玲氏をリスペクトしている、と語っていました。
伊藤:ただし、両者の決定的な違いは出発点です。
山本氏や川久保氏、三宅氏などは、着物から洋服の文化に変わり、西洋の文化に憧れを抱いてきた戦後の日本という場所が出発点なわけで、西洋の文化であるテーラードに対しては“挑戦”というスタンスをとるしかありませんでした。
いわゆる日本産のテーラリングですね。
一方Hedにとって、ユダヤのテーラリングは言わば“もともとあったもの”です。だから彼のテーラリングは、どこか自然体なんですよ。
「HED MAYNERからは“自分なりのファッションを楽しんで欲しい”という気持ちが溢れている」
パンツラインナップから感じるHED MAYNERの自由性
__最後のキーワード“ピュア”はどういうところに表れていますか?
伊藤:例えば先ほども触れたSCARF COLLAR SHIRTです。あのシャツにはエゴを排除したディテールゆえの純粋さが漂っています。
もっと言えば『星の王子様』が大好きな僕からすると、SCARF COLLAR SHIRTは「誰でも星の王子様になれるシャツ」なんですよ(笑)。そういう意味でも、ピュアなシャツなんです。
あとは、パンツのラインナップからもHedのピュアな部分が表れていますね。
__HED MAYNERのパンツはサイズがこれでもかというほど大きいので、着こなすのが難しいと感じている人は多そうですが……。
伊藤:それは「自分なりのファッションを楽しんで欲しい」という気持ちの表れだと思っています。
鈴木さんが言うように、HED MAYNERのパンツにはサイズがあってないようなものです。加えて型数もものすごく多い。
今季V.O.Fでバイイングしたものだけでも、6 PLEAT PANT、8 PLEAT PANT(SOLDOUT)、ELONGATED CUFFED TROUSERS、ELONGATED TROUSERS(SOLDOUT)、JUDO PANTと5型もあります。
このうち6 PLEAT PANTだったらフロントに左右3タックあって、バックに左右1タックあるので、前・横・後ろどこから見てもボリュームがあります。
対して8 PLEAT PANTはフロントに左右4タックあるだけなので、前から見るとボリューミーだけど、横・後ろから見るとストンと落ちるシルエットになっています。
JUDO PANTはHED MAYNERのパンツの中で一番ボリュームのあるパンツですが、そのぶんクロップド丈にすることで全体のバランスをとっています。
こうやって各パンツにきちんと特徴をつけて、着る人が好きな形、好きなボリュームで、好きなように着られるラインナップにしているわけです。
__確かに「自由に楽しんでくれ!」というメッセージが伝わってくるようですね。
「難しく考えず、好きなように着るコート」BACK SLIT UNBUTTONED COATの着こなし
伊藤:そういう意味ではBACK SLIT UNBUTTONED COATにも、HED MAYNERのピュアな部分が見てとれますよ。
__背中に穴が空いているコートですよね。ベンチレーションなのかな、なんて思っていましたが……。
伊藤:確かに結果的にはそういう機能もあると思いますが、僕はもっとピュアな理由で生まれたディテールだと考えています。
__どういうことですか?
伊藤:「ここに穴が空いてたら面白くない?」みたいな、原始的な理由なんじゃないかって。HED MAYNERは春夏でも背中に穴の空いたシャツを作って、モデルにその穴から顔を出させて着せていました。
今季のルックでも、このコートの穴から顔出すだけでなく、前後も逆にして着せていましたよね。
__ちょくちょく「そんなんアリかよ!?」みたいなスタイリングがありますよね。
伊藤:ああいうルックがアリかナシかは、たぶんどっちでもいいんです(笑)。楽観的な価値観が根底にあるんですよ。「好きなように着て、装うってことを楽しんでくれ」みたいな。
__なるほど、確かにピュアだ。大人になってくるといつしか「こういう服はこうやって着るもんだ」と考えが固まっていきますけど、ファッションを始めた頃って「こういう着方もアリじゃない!?」みたいな楽しみ方をしていたように思います。
伊藤:そこを出発点として大切にしながら、先ほど話したイスラエルのエレガンスやユダヤのテーラリングをうまくミックスさせ、洗練に洗練を重ねて衣服を作っているのが、HED MAYNERというブランドなんです。
だから僕の中でHED MAYNERは「語るより感じてくれ!」というブランドですね。こんなこと言うと鈴木さんに怒られそうですけど(笑)。
__語ってくれないと僕の仕事ないですからね(笑)。でも今回、こうやって語ってくれたからこそ、HED MAYNERの衣服は頭で考えて眺めるのじゃなく、まずは着てみて感じる衣服なんだということがわかりました。もっと色々着てみたいです。
伊藤:うんうん。このブランドは来てみないとわからないことが多いので、ぜひあれこれ試して楽しんで欲しいですね。
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<NEWS>
【新入荷】
・ZIIINの2021-22AW COLLECTIONが東西各店に入荷。
書き手 /鈴木 直人(ライター)
語り手 /伊藤 憲彦(CONTEXT・店主)