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「はじめてのパリ展示会」で感じた、JAN JAN VAN ESSCHEの温もり【京都・乙景】

京都・乙景、東京・CONTEXTの店主である山下と伊藤は、2023年6月に初めてのパリ買付に行ってきました。パリといえば花の都、そして世界のファッションの中心地です。

とりわけ年に4回(メンズ・ウィメンズで各2回ずつ)あるファッションウィークの時期は、世界中の名だたるブランドとそれらを買い付けるバイヤーたちが集まってきます。

読者の方々には、この時期のパリの展示会の様子を垣間見たいという服好き、ファッション好きの方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は乙景店主・山下に話を聞き、当時のパリの街のムードを含めたJAN JAN VAN ESSCHEの展示会の様子について掘り下げるとともに、早くもSOLDOUTが増えてきているJAN JAN VAN ESSCHE 2024S/S COLLECTION “PRANA”(商品はこちらから)についても語ってもらいました。

「はじめてのパリ展示会」の思い出

__今店頭に並んでいるJAN JAN VAN ESSCHEの2024S/Sのアイテムたちは、山下さんが去年の6月にパリでバイイングしてきたものですよね?

山下:そうですね。彼らの展示会で実際に見て、着て、選んできたものです。

__会場はどんなところだったんですか?

山下:石造りの大きな門と石畳の庭があって、その奥に展示会場になる建物がありました。Organceというショールームで、乙景で取り扱っているSUZUSANも利用している展示会場です。

場所はマレ地区と呼ばれるエリアで、16〜17世紀の貴族の建築が残る美しい街並みの中に、ユダヤ教徒やLGBTの人たちが集まる飲食店や、感度の高いギャラリー、ブティックが立ち並んでいる地域です。

街の中心から少し外れた場所にあるんですが、感覚としては京都河原町の中心と乙景の距離感に近かったですね。

__会場内の様子も教えてください。

山下:自然光がたっぷり入る明るい建物で、さらにきちんと服が見えるように照明が取り付けられていました。

実は僕は喋りすぎてよく覚えていないんですが、写真なんかを見ると音楽も流れていたようです(笑)。

__「喋りすぎて覚えてない」というのは、いかにも山下さんらしい(笑)。

山下:僕と伊藤がアポイントを入れていた時間に会場に入ると、デザイナーのJan Jan やパートナーのPietroが「お〜!ヤマ!(僕の愛称です)」と言って迎え入れてくれました。

そのあとJan Janに今季のテーマについて話を聞いたり、服を見たりしていたのですが、しばらくすると声をかけられて、テーブルのある場所に招かれました。

テーブルの上を見るとなんとおもてなしの準備がされていたんです。「こんなものを準備してくれたの?」と尋ねると、「一緒に食べよう」と言ってくれて、JAN JAN VAN ESSCHEのチームメンバーとテーブルを囲んでゆっくりとした時間を過ごしました。

__なんだか取引相手が仕事をしに来たというより、友達とか仲間みたいなノリなんですね。

山下:本当にそんな感じでしたね。僕たちもこんなことをしてもらえるとは思っていなかったので驚いたし、同時にとてもホッとしました。

__ホッとした、というのはどうして?

山下:僕と伊藤はどちらも初めてのパリだったからです。パリというと華やかなイメージがつきものですよね。

でも、実際に行ってみると大阪で言う心斎橋のような感じで、高級ブティックや百貨店が並んでいるエリアと、アメリカ村のようにディープなエリアがすぐ近くにあるんです。

「油断するとスリやぼったくりに遭う」なんて話も聞いていたし、僕に関してはフランス語はもちろん英語も苦手。めちゃくちゃ気を張っていました。

他のブランドの展示会に行っても、ウェルカムドリンクくらいは出ますが、そのあとはガッツリ集中して服を見ますし、説明も日本語で言えば「こちらは〜でございます」みたいな堅い感じです。それが当たり前なんですけど、ちゃんとビジネスなんです。

そんな中でのJan Janたちの「お〜!ヤマ!」と温かい笑顔だったので、思わず「ただいま!」って言いたくなりました(笑)。

__それは想像するだけでもホッとします(笑)。

山下:それと同時に、彼らのことがもっと大好きになりました。

JAN JAN VAN ESSCHEのチームってすごい人たちばかりなんです。Jan JanはAntwerp Sixを生んだアントウェルペン王立芸術学院のスーパーエリートで、数々の賞を受賞している一流デザイナーです。

つい最近もBelgian Fashion Awards 2023という賞を受賞していました。

そんな彼らが仲間として接してくれるというのは本当に嬉しいことで。だから僕は会う度に、「彼らのためなら何かしたい」「彼らの作るものをより多くの人たちに伝えたい」という気持ちが自分の中で強くなっていくのを感じています。

JAN JAN VAN ESSCHE 2024S/S “PRANA”のツボ

__ではぜひ伝えてもらいましょう。ズバリ、JAN JAN VAN ESSCHE 2024S/S “PRANA”のツボはどんなところにありますか?

山下:一言で言えば「着てみなきゃわからん」です。

というのも、もともとJAN JAN VAN ESSCHEが得意とする“平面”や“直線”に拍車がかかった印象があるんです。

だからハンガーにかけているだけではどんな服かがわからない。体型や骨格によっても印象がガラッと変わるので、ONLINE SHOPの着用画像があっても実際に着たときの様子はわかりづらい。

__どんなアイテムのどんなところに特徴がありますか?

山下:例えばCOAT#29です。ウエストの紐をギュッと絞ると、折り紙みたいに胸ポケットの内側の生地が折り畳まれるんです。まるで和服の羽織を着ているかのような美しいVのラインが出る。

このラインの深さは、サイズ選びや着る人の骨格によって全然変わってくるので、まさに「着てみなきゃわからん」です。

Jan Janは新しいパターンを考える時、実際の大きさの10分の1のスケールで試作をするそうです。最近はCAD(設計ソフト)を使ってパターンを引くブランドも増えていますが、彼はずっとアナログなんです。

僕はこの時、彼が折り紙のように折り畳んだりしてテストをしているんじゃないかと思っています。

__他にもありますか?

山下:JACKET#55です。このアイテムはボタンを留めずに裾の部分を合わせると、完全なボックスシルエットになるんです。普通ならこの状態でボタンを留めるように作るはずです。

でもこのジャケットは、あえてズラしてボタンを留めるように作っています。すると絶妙な具合にドレープが生まれ、裾もズレて、アシンメトリーのシルエットになる。

__このズレ具合からは、どことなく和服のニュアンスも感じますね。

山下:ボタンを留めたときのこのニュアンスは着ないとわからないですし、やはり着る人の体型・骨格によって大きく変わります。

あとはSHIRT#99SHIRT#100も面白いですよ。

__Vネックの#99から教えてください。

山下:このシャツはハンガーにかかっているだけだと、ポケットが右側に大きく傾いて見えるんです。

__かなり個性的なシャツに見えますよね。

山下:でも実際に着てみると、肩のラインにきちんと生地が乗って、ポケットが正しく縦になります。ハンガーにかかった状態で先入観を持って着ないままだと、このシャツの魅力には気づけません。

__レギュラーカラーの#100はどうでしょうか?

山下:これは逆にハンガーにかかっている状態では、極めてシンプルな普通のシャツです。しかしこのシャツは袖を通すことでふんわりと膨らみ、着る人の印象を優しくしてくれるんです。

例えば袖のシルエット。カフス(袖口)に2本のタックを入れることで、広くとった袖幅をまとまりよく整えると同時に、カフスボタンを使ってカフスをキュッと絞ると、ふんわりとしたシルエットが生まれるようになっています。

こうして生まれる生地のたまり、ドレープは人間が着るからこそ生まれるもの。やっぱりハンガーに吊っている状態ではわからないんです。

__まさに「着てみなきゃわからん」。このインタビューが終わったらとりあえず全部試着しないと……!

“PRANA”———着る人と世界をつなぐ、優しい衣服

__どうしてこのようなアイテムが多くなっているんでしょうか?

山下:そこは今シーズンのテーマである“PRANA”とすごく深い関係にあると思っています。

__どういうことですか?

山下:テーマの“PRANA”はプラーナと発音します。これはサンスクリット語で(宇宙の)生命エネルギーや、東洋医学で言う“気”を意味するほか、ヨガの世界では“呼吸”や微細な生命エネルギーを意味します。

荒い呼吸は怒りや不安といった感情と、ゆっくりとした呼吸は冷静さや安心といった感情とつながっています。

呼吸を荒くして感情的になっても、周りと衝突したり、気持ちが不安定になったりと良いことはありません。人生をより良くするためには、呼吸=プラーナを整える必要があります。

今シーズンのJAN JAN VAN ESSCHEのコレクションでは、シルクやリネンの生地に白い雲と青い空を描いた柄が使われています。この柄も、JAN JAN VAN ESSCHE流のプラーナの表現になっています。

というのも日本では「気分が晴れる」「表情が曇る」といったように、空模様を感情と結びつけます。一方英語圏では「on a cloud(最高の気分)」「a cloud on the horizon(嫌な予感がする)」といった具合に、雲を感情と結びつけるんです。

このプラーナをコントロールできると、自分と人、自分と世界を繋いで、平和な世の中を作っていくことができます。なんだかちょっとスピリチュアルな話に聞こえますが、「人に優しくできれば、みんなと仲良くできる」という至極シンプルな話です。

こうしたプラーナの概念を服に落とし込んだのが、今シーズンのJAN JAN VAN ESSCHEの服なんじゃないかと僕は考えているんです。

__もう少し具体的に教えてください。

山下:服は本来、人と人を物理的に隔てる存在です。僕たちは基本的に裸で対面したりしませんよね。でも、この服が人と人、人と世界を繋ぐ優しいものだったら、整えられたプラーナのように世の中を平和にしてくれるはずです。

だから今シーズンのアイテムは、今までにも増してシンプルで、かつ柔らかいシルエットを描いているのだと僕は思っています。

シンプルにすることで、着る人をその場に溶け込ませる。一方でカフスにダーツを作ったり、パンツのサイドシームをなくしたりすることで、着る人の印象をソフトにする。

__赤い服を来ている人が情熱的に、青い服を着ている人が冷静に見えるように、JAN JAN VAN ESSCHEを着ている人たちは、優しい空気をまとって見えますもんね。

山下:現代社会では、服は色々な意味を持っています。自己表現や、社会的なステータス、所属するグループだとか、本当に色々あります。でも、服の原点は「着ること」にあるはずです。

この原点に帰ることで、服は着る人と一体化する。その人の呼吸やまとっているエネルギーと一体化してはじめて、命を宿す。身もフタもない言い方ですが(笑)、「服は着てなんぼ(※)」と言い換えてもいいかもしれません。

そうして柔らかなプラーナをまとった人たちが、世界を繋いでいく。このイメージからスタートしているから、今シーズンのアイテムたちは一見わかりにくい、「着てみなきゃわからん」ものになっている、というわけです。

※〜してなんぼ……「〜してはじめて利益・意味がある」という意味の関西の方言。

インターネットじゃ伝えきれない、JAN JAN VAN ESSCHEの魅力

__今シーズンのデリバリーがあって2ヶ月ほど経ちましたが、お客様のリアクションはどうですか?

山下:JAN JAN VAN ESSCHEの服の魅力はもちろんですが、今話した彼らの服から読み取れる哲学の部分も、少しずつ浸透してきている実感があります。

特に去年の3月のJan Jan来日イベントに来てくださって、実際に彼と会った方々は、より深い部分でJAN JAN VAN ESSCHEのファンになってくれているように感じていますね。

とはいえ、まだまだJAN JAN VAN ESSCHEはマイナーなブランドです。でも僕たちはもっと彼らのクリエイションがより多くの人に広まっていって欲しいと考えています。

だからこそ、まだ今シーズンのJAN JAN VAN ESSCHEの世界観に直接触れていないという人は、ぜひともお店に来て、実際に着て、体感してほしいですね。服好き、ファッション好きとして、新しい体験ができること間違いなしだと思います。

__山下さん、今回もありがとうございました。

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