モード・アルチザン服の“洗濯”、どうしてる?V.O.Fメンバーの洗濯事情

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モード・アルチザン服の“洗濯”、どうしてる?V.O.Fメンバーの洗濯事情

ずっと大切に着ていきたいお気に入りの服。とはいえ、汗をかいたり汚れたりすれば洗濯してきれいにしたいものです。

しかしモードブランドやアルチザンブランドの服の洗濯は、洗濯表示で水洗い禁止となっていたり、場合によっては表示がなかったりと、悩ましい問題です。

そこで今回は、CONTEXT TOKYOの店主伊藤憲彦、スタッフ伊藤香里菜、京都乙景のスタッフ山口竜輝の3人に、モード・アルチザン服の洗濯について聞きました。

洗濯の洗い方は、服との付き合い方?

__今回集まってもらった3人は伊藤(香)さんが「たいていのものは家で洗う派」、山口さんが「アルチザン系はなるべく洗わない派」、伊藤(憲)さんが「どう着たいかで洗い分ける派」とのことですが、まずはどうしてそういうスタンスをとっているのかを教えてください。

「たいていのものは家で洗う派」伊藤 香里菜の場合

伊藤(香)が洗濯した私物のZIGGY CHENのコート。

伊藤(香):私はCONTEXTや乙景で扱っているような服にとって、経年変化は悪いものではないと思っています。だからしっかり洗って、その経年変化を楽しみたいんです。

加えて、やはり男性と比べたら体が小さいので、少しでも早く自分の体に服を馴染ませるために何でもとりあえず洗ってみるというスタンスをとっています。

__ZIGGY CHENなんかは水洗いNGになっているものが多い印象ですが、洗っちゃう?

伊藤(香):洗っちゃいます。2021-22A/Wに購入したアシンメトリーのコートはヴァージンウールとヴァージンウールコットンメタルの生地で作られていて、当然のごとくドライクリーニングオンリーと書かれていました。

でも試しに洗ってみたんですよ。

__うえ!?コート洗ったの!?

伊藤(香):はい(笑)。でも意外とイケたんです。むしろ洗ったことで柔らかさが増したり、生地が擦れて毛羽立ったことでふわふわ感が増したりして、私にとってはより自分のスタイルにマッチした風合いになりました。

__マジで何でも洗うんだ……。

「アルチザン系はなるべく洗わない派」山口 竜輝の場合

__山口さんはどうですか?

山口:僕はシンプルにビビり散らかした結果として「なるべく洗わない」っていうスタンスをとっている、という感じですね(笑)。

__なんでビビり散らしてるんですか?(笑)

山口:苦い思い出があって……。昔ARCHIVIO J.M.Ribotのシャツをクリーニングに出したんです。

洗濯表示がない服ってクリーニングに出すとものすごく高くって、そのシャツも4000円くらいかかりました。でもいざ仕上がってきたものを見たら、前身頃に大きく斜めに水シミができていて。

__素材はシルク?

山口:いえ、コットンです。コットンで、しかもプロにお願いしてそんな結果になったので、もうそっち系の服を洗うのが怖くなっちゃってるんですよね。

僕が持っているアルチザン系の服って洗濯表示がなかったり、、コットン100%でもドライクリーニングオンリーって書いてあるんです。僕がよく着ているJohn Alexander Skeltonなんかは、ほぼ全て水洗いNGですし。

手洗いOKと書いてあるものならその通りに洗いますが、「水洗いNG」という表示を無視して洗うのは怖いので、できるだけ洗わず、天日干しだけで対応しているんです。

__確かにそんな体験があったらビビっちゃうかも……。

山口:その水シミも、伊藤(香)さんだったら「風合いが出て良くなった」と思えるのかもしれないし、僕もそう思えたらいいんですけど、あの時の傷がなかなか癒えないんです(遠い目)。

「どう着たいかで洗い分ける派」伊藤 憲彦の場合

伊藤私物のTaiga Takahashiのジャケット。

__伊藤(憲)さんはどうして「どう着たいかで洗い分ける派」に?

伊藤(憲):洗わない方がいい服もあるし、洗った方がかっこよくなる服もあるからですね。

洗濯するかどうかって、どういう雰囲気で着たいのか。あるいは着る人がどんなキャラクターの人なのか。洗濯表示の内容や有無にかかわらず、コンセプトに合わせて選べたらいいのかなって思うんです。

自分の中に「こういう風合いが理想だな」というイメージがあって、そこに対してどれだけ洗えばいいのかを一回洗って様子を見て、加減していくみたいな。

洗い方も「これなら洗濯機がいいな」「これなら手洗いだな」とか、状況によって使い分けます。

__最後の加工を自分でやっているような感じ?

伊藤(憲):それに近いかもしれませんね。ワインでもエイジングさせてから飲んだ方が美味しいものもあるし、すぐに開けて飲んだ方が美味しいものもあるじゃないですか。服も同じような感覚でいいと思うんですよ。

洗濯表示というのは、色落ちとか風合いの変化が苦手な人のために「表示通りのメンテナンスをしていれば間違いないですよ」と教えてくれるものだと考えていて。

逆に言えば、色落ちとか風合いの変化を良しとするなら、自分の思うようにメンテナンスしたらいいわけです。

__洗濯表示を無視することへの不安はない?

伊藤(憲):あんまりないですね。例えばウールも羊はもともと外に住んでいて、雨にも耐えていますよね。シルクも糸にする段階でぐつぐつ煮込んで作っています。

そう考えたら、全然問題ないでしょ、って思うんですよ。……まあ、もちろん自己責任ですけど(笑)。

「こんなはずじゃなかったのに……」洗濯で“失敗”したことある?

山口の「苦い思い出」=ARCHIVIO J.M.Ribotのシャツ。写真右下の裾にシミが広がっている。

__先ほど山口さんには苦い思い出について話してもらいましたが、他のお二人は洗濯での失敗談ってありますか?

伊藤(憲):ないですねえ。ポケットにティッシュを入れたまま洗濯した、みたいなのはありますけど(笑)。

伊藤(香):ああ!私も今それ言おうと思ってましたあ!(笑)

山口:え、縮んじゃったとか、裏地のあるジャケットの縫い目がつっちゃったみたいなこともないんですか?

伊藤(憲)&(香):ないなあ……。

伊藤(憲):100年前の洋服の洗濯って、今に比べたらはるかに雑だったと思うんですよ。川の水を使って洗濯板でゴシゴシ洗う、みたいな。

リーバイスのデニムも、本来の労働着だった頃はめちゃくちゃタフに着られていたし、洗われていたはずです。

そう思うと、あんまり洗濯に過敏になりすぎなくてもいいんじゃない、っていうのが僕の考え方かな。

伊藤(香):でも山口さんの気持ちはすごくわかります。私も以前は「ちょっと洗うの怖いなあ」と思ってファブリーズを愛用していた人間だったので。

山口:わかる。ファブリックスプレー×天日干し、めちゃくちゃ多用しています。

伊藤(香):でもCONTEXTに入ってV.O.Fで取り扱う服を着るようになってからは、「この服なら大丈夫だな」というタフな造りのものばかりなので、どんどん洗うようになったんです。

山口:なるほど……。じゃあここからか、僕も!(山口は2021-22A/Wシーズンから乙景に勤務)

伊藤(香):いけいけドンドン、です!伊藤(憲)さんも言っていたように、自己責任ですけど(笑)。

いつ洗うのか、それが問題だ。洗濯・クリーニングのタイミングについて

伊藤私物のTaiga Takahashiのデニムパンツ。

__下着とかはともかく、シャツやライトアウターなんかは洗うタイミングって悩みどころだと思うんですが、「洗う派」の二人は何か自分ルールはありますか?

伊藤(香):私は基本的にお店で買ったあと、最初に一回着たら洗います。そのあとは季節によって変わる感じです。

汗をたくさんかく季節であれば何度か着れば洗いますし、冬場などは「そろそろ洗おうかな〜」みたいな感じで、気分で洗います。去年の秋冬はコロナのこともあって気持ち洗濯の回数が多かったように思います。

伊藤(憲):モノによりますけど、例えばTaiga Takahashiの作品を買った時は家に持って帰ってすぐ洗います。というのも、ブランド側が洗って縮むことを計算に入れて作っているからなんです。

洗って目が詰まると、「ちょっと長いかな」って思っていたパンツの丈もジャストになるし、「けっこう取れやすいな」と思っていたボタンもとれにくくなるんです。本当にすごいですよ、これ。

だからTaiga Takahashiに関しては、なんなら「早く洗ってどうなるか試してみたい!」って思っていますね。

__ZIGGY CHENやJAN JAN VAN ESSCHEはどうですか?

伊藤(憲):これもモノによりますが、JAN JAN VAN ESSCHEはあんまり洗わないかも……。ZIGGY CHENはシャツだったらガンガン洗いますけど、それ以外のものはあんまり洗わないですね。

__それはどうして?

伊藤(憲):ZIGGY CHENってすごく絶妙なバランスの上に作られていると思うんです。昔ながらのファブリックの活かし方、表情の作り方、ディテールの作り込みを、独自のバランスで今風にアレンジしている。

こういう温故知新なクリエイションって、洗濯しすぎてヴィンテージ感が増しすぎると、ちょっとバランスが崩れてくるんです。

もちろんそれもZIGGY CHENの魅力なんですが、東京っていう大都会で着るとなると、あまり土っぽいのは街に馴染まない気がして。

伊藤(香):なるほど……。都会的なバランスでZIGGY CHENを着るなら、そのあたりのバランスは確かに大事かもしれませんね。

山口自宅のクローゼット。

__山口さんはクリーニングに出すタイミングって決めていますか?

山口:思えば2021-22A/Wの服は、何もクリーニングに出してないですねえ……。

アルチザン系の服は汚れたりすればすぐに出していますが、それ以外の服はオキシクリーン(酵素系漂白剤)をピンポイントでつけてお終いです。

__ニオイは気にならないものですか?

山口:さっきお話ししたファブリックスプレー×天日干しで十分カバーできますよ。今のところ、まだ僕は周りから言われたりしたことはないですね(笑)。

__確かに僕は毎週山口さんと会って仕事をしていますが、むしろいいニオイしてる気がします(笑)。

山口:(笑)。肌に直接触れるものは当然ちゃんと洗いますからね。人によるのかもしれませんが、ニオイに関してはそこまで敏感にならなくてもいいんじゃないかなあ。

洗濯道具、洗剤、保管方法———普段の洗濯・メンテナンス術どうしてる?

伊藤(香)が何を洗うにも使う洗濯ネット。

__では最後に、普段の洗濯・メンテナンス術について教えてください。

伊藤(香):私は何を洗うにも洗濯ネットを使います。あと山口さんが話していたオキシクリーンは私も超愛用しています。酵素の力で洗浄するので、色物にも使えるんですよね。

山口:オキシクリーンって日本版とアメリカ版があるんですが、一説によるとアメリカ版の方が汚れを落とす力が強いと言われているんです。本当か嘘かはわかりませんけど(笑)、僕はアメリカ版をずっと使っていますね。

伊藤(香):私もそれを聞いてアメリカ版を使っています。他にはニットなどを洗った時のために、大きな平干し網台も持っていますね。

平干し網台のイメージ。
photo by Trollderella

山口:あ、平干し網台は僕も持っています!

洗濯ネットも最近は多用しますね。洗濯物ってネットに入れないと洗濯機の中でめちゃくちゃに絡まってますけど、あれがけっこう服のダメージにつながるような気がしてて。だから最近は靴下さえネットに入れて洗っています。

あと洗剤も服が傷みにくいかなと思って中性洗剤を使っていますね。

伊藤(憲):僕は特にそういうこだわりはないですね。柔軟剤も使いませんし。せいぜい「粉だと洗いムラが出るかな」と思って液体洗剤を使うくらい……。

あ、でも干す時はシワを伸ばしながら干すようにしています。縫い目のシワなんかはパッカリングだと思って良しとしているんですが、他のところはアイロンをかけずに済むように干しています。

例えば平織の生地って、縦横には伸びませんが斜めに伸びるようになっているから、その方向に伸ばしながら干す、みたいな。

__伊藤(憲)さんは洗わない服もあるというお話でしたけど、メンテナンスはどうしていますか?

伊藤(憲):僕が洗わない服って、ジャケットと一番上にくるアウターなんですけど、本当に何もしてないですね。帰ったらハンガーに吊るだけ。

__ブラッシングもしない?

伊藤(憲):しない。パーティ向けの服みたいなきれいに着るべきものはブラッシングした方がいいんでしょうけど、ZIGGY CHENとかってあんまりそういう服でもないですからね。

まあウールフランネルのスーツを着る機会があったら、スラックスを折り目に沿って畳んで裾の方を上にして吊ってシワを伸ばす、くらいはしますけど……。

__なるほど。ここまで話を聞いてみて、モード・アルチザン服の洗濯には「それぞれの正解」があって良いんだって思えるようになってきました。

伊藤(香):そうですね。洗って初めてわかる服の魅力もありますし、洗わないからこそ維持できる魅力もありますから。

山口:僕は逆に洗濯に対する新しい一歩が踏み出せそうです(笑)。

伊藤(憲):洗うこと、もしくは「洗わない」と決めることで、服と着る人の関係性が深まっていったらいいなと思いますね。ファッションはそういうところも含めて自由なんですから。

__今日はありがとうございました。

<NEWS>
・HED MAYNER 2022S/S COLLECTION “NOMADLAND”の1st deliveryが東西両店に到着。

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語り手/伊藤 憲彦・伊藤 香里菜・山口 竜輝
書き手/鈴木 直人(ライター)