2022S/Sシーズン、買ってよかったものは?【VISION OF FASHION代表・菊地央樹編】
V.O.Fメンバーの「2022S/Sシーズン、買ってよかったものは?」シリーズ、VISION OF FASHION代表・菊地央樹編です。
彼女が紹介してくれるのは、2021S/Sに購入したZIIINのルームウェア、MINMINです。
「2022S/Sシーズン、買ってよかったものは?」シリーズとしては異例ではあるのですが、そこにはファッションや会社の在り方を考える、代表・菊地ならではの視点がありました。
服を買うということ、服を着るということ。ファッションとは切っても切れない行為について、改めて考えるきっかけになるかもしれません。ぜひとも今回もお楽しみください。
「岩手に来てようやく、自分の中で馴染んだなっていう実感がある」ZIIIN・MINMIN
__菊地さんにとって、2022S/Sはどんなシーズンでしたか?
菊地:岩手・花巻の自然と自分自身に向き合った期間でしたね。
岩手に戻って来て長い冬を越え、春・夏っていう良い季節をようやく迎えられたわけですが、想像以上に良いところだなって実感したんです。暖かくなるにつれて目に見えて草木が芽吹いていきますし、雨が降っても楓の葉がしとどになる様子もきれいだったりして。
岩手は日本の鬼門(北東)にあたる土地だとされていて、気候的にも厳しい場所です。そのためデザイン性も大切ですが、以前よりも生活に本当に必要なのかを考えて慎重にものを買うようになりました。
だからこそ今年の秋オープン予定の花巻・kuneでは、都市部でやるようなファッションの提案というよりかは、自分がどうなりたいのか、どういう生活をしたいのか、みたいな部分の提案をしたいと思っています。
そういう意味で、kuneをどうしていくか考える過程で、自分ともじっくり向き合ったし、自分のファッションとの向き合い方も変えていきたいと思うようになった半年間でもありました。
__どういうふうに変えていきたい?
菊地:今までは人というか、街を意識したファッションをしているところがありました。でも岩手に戻って来てからは、これからの自分をどう作っていくのか、そのために何を選ぶのか、ってところを軸にしたいなと思っています。
具体的なところで言うと、草木染めとか天然繊維により強くこだわっていきたいなと。
__そんな中で、菊地さんが一番買ってよかったと思ったのは何ですか?
菊地: ZIIINのルームウェア、MINMINですね。
__あれ、これ今年買ったものじゃないですよね?
菊地:そうなんです。企画趣旨とズレてて申し訳ないんですけど(笑)。
__2020年だか21年の冬に「寒い、寒い」って言いながら、一緒に乙景でサンプルを着たのを覚えています(笑)。
菊地:もうそんな前ですか。懐かしいなあ。ということは、2021年の春頃に買ったってことですね。
__はい。僕もその頃に買っているので。
菊地:ただ去年買った時点では、正直あんまり自分の生活には馴染まないなって思ってて。
__最初はどういう理由で買ったんですか?
菊地:どちらかというと実用性重視ですね。当時は他にあんまり「これだ!」っていうパジャマがなくて、MINIMINの長袖長ズボンだけどすごく薄手の生地で作られているというところに惹かれて買いました。
でも岩手に戻ってくる前に住んでいた大阪・千里中央って、MINMINを着て外に出るような街でもなかったんです。
__千里ニュータウンっていうくらいですから、かなり都会的な街ですもんね。
菊地:そう。もっと言えば、家の中でも僕だけ全身真っ白で、なんとなく浮いてた(笑)。着心地はとってもいいんですが、ちょっと居心地が悪いというか……。
でも冬が終わって暖かくなって、岩手で改めてMINMINを着てみたら「あれ?」ってなったんです。
__それはどうしてだと思いますか?
菊地:MINMINはもともとインドの伝統的なパジャマを再現したものなので、やっぱり自然の風景と馴染みやすい服なんだと思います。勝手なイメージですけど、イスラエルみたいな砂漠地帯の風景とも、なんとなく合うような気もしていて。
ただ一方で、MINIMINはいわばZIIINの“余白”だとも思っているんです。どんな色にも、どんな役割にもなれる。だから草木染めなどを施して色をのせれば、都会に馴染む服にもできそうだなって。
__それはいいですね。白を楽しんだあとに別の色を楽しめるし、草木染めだったら重ねて染める楽しみもありますよね。花巻・kuneでは現在、草木染の工房を準備中なんですよね。
菊地:はい。お客様からお預かりして染めることもできますし、花巻まで来ていただいて一緒に染めることもできるような体制を整えているところです。
稼働し始めれば、各店に1着ずつ草木染めの色サンプルを置いて、お客様の要望があってから染める、みたいなこともできそうです。
ただ、草木染はポリエステルなどの化学繊維になるとうまく染められません。
なので、kuneではファッションを楽しむことをベースにしつつも、天然繊維や環境に配慮したものづくりをしている洋服や雑貨を軸にお店づくりをしたいと考えています。
__天然繊維がベースになっていれば、染め直しなどを通じてお買い上げいただいたあとのフォローアップもできますもんね。
菊地:今はもうデザイナーやブランドだけでも服が売れる時代です。そんな中で、僕たちのような小売店が「売って終わり」なのはちょっと違うのかなと。
もちろん色々なブランドのヒストリーや魅力を、お店の中で組み合わせて伝えていくのも、小売店の大切な役割です。でも弊社VISION OF FASHIONは「お買い上げいただいたあと」にも責任を持てるようになりたいなと思うんです。
リユースサービスARCHIVE OF FASHIONを運営しているのもそのためですし、これからkuneの草木染め工房もそのために準備しています。
__とっても夢のある話ですね、楽しみにしています。では最後に、菊地さんが次に欲しいと思っているものについて教えてください。
菊地:これもちょっと質問の趣旨とはズレるんですが、岩手や花巻の世界観・価値観についてもっと深く学びたいと思っています。
__どういうことでしょうか?
菊地:実は2022-23A/WからZIIINのデザインを僕が担当することになって。そこで自分がどういうプロセスで、どんな服を作りたいのかって考えた時に、昔から惹かれていた花巻の偉人たちをソースにしようと思ったんです。
例えば宮沢賢治とか、高村光太郎といった人たちです。彼らが作り出す世界って、日本的でありながら日本だけに止まらない広がりと深さがあります。宮沢賢治の童話を読んでいると、日本とは思えない、どこか別の国の景色が目の前に広がるんです。
ZIIINも同じです。日本的なものは大切にしていきたいけど、それだけで完結させたいわけではなくって。だから彼らが生み出した表現や世界観を学んで、ZIIINの服作りやkuneの空間作りに活かしていきたいなと思っているんです。
実際、2022-23A/Wでは宮沢賢治が着ていたチェスターコートをベースにしたスペシャルアイテムをリリースする予定ですし、来年の2023-24A/Wでは高村光太郎をイメージソースにしたアイテムを構想しています。
__kuneにせよ、ZIIINにせよ、とても楽しみな話ばかりでした。まずは今年秋のkuneオープン、楽しみにしています!今回はありがとうございました。
<NEWS>
・東西各店にJAN JAN VAN ESSCHE 2022-23A/W COLLECTIONが到着。
▼京都・乙景 Instagram
▼東京・CONTEXT Instagram
▼VISION OF FASHION Instagram
語り手/菊地 央樹(V.O.F代表)
書き手/鈴木 直人(ライター)