【考察】JAN JAN VAN ESSCHE が 2022-23A/W COLLECTION “A HORIZON” で伝えようとしたこと
私、ライターの鈴木が住む関西では、ようやく秋の声がしてきました。東西両店では2022-23A/W COLLECTION “A HORIZON”の作品が好評を博し、多くの人が「今季のヤンヤン、ヤバい……」と感動してくださっているとのこと。
私は前シーズン、2022S/S COLLECTION “CYCLE”について、こんなエールが込められているのではないかと考察をしていました。
“苦しい変化を経験した人、もしくは現在進行形で経験している人にも、きっと希望に満ち溢れた未来が待っている。なぜなら世界は循環(CYCLE)しているから。来るべき夜明けのために、心身を癒し、エネルギーを蓄えよう。”
では2022-23A/W COLLECTION “A HORIZON”で、JAN JAN VAN ESSCHEはどんなことを伝えようとしたのでしょうか。
今回も彼らの今までのクリエイションや、コレクションムービー、そして今季の作品たちから、そのメッセージを私なりに紐解いてみたいと思います。
JAN JAN VAN ESSCHEが取り組む、「現代ヨーロッパの課題」とは?
弊社VISION OF FASHIONのONLINE SHOPでは、JAN JAN VAN ESSCHEについて以下のように説明しています(抜粋)。
“デザイナーは慎ましく自由であり続けることを願い、境界・制限・排他もない世界を思い描いている。ゆえに彼がつくる衣服は文化的な記号(ディテール)や自身のエゴが最小限に抑えられているほか、性的な記号からも自由である(ジェンダーレス)。”
JAN JAN VAN ESSCHEはブランド創設以来、境界・制限・排他を乗り越えようとしてきました。東洋的な衣服を西洋の技法で再解釈してきましたし、その逆にも取り組んできました。
モデルには男女はもちろん、様々な人種、体格の人を採用してきましたし、いわゆる「男性が着る服」「女性が着る服」という線引きもしていません。
こうした種々の境界線(=HORIZON)を乗り越える試みは、現代ヨーロッパをはじめとする先進国が今まさに取り組んでいる課題です。
境界線とは、近代ヨーロッパが引き始め、現代日本がいまだ営々と引き続けている「世界の境界線」です。これにはたくさんの意義がありますが、むやみに線を引くとうまくいかないことも出てきます。
わかりやすい例で言えば、19世紀末から20世紀初めにヨーロッパ列強が行ったアフリカ分割でしょう。アフリカの地図を見ると不自然に直線的な国境がありますが、これは当時のヨーロッパが自分たちの都合で、文字通り紙の地図の上に(おそらく定規を使って)境界線を引いたからです。
20世紀半ばにアフリカ諸国は独立を達成しますが、国境紛争は現在に至るまで続いています。その大きな原因の一つが、この不自然な国境にあると言われています。
性別、人種、性同一性、年齢、容姿……他にも境界線が社会や組織の機能不全を引き起こしている例はたくさんあります。しかし、現代ヨーロッパはこの線だらけの世界に限界があることに気づいています。
だから各国が様々な形で境界線をなくす取り組みをしていますし、JAN JAN VAN ESSCHEもクリエイションを通じて境界線を乗り越えようとしているのです。
今回の彼らのコレクションからは、そのコンセプトへのより強い意志を感じます。
これは2022-23A/W COLLECTION “A HORIZON”のコレクションムービーの概要欄に書かれている文章とその翻訳です。
「障害となるものを取り除き」
「全体とお互いを理解する現代的な方法」
「既成の条件付けを打破する」
といった言葉からは、既存の境界線を乗り越えて前に進もうというメッセージが伝わってこないでしょうか。
コレクションムービーで描かれたのは「越境者たち」
コレクションムービー本編とそこに添えられた詩(※)からも、同じメッセージが読み取れます。以下はムービーの概要を文章にまとめたものです。鑑賞の参考にしていただければ幸いです。
※以前JOURNALで取り上げた、HAND WOVENシリーズの職人Lamine Diouf氏の作品。
続いて以下は、ムービーの中で朗読されている詩の英語全文と、翻訳ソフトによる直訳、そしてライター鈴木が作成した意訳です。これもまた、鑑賞の参考にしていただければと思います。
いかがでしょうか。ムービーと詩から、曖昧模糊な世界の中で悩み、もがきながら境界線を乗り越え、前進していく人々の力強さを感じた人も多いのではないでしょうか。
2022-23A/W作品で表現された「HORIZON」
ではこうしたコンセプトは、どのような形で作品に反映されているのでしょうか。
2022-23A/W COLLECTION “A HORIZON”には、ボーダーやストライプが頻出します。VISION OF FASHIONの取り扱い作品だけでも、KNIT、SHIRTS、SWEAT、TROUSERS、KIMONOと多くの作品にボーダー、ストライプの生地が使われています。
ただし、よく見てみると、今回使われているボーダー、ストライプの線は、「はっきりと境界を示す」線ではなく、どこかぼんやりとボカされたような線であることに気づきます。
さらにSUMI DENIMやDUST BOILED VOILEのように、一見しただけではボーダーやストライプといった柄がないものでも、織地(SUMI DENIM)や縮絨(DUST BOILED VOILE)で線を見つけられる生地もあります。
コレクションムービーの中でも、波や草葉、背景と人との境界をピンボケさせて映す場面がありましたが、これを生地を使って実践したのが今季の作品たちなのです。
試着をしたり、買って着たりしていけば、「もしかしてこれもコレクションテーマとリンクさせているのでは?」ということが見つかってくるかもしれません。
もし見つけたら、ぜひ店頭スタッフまで教えてください。一緒に考察を楽しみましょう。
僕たちの中にある「境界線」と向き合うこと
2022-23A/W COLLECTION “A HORIZON”の作品は、比較的普段のスタイリングに取り入れやすいものが多いので、純粋におしゃれをして楽しむだけでも十分すぎるほどの魅力があります。
ただ、私は何でもかんでも小難しく考える人間なので(笑)、デザイナーが伝えようとした何かを汲み取り、それを自分の生き方や考え方に取り入れるのも、ファッションの楽しみ方の一つだと考えています。
今季のJAN JAN VAN ESSCHEで言えば、やはりキーワードは境界線(=HORIZON)です。
「**と自分は違う」
「**はこういうものだ」
「**は自分にはできない」
自分が日頃引いている境界線を疑ってみる。あるいは得てして境界線は無意識に引いてしまうものですから、気づいていない境界線を目を凝らして探してみる。
JAN JAN VAN ESSCHEの導きに従って、自分の中にある境界線と向き合っていけば、きっと変化や成長につながるはず。そんなふうに私は感じています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。これを読んで「ふーん、そんな服の考え方もあるのか」と少しでも思っていただければ、こんなに嬉しいことはありません。
Clothing:
Jan-Jan Van Essche – @janjanvanessche #janjanvanessche
Film:
Ramy Moharam Fouad – @ramymfouad
Jordan Van Schel – @jordanvanschel
Music:
Willem Ardui – @willem_ardui
Shoes:
Petrosolaum – @petrosolaum
<NEWS>
・東西各店にJAN JAN VAN ESSCHE 2022-23A/W COLLECTIONが到着。
・東京・CONTEXTにUMA WANG 2022-23A/W COLLECTIONが到着。
・東西各店にZIIIN 2022-23A/W COLLECTIONの第一便が到着。
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書き手/鈴木 直人(ライター)