ピクトリアリズムから見る写真加工の文化 – 「写真を盛る」のは今も昔も同じ?

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ピクトリアリズムから見る写真加工の文化 – 「写真を盛る」のは今も昔も同じ?

引用:Wikipedia

人は自分をよく見せたいものです。

ファッション好きな人であれば、自分をよく見せるために好きなブランドの服を着たり、憧れのスタイルに挑戦してみたりしますし、どんな人でもどうせ写真に写るならできるだけカッコよく・可愛く見せたいと思うものです。

昨今流行の「映え」や「盛る」はこうした技術が作り出した「自分をよく見せる文化」と言えるでしょう。

ところでこうした「現実に手を加えて、写真をより良く見せる文化=盛り文化」って、つい最近出てきたものだと思っている人も多いんじゃないでしょうか。実はこれ、昔の時代の人たちも似たようなことをやっているんです。

今回は19世紀末に一大ブームを巻き起こした「ピクトリアリズム」に注目して、盛り文化の歴史を覗き見てみましょう。

昔の時代の写真加工「ピクトリアリズム」の表現って?

引用:Wikipedia

100年以上前に流行した盛り文化の一つが、19世紀末の写真業界にあった「ピクトリアリズム(絵画主義)」という動きです。その特徴は「写真を加工して、わざと絵画風に見せる」ことでした。

代表的な技法にゴム印画法というのがあったのですが、作業工程はこんな感じです。

① アラビアゴム・顔料・重クロム酸カリを混ぜた溶液を水彩用紙などに薄く塗って、乾かす。
② ネガを密着させて太陽光で焼き付けた後、冷たい水で流して現像する。
③ ①と②を何度も繰り返して、イメージする画像の表現を作りだす。

といってもこの説明だけでは、どんな仕上がりになるのか想像しにくいと思うので、実際の作品を見てみましょう。

アルフレッド・スティーグリッツ “Spring Showers, the Coach”
引用:Wikipedia

こちらは近代写真の父であり、ピクトリアリズムの代表的な写真家アルフレッド・スティーグリッツの作品です。

ゴム印画法によって現像までの行程を何度も繰り返すことで、わざとぼかしたような加工が施されています。

クラレンス・H・ホワイト”Morning “
引用:Wikipedia

これはピクトリアリズム写真家のクラレンス・H・ホワイトの作品です。カメラの技術は15世紀からコツコツと進歩してきていたので、当時の写真技術ならもっと鮮明な写真を撮ることができました。

しかし彼の作品は加工によってぼんやりとした(ソフトフォーカスな)仕上がりになっています。

せっかくきれいな写真が撮れる技術があるのに、どうしてこの時代の人たちはわざわざ写真をぼかそうと思ったんでしょうか?

それはピクトリアリズム写真家たちが「もっと写真を芸術として見てくれよ!」という思いを持っていたからです。

というのも、当時の写真はあくまで記録用の道具としてしか認識されておらず、芸術として考えられていなかったのです。

ピクトリアリズム写真家たちはそうした状況を変えるために、芸術としてすでにメジャーだった印象派の表現を参考にして写真に加工を施したというわけです。けっこう戦略的ですよね。

クロード・モネ「印象・日の出」
引用:Wikipedia

この目論見は大成功。ピクトリアリズムは大衆に受け入れられ、その後写真はアートとしても認められるようになっていきました。

現代の私たちが写真をアートとして捉えられているのは、ピクトリアリズム写真家たちの努力の結果とも言えるのです。

ピクトリアリズムは今でも存在する?

19世紀末にピクトリアリズムが提案した盛り文化ですが、21世紀の現代でも似たようなことをやっている写真家がいます。

例えばこの写真。現代写真家の高木こずえさんの作品です。わざとピンボケさせたような表現や幾何学模様を合成した作品が特徴で、加工を重ねて思い描く表現を作り出していくそうです。まさにピクトリアリズム!

でもピクトリアリズム的な行為ってもっと身近にもありますよね。そう、現代の盛り文化と言えばプリクラやInstagramです。

最近ではInstagramとは別に様々な写真加工アプリがあって、そこで加工した写真をInstagramに投稿する人もたくさんいます。中には40代、50代の男性を10代の美少女に加工できるアプリなんてものもあるそうです。

15種類当時のフィルター(Instagram 初期)。
photo by Ragesoss
引用:Wikipedia

Instagram自体にも盛り機能は満載です。例えば写真の色味を変えるフィルター機能は、気分に合ったフィルターを決めるだけでがらっと写真のムードが変わりますよね。

カメラをかざすと簡単に犬になれたり、猫になれたりするエフェクト機能も、言ってみれば犬や猫などの圧倒的に可愛い存在の力で、本来の自分を盛っているわけです。

こうして考えると、動機がずいぶん違っているとはいえ、現代の「映え」「盛り」の文化もざっくり(あまりにもざっくりですが)見れば19世紀末に生まれたピクトリアリズムの末裔と言えるのではないでしょうか。

脈々と続く「写真を盛る文化」

Instagramをはじめとする「加工して本来の写真を変える」という行為は、実は100年以上も前からずーっと続いている文化です。

最近ではVR(仮想現実)やAR(拡張現実)の登場でアバターなるものが生まれ、自由自在に自分を加工できる時代がやってきました。こうなってくると「現実」とか「本来の自分」といったものの定義すらも曖昧になってきます。

これからどんな写真や加工が流行するのか注目してみると、もっとたくさんのピクトリアリズムとの共通点が見つかるかもしれませんね。

<参考>
『カラー版 世界写真史』(美術出版社)

<NEWS>
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書き手/伊藤 香里菜(CONTEXT TOKYOスタッフ)
編集/鈴木 直人(ライター)