なぜAライン・Yラインは美しく見えるのか? – 歴史・美学で考えるファッションのシルエットの楽しみ方
シルエットはファッションの基本。
ファッション雑誌などを読んだことのある人なら、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。シルエットにはいくつか種類があって、Aラインシルエット、Iラインシルエット、Yラインシルエットなどと言われます。
下にボリューム(幅や丈など)の大きな服を着て、上にボリュームの小さな服を着ることでできあがるのがAライン。上下のボリュームを絞って作るのがIライン。そして上のボリュームを大きくしてできあがるのがYラインです。
こうした説明はあちこちであるのですが、「じゃあ、そもそもなんであのシルエットがおしゃれに見えるの?」とか「シルエットごとに見た目の印象はどう変わるの?」みたいな話ってあんまり聞かない気がします。
恥ずかしながら、V.O.Fでライターを務めるわたくし、鈴木もこういったシルエットの深い部分についてあまり考えてきませんでした。
そこで今回は、ファッションにおける3つの基本シルエットのうち、AラインシルエットとYラインシルエットを取り上げて、そのあたりのことを歴史と美学の視点から考えてみたいと思います。
歴史から考える「Aライン・Yラインが美しく見える理由」とは?
上図を見てもらうとわかるように、アルファベットのAとYのアウトラインは、実はどちらも三角形です。この三角形というところが、Aライン・Yラインが美しく見える理由なんです。
というのも、人間は三角形に対して、歴史的に美や神秘を感じてきたからです。
例えばピラミッドは古代エジプトの王墓として建設され、王が天に昇る階段としての役割があったとされています。
三角形を2つ組み合わせた六芒星は、イスラエルなどの国旗に使われているほか、日本では魔除の印として使われてきました。
また、京都発祥の「水無月」は、毎年6月30日を中心に神社で行われる厄払いの儀式「夏越祓(なごしのはらえ)」の際に、厄除のまじないとして食べられる和菓子。これもまた三角形です。
僕たちの生活に馴染み深いおにぎりも三角形ですが、この形は山岳信仰の神様である山をかたどったことに由来している、という説もあります。
こうした歴史を考えると、三角形のアウトラインを持つAラインシルエットとYラインシルエットが美しく見える、つまりおしゃれに見えるのは当然と言えば当然なのです。
『ゲルニカ』と『叫び』から考える、Aライン・Yラインの違い
では続いて、美学の世界を通じて、AラインシルエットとYラインシルエットが持つ違いについて考えてみましょう。
実は美学理論の世界でも三角形は美の基本です。そのうち三角形(Aライン)は安定を、逆三角形(Yライン)は不安定を表すとされています。
例えばパブロ・ピカソの『ゲルニカ』は、キュビズムという技法もさることながら、画題もナチス空軍による虐殺と、かなり激しい絵です。
にもかかわらず、この絵にはなんとも言えぬ静けさが漂っています。まるで神話を描いるかのような神々しささえ感じます。
なぜなのか。その理由の一つが三角形なんです。
というのも、この絵には中央上部の手に持たれたランプを頂点として、画面全体に大きな三角形が描かれています。そして、左側の辺は倒れた人物に、右側の辺は中腰になった人物の膝へと伸びており、全体も三角形で構成されています。
これが『ゲルニカ』に画題とは裏腹な、神秘的な静けさをもたらしているのです。
これに対して、エドヴァルド・ムンクが描いた『叫び』は逆三角形の構図を使っています。
本作はムンクの作品の中でも「フリーズ・オブ・ライフ(生命のフリーズ)」と称された作品群のうちの一作です。テーマになっているのは愛と死と、そこからくる不安。題材になったのは、ムンクが見た不安に震える夢です。
これらを表現するために、ムンクが選んだのが逆三角形の構図でした。画面の左右に広がる不穏な色の空が逆三角形の底辺。頂点は画面中央で叫んでいる人物です。
これにより『叫び』は、不安定な印象を生み出している、というわけです。
スタイリングの印象は、シルエットでコントロールできる
ここまでの内容を踏まえたうえで、AラインシルエットとYラインシルエットが生み出すイメージをいろいろな言葉で表現してみると、以下のように言えるでしょうか。
・Aラインシルエット
安定、静けさ、落ち着き、柔らかさ、優しさ、上品さなど
・Yラインシルエット
躍動感、活動的、力強さ、スピード、スマートさなど
以下ではこれらの言葉を念頭において、実際にCONTEXT TOKYOと京都・乙景で撮影したスタイリングを見てみましょう。
こちらはZIIINのAVENOにHED MAYNERのリネンパンツ、SCHAのハットを合わせたAラインシルエットのスタイリングです。
ZIIINのAVENOはワイドシルエットのチュニックですが、裾をタックイン、袖をロールアップすることで、ボリュームを抑えています。これにより、パンツのボリュームが際立ち、きれいなAラインシルエットになっています。
真っ白なリネンの素材感も合わさって、Aラインの魅力である柔らかさや上品さが前面に出たスタイリングと言えます。
こちらはZIIINのTENGUと、ロシア軍のスリーピングシャツを合わせたAラインシルエットのスタイリング。
TENGUはややテーパードのかかったパンツなのでYラインになるのでは、と思うかもしれません。
しかしワイドシルエットであることと、サスペンダーがあるぶん、トップスに比べてパンツのボリュームが大きく見えるので、Aラインに分類されます。
実際、このスタイリングのどっしりとした安定感は、まさにAラインシルエットのものです。
こちらはZIGGY CHENのJACKET Art.#934(SOLD OUT)とヴィンテージのグルカショーツを合わせたYラインシルエットのスタイリングです。
グルカショーツはワイドなシルエットが特徴のショーツですが、丈が短いぶん、下のボリュームが少なくなります。そのため、よほど上をタイトにしない限り、Yラインシルエットになります。
ショーツだということもあり、Yラインの特徴である躍動感が前面に出ています。
こちらはZIGGY CHENのSHIRT Art.#710とドイツ軍のパンツを合わせたスタイリングです。
ふわりと風をふくむZIGGY CHENのシャツは、ボリュームが大きく見える膨張色の生成り。対してやや細身のドイツ軍のパンツは、カラーもきゅっと引き締まるモスグリーンです。
これにより、スマートさを感じるYラインシルエットが生まれています。
確かにスタイリングの印象においては、色や素材感も大切です。しかし、シルエットをきちんと作るだけでもガラリと変えることができるのです。
シルエット選びはファッションの「楽しみ」の一つ
このように、シルエットへの理解を深めていくと、「今日はバリバリ頑張りたいからYラインにしよう」とか「今日はゆったり過ごしたいからAラインにしよう」みたいな感じで、その日のシルエットを選べるようになります。
つまるところ、気分に合わせてシルエットを選ぶというファッションの楽しみが生まれるんです。実際僕も最近は、その日会う相手や、仕事をする場所に合わせたシルエットを選ぶのが楽しくなってきました。
みなさんはどんなアイテムの組み合わせで、どんなシルエットを作りますか?ぜひ日々のファッションの中に「シルエット選びの楽しみ」を取り入れてみてください。
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・6月より土・日・月曜日の営業に変更。
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書き手/鈴木 直人(ライター、ONLINE担当、乙景販売スタッフ)