<ZIIIN 20SS&AW>のテーマとその背景 1年を経てデザイナーの中で起きた変化とは?
京都・乙景店主中村憲一をデザイナーとする、V.O.F発のブランドZIIIN。21SSコレクションのスタートまで1ヶ月を切りましたが、皆様にお披露目させていただくまでは、もうしばしお時間を頂かなければなりません。
そこで今回はきたる21SSコレクションを前に、これまでの20SS・20AWコレクションのテーマとその背景、そして1年間を通じてクリエイションに起きた変化について、中村に直接話を聞きました。
ZIIIN 2020SS———激動の年に生まれた「癒し」のための衣服
__20SSはZIIINにとっての1stコレクションであり、コロナウイルスの世界的蔓延という大きな出来事の最中のコレクションでしたね。
はい。20SSのデザインを始めた頃は、ちょうどコロナで世間がざわつき始めた頃ーーー20年の冬ごろでした。それが春が近づくにつれて一気に世の中に蔓延して、あっという間に私たちの生活を変えていきました。
それまでもJAN JAN VAN ESSCHEやZIGGY CHENといった素晴らしい服がある中で、自分がわざわざ服を作る意味は何なんだろうと考えていましたが、世の中が大きく変わるのを目の当たりにして、なおさら深く考えるようになりました。
その中で生まれてきたのが、20SSのテーマ「新月」「内なる自然」「魔法」です。
__一つずつ教えてください。
新月はご存知の通り、1ヶ月に一度月と太陽がぴったりと重なり、真っ暗闇になる夜のことです。太古の人たちにとってこの夜は特別で、人々は月のない夜空に向かって祈りを捧げたそうです。
「自分の作る衣服がポジティヴな力を持ち、皆に届きますように」と、そういう祈りを込めてZIIINは「新月」の日を選んでローンチしました。ZIIINのプライスタグにも新月が描かれています。
__続く「内なる自然」というのは?
自分自身の深いところにあるもの、というのでしょうか。この頃は、解剖学者・発生学者の三木成夫さんが書かれた人間の身体についての本を読んでいたんですね。
そこには人体は自然であり宇宙と交信している、ということが書かれていて、とても興味深かった。それをきっかけに、自分の深いところまでみつめていったのですが、その中で心が知らずのうちに傷ついていたこと、自分が誰かを傷つけてしまっていたことに向き合ったんです。
__それはどういったことでしょうか?
過去の出来事として、心の傷が無数にあったし、誰かの傷にも目を背けて気づかないふりをしていた。逃げていたんでしょうね。
同時に、私以外の人たちも同じなのではないかと思いました。コロナ以降私たちの行動は制限され、家にこもる時間も増えました。そのとき、私を含めた多くの人が色々なことを考えたと思うんです。
__自分や家族と向き合う時間が長くなったという声をよく聞きますね。
私と同様、自分の心や体が、想像以上に疲れ傷ついたりしていることに気が付いた人も多いのではないでしょうか。
人間も自然の一部です。休むときは休まないと、樹木のように枯れてしまう。自分の「内なる自然」で癒し治す、自然治癒力のようなもの−−−ZIIINの服が触媒となって、着る人の内側にそういう力を生み出せたら、自分が服を作る意義があるのではないかと考えました。
__そうしたインスピレーションは、どのような形で反映されたのでしょう?
20SSは主に色、視覚を意識しました。その頃は、色の持つ力で何かできないかと、カラーチャートの本ばかり読んでいました。
白や生成りといった柔らかな色のほか、ZIIINの定番パンツDARMAでは、神秘的な力を連想する深い紫や、神社の鳥居に通じるようなべんがら色を使いました。
__最後の「魔法」について教えてください。
そうやって多くの人が半ば強制的に内に閉じこもることになったわけですが、結果として世の中には暗いムードが垂れ込めるようになりましたよね。
__「コロナうつ」みたいなワードも、テレビやネットでよく見かけました。
その暗いムードを少しでも変えたかったんです。コロナウィルスが突如現れた悪魔のようでしたから、こちらも自らを護らなくてはいけないと思った。
それで、今までの自分が培ってきたダークカラー中心のファッションから、まるで変身したかのようにトーンの異なる鮮やかな色を使ってみました。世の中のムードに対する、自分なりの反抗だったのかもしれません。それが魔法というワードになっています。
FAUSTというカットソーは、気分を明るくしたいという思いが一番強く現れたアイテムですね。ビビットなパープル、ピンクやミントなど、感情を鼓舞するような色を使いました。
__20SSのアイテムは、今年の春夏シーズンも店頭やオンラインで見られると聞きました。
はい。いろいろな事情が重なって20SSはローンチが6月になってしまった。にもかかわらず張り切って作りすぎて(笑)、けっこう残ってしまったんですよ。
他のアイテムもそうですが、例えばFAUSTはデザインも普遍的ですし、品質もオーガニックコットンでタッチ感にもこだわっています。後染で面白く変身出来ることが実験で分かったので、春にお披露目します。
__価格は去年と変わらず?
いえ、再度見直しました。実はZIIINは21SSから抜本的に販売の仕組みを見直し、より手に取りやすい価格帯に引き下げることができました。
過剰在庫を持たずセールの乱発や廃棄をすることせず、販売はWEBと自社店舗の東京contextと京都乙景のみの展開にします。このおかげで21SSは去年に比べてかなり価格を引き下げられた。
20SSのアイテムの価格も、そこに合わせて引き下げる形です。
__去年は少しハードルが高く感じた人も、今年はチャレンジしやすくなりそうですね。僕は勝手に「日本の夏はZIIINが最高説」を提唱しているので(笑)、ぜひより多くの人にZIIINの服を着て過ごす春夏を味わって欲しいです。
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ZIIIN 2020AW———「孤独のなか、より深く着る人を癒してくれる服を」
__20AWコレクションはどのようなテーマで服を作っていったのですか?
「孤独」ですね。孤独という言葉はネガティブなイメージで捉えられがちですが、私の中ではむしろ前向きな意味を持っているんです。
__どういうことでしょうか?
20SSのところで「癒し」について触れましたが、孤独というのは一人になって、ゆっくり自分で自分のケアをする時間だと思うんです。そういう意味では20AWは、より深く自分を癒すというイメージで服を作っていきました。
世の中が不安や闇といったイメージのなかで閉じこもった20SSから、もっと深く一人物思いにふけったり、過去を振り返ったり、傷を手当てしたり。さまざまな問題から逃げずに冷静に見つめ続ける−−−20AWはそういうイメージでした。
__そのようなイメージは、どのような形で反映されましたか?
__一つずつ教えてください。
タッチ感については、KOHBOUやANGOで使った起毛しているコットン、MIROKで使った柔らかいウールフラノ、DARUMAで使ったヘンプウールなど、どれも肌に優しく、着ていて気持ちの良い物ばかりを選びました。
__僕はKOHBOUとMIROKを持っていますが、あまりに気持ちよくてついZIIINばかり着てしまいます。
ありがとう。
__色についてはどうでしょうか?
目で見て癒されるような、優しい色合いを選びました。20AWに関しては、黒はポイントでしか使っていませんね。
__それは以前のインタビューで伺った、「街の景色と人を自然に調和させたい」という思いからでしょうか?
街と自然に調和する服、それをいつも考えています。
__中村さんにとって、日本の街と自然に調和する服とはどんなものですか?
着心地にせよ、色にせよ、もっとリラックスした服ですね。というのも、バイイングのためにヨーロッパに行くと日本は朗らかな国だなぁ、感じるんです。
__どういうところで感じますか?
太陽の光の質からも感じますし、日本の神話を読んでもそう思いますね。
__どういうことでしょうか?
ヨーロッパの光は柔らかく優しく、光と影のコントラストは日本に比べて繊細な印象があります。その影響なのか、ヨーロッパ文化における美には、根っこにほの暗いものがあると感じます。
絵画やモードブランドに見られるような、退廃的なムードやゴシックな世界観は、そうしたところから来ているような気がしていて。
対して日本の太陽は明るくて、ときに眩しいほどです。光と影のコントラストも1年を通じて強い。こうした違いが文化に与える影響は大きいように思います。
__神話の面ではどうでしょうか?
例えば天岩戸(あまのいわと)伝説なんて、よく読むと日本人の本質が現れているような気がします。
__天照大神(あまてらすおおみかみ)が建速須佐之男命(すさのおのみこと)のイタズラにショックを受けて天岩戸という洞窟に閉じこもったという。
そうです。太陽神である天照が閉じこもると世界は真っ暗闇になってしまう。
これは困った、と言うことで、神々が天照の気を引くために洞窟の前で裸踊りをしたりして、馬鹿騒ぎをする。そしてそれにつられて顔を出した天照大神を神々が引っ張り出すお話です。
__確かに、そう考えてみると全国各地にあるお祭りなどにもポジティブな文化が見られますね。
だから私は日本をどこか漫画っぽいというか、コミカルな文化を持っている国だと思っていて。 京都が産んだ偉人、みうらじゅんさんもそうおっしゃっています(笑)。
もちろん「退廃的」「ゴシック」という文脈のファッションも憧れて若い時期にたくさん着てきました。そこはモードにおける通過儀礼です。
そういう時期も経験したうえで、今は日本人のメンタリティを持った、日本の文化やその文化が反映された街の景色に馴染む服が着たいんです。
__20AWは現在セール価格で店頭・オンラインで展開中ですね。
はい。一部商品を除き、40%オフになっています。ぜひこの機会にお試しいただきたいですね。
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「物ありきではなく、人ありきの服作りを」デザイナーの中で起きた変化とは?
__1年ほどZIIINの作品を作ってきたわけですが、何か自分の中で変化はありましたか?
より「人」を意識するようになりましたね。デザインを作る時「あ、この服は誰それに似合いそうだな」とか「あの人にはこういう服を着て欲しいな」と考えるのですが、その「誰それ」「あの人」をより具体的にイメージするようになりました。
友人、アーティスト、道ゆくおじさんにも勝手にZIIINを着せています(笑)。
__20SSのときは違ったのですか?
もっとぼんやりしていました。私は長年ショップに立っていましたので、スタイリスト脳なのだと思います。細かいディテールも大切ですが、それに執着したくないんです。その服を着た人が輝いているかどうか、に関心が強いんだと思います。
__出発点が物ではなく、人にあるということでしょうか?
そんなところですね。大切なのは対象だと思います。
__次回のブログはいよいよ21SSについてお話を伺いたいと思います。引き続きよろしくお願いいたします。
聞き手/鈴木 直人(ライター)
語り手/中村 憲一(京都・乙景)