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「安い」以外の古着の価値ってなんだろう?―――博物館学と古着のつながり

こんにちは、CONTEXT TOKYOスタッフの伊藤香里菜です。

先日、大学で「博物館学」という学問を勉強する中で、古い資料に対する考え方を学びました。

それは、「古い資料の価値とは、資料自体の希少性だけではなく、受け継がれてきた経年変化にもある」ということ。

これは博物館の資料だけではなく、私たちが普段着ている衣服、特に「古着」にも同じことが言えるんじゃないかと感じています。

というわけで今回は、博物館学の視点から「古着」の価値について、そして服を買う・売る行為について考えてみました。

古着が「資料」になるかもしれない―――「博物館学」と「古着」の深い繋がり

引用:Wikipedia

博物館学を一言で表すと「博物館をどのように運営して、充実させるか考える学問」です。

博物館に展示される「資料」は学芸員によって研究され、人類にとって未来に残す価値のある遺産と考えられています。

例えば上の写真は、継ぎはぎだらけの「襤褸(ぼろ)」。19世紀後半のものです。

一見すると「ただの古い布」ですが、博物館学の視点で研究すると、無作為に縫い付けられ、何層にも重なった布が生み出す美しさは、再現が非常に難しい唯一無二のデザインとして評価できます。

また、布の補強や保温のために施された刺し子の技術も、当時の衣生活を知る重要な手がかりであり、襤褸は博物館によく収蔵されています。

このように、ある視点から見れば価値がない古いものでも、さまざまな切り口から研究することで、博物館資料レベルの価値を持つ可能性があるのです。

そう考えると、「古着を着る」ということは「歴史的な資料になる可能性がある衣服を着る」ということだと言ってもいいんじゃないかと私は思います。

今日のファッション市場で言えば、アンティークやヴィンテージは既に歴史的な「資料」としての価値を感じやすいアイテムでしょう。

こちらは1920年代頃のフレンチヴィンテージ。(東京店舗限定)

手織りで織られたリネンに手縫いで仕上げられた味わい深いアイテムで、特徴の一つである平面的なパターンは、20世紀初頭の大量生産の到来を感じさせます。

ヴィンテージを着る良さは、長い期間生き延びてきたからこその経年変化や当時のものにしかないディテールにありますよね。これは、先ほどの襤褸で言えば「再現が非常に難しい唯一無二のデザイン」と同じこと。

このように博物館学が掲げている資料の価値の考え方は、ヴィンテージなどの古着を着る行為と深く繋がっているんです。

「古着を買う」=「歴史のバトンを引き継ぐ」

このように考えると、「古着を買う」ということは古着が経年変化やそのディテールによって蓄積してきた「歴史」のバトンを引き継ぐということだと言えます。

だとすれば、CONTEXT TOKYOや乙景で取り扱っている現代ファッションの古着だって、バトンを継承できるのではないでしょうか。

なぜなら持ち主を変えながらも捨てられずに着続けられることで、古着は歴史の代弁者となるからです。

例えば、乙景の店主・山下さんは、私物である2000年初頭のTHOM BROWNEのブレザーから歴史を感じると話してくれました。

首元のトリコロールテープやポケットについたタグなど、アイコニックと呼べるディテールは、当時のコレクションブランドではあまり見られなかったらしく、山下さんの目に新鮮に映ったそうです。

しかし今となってはブランドロゴは当たり前になり、THOM BROWNEが提案したクロップド丈のパンツや、シャツをタックインするスタイルも、多くの人が取り入れていますよね。

THOM BROWNEのデザインは、当時のファッションに新しい風を吹かせ、今のファッションへと繋がる先駆けだったのでしょう。

ARCHIVE OF FASHION(A.O.F)では、こうしたブランドの価値や歴史、デザイナーの想いを汲み取り、それらを次のオーナーへと受け渡すお手伝いをしています。

「古着を買う」ということは、こういった当時の服からしか感じられない歴史も一緒に引き継ぐことが含まれているんです。

また、「現代ファッションの古着」が実際に「博物館の資料」になった例もあります。

文化服装学院に併設されているコスチューム資料室にある、1970年代の高田賢三の作品の一部は寄贈した職員が当時着ていたもの。まさに私たちが普段の会話で使うような意味での「古着」をコレクションしているのです。

文化学園服飾博物館で行われた「高田賢三回顧展」でも、そのアイテムは資料として展示されていました。この例は現代ファッションの古着が十分博物館資料になれるということを証明してくれています。

「古着を売る」=「歴史のバトンパス」

ここまでの内容を踏まえると、買うことの反対である、売る行為は「歴史のバトンパス」と言えるでしょう。

自分が着ることで生まれた経年変化も、博物館の資料と同じように「歴史の一部」と見なされ、受け継がれていく可能性があるというわけです。

東西各店で行っている服のお買い取りは、まさにバトンパスが行われる瞬間。お買い取りさせていただくことでお預かりしたバトンは、A.O.Fを通じてまた別の誰かに託させていただきます。

例えばこちらは、オリエンタルなストライプ模様が印象的な、昔のKENZOの巻きスカート。若い女性のお客様からお預かりしたバトンです。

2000年代初頭のものということを考えると、おそらく「古着」で購入したのでしょう。誰かから受け継いだバトンを、CONTEXT TOKYOにもう一度託していただいた、というわけです。

特徴的な模様や色使いは、当時クリエイティブ・ディレクターを務めたアントニオ・マラスのもの。今のKENZOでは見ることのできないデザインに触れ、私自身も「これは歴史のバトンパスだな」と強く感じるアイテムでした。

その後この巻きスカートは、大学生の男性の方が購入してくださいました。ジェンダーの壁を越え、ファッションの多様性を感じる現代だからこそ実現した歴史のバトンパスですよね。

このように「古着を売る・買う」行為の中には、「歴史の引き継ぎとバトンパス」という意味が含まれています。

それが絶えず繰り返されることで、時が流れ、いつしか博物館の資料レベルの歴史的な価値が備わっていくのです。

私たちが着ている衣服は「歴史の一部」だ

古着は、博物館の資料くらい貴重になりうる可能性を秘めています。

古着を売るのは「歴史のバトンパス」、そして、古着を買うのは脈々と続いた「歴史のバトンを引き継ぐ」行為だとも言えるでしょう。

普段何気なくやっているファッション消費ですが、実は人類の「歴史」という大きな物語と密接に繋がっているのかもしれません。

どんな衣服の歴史を引き継ぎ、未来に残したいか。服を選ぶ時に頭の中で考えてみようかなと思った筆者でした。

〈参考文献〉
・文化学園服飾博物館,2021,「Dreams -to be continued- 高田賢三回顧展」,文化出版局.

<NEWS>
・ZIIIN 2022S/S COLLECTION “KANON”の3rd deliveryが東西各店に到着。ONLINE SHOPにも掲載中。
・HED MAYNER 2022S/S COLLECTION “NOMADLAND”の1st deliveryがONLINE SHOPに掲載。

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書き手/伊藤 香里菜(CONTEXT TOKYO スタッフ)
編集/鈴木 直人(ライター)