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【ZIIIN 2022SS “ KANON – 観音”】デザイナーインタビュー シーズンテーマとニューモデルについて

すっかり汗ばむ日も増えてきた今日この頃、2022SSのアイテムが本格的に活躍してくれる気候となってきました。

そんな中、お待ちかねの方も多いZIIIN 2022SS “ KANON – 観音”から東西各店に2nd deliveryが到着しています(ONLINE掲載はゴールデンウィーク明け以降を予定しております)。

明日29日からは花巻・盛岡でも販売イベントが控えているZIIIN。このタイミングで、デザイナー中村憲一にシーズンテーマ“ KANON – 観音”とニューモデル4型について詳しく話を聞いてきました。

CANON・観音・葦……3つの意味が重なる、“祈り”のコレクション

__今季のシーズンテーマは17世紀後半、ドイツで活躍したヨハン・パッヘルベル作曲の“CANON”にインスピレーションを得たものとお聞きしました。どうして“KANON”というテーマを選んだのでしょうか?

中村:パッヘルベルの“CANON”には、暗闇の中に一筋の光が入り始め、冷たい夜の終わりを予感させるような、そんなムードがあると感じています。

今季のコレクションを作っていた2021年の秋頃は、まだ今ほどコロナ禍の出口は見えていませんでしたが、それでもどことなく今までとは違う“希望”と呼べるものが見えてきたタイミングでした。

嵐は止んだものの、空の向こうはまだ暗く、地面はまだ濡れていて、辺りも風に飛ばされてきた看板なんかで雑然としている。けれど頭上の空からは一筋の光が差してきていて、長く厳しい夜が終わろうとしているんだという予感がある。

2021-22AWはすっぽりと時間が隠されてしまったイメージでしたが、2022SSはそこから少しだけ前に進むことができる、そんなイメージが湧いてきた。明るい未来を信じ、祈るような。

パッヘルベルの“CANON”のムードが、そういう2022SSのイメージとぴったり重なったんです。

__綴りを本来のCANONのCからKに変えて、KANONにすることで観音菩薩とも掛けていますが、これにはどういう意図が?

中村:観音様は別名救世菩薩とも呼ばれますが、世の中を救ってくれる神様のような存在です。日本人である私たちが祈りを捧げる対象としてはぴったりでしょう?

CANONからインスピレーションを得た時に、暗い空に一筋の光が差したことを喜んでいる私たちを、天井から観音様が眺めているイメージが浮かんだんです。

あくまで言葉遊びではあるんですが、今季のコレクションにはそういう思いも込めています。

あとCANONはもともと古典ギリシャ語で植物の“葦(あし)”という意味もあるそうです。葦の持つ、踏まれても踏まれても真っ直ぐに伸びる我慢強さは、まさに今の時代を生き抜くのに必要な素養ですよね。

こうやっていくつかの意味が重なったので、今季のテーマは“ KANON – 観音”にしようと決めたんです。

シーズンテーマを託した2つのニューモデル“MARIA”と“KANON”

__今季は新型の多いコレクションでしたが、シーズンテーマが色濃く反映されたモデルはどれですか?

中村:やはりプルオーバーパーカーのMARIAですね。マリア様が被っているケープをフードに見立てて作ったんです。彼女は祈る人ですから、今季のテーマにぴったりのインスピレーション源でした。

__ああ!だからフードだったんですね!

今季のアイテムはいつもの春夏ZIIINらしくラミーリネン素材のものが中心ですが、MARIAだけがハリのあるコットン素材でした。これはどうしてですか?

中村:着る人を包み込むようなフォルムを作りたかったからです。

ラミーリネンの方はキャンバス地、コットンの方はウェザークロス地といずれもタフな生地を使っていますが、特に後者は立体感が強く出る生地なのでMARIAにぴったりだと思って選びました。

__どうして立体感を出したかったのですか?

中村:マリア像のように彫刻的にしたかったんです。ラミーリネンの方は柔らかく、きれいに落ちるのでドレープが出しやすい生地なのですが、これをMARIAの形で使うと生地の重みでシルエットが崩れてしまいます。

ウェザークロスはアウトドアカジュアルに用いられる硬めの素材、これで造形的にしました。

__デザインソースはミリタリーのスノーパーカーとのことですが、どのようなところにアレンジを加えたのでしょうか?

中村:全体的にかなり大きめの作りにしました。

__身長174cmの僕で、ちょうどお尻が隠れるくらいの丈でしたね。

中村:プルオーバー仕様にしているから、体にフィットさせるほど窮屈になってしまうんです。

だから思いきってオーバーサイズにして、頭からガボッと被るようなイメージで着てもらいたくて、標準サイズよりもかなり大きく作りました。

__他にシーズンテーマが色濃く反映されたモデルはありますか?

中村:シーズンテーマをそのまま託したストレートパンツのKANONですね。あれは、観音様のパンツをモチーフにしているんです。ズドンとしたストレートシルエットなんですが、かなりドレープが強いパンツを履かれていて。

__KANONは観音パンツってことなんですね(笑)。

中村: 2020-21AWからやっていたフレアパンツのMIROKがベースになっているんですが、それを完全にストレートにして作ったのがKANONです。

__弥勒に観音、他にも弁慶に達磨と、パンツは日本古来の存在から名前を借りているんですね。

中村:パンツはスタイリングの土台になるアイテムなので、あんまりコロコロ変えたくないと思っていて。だから名前も、日本人にとって不変的な存在からお借りすることにしているんです。

__夏場は特にパンツがスタイリングの中心になりますから、頼り甲斐のあるパンツは重宝しますね。

ところでKANONは本当に完全なストレートシルエットなんですか?ルックを見たり、自分で履いたりしていると若干フレアのようにも見えますが……。

中村:パターンのうえではフレア要素は本当にないんです。でも履くと少しフレアのようにも見えますよね。けっこうそこが気に入っています。

__めちゃくちゃ絶妙ですよね、このシルエット。柔らかくて軽い素材だから、歩くとすごく上品に揺れてくれますし、「フレアです!」という強い主張もなくて、すごくエレガントです。

ZIIIN的引き算の美学が現れたニューモデル“KENZI”と“KODRMA”

__続いてほかのニューモデルについてもお聞きしたいと思います。まずは僕の中で勝手に推しているノーカラージャケット“KENZI”について教えてください。

中村:2021-22AWで登場したテーラードジャケット“GIOVANNI”のラペルをカットしたのが今回の“KENZI”です。

シャツの襟もですが、ジャケットのラペルも着る人の印象を作る重要な記号です。ラペルには“GIOVANNI”のようなノッチドラペルの他に、先が尖ったピークドラペルというものもありますし、ラペルの幅によっても印象を変えることができます。

ただ、KENZI”に関してはいっそもう記号をなくしてしまおうと思ったんです。ZIIINのコンセプトは日本人に似合うモード服を作ることですから、より着物に近いジャケットにしたかった。

__ラペルがなくなったことで、着こなしの幅も広がったように思います。

中村:そうですね。ラペルをなくすことでジャケットなのか、カーディガンなのか、シャツなのかが一気に曖昧になります。

だから中にシャツを着ても成立しますし、カットソーを着ても成立する。薄手の生地で作ったので、アウターとしては着られる期間が比較的長い1着になりました。

__個人的には前身頃の生地が二重(ふたえ)になっているのがツボでした。

ここが一枚だと着込んでいくうちに形が崩れてきて、(それもかっこいんですが)スタイリッシュな着こなしをしたい時にしっくりこなくなっていたと思うんです。

それが二重になっていることで、きれいなシルエットをずっと維持することができる。夏になると暑さに負けて「着崩し過ぎ」になるのが僕の常ですが、“KENZI”ならそういうこともなさそうです。

中村:名前は私の故郷である岩手の詩人、宮沢賢治にちなんで名前をつけさせて頂きました。

2021-22AWで登場した2着のジャケットの名前“GIOVANNI”と“CAMPANELLA”は彼が書いた『銀河鉄道の夜』の主人公たちにちなんだものです。これらがもとになったジャケットなので、作者の名前をつけたんです。

__なるほど!ちゃんと伏線が回収されている!

ところでルックブックでは、“KENZI”に新作のショートパンツを合わせていましたよね。

中村:“KODARMA”ですね。名前の通り、ZIIINの定番ワイドパンツ“DARMA”の派生モデルとして作りました。

__僕の中ではけっこう驚きの展開でした。「ZIIINでショートパンツが来るとは!」という感じで。

中村:いやね、もう、関西が暑すぎるんです(笑)。薄手の生地を使ったり、シースルーの生地を使ったりしましたが、それでもやっぱり暑い……。

__じゃあもう丈を短くするしかない、と(笑)。

中村:そうです。モードを着る人はショートパンツに抵抗があるかもしれませんが、モード全体が従来とは変わってきているので、ちゃんと文脈を踏まえたショートパンツがあってもいいんじゃないかと思ったんです。

__どのあたりがキモでしたか?

中村:フィット感と丈の長さですね。原型は3タックの“DARMA”ですが、“KODARMA”は2タックにして、身幅も若干細くしました。

こうすることでスポーティすぎないフィット感とモードっぽいドレープを作り出せたなと思っていて。

__丈の長さではどういったところにこだわりが?

中村:長すぎず、短すぎずの絶妙なライン―――ちょうどロングパンツの裾をぐりぐりっとまくったくらいの丈を目指して作りました。

だから今までショートパンツに手を出してこなかったという人にも、比較的トライしてもらいやすいはずです。

__“KENZI”と“KODARMA”のスタイリングはとてもZIIINらしいドレスとカジュアルのバランスに仕上がっていました。ぜひ色んな人に試していただきたいですね。

いよいよ明日からは花巻・盛岡での販売イベントも控えていますし。

中村:そうですね。ZIIINの新作のほか、JAN JAN VAN ESSCHE、ZIGGY CHENなどのインポートブランドの作品、そして私の新ブランドTOKIARIのサンプルも持っていきます。

__言ってみれば「中村憲一 TRUNK SHOW」みたいな感じでしょうか?

中村:そんな感じです。花巻はV.O.Fの代表菊地と一緒に4月29日〜5月1日の10時〜17時で、盛岡は私1人で5月3日〜5日の11時〜17時で開催します。盛岡では状況を見ながらTOKIARIでやっているシャツのイメージオーダーもやろうと思っています。

2年ぶりに友人と会って話せるのが楽しみです。コロナでなかなか帰れなかったので。ぜひ、足を運んでみてください。心よりお待ちしております。

__ぜひ楽しんできてください。本日はありがとうございました。

<NEWS>
・まもなくZIIIN 2022SS COLLECTIONの第2便が到着。
・ZIIIN販売会が花巻(4/29〜5/1)、盛岡(5/3〜5/5)で開催。
・tomo kishida展示・販売会がCONTEXT(4/29〜5/1)、乙景(5/6〜5/8)で開催。

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語り手/中村 憲一(ZIIINデザイナー)
書き手/鈴木 直人(ライター)