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生地が違うと何が変わる?映像理論から学ぶ“生地選び”の面白さ

こんにちは、V.O.Fライターの鈴木直人です。

買い物をしていると、多くの幸せな悩みを抱えますが、その中でも生地選びは毎回なかなか答えが出せない問題です。

こっちの生地のバージョンもいいけど、こっちもいいな。どっちにしよう……いや、どっちもいくという手も……?

2着の服を手に、店内で棒立ちになったことは一度や二度ではありません。読者の方の中にも、同じ経験がある人も少なくないのではないでしょうか。

一方で、ファッションや服にそこまで興味のない人からすれば「そんなに悩むこと?」「どっちもよく似たものじゃん」と言いたくなる悩みでもあります。

しかし本当にそうなのでしょうか。筆者は悩める服好きの1人として、断固「そんなことはないぞ!」と言いたい。

そこで今回はJAN JAN VAN ESSCHEとZIGGY CHENの作品を通じて、生地の違いによって生じる変化を写真で検証するとともに、映像理論を使って生地選びの面白さを深堀りしていきたいと思います。

JAN JAN VAN ESSCHEとZIGGY CHENで見比べる生地の違い

まずは2022SSシーズンのJAN JAN VAN ESSCHEとZIGGY CHENの作品を、色、織りや編みなどの組織、使われている素材の違いから見比べてみましょう。

色で見る生地の違い

最初に比較するのは、”PARKA#9″のLEAD LINEN BAMBOO CLOTH(黒)POPPY COARSE HEMP COTTON(赤)の2着です。

黒は高級感、神秘性のほか、強さ・硬さ・重さなどを感じさせる色です。モード・ファッションが好きな人からすれば、モードの色としても認識されています。

対して赤は愛情や情熱といったイメージのほか、温もりや積極性などを感じさせる色です。

今季のJAN JAN VAN ESSCHEの赤については、【考察】JAN JAN VAN ESSCHE は 2022SS COLLECTION “CYCLE” で何を伝えようとしたのか?でも触れたように、癒しの意味もあります。

ここで比較した”PARKA#9″はバンブー×リネン、ヘンプ×コットンと素材の違いもありますが、黒と赤では見る人に与える印象が大きく違うため、同じ型でも全くの別物になっていることがわかります。

組織で見る生地の違い

次に比較するのは、JAN-JAN VAN ESSCHEの“TEE#73″BLACK PANCAKE COTTON JERSEYと、ZIGGY CHENのV-NECK SHORTSLEEVE SHIRTのBLACKです。

2着とも色は黒ですが、TEE#73はジャージー素材(編み地)、V-NECK SHORTSLEEVE SHIRTは織り地と生地の組織が大きく違います。

編み地は基本的に小さなループが連続して面を形成する生地です。カットソーの生地も手編みのニットもこの原則は変わりません。対して織り地は糸を縦と横に交差させ、糸同士を密着させて面を形成する生地です。

編み地の方が伸縮性と通気性が高いほか、見た目にも柔らかい印象を与えるので、比較的カジュアルな衣服に使われることが多く、織り地は見た目に硬い印象を与えるのでフォーマルな衣服に使われやすい傾向があります。

TEE#73とV-NECK SHORTSLEEVE SHIRTを見比べてみても、ドレープや光沢の出方、生地の落ち感に大きな違いがあることがわかります。

これはコットン(TEE#73)とリネン(V-NECK SHORTSLEEVE SHIRT)の違いもありますが、生地そのものが柔らかい編み地とピシッとした素材感の織り地の違いも強く影響しています。

素材で見る生地の違い

最後に比較するのが、JAN-JAN VAN ESSCHEの“TROUSERS#69″LEAD LINEN BAMBOO CLOTHとZIGGY CHENのFRONT PLEAT LONG TROUSERSです。

いずれも黒の生地ですが、前者はリネン60%/バンブーヴィスコース40%、後者はリネン100%と使われている素材に違いがあります。

この違いはなかなか写真ではわかりにくいのですが、TROUSERS#69の方が光沢感が強く、竹素材に芯があるのでシルエットもボリューム感が出ます。

FRONT PLEAT LONG TROUSERSの方はTROUSERS#69に比べると奥行きはなく、フロントプリーツが入っていることもあって、よりミニマルな印象を受けます。

素材の違いが生む変化は、他の2つに比べてわかりにくいため、気にならないという人も多いかもしれません。しかし逆に気になる人からすると、ものすごく気になる違いでもあります。

映像理論から学ぶ“生地選び”の面白さ

色、組織、素材、それぞれ程度の差こそあれ、どうして生地の違いが見る人に与える印象に変化をもたらすのでしょうか。

ここからは少し視点を変え、映画やCGアニメーションなどで使われる映像の理論から、生地の違いが生み出す変化について考えてみましょう。

アニメーション映画デザインのレジェンドであり、『美女と野獣』『アラジン』『ライオン・キング』などに関わってきたハンス・P・バッハー氏が映像理論について書いた本『Vision ヴィジョン ―ストーリーを伝える:色、光、構図』によれば、1枚の画像は次の要素で構成されています。

・被写体…何を撮るか?
・フォーマット…縦横比は?画像の形は?
・向き…縦か横か?
・フレーミング…画角
・ライン…構図の中の線状の要素
・シェイプ…フレーム内の空間を大まかに分ける要素
・明度…明るさ
・動き…動きを示す要素
・エッジ…シェイプの境界の強弱
・奥行き…画面は平坦に見えるか?奥行きがあるように見えるか?
・光…光源はどこ?強さや質は?
・テクスチャ…質感・シルエット…輪郭
・パターン…構図の中で繰り返される要素
・色…最も感情に訴えかける要素

服そのものは画像や映像ではありませんが、服を着て鏡を見たり、服を着て街を歩く自分を想像したりした時、その様子は画像や映像として考えることができます。そのとき被写体=自分の見え方を左右する服、そして生地は、上記の要素と深く関わっているはずです。

色はもちろんのこと、生地によってドレープの出方や揺れ方が変わることを思えば、生地の違いは「動き」の違いを生みます。

リネンの織り地のように比較的硬いラインを描く生地と、コットンの編み地のように柔らかいラインを描く生地では、「エッジ」が違います。また、織り方や編み方を変えることで「テクスチャ」にも大きな変化が生じます。

今季のJAN JAN VAN ESSCHEのLEAD LINEN BAMBOO CLOTHのように、芯のある生地を使うと「シルエット」にも違いが出てきますし、オーバーダイをかけたり、表面を毛羽立たせるバフ加工を施したりすれば、「明度」「奥行き」も変化します。

こうして考えれば、生地が違うと衣服が全く別物に変身するのは当然のことなのです。

とりわけJAN JAN VAN ESSCHEやZIGGY CHENなど、弊社VISION OF FASHIONで取り扱っているブランドは生地選びに余念がありません。

例えばJAN JAN VAN ESSCHEのPARKA#9の黒と赤が全く違って見えるのは、色だけでなく透け感の少ないLEAD LINEN BAMBOO CLOTHと、透け感の強いPOPPY COARSE HEMP COTTONを使い分けているからです。

透けの有無は見た目の軽さ・重さに大きく影響しますが、JAN JAN VAN ESSCHEはこれを色によって使い分けることで、はっきりとした違いを作り出しています。

このように各ブランドの作品を「どんな生地の違いがあるか?」「どんな意図があってこのアイテムにこの生地を使ったのか?」という視点で見ると、改めてデザイナーたちの思考の深さを実感することができます。

生地が変われば衣服は“別物”になる

生地が変われば当然肌触りや着心地が変わりますが、映像理論によれば見た目も大きく変わります。

色、織りと編みなどの組織、使われている素材などに違いがあれば、同じ形をしていてもガラリと印象が変わるのはそのためです。

であるならば筆者を含めた服好きが、2着の服を手に「どっちの生地にしよう……」と悩むのも当たり前、当然至極なのです。

悩める服好きの皆さん、「こんなことで悩むなんて馬鹿げてるのか?」なんて思う必要はありません。安心して生地選びに迷い、楽しみましょう。

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書き手/鈴木 直人(ライター)