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【代表菊地インタビュー】岩手県花巻市より、新プロジェクトの今とこれから

いよいよ2021年もおしまい。皆さんにとって今年はどんな1年だったでしょうか?

V.O.Fにとって2021年は大きな変革の年でした。春には長く続いた堀江・dollarが京都・乙景に合流。乙景はdollar店主を務めていた山下が店主となって、新たなスタートを切りました。社名がAURICからVISION OF FASHIONへと変更になったのも今年です。

そしてもう一つ、大きな変化がありました。それは弊社代表菊地が、19歳から13年間拠点にしてきた大阪を離れ、10月末から地元岩手の花巻市に移り住み、新プロジェクトをスタートさせたことです(菊地の最近のInstagramが雪景色ばかりなのはこのためです)。

2021年ラストを飾る今回のJOURNALでは、拠点を移すに至った経緯や移住後の動き、そして2022年以降の展望について語ってもらいました。

「自分だからこそ伝えられる美意識を」岩手・花巻に拠点を移した理由

__まずは、改めて今菊地さんがどこにいるのか教えてください。

菊地:岩手県花巻市です。この地域は昔からの温泉宿が多く、湯治に来る人もいるくらいなのですが、僕が住んでいるところも山に囲まれた温泉郷の中にある集落です。

__花巻と言えば、空港もあれば新幹線駅もありますよね。

菊地:はい。大阪や神戸から直通の飛行機の便もあって、空港や新幹線駅からも車で30分くらいなので、都市圏からの交通アクセスも良い場所なんですよ。

文化的なところで言えば、手仕事で作られる織物の産地もすぐ近くにあります。

岩手は民芸的な文化が残っていて、今季のZIIINで使用した花巻ホームスパンをはじめ、亀甲織や裂織りといった手仕事が今も伝えられています。

このうち亀甲織の産地である雫石町は車で40分程度、裂織りの主要な産地である北上市、遠野市も隣接しています。

美しい透かし彫りの欄間。

__Instagramでも拝見していますが、今住んでいる家も昔ながらの文化を感じるたたずまいですよね。

菊地:築80年ほどの古民家で、もともとは何かあった時に集落の人たちが集まるような本家だったようです。そのためか、大きな欄間や梁など家の随所に素晴らしい手仕事が見て取れます。

車も配送業者以外ほぼ通らず、聞こえるのは鳥の声や用水路に水が流れる音ばかり。とてもリラックスできます。

__しかし、それにしても、大阪から花巻への移住はなかなかに思い切った決断だったと思います。なぜ花巻だったのですか?

菊地:自分だからこその美意識を発信できる場所だと思ったからです。もちろん大阪や京都、東京も大好きです。ただ、18歳まで岩手の釜石、盛岡で生まれ育った僕としては、どうしても刺激が多すぎる部分があったのも確かでした。

__確かに情報量は多いですね。大阪人に至ってはよく喋りますし(笑)。

菊地:(笑)。僕は色んなヒト・コト・モノと出会ってインプットしていくと、触発されて「あれもやらなきゃ!これもやりたい!」と良い意味でも悪い意味でも掻き立てられてしまう性格で。

__それめちゃくちゃ共感します。

菊地:もちろんそれも楽しいんですが、30代前半って経験値も溜まってきて、かつまだエネルギーも十分にあるっていう時期じゃないですか。だから外的な刺激に振り回されず、改めて自分がやりたいことと正面から向き合いたかった。

自分のルーツである岩手、その中でも花巻というヒト・コト・モノがゆっくり流れる場所なら、それができると思ったんです。

__じっくり自分を練るための余白を作った、みたいな感じでしょうか。

菊地:かもしれません。花巻は彫刻家で詩人だった高村光太郎が晩年を過ごした土地でもあり、詩人の宮沢賢治が生まれた土地でもあります。

僕は立場上考える仕事が多いんですが、そういう仕事と花巻という土地の相性はきっと良いんじゃないかと感じています。

「計算外の“歓迎ムード”に背中を押されています」移住2ヶ月で感じた、確かな希望

7月ごろに内装工事の打ち合わせのために訪れた頃の風景。

__10月末に拠点を移してから2ヶ月が経ちましたが、どんな動きをされているんでしょうか?

菊地;目に見えるところで言えば、家の片付けですね。

前のオーナーが興味のあることはなんでもやってみる方だったようで、色んな機械や設備をたくさん置いて行ってくれたんですが、僕やV.O.Fの手に余るものも少なからずあって……。

しかも家も含めた敷地が200平米くらいあって、あちこちにそういう機械や設備があるので、必要なものと不要なものを仕分けして処分するのにずいぶん時間と手間がかかってしまいました。

あとは地元の工務店の方々との打ち合わせにも、かなり時間と労力を注いできましたね。

__工務店との打ち合わせというのは?

菊地:今住んでいる家を、住居と店舗、そしてクリエイティブスペースの3つを兼ねた場所にしていくための打ち合わせです。

僕がこの場所を使ってkune(クウネ。エスペラント語で“一緒に”の意味)という名前で作ろうとしている空間は、大きく2つです。

一つは店舗スペースと喫茶スペースが融合した空間。

JAN JAN VAN ESSCHEやZIIINといった岩手や花巻の風土にも合うような衣服のほか、器や家具、民芸品やアート作品などを手にとったり眺めたりしつつ、美味しいお茶やリラックスできるドリンクを飲んで、ゆったりと語らえるような場所です。

これを母屋でやろうと考えています。

もう一つは都市圏や地元岩手のクリエイターが集まって、一緒に新しい作品のアイデアを練ったり、物作りをしたりするクリエイティブスペース。

ここには植物染のための素材を育てる畑や、それを使って染め作業をする工房も含みます。こちらは母屋と、離れにある納屋を使おうと考えています。

引っ越してすぐの10月末ごろの風景。

__単純にリフォームが必要な広さという点でも作業量が多そうです。

菊地:このうち特に頭を悩ませているのが、母屋のリフォームです。

店舗のデザインは今まで何度かやってきたので問題ないのですが、お客様がお買い物を楽しめるような場所であるだけでなく、クリエイターの人たちがインスピレーションを得られるような場所にしなければなりません。

しかも遠方から来る人のための宿泊所としても機能させたいので、ゆったりと生活できる必要もあるんです。

__全てを兼ね備えたデザインにするのが難しいわけですね。

菊地:そうなんです。地元の工務店さんからしても、こんな試みをしようとする人なんて今までいなかったので、お互い初めての挑戦で。手探りしながらだから、どうしても時間がかかっちゃうという(笑)。

__菊地さんは13年間、大阪に拠点を置いてきたわけですから、そちらで協力してくれる方々を見つけるのも苦労しそうですよね。

菊地:それが、その点に関してはほとんど苦労らしい苦労ってなかったんです。

__どういうことですか?

菊地:計算外の“歓迎ムード”に背中を押されているくらい、花巻の人たちが僕を受け入れてくれてるんです。

例えば工務店の人たちも「花巻を盛り上げてくれるなら手を貸したい」という姿勢で積極的に協力してくださいます。

工務店さんに紹介してもらった銀行の方々も、僕が「こんなことで困っていて」「こんなことがやりたくて」と言うと、すぐ「こんな人がいるので、紹介しますよ」と言ってくれます。

__Instagramを見ていると、集落の方々もりんごをくれたり、朝から除雪車を使って家の周りの雪をならしてくれたりと、かなり歓迎してくれていますよね。

菊地:はい。正直なところを話すと、不安な部分もあったんです。保守的な地域だと、新参者が入ってくることで反発が起きたり、賛成派と反対派に分かれて衝突が起きたりもしますから。

でも花巻の人たちは地元が大好きで、若い人や外部の人が入ってくることで地域が盛り上がったり、他府県に花巻の魅力が発信されたりすることを喜んでくれるんです。

__そういうことなら僕が花巻に長期滞在して、JOURNALで特集するのも面白そうですね。花巻ホームスパンをはじめとするZIIINの生産背景にも入っていって、魅力を発信したり。

菊地:段階を踏む必要はあると思いますが、きっと喜んでくれるはずです。

これってすごくありがたいことなんですよね。どんなにkuneが見た目ばかりが素敵な場所になったとしても、地元の人たちに受け入れられていないと最終的にはうまくいきませんから。

__「受け入れられていない雰囲気」って、来る人にも伝わるものですしね。

菊地:はい。だから住みはじめてまだ2ヶ月なんですが、kuneの未来にはすごく希望を感じているんです。

2022年とその後の展望は?「kuneは訪れる人のインスピレーションの場に」

早朝の風景。

__最後に2022年とその後の展望について聞かせてください。kuneはどんなスケジュール感でオープンする予定なのですか?

菊地:店舗兼喫茶スペースは春〜夏にオープン予定、クリエイティブスペースの方は色々と設備なども入れるつもりなので少し遅れて夏〜秋にオープンを予定しています。

__オープンしたあと、菊地さんはkuneにどのような形で関わっていくんですか?

菊地:お客様に対しても、クリエイターの人たちに対しても、店主としてしっかり腰を据えて向き合っていきます。

先ほどもお話ししましたが、僕が花巻にやってきたのは自分がやりたいことと向き合うため。それをお店やクリエイティブスペースという形に落とし込むためにも、手と頭をコツコツと動かしていきたいと考えています。

ただ僕の場合、東西各店の経営や自店舗も含めたバイイングなどもしなければならないので、一年中ずっとお店を開けておくのは難しいだろうと思っています。

なので、各シーズンが立ち上がる春と秋にお店を開けて、夏と冬はクリエイターの人たちと物づくりをしたり、経営に時間を注いだりと、柔軟な働き方をしていくつもりです。

__2023年、2024年と、もう少し先のビジョンについても聞かせてください。

菊地:まだ3年くらい先しか見えていないのですが、2025年にはV.O.Fの思想に共感してくれる、より多くのクリエイターや企業と手を組み、お互いの美意識を交感させられるような関係を築いておきたいですね。

その頃には東西各店はそれぞれが衣服の文化の発信地として、kuneは岩手や花巻の地方創生の発信地として機能しているはず。

各店の具体的なビジョンは各店主に任せますが、kuneに関して言えば東北の美意識や原風景を国内外に伝えるとともに、それをきっかけに日本各地の魅力を広めるお手伝いができる場所にしていきたいです。

__ビジョンについては以前からインタビュー外でも聞いてきましたが、少しずつリアリティを帯びてきたように感じます。

今後もJOURNALでは定期的に菊地さんの活動をレポートしつつ、ビジョンが実現されていく様子を追いかけていけたらと思います。本日はありがとうございました。

<NEWS>
・2022年1月2日AM10:00より、JAN JAN VAN ESSCHE、ZIGGY CHEN、HED MAYNER、SCHAの2021-22AW COLLECTIONのSALEがスタート(一部商品除く)。
・2022年1月2日〜16日、京都藤井大丸にてZIIINのPOP UP STOREを出店。一部モデルの限定カラーも出品予定。
場所   京都藤井大丸 四階
開催期間 2022年1月2日-16日まで
営業時間 10:30-20:00

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語り手 /菊地 央樹(V.O.F代表)
書き手/鈴木 直人(ライター)