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ZIGGY CHEN 2021-22AW “今シーズンおすすめしたい逸品”【東京・CONTEXT編】

東西ともに気候が秋めいてきて、「今日は秋物が着られそうだな」という日も増えてきました。ファッションへのワクワクが高まる、最高のシーズンがやってきましたね。

ZIGGY CHENの2021-22AW COLLECTIONの1st deliveryも引き続きご好評をいただいており、SOLDOUTになるアイテムもちらほらと出てまいりました。

そんななか、今回は前回の【京都・乙景編】に続き、東京・CONTEXTの店主伊藤にインタビューを実施し、今季セレクトしたアイテムの中から「これこそは!」と感じる逸品をピックアップ。その魅力について語ってもらいました。

その前に、まずZIGGY CHENというブランドと、今シーズンのテーマ“Sugarden”についての考察からお楽しみください。

ZIGGY CHENとは

ZIGGY CHENの拠点は、世界第3位の大都市・上海。

西欧諸国が居留地としていた頃の古い街並みと、世界トップクラスの近代的な街並みが並存する、言うなれば“古いものと新しいもの”、“東洋と西洋”が混じり合いながら進化していく混沌の都市。

そんな独特の空気が漂う街をインスピレーションの源に生み出されるZIGGY CHENの衣服は、狂気的とさえ言えるほどの「切る、縫う」の連続で構築されています。

衣服はあくまで着るための道具ですが、同ブランドの作品からはアートとしての風格を感じます。

「ZIGGY CHENの衣服を着る人は、自ら思考して己の哲学を持ち、自由に着て欲しい」というデザイナー自身の言葉に相応しく、ブランド設立以来、既存の価値観に惑わされない反骨精神を持ち続け、試行錯誤を繰り返しながら、絶えず進化を続けるブランドです。

2021-22AW COLLECTION “SUGARDEN”についての考察その3

2021-22AW COLLECTIONのテーマは“Sugardens”。ZIGGY CHENの拠点である上海から西へ100kmほどのところにある歴史的な街、蘇州(SUZHOU)と、庭園(GARDENS)を組み合わせた造語です。

今季はそのテーマ通り、600年以上前に蘇州に建設された庭園群「蘇州古典園林」からインスパイアされたコレクションとなっています。

考察その3では前回に引き続き、蘇州古典園林を含む中国庭園の特徴に触れながら、今季の作品との関連性を掘り下げていきましょう。

前回の考察では、中国庭園の多層的・多要素的な美学について紹介しました。これらに対して今回は、多“角”的な美学についてご紹介したいと思います。

ルックブックより、COAT Art.#110を使ったルック。

ZIGGY CHENは近年「アシンメトリー(左右非対称)」「アンイーブン(不均等)」を多用しています。

例えばCOAT Art.#110は、一方をコート、もう一方をジャケットとして作った大胆なアシンメトリーを取り入れています。この形は昨年のAWにもありましたが、今季は生地の質感により差をつけることで、アシンメトリーの印象を強めています。

またコールドダイなど、ムラの残る(アンイーブンな)染色技術は、ZIGGY CHENのお家芸とさえ言えるでしょう。

ルックブックより、コールドダイの生地を使ったルック。

こうした作品を貫いているのは、「どの角度から見ても美しく、かつ同じ見え方にならない」という美学です。

それは今季のコレクションムービーにも見てとることができます。1カ所に止まって、ただ歩き続けるモデル。周囲を取り囲む無数の映像機材。同じルックを映しているにもかかわらず、視点が前、後、上、下と切り替わるたびに、新しい景色が現れる……。

引用:ZIGGY CHEN

実はこれ、中国庭園における非常に重要な美学の一つなのです。中国庭園は、敷地内にいわば「観覧スポット」が造られます。

各スポットから見る景色はそれぞれ異なるため、観覧者は庭園を歩き回り、色々な角度から庭の主の世界観を楽しむことができるのです。

龍安寺石庭のような日本庭園は、基本的に一方向から見た世界観を作り込むことに重きを置いています。またヴェルサイユ庭園のようなフランス式庭園は、完全な左右均等をこそ美である、としていました。

確かにZIGGY CHENは「アシンメトリー(左右非対称)」「アンイーブン(不均等)」を今までも頻繁に取り入れてきました。

しかし今季、蘇州古典園林にフォーカスを当ててコレクションを作ることで、デザイナー自身の奥底に根付く中国的な美意識を、より自覚的に表現したと言えるのかもしれません。

以下ではそんな2021-22AW COLLECTIONの中から、東京・CONTEXTの店主伊藤おすすめのアイテムとして、VEST Art.#101とSHIRT Art.#701、SHIRT Art.#708、そしてTROUSERS Art.#510と TROUSERS Art.#501をご紹介します。

VEST Art.#101 & SHIRT Art.#701

__まずはベストですが、こちらは色々な意味で濃い1着ですね。

伊藤:今季はどのベストも、テーマを煮詰めたような作り方をしていました。ZIGGY CHENはこれまでもベストを作ってきましたが、今季は特に力が入ってますね。

今シーズンのテーマである蘇州古典園林ですが、実はZiggyさん自身はあまり好んではいなかったようです。

世界遺産に登録されているくらいメジャーだし、中国の恋愛ドラマの舞台になっていたりするみたいで、今更感があってデザインに落とし込もうっていう意識がなかったんじゃないかなあ。

一つ前の21S/Sシーズンのテーマ“Collagemory”は、memoryという単語が含まれていることからもわかるように、ある種自分との対話というか、過去を振り返ってみたシーズンなんですよ。

21-22A/Wシーズンはそこからの延長線というか、自分の苦手なものと「向き合う」ことで更なる飛躍を計ったのがこのシーズンなんです。

__Ziggyさんにとって、ベストは苦手なものなんですか?

伊藤:ベストって、難しいじゃないですか。カッコよくなり過ぎちゃうというか。そういう苦手意識と向き合って本気で作ってきた。

そういう意味で、今シーズンのベストには今までとはまた違った価値があると思っています。スタイリングの可能性を広げてくれるというか。

ZIGGY CHEN ルックブックより。

__スタイリングの可能性というのは?

伊藤:面白かったのは、一般的にはインナーの上、アウターの下に着るべきベストを、シャツの下に合わせたり、ジャケットの上に合わせたりと、色々な着こなしを見せていたところです。

普通中にあるものが外にある、外にあるものが中にあるという、今季のZIGGY CHENを体現するようなスタイリングでした。

__ZIGGY CHENを体現するような、とはどういうことですか?

伊藤:今季のZIGGY CHENにはHIDDEN SCENEという特徴的なディテールがありましたが、あれは要するに「窓(一枚目の生地)を開くと、別の世界(二枚目の生地)へとつながる」という中国庭園の世界観を表しています。

中国庭園は、池・石・木・橋・亭の5つの要素で構成されていますが、この亭の円窓からの風景を一幅の名画として鑑賞するイメージです。

そうして内と外が通じることで、内外の区別が曖昧になる……今季のZIGGY CHENには、そんなテーマが託されているような気がしていて。

__ベストをシャツの下やアウターの上に合わせることで、そうしたスタイリングの内と外の区別を曖昧にしようという意図がある、ということですか?

伊藤:だと思っています。とりわけこのVEST Art.#101はすごいですね。前後左右がアシンメトリーのベストに、SHIRT Art.#701で使われているのと同じ、シャツの生地が付けられています。

そのおかげで、カットソーやシンプルなシャツなどと合わせるだけで、いったいどこからどこまでがインナーで、どこからどこまでがベストなのかがわからなくなる。内外の区別が曖昧になるんです。

__1着で言いたいことを全部言える服になってるんですね。

伊藤: これがまたSHIRT Art.#701と合わせるとすごくかっこいいんですよ。

このシャツには今季のシーズンテーマの象徴とされる太湖石がプリントされた生地が使われているんですが、その生地の裏を表として使っています。

ベストに付けられている生地には表側が使われているのですが、シャツの袖をまくると必然的に表側が現れます。ベストについている生地と同じになるんです。

__ベストなのかシャツなのかも曖昧だし、表か裏かも曖昧になる!?

伊藤:そうです。このベストに使われているシャツ生地、実はルックブックの段階では裏側を使っていました。それが製品段階になって表側になっていた。

最初は「思ってたのと違うのが届いたな」となっていたのですが、すぐ意図に気づいて納得しました。

表と裏が噛み合って、一つのスタイリングを作り出す。ZIGGY CHENらしい、「陰陽太極図」のイメージがより濃く投影されたディテール変更だと思います。

__生産の段階で「ここは表の方が面白いんじゃない?」ってなったのかもしれませんね。

伊藤:ちなみにSHIRT Art.#701の柄のモチーフになっている太湖石は、古来中国庭園が「宇宙の縮図」と考え、表面に空いた無数の穴は宇宙への通り道だと考えられてきました。

さっきも言ったみたいに、このシャツの生地は裏側が使われています。つまり私たちの肌に向かって、宇宙の入り口が開いているんですよ。

……ところで、宇宙の構造と人間の脳細胞の構造は、似ているらしいですよ。

__人体というミクロコスモス(小宇宙)と、宇宙というマクロコスモス(大宇宙)が直接的につながるのが、SHIRT Art.#701……ってこと!?

伊藤:心と体に広がる宇宙。人体は宇宙で、宇宙は人体なんです。信じるか、信じないかは、あなた次第です(笑)。

VEST Art.#101の販売ページはこちらから
SHIRT Art.#701の販売ページはこちらから

SHIRT Art.#708(SOLD OUT)

__なんだか次の話を聞くのが怖くなってきましたが、続いてSHIRT Art.#708のお話をお願いします。

伊藤:ディテール自体はSHIRT Art.#701と同じですが、こちらはまた少し違った意味で今季のZIGGY CHENらしいアイテムになっています。

というのもドレスとカジュアルの要素がちょうど50対50くらいのバランスで組み込まれているんです。

__確かにここ最近のZIGGY CHENは、どちらかに寄せたアイテムが多かったように思います。シャツを作るにしてもハリのあるドレス寄りの生地でドレッシーなシャツを作ってディテールでカジュアルダウンしたり、その逆をやったり。

伊藤:一方でこのシャツは、ウールを10%混ぜた生地で美しい光沢感とドレープを作ったり、ディテールをシンプルにしたりしてドレス寄りにしながら、蘇州古典園林をモチーフにした植物柄に、オーバーサイズ、マオカラーでカジュアルのバランスをとっています。

コンフォートでドレッシー、エレガントでカジュアル。時代を読む力が本当に優れていると思いますね。

__この柄も独特の味がありますよね。

伊藤:ナチュラルでもあり、同時に美術的でもありますね。この柄はおそらく、蘇州古典園林の庭園の池に映る風景がモチーフになっているのだと思っています。

赤い色がところどころに入っていて一見おどろおどろしく見えますが、これが庭園内の建物に取り付けられた赤い提灯が水面に反射したものなんじゃないかと考えています。

柄物って派手に思えちゃうけど、こうやって考えるとミリタリーの迷彩と同じなんですよ。

__蘇州古典園林迷彩(笑)。

伊藤:ウッドランドカモとか、デザートカモとか、ストーンカモとか、そういうノリですよね。

__しかし言われてみると、それだけで終わらないような、どこか叙情的なところがありますよね。

伊藤:中国画のノリですよね。「金泥(きんでい)」といって、純金やそれに近いものを溶いた顔料を使うことがあります。中国画は古来、この金泥を使って、理想郷の景色を描くことがあったんです。

この生地の柄からは、そうした美術品のような風格が感じられますよね。美しいものが好きなZIGGY CHENならではのプリントだと思います。

__なるほど、ナチュラルな柄でありながらアートでもある。これも先ほどの50対50のバランスに通じるものがありますね。

伊藤:陰陽論でいう、「中庸」の状態ですね。

SHIRT Art.#708の販売ページはこちらから(SOLD OUT)

TROUSERS Art.#510 & TROUSERS Art.#501(SOLDOUT)

__最後はTROUSERS Art.#510とArt.#501、白と黒のパンツですね。

伊藤:これはZIGGY CHENのコレクションの中では、同じSHAPE1に分類されるパンツです。一見するとかなりシンプルなんですが、後ろのポケットを見ると片方にフラップがついていて、もう片方にはないことがわかります。

都会にきちんと馴染むようなデザインにしながらも、ちょっとしたところでほんのり非対称デザインをいれているんです。

__確か、今季のSWEATER Art.#005も柄が非対称でしたよね。

伊藤:実はあのニットは、裾のスリットも左右非対称なんですよ。そのスリットがちょうどパンツのポケットのところと一致するので、驚いたんですが。

__今季のZIGGY CHENは「自然と人の調和」もテーマに盛り込んでいましたが、こういったシンプルで都会的なデザインの中に、非対称性を持ち込むのもそうしたテーマに沿っているのかもしれませんね。自然はいつでも非対称ですから。

伊藤:かもしれません。ただこの2本のパンツ、同じように見えて少しずつ違うんですよ。

__え、そうなんですか?

伊藤:まずは生地の質感が違います。どちらもヴァージンウール・コットン・メタルなんですが、白の方がコットンの比率が多く、そのぶん肌触りがふんわりしています。

加えてこの白にはコールドダイという技法で染色されているので、表も裏も絶妙な風合いの白になっています。

__「日本人と中国人の色彩感覚」という論文によれば、白と言えば真っ白が好きな日本人に対して、中国人にとって真っ白はネガティブなイメージがあるらしく、あまり好んで身に付けないのだとか。

このパンツの色彩感覚も、そうした中国ならではの文化が影響している可能性はありそうですね。

伊藤:あとは、サイドシームの処理の方法が、このパンツは生地を内側に入れ込む形になっています。だからよりフラットでシンプルなビジュアルになっています。

__黒の方はどうでしょうか?

伊藤:黒の生地は白に比べてヴァージンウールの比率が多くなっており、ふんわり感の強い白に対してややツルッとした質感です。そのぶん、メタルのきらめきが強く感じられて、まるで宇宙のような豊かさをたたえた色になっているんです。

それだけではなくて、実はこの黒、黒なんですが黒ではないんですよ。

__どういうことですか?

伊藤:黒とチャコールの2色で織った生地なので、微妙にニュアンスがあるんですよ。ZIGGY CHENはこの「1色に見えて実は2色が混ざっている」という方法をずっと採用しています。

で、この黒とチャコールグレーの組み合わせが、サイドシームに効いてくる。

__ここも白と黒では違うんですか?

伊藤:はい。黒のサイドシームはステッチが外側に出るように縫われていて、かつ生地の端が処理されていない、切りっぱなしのままになっているんです。

ちょっとしたことなんですが、履き込んでいくとこの部分がほつれてきて、まるで側章のようになっていくはず。しかもさっき言ったように生地が2色の糸でできているので、ほつれるほどにチャコールの糸が目立ってくる。

__な、な、な、なにそれー!ヤバい!欲しすぎる!この間「ZIGGY CHENの白のパンツ欲しい」ってブログ書いたばかりなのに!

伊藤:(笑)。この白と黒のパンツは単に双子なのではなく、それぞれ相反する要素がある陰陽太極図の関係を描いています。

この世の全て、愛と悲しみ、出会いと別れ、滅びと誕生。この白と黒は、そんなイメージですね。

__げ、げ、げ、激アツー!どういうことなのか、もっと詳しく聞きたいところですが……。

伊藤:まだまだ語りたいことが多いのですが時間切れです。店頭にはここでは紹介しきれないおすすめの逸品がたくさんあります。こんなご時世ですが、ぜひとも店頭で手に取っていただければと思います。

TROUSERS Art.#510の販売ページはこちらから
TROUSERS Art.#501(SOLDOUT)の販売ページはこちらから

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聞き手/鈴木 直人(ライター)
語り手/伊藤 憲彦(CONTEXT TOKYO店主)