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伝統的な日本の仕事着を都会的にアップデート―――JAN-JAN VAN ESSCHEのKIMONO#9とハンテンの類似点と相違点

夏もあと少しになりましたね。涼しい季節の着こなしに向け、準備を始めている人もいるのではないでしょうか。CONTEXT TOKYOで働く私、伊藤香里菜も秋冬に向けて今から気持ちが高まっています。

V.O.Fでも秋冬ものが続々と入荷し、先月はJOURNALでも東西の各店長が今季のおすすめアイテムのご紹介をしてきました。

そこで今日は今季のJAN JAN VAN ESSCHEのラインナップのうち、私が特に興味を持ったKIMONO#9について掘り下げてご紹介したいと思います。

モデル名の通り、着物と形が似ているKIMONO#9ですが、ハンテンなどの伝統的な日本の仕事着とも似ているのです。

以下ではどこが日本の仕事着と似ていて、どこが違うのかという切り口から、KIMONO#9の魅力をお伝えしたいと思います。

伝統的な仕事着―――働く人のために生まれた衣服

引用;Wikipedia

仕事着とは、作業を効率的に行うために作られた衣服です。KIMONO#9と特に似ているのは、江戸時代の初期ごろまで農村地域で着られていた農作業用の仕事着です。

引用:『仕事着-変遷と地域性- 』長野県立博物館

仕事の内容や地域によって名前や形は変化しますが、ハンテンや股引き(ももひき)が代表的です。スタイリングとしては丈の短い上着に、比較的ぴったりとした形の下衣を合わせることが多かったようです。

例えばハンテンは、作業中の体内に風がよく入るようにあえて胸紐がついていないことが多く、股引きは運動量の多い農作業でも邪魔にならないように、今でいうタイトフィットのものが一般的でした。

両者の写真をぼんやりと眺めてみてください。なんとなく似ているように感じるのではないでしょうか。しかし、なんとなく似ているところもある一方で、なんとなく似ていないところもあるのです。私はそこにKIMONO#9の魅力があると考えています。

KIMONO#9と仕事着(ハンテン)の共通点

では、ハンテンとKIMONO#9はどんなところが似ているのでしょうか?

まず、和服なのに袂(たもと)がないところが似ています。袂とは、和服の袖の下にある袋状に垂れる部分を指します。袂を気にして抑える所作や布の揺れには日本的な美しさがあり、この効果は歌舞伎でも「袖使い」と言う女方の舞踊表現で見られます。

着物の図解。袂は6の部分。
引用:Wikipedia
JAN JAN VAN ESSCHEのKIMONO#9には袂がない。

一方で、ハンテンには袂がありません。農作業などをする際に、いちいち袂を抑えていては仕事が一向に進まないからでしょう。

KIMONO#9も同じように袂がないので、腕まわりが動かしやすいのはもちろん、和のムードに引っ張られすぎない印象があります。

また、着物のように丈が長くないところも共通点です。ハンテンは股引きの中に着込み、股引きに付いた紐でまとめることもあるため、タックインしてもかさばらないために丈が短い設計になっています。

KIMONO#9も腰より少し下くらいの丈なので、そのまま羽織ってももたつきませんし、ロング丈よりも普段着ている丈と似ているので、スタイリングに取り入れやすくなっています。

JAN JAN VAN ESSCHEのカットソーとのスタイリング。

和服らしい衿(えり)の合わせも似ています。KIMONO#9の合わせだけを見ると、ハンテンとほぼ同じ形をしていることが分かります。

着物のように衿を詰めて着ないので、Vゾーンが深くなります。すると衿から覗くインナー選びが楽しくなります。

加えて、スタイリングの重心が下がる(=目線が下に向きやすくなる)ので、JAN-JAN VAN ESSCHE のTROUSERS#58など、重心が低くなるパンツとの相性も良くなります。

KIMONO#9と仕事着(ハンテン)の違い

ハンテンのパターンがわかる図。
引用:『仕事着-変遷と地域性- 』長野県立博物館

次はKIMONO#9とハンテンの違いであり、KIMONO#9の魅力に通じる点をディテールとパターンの観点からご紹介します。

ディテールで言うと、ハンテンに比べてより袖が細くなっており、サイドに2つのポケットがある点、そして紐がついている点がポイントになります。

ハンテンは袂こそないものの、袖の幅は和服らしく太くなっています。股引きの中に着込むことを想定しているので、ポケットもありません。

一方KIMONO#9は、袖の太さが一般的なシャツに近い幅なので、シャツっぽい着こなしを楽しめると同時に、ポケットがあることでライトアウターとしても活躍してくれます。この着こなしの幅が、KIMONO#9の魅力の一つです。

また紐がついていることも、着こなしの幅につながっています。

股引についている紐でまとめるハンテンに対し、KIMONO#9は左右の見頃の表と裏に合計4本の紐がついています。

そのため、前を合わせずに着る、左右の紐を結んで着物のように着る(写真下)、合わせの紐を結んで深いVゾーンを作る(写真上)など、様々な着こなしが楽しめるのです。

よく見ると、背中で布が縫い合わせられている(柄合わせが丁寧すぎて、拡大しないとわからない……)。

ではどこで布を縫い合わせているのかというと、背中です。左右の生地を後ろで重ね、後ろ背中心の裾を縫い残すことでベントのような切り込みが生みだしています。

こうすることで布が身体のラインに沿うので、服の重みがまんべんなく分散し、軽やかな着心地を実現しているのです。

文章や写真では表現するのが難しいのですが、一度店頭で試着していただければ、きっとわかっていただけるはずです。

KIMONO#9の生地選び―――日本のルーツを感じさせるテキスタイル

日本の古布(伊藤私物)

STRIPED COTTON CLOTHは、染め分けた糸で模様を織りなす、日本の絣(かすり)の縞模様を連想させ、凹凸のある柔らかいコットン生地は上質な民芸品のようにも見えます。

いっそ着なくても椅子やソファにかけておくだけで、部屋の雰囲気が格上げされそうな存在感が特徴です。

一方、REDWOOD DRY WOOL TWILLも渋い色味になっています。色名になっているREDWOODは日本の赤松と同じ樹種だそうで、日本でもよく見かける色だと思います。

引用:Wikipedia
photo by 663highland

葛飾北斎の赤富士や、これからやってくる紅葉など、REDWOODの色味は日本の風景の色彩と通ずるものがあります。

無地のウール生地ですが、先ほどの生地と比べて経年変化で入るシワが分かりやすく見えるため、着込んでいく楽しみもあります。

これらのような日本にルーツを持つような生地の柄や色と、アップデートされた仕事着のシルエットが組み合わさっている点がKIMONO#9の魅力なのです。

やっぱりJAN JAN VAN ESSCHEは”すごい”

昔ながらの日本の仕事着が、現代の街に溶け込める一着となったKIMONO#9。改めて両者を比較してみると、新しい発見がたくさん出てきました。

本来は無骨なハンテンがここまで品よく仕上がるのって、やっぱりヤンヤンすごいなあ……と改めて思いました。

みなさんも夏の終わりを感じながら、KIMONO#9の洗練されたデザインと着心地の良さ、そして日本らしさを味わえるテキスタイルをぜひ楽しんでみてください。

JAN-JAN VAN ESSCHE “KIMONO#9” STRIPED COTTON CLOTHの販売ページはこちら
JAN-JAN VAN ESSCHE “KIMONO#9” REDWOOD DRY WOOL TWILLの販売ページはこちら

<参考文献>
『仕事着-変遷と地域性-』 長野県立博物館

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<NEWS>
【新入荷】
・乙景、CONTEXT TOKYOにてZIGGY CHEN 2021-22AWコレクションが販売開始。
・CONTEXT TOKYOでは英国のユニセックスブランドXENIA TELUNTSの2021-22AWコレクションが新入荷。

書き手/伊藤 香里菜(CONTEXT TOKYOスタッフ)
編集/鈴木 直人(ライター)