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CONTEXT TOKYOにて前原光榮商店の傘の取扱がスタート!店主伊藤が語る同メーカーの魅力とは?

photo by Norihiko Itoh

雨が降ったら、みなさんはどんな傘を持って出かけますか?ビニール傘、それとも折り畳み傘でしょうか。もしかしたら気に入る傘がないから、できるだけ傘を差さないという人もいるかもしれません。

CONTEXT TOKYOではこの春から傘の取り扱いをスタートしました。昭和23年、第二次大戦から3年後に創業した前原光榮商店の傘は、丁寧に、誠実に作られた、クラフトマンシップ溢れる逸品です。

今回は店主伊藤に、そもそもなぜ傘を取り扱おうと思ったのか、あるいはどうして前原光榮商店に決めたのかを聞くとともに、CONTEXT TOKYOでオーダーを受け付けている傘について詳しく聞いてきました。

ビニール傘の環境問題、1500年以上続く日本の傘文化……CONTEXTが傘を取り扱う理由

引用:Wikipedia

__まずは今回取り扱いを始めた前原光榮商店について、簡単な紹介をお願いします。

1948年に創業して以来、職人さんの手によって1本1本丁寧に傘を作り続けているメーカーです。

前原光榮商店では、傘という字に含まれている4つの“人”を「1. 生地を織る 2. 骨を組む 3. 手元を作る 4. 生地を裁断縫製する」4人の職人を表していると考え、その技術を磨き、現在にまで継承してきたそうです。

そうして作られた傘には、傘を装いの一部として楽しんで欲しいという気持ち、そして雨を楽しんで欲しいという気持ちが込められています。CONTEXT TOKYOでは前原光榮商店の想いに共感し、店頭での受注生産を受け付けさせていただいています。

__そもそも、どうして傘を取り扱おうと思ったんですか?

理由は大きく3つあります。一つは持続可能な社会の実現に少しでも貢献したかったからです。

__どういうことでしょう?

実は日本は世界一の傘の消費国なんです。

毎年日本で消費される傘は約1.2億本~1.3億本。そのうち約8,000万本はコンビニなどで売られているビニール傘です。

__国民1人当たり、毎年1本の傘を買ってるんだ……。

そうなんです。それが毎年毎年ですからね。

気軽に買った傘がどうなるかと言えば、当然ゴミになります。どう考えても無駄ですよ。

使われるビニール素材は、動物が誤飲してしまったり、自然分解されないから環境負荷も凄まじい。

こういう状況に対して、服屋として何ができるかと考えたときに、捨てる前提で買うのではなく、長く使う前提で傘とも接して欲しいと思ったんです。

__確かに、傘って「どうせ失くすしな……」と思って、安いもので済ませがちです。

「どうせ失くすしな」とか「捨てるしな」で、ものを買うことが良いことであるわけがありません。

洋服も一緒。寿命が短いファストな服より、魂の込められたものを大事に長く使って欲しいじゃないですか。僕は衣食住において、スローな文化が根付いて欲しいなと思っているんです。

実際、髪型や洋服なんかはものすごくこだわっているのに、傘はビニール傘って人はけっこう多いです。そこから一歩進んで、大切に使う傘を持ってみませんか、というのが僕の提案です。

衣食住においてこだわりを持つことで、その人の人生がより色鮮やかになって欲しいなと。

__二つ目の理由は?

日本の傘文化を後世に伝えていきたいと思うからです。海外だったら多少の雨なら傘って差さないですよね。でも日本だとそうもいきません。雨が降る頻度も高いし、降る量も多い。

__日本の年間降水量は、世界平均の約2倍だというデータもありますね。

これだけ雨が降る国で傘を差さないでいるのは難しいから、傘文化が発展してきたのだと思います。

__Wikipediaを見ると、だいたい1500年前の6世紀ごろに大陸から日本に入ってきたのが最初の傘だったみたいですね。いわゆる和傘が作られたのは江戸時代。かなり時代は進むものの、400年前か……。

ものすごい歴史ですよね。そうやって考えてみると、今の日本の傘の立ち位置って少し寂しいものがあると思います。基本的に使い捨てだし、生活の中での優先順位も低いですから。

インテリアや料理にこだわるみたいに、傘にもこだわって欲しい。今回傘の取り扱いを決めたのは、そういう理由もあるんです。

「傘のそばにはいつも物語がある」傘が持つ“雨を防ぐ”以上の力

photo by Norihiko Itoh

__3つ目の理由は何なんですか?

傘が持つ“雨を防ぐ以上”の力を知って欲しいからです。

__“雨を防ぐ以上”の力ですか?

はい。傘のそばにはいつも物語があるんです。

例えば名作ミュージカル映画『シェルブールの雨傘』は、フランスのシェルブールという石畳の街を舞台にしたラブストーリーですが、ある場面で傘が重要な役割を果たします。

この映画にはところどころに素敵な傘が登場します。それはときにカラフルだったり、フリルの飾りがついていたりと、主人公の二人の男女の愛を示すかのようで。

ところが二人は戦争をきっかけに離れ離れになってしまいます。戦争が終わったあと、男は二人の街シェルブールの駅に帰ってくるのですが、本来迎えに来てくれるはずの女の姿が見えません。

彼は冷たい冬の雨が降る街中を一人寂しく歩くんですよ。

__傘がないということが、二人の関係の終わりを表しているんですね。

他にも傘が印象的な役割を果たす作品はたくさんあります。『雨に唄えば』、スタジオジブリの『となりのトトロ』でも、傘は多用されていますよね。

__どうして傘は、そんなふうに扱われるんでしょうか?

傘って単なる「雨を防ぐ」という機能だけでなくて、ちゃんと人生を色付けてくれる存在だと思うんです。

傘を差していて、誰かとすれ違う。どこか知っている人に似ている。でも傘で視界が塞がれていて、はっきり誰かはわからない。あの人だったのかな、違ったのかな……。

傘には、そういったどこか切ない場面を作り出す力もあります。

__トトロも雨の音を楽しむための道具にしていましたしね。

そうですね。雨になると街全体がどんよりしていますが、一人一人が好きな傘を持つだけで、街ってもっと華やかになるし、活気が出てくるような気がしていて。

__少しだけ、世界が変わる。

はい。前原光榮商店の傘がそのための一本になってくれたら嬉しいですね。

「男性には65cmの傘が一番似合う」前原光榮商店の傘の魅力に迫る

__前原光榮商店の通販サイトを見ると、紳士傘だけでも様々なモデルがあるようですが、CONTEXTで取り扱っているのはどんなモデルなんでしょうか?

細かいジャカード織の生地、ステッキ職人によって仕上げられた樫を使った中棒、高い耐久性を持つアセテートを石突に採用したモデルです。カラーはブラックとダークブルーの2色。骨組みは16本で、長さは65cmのものをセレクトしました。

手元は写真の5種類を含め、全部で8種類から選べます。

__どうしてこのモデルを選んだのですか?

姿形がとりわけ美しいからです。カラーを2色に絞ったのは、より多くの人にこの傘の良さを知って欲しかったから。16本組のものを選んだのは、差したときの姿が美しいからです。

photo by Norihiko Itoh

__なぜ16本組だと差したときの姿が美しくなるのでしょう?

開いたときの傘の形が真円に近づくからです。多角形から円に近づくイメージ。だから、綺麗に見えるんですよね。

そして内側にカーブしていないので、面積も大きくなって雨を防ぐという機能面でもメリットがあります。

あと16本の骨組みには、日本古来の菊紋に使われている16枚の花弁を持つ菊の花をイメージしていたりもします。

photo by Norihiko Itoh


__前原光榮商店は60cm、70cmの傘も作っています。どうして真ん中のサイズの65cmを選んだのですか?

日本の一般的な体型の成人男性が持ったときに、一番バランスの良い長さだからです。

僕が最初に前原光榮商店の傘を買ったとき、「大は小を兼ねる」の考えで70cmを選んだんですよ。もちろんこのサイズでも十分使えるんですが、身長170cmの僕が差すと少し大きすぎてバランスが悪い。

ちょっとビーチパラソルみたいになっちゃう。

__たった5cmでそんなに変わるものですか?

この数字って円の半径なので、5cm違うと直径が10cm変わるんです。実際に店頭で見比べていただけると一目瞭然だと思いますよ。

あと畳んで持ち歩くときも、僕ぐらいの身長の人が70cmを持つと先が地面にこすれがちです。65cmだとそういう時もストレスがないので、CONTEXTではこのサイズをおすすめしています。

「この傘から生まれる所作が、持つ人をカッコよく見せてくれる」前原光榮商店の傘の魅力とは

左から順に、エゴノキ白(税込37,400円)、エゴノキ濃茶(税込37,400円)、ヒッコリー(税込42,900円)、コンゴ(税込39,600円)、寒竹(税込33,000円)。
photo by Norihiko Itoh

__長く使うためにはお手入れなども必要かと思いますが、伊藤さんはどのようなところに気をつけて使っていますか?

開く時、雨の中を歩く時、畳む時、家に帰った時の順にお話ししますね。

まずは開く時ですが、ビニール傘のように急にバッと開かないようにしています。ストラップを外したら、軽く全体を揺らしてから少し開いて、そこからゆっくり開いていく。

__それはどうしてですか?

バッとやると勢いで骨やパーツに負担がかかっちゃうので。勢いよく開くよりも緩やかに開いた方が所作が美しいですしね。

__雨の中を歩く時はどのようなことに注意していますか?

風が強い日や台風の日には使わないようにしています。やっぱりそういう時は気軽に扱えるビニール傘を使っていますね。

__畳む時は?

やはりビニール傘みたいに強く振ったり、素早く開閉したりして水気をとる、みたいなことはしません。軽く揺らしてあげて、羽を一枚一枚外に出す。そのあと先の方から徐々に巻き上げて、ストラップを留めます。

本当はタオルとかハンカチとかで滴を拭いてあげるのが理想なんですが、僕はそこまでできていません(笑)。

__開く時も、畳む時もゆっくりなんですね。

非効率的と言えばそれまでなんですけど、そういうゆったりとした所作ってその人の余裕とか優雅さを表すと思うんです。例えば腕時計も、自動巻の方がはるかに合理的ですけど、手巻の時計にはなんともいえない魅力がありますよね。

前原光榮商店の傘も同じ。この傘から生まれる所作が、持つ人をカッコよく見せてくれるんです。

__最後の家に帰った時はどうしているんですか?

開いて干しています。やはり雨に濡れたままにしていると、骨が錆びてしまうので。あとは―――これは外で持ち歩く時もそうですが―――手元をドアノブとかに引っ掛けて保管しないこと。

context店主、伊藤の私物とサンプルの手元(ともにコンゴ)。
photo by Norihiko Itoh

__どうしてですか?

前原光榮商店の傘の手元は、選定された天然木を全て職人さんの手曲げで作られます。

手で曲げたものですから、ドアノブとかに引っ掛ける保管方法を続けていくと、徐々に口が開いてきて伸びてしまうんです。木は生き物ですからね。

これを「あくびが出る」って言うんですけど。だから傘立てを使うなどして、手元に負担のかからないように保管する必要があるんです。

あとメーカーさんによれば、日焼けを防ぐためにはタンスの中で保管するのがベストだそうです。僕はさすがにタンスには入れてないですけど(笑)、日陰に置くようにはしています。

__もし生地が破れたり、骨が歪んだりした場合、メンテナンスなどは頼めるんですか?

はい。手元は天然の木なので個体差があるうえ、使っていくと光沢がでてきて、文字通りオンリーワンの楽しみがあって一生物なんです。けど生地や骨組みは使っているとどうしても劣化していきます。

だから生地の張り替え、骨の交換などもメーカーが対応してくれます。職人が一点一点作っているからこそできることですよね。

__CONTEXTは受注生産の形をとっていますが、オーダーから納品まではどれくらいかかるんですか?

1ヶ月ほどです。手作りなのでどうしても時間がかかってしまうんですが、一生ものを買うのだと思って楽しみに待っていただければと思います。

__日本は年中雨が降りますしね。それにしても、どの手元にするか迷うなあ(もう買う気マンマン)。

(笑)。ぜひたくさん迷って、自分の中のベストを選んでください。僕も納得のいく一本を選んでもらえるよう、全力でサポートします。

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・6月より土・日・月曜日の営業に変更。
・営業時間は11時〜19時(日曜日のみ18時まで)

聞き手/鈴木 直人(ライター)
語り手/伊藤 憲彦(CONTEXT TOKYO)