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ZIGGY CHENが“街に合う”理由とは?「みゆき族」から考える、まちとファッションの関係

photo by context tokyo

先日、V.O.Fのライターを務めている僕こと鈴木直人がcontext tokyoで買い物をしたときのことです。関西にいるときは、いまいち惹かれなかった「黒い服」が、context tokyoの鏡で見るとやたらと魅力的に見えたことがありました。

なぜだろうと考えたところ、「もしかして東京の街の風景と関係しているでは?」という仮説に思い至りました。

以降、京都に帰ってきてからも、まちの風景とファッションの関係について考え続けているのですが、考えるほどにおしゃれをするにあたって、大事な視点ではないかと思うようになったのです。

そこで今日は1964年ごろに出現し、のちのメンズファッションに影響を与えた「みゆき族」や、京都・乙景、東京・contextに撮ってもらったスタイリング写真などに触れつつ、まちとファッションの関係について綴ってみたいと思います。

「みゆき族」考———彼らが銀座をブラつかなければならなかった理由

1960年ごろの銀座の風景。 引用:Wikipedia

1964年の銀座”がみゆき族というファッションを生んだ

みゆき族は1964年ごろに登場し、1964年の間に消滅しましたが、後年の日本のファッションに大きな影響を残した存在です。

みゆき族とは、「男性はアイビールックを崩し、バミューダショーツやつんつるてんのコットンパンツといった出で立ちでVANか「JUN」の紙袋や頭陀袋を小脇に抱え、女性は白いブラウスに踵の低いぺったんこの靴、ロングスカート、リボンベルトを後ろ手に締め、頭に三角折りしたスカーフや首にネッカチーフを巻き、そして男性同様に紙袋やズダ袋を抱え」て、何をするわけでもなく、銀座みゆき通りをぶらぶらしていた10代の若者たちのことを指します(引用:Wikipedia)。

僕の考えでは、みゆき族と呼ばれた彼らは銀座をブラつかなければ“ならなかった”。なぜなら、そもそも“1964年の銀座”がみゆき族というファッションを生んだからです。

これだと色々話をすっ飛ばしすぎなので、当時の日本の状況や銀座という街の文化、ムードなどを糸口に、銀座とみゆき族の関係について紐解いてみましょう。

アメリカへの強烈な憧れと高度経済成長期の日本・銀座

アイビールックのお手本とされるハリウッド俳優、ポール・ニューマンのファッション。 引用:Wikipedia

1964年の日本といえば、イギリスへの憧れがひと段落して、当時世界トップの国であり、戦勝国であったアメリカへの憧れが募っている頃であり、高度経済成長期の真っ只中です。

銀座はまさにその中心地。百貨店だけでなく多くの一流メーカーのショールームや、世界的ブランドのブティックが並んでいました。

もともと銀座には1920年代から「銀ブラ」と呼ばれるウィンドウショッピングの文化がありましたが、1964年の銀座は銀ブラにより適した街に進化していたのです。

VANのジャケットを使用したアイビールック。 Photo by Matthew.eyes

そんな世の中の流れにぴったりフィットしたのがアイビールックのパイオニアVANでした。創業者の石津謙介氏は日本人に男性ファッションの文化を作るべく、アメリカのアイビーリーガー(上流階級の学生たち)を教科書として選びました。

おそらく、これが日本人のアメリカへの憧れをより強烈なものにしたのではないでしょうか。当時の若者たちはVANに熱狂し、のちのアメカジの土台を作っていきます。

こうしたVANに憧れ、VANに似た服を好んで着たのが、みゆき族です。

彼らはアイビーリーガーと同じお金持ちの学生でしたが、かといって高級品であるVANの服を誰もが買ってもらえるわけではありません。だからVANのある銀座に行って、なんとなくそれっぽい格好をして、街をそぞろ歩いたわけです。

つまり1964年を生きた10代の若者たちにとって、おしゃれであるためには銀座に行かねばならず、銀座を歩くにはみゆき族にならなければならなったのです。

もし高度経済成長のただなかでなければ、あるいは銀ブラという文化が根付いている銀座でなければ、VANは銀座にはなかったでしょうし、みゆき族も現れなかったでしょう。

みゆき族には“1964年の銀座”という文脈が必要だったのです。

東京開催を報じる当時の新聞記事。 引用:Wikipedia

しかし、余談ですが、みゆき族を生んだ当時の日本が持つアメリカへの憧れは、みゆき族を消滅させる原動力にもなりました。というのも、1964年は東京オリンピックイヤー。開催直前の東京クリーンアップ作戦の一環として、みゆき族は一斉検挙されたのです。

結果、みゆき族は1964年のうち、たった半年ほどの社会現象として消滅してしまったのでした。

まちとファッション———ZIGGY CHENが“街に合う”のはなぜか?

1984年10月14日原宿竹の子族集合写真。彼らもまた、街が生んだファッションだったのかもしれない。 引用:Wikipedia

ファッションは「流行」という大きな文脈や、「アンデンティティ」「自己表現」といった小さな文脈で語ることもできますが、その人が暮らしたり、働いたりする「まち」という文脈はその中間の切り口と言えます。

以下では「まちに合う」をテーマに京都・乙景、東京・contextで撮影してもらったスタイリング写真をもとに、「まち」という文脈に合わせたファッションの具体例を見ていきましょう。

photo by context tokyo

こちらはcontextの店主・伊藤の、ZIGGY CHENのCOAT Art.#1101を主役にしたスタイリングです。

ZIGGY CHENのデザインソースになっている街・上海は、中国の商業・金融・工業・交通などの中心地であり、世界有数の都市。新しいものと古いものが常に混交している、クリエイティブな場所でもあります。

対して、contextが店を構える東京も、日本の中心地であり、世界指折りの大きな街。同じく新旧が混在しており、洗練と陳腐が絶えず入れ替わる場所です。だからこそ、21SSのテーマ「Collagemory(コラージュとメモリーの造語)」を体現したコートが街に馴染むのです。

photo by context tokyo

こちらは同じくcontextの販売スタッフ・伊藤(香)の、SCHAのアイテムで組み上げた黒一色のスタイリング。ハットのArt#1225は100%シーグラス、ウェアのArt#1486も100%コットンのジャージーと素材は極めてナチュラルですが、東京の夜の街並みと黒がぴったりハマっています。

かつて東京で働いていた僕の姉は「あの街は一生懸命働きたい人が行く街だよ」と言っていましたが、僕自身東京に行ってみて同じ感想を抱きました。

黒には様々なイメージがつきまといますが、その一つがフォーマルな色としてのイメージです。働く色、カチッとする色―――それが黒の持つ一面ではないでしょうか。

であれば、東京で黒を軸にしたスタイリングがハマるのは必然なのです。

photo by 乙景

こちらは乙景から送られてきたスタイリング。四角く、硬いフォルムの建物が多い東京に対して、京都には背景にあるような高さのない木造建築や、緑のある場所がたくさんあります。

こうした土地には、優しく淡い色合いや、リラックスしたシルエットがしっくり来ます。

ただし京都は千年以上の歴史を誇る文化の街でもあります。だからこそ、単にリラックスしているだけの服では街の文脈にはハマりません。

ZIIINの衣服のように、リラックスをベースに置きながらも、どこかピリッと洗練させたスタイリングがフィットします。

photo by 乙景

こちらはZIIINデザイナー・中村のスタイリング。背景には電柱や錆びついた看板、かわら塀など、どこにでもある景色があります。こうした場所には洗練されすぎない、リラックスした雰囲気の服が似合います。

中村のスタイリングも、黒を基調にしたスタイリングではありますが、余白のあるシルエットのコートがちょうどいい塩梅です。

このように、まちの文脈(文化やムード)に合わせて服を選ぶことで、まるで一枚の絵の登場人物のように、まちの風景に溶け込むことができるのです。

「まちに合わせた服を着る」というファッションの楽しみ方

くれぐれも勘違いしないで欲しいのは、なにも僕が「まちの風景に合った服を着るべきだ!」という話をしたいわけではない、ということです。

ファッションは自由です。だから着方だって、楽しみ方だって、本来は自由なんです。流行を追うのもあり、流行の逆張りをするのもあり。誰かの真似をしてもOKですし、自分だけのオリジナリティを追求したって構いません。

ただ、そういう着方・楽しみ方の一つに「まちに合わせた服を着る」という切り口があってもいいんじゃないか。今回僕が言いたかったのは、そういうことです。

なんなら、まちは多面的な存在ですから、まちが持つ文脈の読み方だって一つじゃない。だから自分が思う「このまちに合う服」で良いんです。

「今日は何を着ようかな?」

その時の服選びの基準に「今日は○○に行くから(あるいは地元を歩くだけだから)、こういう服を着てみよう」という観点を加えてみてください。きっとまた少し、ファッションが楽しくなるはずです。

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書き手/鈴木 直人(ライター、ONLINE担当、乙景販売スタッフ)