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JAN-JAN VAN ESSCHE 2022-23A/W “今シーズンおすすめしたい逸品”【東京・CONTEXT編】

【考察】JAN JAN VAN ESSCHE が 2022-23A/W COLLECTION “A HORIZON” で伝えようとしたことではライター鈴木による、今季のJAN JAN VAN ESSCHEのコレクション考察を書かせていただきました。

前回の【京都・乙景編】に引き続き、今回は東京・CONTEXT店主、伊藤から今季のJAN JAN VAN ESSCHEの作品の紹介を通じて、彼らが感じた2022-23A/W COLLECTION “A HORIZON”について話してもらいました。

「この2枚は、すごくきれいな対極関係にあるんです」”SHIRT#91”& “SHIRT#90” COTTON LINEN CONTRAST STRIPE

__まずは伊藤さんの今季のJAN JAN VAN ESSCHEの印象を聞かせてください。

伊藤:今季のコレクション“A HORIZON”はスイス人写真家・アンネマリー・シュヴァルツェンバッハの写真集『Voyages en Afghanistan(アフガニスタン旅行記)』がインスピレーションのもとになったと聞いています。

この写真集はシュヴァルツェンバッハが愛車のフォードに乗って、スイスからアフガニスタンへの旅路を記録したものです。だからやっぱりアフガニスタンをはじめとする中東の風を感じるシーズンでした。

一方で、ここ数シーズンのJAN JAN VAN ESSCHEに通じる都会的なムードも強く感じましたね。

__そんな“A HORIZON”のなかで、伊藤さんが特におすすめしたい逸品はどれですか?

伊藤:COTTON LINEN CONTRAST STRIPEを使った”SHIRT#91”と”SHIRT#90″ですね。まずこのCOTTON LINEN CONTRAST STRIPEが素敵です。

今季はボーダーのニットも印象的でしたが、あのボーダーもこのストライプも、シュヴァルツェンバッハが見た中東の民族衣装の柄がインスピレーションのもとになってるんです。

特にVネックの”SHIRT#91”はアフガニスタンやカザフスタンの民族衣装“チャパン”がベースになっていますが、これをとても都会的にアレンジしています。

__ストライプの柄の凹凸感が美しい生地ですよね。

伊藤:尾州一ノ宮で織られた生地ですが、中東の香りと都会的なムードがちょうどいいバランスになっていますよね。

__”SHIRT#91”と”SHIRT#90″、それぞれのディテールはどうでしょうか?

伊藤:この2枚は、すごくきれいな対極関係にあるんですよ。まずは比翼ボタンのレギュラーカラーシャツ”SHIRT#90″から見ていきましょうか。

このシャツは袖の内側と背中中央のT字シーム以外は縫い目のない、ワンピースパターンで作られています。そのため西洋的な作りのシャツにはある、肩周り、脇下、ヨーク(背中上部)の縫い目はありません。

今までのJAN JAN VAN ESSCHEのシャツやジャケットなどは、基本的に胸のところにシームがありましたが、22S/Sシーズンからそれがない。

このパターンのおかげで着た時に腕を下ろすと袖部分のストライプの柄が、ボーダーになります。実はこの柄の使い方は、チャパンのストライプと同じ使い方なんです。

__Google画像検索で調べると、同じ柄の使い方をしているチャパンが出てきますね。

伊藤:また、”SHIRT#90″の真骨頂は前身頃の柄の見せ方にあります。このシャツは比翼ボタンなので第一ボタンだけ見えるようになっていますが、左右の前立ては全く同じ柄になるよう合わせられています。

そのため第二ボタン、第三ボタンといくつかボタンを外しても、ストライプのラインは常に一本に見えるんです。

しかもここを1本に見せることで、前身頃全体で見た時にこの太いラインが完全に等間隔に並びます。だから一見すると繋がった1枚の布地のように見えるわけです。

着こなしの上での柄物は、基本的に足し算のアイテムです。それにこうした引き算をすることで、できる限り都会的に見せているんです。

__確かにJAN JAN VAN ESSCHEの作品の中では派手よりの柄ですが、そのわりに静かなデザインに思えるのは、柄の見せ方に原因があるんですね。

伊藤:カフスボタンのボタンホールも、今までやってきた「シームに合わせてつける」というやり方ではなくて、「ストライプの柄に合わせてつける」というやり方をとっています。だからボタンを開けて着ていても目立ちません。

__徹底してるなあ……。

伊藤:あとこのシャツからは、今季のJAN JAN VAN ESSCHEが込めた熱いメッセージも感じられますよね。

COTTON LINEN CONTRAST STRIPEという生地にはいろんなラインがありますが、ワンピースパターンで一つにつながっています。

“A HORIZON”とは水平線、境界線という意味ですが、世界には人と人との境界線、国と国との境界線などいろいろな境界線があって、それが原因で衝突や争いが起きています。

でも根本をよく考えてみたら、地球も人類も本来は全部1つ。「なのに何を争っているんだ?」。そんなメッセージを感じます。

__チャパンがデザインソースになっている、”SHIRT#91″はどうでしょうか?

伊藤:西洋的なレギュラーカラーシャツを東洋的な1枚布のパターンで作った”SHIRT#90″に対して、”SHIRT#91″はチャパンや着物といった東洋的な形の衣服を、西洋的なパターンで作ったシャツです。

だから最初に「この2枚は、すごくきれいな対極関係にある」と言ったんです。

__西洋的なパターンで作られている、というのはどういうことですか?

伊藤:襟から後身頃は1枚布ですが、肩でも、脇の下でも生地が切り替えられていてシームが入っています。西洋的なシャツ作りに寄せたパターンなんですよ。

__なるほどねえ……。

伊藤:ただし肩のシームは肩のラインに沿って入れることが多い西洋的なシャツに対して、背中側にずらしてラグランスリーブのように入れています。ここもポイントです。

西洋的なパターンに寄せてはいるんですが、ちゃんといつものJAN JAN VAN ESSCHEらしく、着る人の肩の形に布が沿って丸いシルエットになるようになっている。このバランス感覚です。

で、もちろん、前立てのストライプの柄はボタンを外しても揃います、と。

__「もちろん」ではないんですけどね、一般的には(笑)。

伊藤:本当にすごいですよね、これは(笑)。

__しかし、こうした服の作り方は、今までのJAN JAN VAN ESSCHEとは少し方向性が変わったような気がしますね。

伊藤:そう、今までのJAN JAN VAN ESSCHEのシャツにはこうした生地を切って繋げて、という印象はなかったじゃないですか。

それを今シーズンはシュヴァルツェンバッハの写真集から影響を受けたことで、西洋的なスタイリングや洋服作りに原点回帰したような感じがあって。

__そこで単純に襟付きの方も同じ西洋的なパターンで作らないところが面白いですね。

伊藤:この2枚の対比がすごく面白いから、CONTEXTでは無地ではなくてストライプを2型入れたんですよ。

「2枚のシャツはドレスパンツ+GUIDI VS01で都会的に着こなして欲しい」

__このシャツにはどんなスタイリングをおすすめしたいですか?

伊藤:本当だったらドレスパンツに”APRON#5″ BLACK COTTON HEMP DENSEを巻いて、GUIDIの新作VS01みたいな靴を合わせて欲しいと思っていたんですが、どっちもあっという間に完売してしまって……(笑)。

VS01は10〜11月にある展示会でもオーダーしようと思っているので、ぜひそれとドレスパンツに”SHIRT#91”、 “SHIRT#90″を合わせて欲しいですね。

__その心は?

伊藤:ここ最近、CONTEXTでは「見た目はカチッとしているけど、着心地はコンフォート」っていうスタイルを提案していて。カジュアルをドレスアップするんじゃなくて、ドレスをカジュアルダウンさせるバランス、というか。

例えばVS01で言えば、見た目はGUIDIの定番フロントジップブーツPL01に似た重厚感があります。でもアウトソールはvibramの最新のもので、トレッキングブーツのアウトソールのような無骨な見た目をしているのに、触ってみるとむにむにーっとしているんです。

さらにインソールもものすごい分厚くて、同じくむにむにーっとしているものを使っているので、履き心地はHOKA ONEONEのスニーカーレベルです。

__そんなに!?

伊藤:なにせ、アウトソールとインソールを合わせると5.5cmありますから。

以前のJOURNALでも紹介したPETROSOLAUMのサイドゴアやこのVS01みたいな靴にドレスパンツを合わせて、そこに”SHIRT#91”、 “SHIRT#90″を着る。

そうやって最大限快適にファッションを楽しんで欲しいなと。

__でもそんなにソールが柔らかいと、すぐ削れちゃうんじゃないですか?

伊藤:いやそれが、全くそんなことないんです。8月頭に届いてから9月に入るまで、私物を1日も欠かさず毎日履いて歩きましたが、前も後ろも角が取れたくらいでほとんど削れませんでした。

毎週末履くだけの人で換算すれば、だいたい3〜4ヶ月分くらいの着用回数です。

伊藤:しかもアッパーのレザーはしっかりGUIDIなので、ちゃんと経年変化してくれます。めちゃくちゃいいですよ、これ。

__い、いいなあ……。GUIDIのフロントジップ持ってないしなあ……。

伊藤:ぜひご検討ください(笑)。

もしJAN JAN VAN ESSCHEのシャツにVS01、ドレスパンツというスタイリングを堅苦しく感じるなら、M47みたいなミリタリーのカーゴパンツとかを合わせてもバランスはとれますよ。

今期の墨染めのデニム”TROUSERS#67″とも相性は抜群です。

「今季のキーカラーを使ったパンツと“完成されたコート”」”TROUSERS#67”&”COAT#27″

__他に「これはぜひ手に取ってみて欲しい」という作品はありますか?

伊藤:全部手に取ってみて欲しいですけど(笑)、強いて絞るならKAKISHIBU COTTON HEMP DENSEの”TROUSERS#67”と、PITCH BLACK YAK WOOLの”COAT#27″ですね。

__パンツの方は唯一の柿渋染めの生地を使った作品ですよね。

伊藤:今季のCONTEXTでピックアップしたJAN JAN VAN ESSCHEのパンツは、2022S/Sから継続の型”TROUSERS#67”なんですが、このKAKISHIBU COTTON HEMP DENSEのアンバー(琥珀)カラーは今季のキーカラーだったので外せなかったんです。

__キーカラーというのは?

伊藤:デザイナーのJan Jan Van Essche氏が「このアンバーは、旅の道中で身を守ってくれる存在というイメージで選んだ色なんだ」と言っていたんです。

今季はシュヴァルツェンバッハの写真集『Voyages en Afghanistan』にしろ、コレクション・ムービーの内容にしろ、旅のイメージがあちこちにちりばめられていますよね。

その旅のお守りとしてこの色を選んだとデザイナー本人が言うわけです。ピックアップせざるを得ないですよね。

__そりゃまあ、本人に言われちゃあね(笑)。

伊藤:ただ純粋に、ルックブックの1つ目のスタイリングが格好良すぎたんですよね。ボーダーのニットのインナーにストライプのシャツを入れて、KAKISHIBU COTTON HEMP DENSEのトラウザーズを履いているのが。

__”TROUSERS#67”は個人的に2本持っていますが、本当に使い勝手がいいモデルだと思います。

伊藤:シルエットがいいですよね。カジュアルなディテールなのにドレッシーに見える。ウエスト周りは前後をダイアゴナルパターン(同ブランドのパンツに特有の生地が斜めに重なるパターン)を使っているので、キュッと引き締まったシルエットになっています。

それに対して、サイドシームレスなので横からのシルエットが美しく、シームが終わる膝上から裾に向かって緩く広がるような生地の落ち方をするようになっている。この形が本当に“完成形”という感じがします。

__自信があるからこそ、2シーズン継続しているのでしょうしね。

伊藤:“完成形”という意味では、PITCH BLACK YAK WOOLの”COAT#27″も同じだと僕は思っています。

今季のアウター類、フーディコートの”PARKA#10″、ライダースジャケットの”JACKET#49″ 、そしてダブルブレストコートの”COAT#27″は、全て前合わせが斜めに入るパターンを使っています。

これは砂を防ぐための、中東ならではのディテールなんですが、”COAT#27″はこれをものすごく都会的に落とし込んでいるんです。

今季の作品は西洋的なイメージで組み立てられているので、どれも着こなしやすいんですが、その中でもこのコートは本当に素晴らしくて。

JAN JAN VAN ESSCHEらしい要素はしっかり組み込みつつ、それを前面に押し出していないから、「いつもの着こなし」に違和感なく溶け込んでくれる。

__一見するとダブルブレストのチェスターコートですが、先ほどシャツのところでも出た、肩の丸いシルエットは健在ですよね。

伊藤:はい。さらに脇の下のシームはあるんですが、これを若干前斜め方向にズラして、そのシーム上にポケットをつけているあたりもJAN JAN VAN ESSCHEらしいディテールです。

__これは何のためにやったんでしょうか?

伊藤:ポケットに手を入れる時って、体の真横に手は来ないですよね。ちょっと前側に来るはずです。このコートのポケットは、そうした人の動きに合わせてつけられているんです。

今までのJAN JAN VAN ESSCHEのシャツやアウター類は、胸元に横のシームが入っていて、そこから肩、背中を通って前に戻ってくるパターンでした。

このコートはシームを縦に変えて脇の下に持ってきて、やっぱり肩、背中を通って前に戻ってくるパターンで作られています。

この“円”のパターンだから可動域の広い着心地やフィット感は相変わらずですが、胸元の横のシームがなくなることで、より一層「パッと見ただけではJAN JAN VAN ESSCHEとわからない服」になっています。もう最高ですよね。

__今季のアウター類はどれもそうですが、襟を立てた時のシルエットの美しさも素晴らしい。

伊藤:そうですね。襟を立ててもいいし、襟を折って着ても様になります。ラペルを開いて着てもいいし、ボタンを1つ、2つと外して着ても違ったシルエットが楽しめます。さらに後ろのシルエットも美しい。本当に完成されたコートです。

しかも素材は軽さ・暖かさに加えて、チベットの人たちがお守りのように大切に扱っているヤクウール。言うことなしです。

……いいなあ、今季のJAN JAN VAN ESSCHE……。

__いや本当に!しみじみ思いますよね。伊藤さんのお話を聞いて、また欲しいものが増えました(嬉泣)。ありがとうございました。

<LOOK PHOTO>
Clothing:Jan-Jan Van Essche – @janjanvanessche
Shoes:Petrosolaum – @petrosolaum

<NEWS>
・東京・CONTEXTにTaiga Takahashi 2022-23A/W COLLECTIONの第一便が到着。
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語り手/伊藤 憲彦(CONTEXT TOKYO店主)
書き手/鈴木 直人(ライター)