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ZIGGY CHEN 2022SS “今シーズンおすすめしたい逸品”【東京・CONTEXT編】

3月21日の春分の日は、昼と夜の時間がほぼ同じになる日。1日を通じて春の暖かさを感じるようになり、いよいよ春夏アイテムがスタイリングの主役になる季節になってきました。

すっかり出揃った各ブランドの2022SS COLLECTIONのアイテムもすでに好評をいただき、中でもZIGGY CHENはかなりのスピードで多くのアイテムが旅立っていきました。

しかし同ブランドの2nd deliveryは先日ようやく東西各店に届いたところ。ZIGGY CHENの2022SSはまだ始まったばかりなのです。

そこで今回は、毎シーズン恒例の東西店主“今シーズンおすすめしたい逸品”シリーズのZIGGY CHENバージョンをお届けします。

まずはCONTEXT TOKYO店主の伊藤憲彦から、今季のZIGGY CHENの魅力についてたっぷりと語ってもらいましょう。

REVERSIBLE COLLAGE LONG COATはなぜ“最高のコート”だったのか?1着に込められた22S/Sの哲学

__2022S/SのZIGGY CHENで、伊藤さんが一番欲しいと思ったアイテムはどれでしたか?

伊藤:うーん、全部欲しいです(笑)。

ただ、強いて一番をあげるとしたらREVERSIBLE COLLAGE LONG COATですね。本当に最高のコートでしたよあれは。ありがたいことにあっという間に旅立ってしまいましたが……。

__あのコートは本当に早かったですね。どうしてあれが一番だったのですか?

伊藤:今シーズンのZIGGY CHENの思想―――高い表裏一体性と境界の曖昧性―――を一番はっきりと形にしていたからです。

__まずは「高い表裏一体性」について教えてください。

伊藤:今までのZIGGY CHENで、あそこまで完全なリバーシブル仕様のコートってなかった。完成形です。

ZIGGY CHENはもともと表裏一体な作りではありますが、今回のコートは非常に高い次元で調和していたように思います。

REVERSIBLE COLLAGE LONG COATは袖と肩にしか裏地のない背抜きのコートなのに、どっちも表と言っても過言ではないくらい、表裏一体でした。

__確かにパイピング処理はもちろん、両面のボタンや異なる形のポケットをつけたり、表側のピークドラペルを身頃に縫い付けて、裏側(タグのない方)で着た時にきれいなノーカラー仕様になるよう工夫していたりと、尋常じゃない作り込みでした。

肩の裏地も身頃に縫い付けてあるので、裏返した時の「裏っぽさ」がよりなくなっていましたし。あれは本当に感動しました。

伊藤:表は西洋のピークドラペル、裏返すと東洋の着物のようなノーカラーと、ZIGGY CHENがこれまで積み重ねてきた陰陽一体、東西一体の思想が色濃く表現されていました。

以前のブログ(CONTEXT店主・伊藤が2021-22AWシーズン“もっと”おすすめしたいZIGGY CHEN)でも書きましたが、あのコートのデザイン自体が皇帝の着ている着物のバランスなので、東西一体感がより一層深かったですね。

__「境界の曖昧性」というのはどういうことでしょうか?

伊藤:これは今までのJOURNALでもちょくちょく話しているのですが、様々な境目を曖昧にしようとしている傾向があります。

これについてはZIGGY CHEN 2021-22A/W “今シーズンおすすめしたい逸品”【東京・CONTEXT編】で紹介したベストのところでも話しています。

__確かにREVERSIBLE COLLAGE LONG COATも、薄いのでコートなようでシャツなようで、けっこう曖昧ですね。

伊藤:そうなんです。リネン100%のシャツに使う素材をほとんど裏地を使わずに作っているのでめちゃくちゃ軽いし、夏でもタンクトップの上からバサッと羽織って、袖をぐるぐるとまくって着れるんじゃないかと思います。

__まさに「コートなのか、シャツなのか」という感じですね。

伊藤:ファッションにおける男女間の差が年々曖昧になっているじゃないですか。それと同じように、アイテムやシーズンの差も曖昧にするという狙いがあるんです。

それに、ファッションには「コートは夏に着れない」「冬はセーターを着るべき」といった暗黙のルールみたいなものがありますが、ZIGGY CHENのクリエイションはそうしたルールをことごとく疑ってかかり、覆そうとしています。

自由なファッションの楽しみ方を教えてくれますよ。

そしてこのコートはそのあたりの考え方が非常に強く出ていて革新的に思いました。本当にいいコート……欲しかった……(笑)。

__僕も許されるなら欲しかった……(泣)。

中国思想を服(カタチ)にした作品たち———「無用の用」「無為自然」

伊藤:あと、今シーズンのZIGGY CHENの思想との関係性で言うと、このコートにはもう一つ、掘り下げて語っておきたいことがあるんです。

__なんでしょう?

直近の数シーズンのZIGGY CHENのテーマにはそれぞれ繋がりがあるんです。

前回の秋冬のテーマになった蘇州庭園には、宇宙と自然と人の調和がキーワードでした。今年の春夏は自然と人との調和に、より深いフォーカスを当てているように思います。

そんな自然との調和から、中国の三教の一つ、道教がモチーフになっています。

今期の作品は、表裏で0になるようにデザインをされています。陰と陽の間、つまり中庸を目指してデザインされたものなんです。

表は引き算的デザイン(-)であり、裏は足し算的デザイン(+)になっている。だからリバーシブルの要素が強く出ているんですよ。

道教の大家の一人、荘子の教えに「無用の用」というものがあります。

役に立つ有用な木はすぐに切り倒されて天寿をまっとうできないが、何にも使えない無用な木は切り倒されず天寿をまっとうできるというお話です。

派手なデザインのものって、すぐに飽きられてしまうじゃないですか。流行っているものも同じ。流行っているっていうことはすぐに飽きられて売られてしまうんです。

デザイナーや作り手は本来そういうものを作りたいわけじゃないんです。長く愛着を持って使ってもらえるのが一番じゃないですか。

だからこそZIGGY CHENはシーズンの境目が無くした。カテゴリーの境目をなくしているのも、どうとでも使えるようにしたいからだと思います。

__確かにいつでも、どんなふうにも着られるならつい手にとってしまいますもんね。

伊藤:道教には、「自然に身を任せること(無為自然)」という教えもあります。

洋服の本体とは関係のない付加価値やトレンドがどうではなく、もっと楽観的に服を着ることを楽しんで欲しい。ZIGGY CHENもそんな想いがあるからこそ、表はシンプルに削ぎ落とし裏でしっかり思想がある道教的なデザインになっています。

これはどんなブランドもそうだと思いますが、今までのZIGGYも、誰にでもハマる服というわけではないじゃないですか。着たいって思う人がいれば、思わない人がいるのが当たり前です。

でも今年のZIGGYは表が大人しいデザインになっているぶん、誰にでもハマるというのがすごい。

袖を通すとどんな性別・ジャンルの人でもテンションが上がり、人間の根幹的な喜び(エネルギー)を活性化させることで自由を取り戻すことができる。そんな洋服なんです。

__なるほど、どうりでパワーに満ち溢れているわけですね。このシーズンのスカラープリントもパワフルですよね。

伊藤:そうなんです。春秋時代の諸子百家、その中でも道家がモチーフのプリントです。

道教というのは、社会のシステム的ないわゆる儒教的な在り方とは逆の存在なんです。システムの外にある、いわゆる神の領域を道家と照らし合わせたプリントです。

まるで、神話に出てくる人物かのような神々しさすら感じます。

このスカラープリントのコート(OVERSIZED DOUBLE BREAST COAT WITH SCHOLAR PRINT)の破壊力たるや……ごくり。※現在ONLINE STORE未掲載。ぜひ店頭にてご覧ください。

__うわあああああ、やめてくれーーー!!!

伊藤:ふふふ。

__じゃあ、他にまだ店頭に残っているもので伊藤さんが欲しいと思うのはどれですか?

伊藤:ピークドラペルジャケットのLOOSE FIT SINGLE BREASTED BLAZERと、ワイドストレートパンツのFRONT PLEATED WIDE LEG LONG TROUSERSのセットアップですね。

パンツのシルエットの美しさもさることながら、とにかくジャケットがめちゃくちゃ好きです。

__……っ!(息を呑む音)

伊藤:どうしました?

__いや、あれ、僕もめっちゃ欲しいって思ってて、必死で自分の物欲を見て見ないふりをしてるところなんです(笑)。

伊藤:(笑)。ノッチドラペルジャケットのCLASSIC TWO BUTTON BLAZERもカッコいいんですが、やっぱり僕はピークドラペルの方の裏地の作り込みに惹かれちゃいますね。

特に右腕のところの腕章がめちゃくちゃカッコいい。

__ひゃ!そ、そーーーーうなのよ!左様でござるのよなあ……。

伊藤:鈴木さん、キャラ崩壊してるよ(笑)。

__袖にも裏地がない一枚仕立てで、薄いけど安心感のある厚みのリネン100%、袖にボタンがついていないのでガシャガシャって袖まくりあげられる仕様になってて、裏側(タグのついている方)にすればアバンギャルド、表側(タグのない方)にすればシンプル・イズ・ザ・ベスト。

洗濯もできて、着れる季節も長く、着る人のテンションによって表裏も変えられる。そりゃキャラも崩壊します。

伊藤:大人ですよね、いつでも、誰にでも対応できる。

__うわあああ……欲しすぎて吐きそうになってきた……!

伊藤:ところでノッチドラペルジャケットは裏地がシンプルで、ピークドラペルジャケットはしっかり裏地まで作り込んでるじゃないですか。

これって比較的デザインが落ち着いたノッチドラペル、デザインが強いピークドラペル、それぞれに合わせてバランスを取ってるんだと思ってて。

目立つこと、新しいことを無理に作り出そうとするんじゃなくて、古来の思想や技術を入念に噛み砕いたうえで、ファッションの文脈に丁寧に落とし込んでいるというか。

古いシーズンのものでもずっと色褪せないのは、そういった過程を経ているからだと思っています。

ZIGGY CHENの22S/Sは始まったばかり!

__ZIGGY CHENの哲学がたっぷり盛り込まれたジャケット……やはり欲しい……。

伊藤:今日話したコートやジャケット以外にも、今シーズンのZIGGY CHENは特にアウターやトップスを中心に、哲学をしっかりと落とし込んだアイテムがたくさんありますよ。

例えば、PRINTED SHORT SLEEVE SHIRTもその一つです(ヒアリング実施後完売)。

__どういうところに哲学が反映されているんでしょうか?

伊藤:この半袖シャツはプリントからして今シーズンを象徴する柄が使われていますが、このプリントの手法がすごい。

不揃いの太い糸を使って織り上げたスラブリネン生地の上にスカラー(学者・思想家)のプリントを施したあと、その生地をものすごく細い糸で織り上げた軽やかなコットンリネン生地の上に転写しているんです。

__なんでそんな回りくどいことを……。

伊藤:これがさっき話した絶妙なバランスなんです。

カジュアルな半袖のシャツに、素朴な風合いのスラブリネン生地のプリントを施しつつ、繊細でドレッシーな生地を使ってシャキッとしたシルエットに落とし込んでいる。

スラブリネンの生地だと重さが出てしまうのですが、この手法だと同じ重さの見た目でも軽やかに表現できます。

さらに軽い生地が必要以上に風でばたつかないよう、裾を折り返したり、サイドスリットに裏地をつけたりして重みをつけています。だからリラックスしていながらも、適度な緊張感があるんですよ。

__なんて細やかなバランス調整なんだ……!ちくしょう、これも欲しい!

伊藤:そして、このスラブリネンがまた最高な生地なんですよね。

ラオスの手紡ぎ、手織りの生地のようなざくっとした生地に低温染めをほどこして雰囲気ムンムンなんですけど、洋服になると民族感がないというかすごい都会的なんです。

昔ながらの技法を都会的にリファインさせている。この温故知新のクリエイションが、ZIGGY CHENの旨みだと思います。

昔は良かったなあと過去に想いを馳せるのではなく、いまを生きる喜びを与えてくれるブランドです。

__な、なんてブランドなんだ(笑)。今日もありがとうございました。とりあえず、ピークドラペルジャケットについて一晩考えます。

<NEWS>
・ ZIIIN 2022S/Sの第一便が乙景、CONTEXT、ONLINEに到着。
・ZIGGY CHEN 2022S/Sの第二便が店頭に到着。

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語り手/伊藤 憲彦(CONTEXT TOKYO店主)
書き手/鈴木 直人(ライター)