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この春夏に買ってよかったものは?【ライター・鈴木直人編】

V.O.Fメンバーの「この春夏に買ってよかったものは?」シリーズ、第5弾はV.O.FのJOURNALを担当している私、鈴木直人です。

【ZIIINデザイナー・中村憲一編】
【乙景店主・山下恭平編】
【CONTEXTスタッフ・伊藤香里菜編】
【CONTEXT店主・伊藤憲彦編】

紹介させていただくのは、tomo kishidaのスノーパーカー、canomaの2-23|胡蝶(オードトワレ)、ZIIINの2021SSコレクションからGOKUHの3点。

どれも、とても思い入れのある逸品です。お楽しみいただければ幸いです。

tomo kishidaのスノーパーカー

サムライみたいな男だな、と思った。

剣の達人の、目にもとまらぬ太刀筋というのは、力が強いからではなく、むしろ完全な脱力から生まれるものだそうだ。

鋭いのに、緩い。それがtomo kishidaを作る岸田氏の第一印象だった。

僕が彼に初めて会ったのは、2021年3月、tomo kishidaが埼玉のセレクトショップacht8さんでイベントをした時のことだ。

その日僕は、CONTEXT TOKYOの店主・伊藤に会いに行っていた。V.O.Fにライターとして関わることになって半年ほど経っていたけれど、彼とはオンライン上でやりとりをするだけで、直接会う機会がなかったからだ。

それがたまたまtomo kishidaのイベントに重なり、しかも岸田氏が関東にいるタイミングとも重なった結果、「じゃあ直人さん、岸田くんと一緒に3人で埼玉行きますか」という話になったのである。

これだけだとただ偶然が重なっただけのように思えるが、伊藤から誘いを受けた時、僕はものすごく興奮していた。というのも実は、岸田氏とはちょっとした因縁があったからだ。

僕が3年ほど前に書いたとあるブログを彼が読んでいた。
よく通っているショップのオーナーからtomo kishida最初期の作品を見せられていた。
大阪・天満のシューメーカー「竜崇縫靴店」から彼の名前を聞いた。
ライターとして仕事をするようになったV.O.Fが、彼のイベントを定期的に開催していた。
あちこちで、彼の気配というか、面影というか、そういうものを感じていた。

しかし、にもかかわらず、僕と岸田氏は一度として出会うことはなく、tomo kishidaの衣服に触れる機会も、なかった。不思議なくらいすれ違い続けていた。

そんな岸田氏に、ようやく会える!僕の気持ちの高鳴りをわかっていただけるだろうか。

そんな特別な日に手に取ったのが、このスノーパーカーだった。もちろん語りたいことは1万字分くらいあるのだけれど、僕がこの一着を「春夏に買ってよかったもの」として挙げる理由は、ひとまず、それだけで十分かなと思う。

canomaの2-23|胡蝶(オードトワレ)

香水があまり得意ではなかった。というのも、つけていると妙にソワソワして、居心地が悪くなることが多かったからだ。

大人になってから初めて買った香水は、BVLGARIのBLACK。今思えばませた少年だったが、中学生の頃、学年の番長的存在だった友人が、この香水をつけていた。

僕の目から見ると彼はとても大人びて見えて、同時に自由な精神の持ち主だった。そんな少年時代の憧れから、この香水を買った。

少しして、Yves-Saint LaurentのJAZZも買った。これも同じく憧れから手に取ったものだ。

僕はどうしても臭いがダメでタバコは吸わないのだけれど、いつまで経っても「紫煙を燻らせる男」への憧憬が捨てきれない。

学生時代、仲良くしてくれていた先輩が、まさにそういう男だった。ウイスキーをロックで飲み、長い前髪と無精髭、そして赤マル。

部屋にはなんだかよくわからないロックミュージックが流れていて、やたらと女性にモテる。そんな映画の登場人物みたいな男の部屋にあったのが、この香水だった。

しかしながら、結局のところ、いずれの香水も憧れでしかなく、僕なんぞにはそぐわなかった。どちらも色気がありすぎて、つけているとドギマギしてしまうのだ。

パッケージデザインには「源氏香」を採用。

で、この香水である。

神戸元町の眼鏡屋・折角堂さんで出会った品で、日本人がディレクターを務め、調香は世界的に有名な調香師が手掛けているそうだ(この調香師が関わっているから、という理由で買いに来る人がいるほどなのだとか)。

「日本に香水の文化が定着しないのは、本当に日本人が好きだと思える香りがないからだ」という哲学のもと、東洋のスパイスを使うなどして香りを作り出している。

パッケージデザインには「源氏香」(日本古来の香りの組み合わせを図化したもの)を採用していたり、各フレグランスのネーミングに『源氏物語』の巻名を引用していたりと、日本を意識したブランディングを徹底している。

僕が選んだ「胡蝶」は、華やかなトップノートに、森の土の薫りを想起させるミドルノート、ラストノートは果実酒のような甘みのある香りへと変わる。

テスターをつけたその日からいたく気に入ってしまい、人生で初めて香水をつけることが習慣になった。

エレガンスと素朴さのちょうどよいバランスが、かつて憧れて身につけていた香水とは異なり、違和感なく自分の鼻に馴染んだのだと思う。

落ち着かない香りを身につけることほど辛いことはないが、逆に言えば「これが自分の香り」と言えるようなものを身につけるようになると、それだけで1日が少しハッピーになる。

そんなことに気づかせてもらったから、この香水を買って本当によかったなあと思う。

ZIIIN GOKUH BLACK

2021SSのデリバリーがスタートする前、はっきり言って一番ピンと来ていなかったのが、GOKUHだった。その頃の僕がロング丈にハマっていたこともあるのだが、ずらりと並ぶ「今シーズン欲しいものリスト」にGOKUHが並ぶことはなかった。

しかし、今となっては家でも仕事でも、「何を着ようかな」と迷ったら手に取っている。GOKUHは僕の心に、優しく寄り添ってくれる一着なのだ。

例えばお洒落をしたい時。神戸元町にcanomaの香水を買いに行った時もGOKUHを着て行ったし、京都・乙景の店頭に立つ時もしょっちゅう着ている。

一人で美術館に行った時も羽織っていくし、久しぶりに会う友人とのお酒の席にも着て行った。

一方で、リラックスしたい時も、GOKUHを選びがちだ。

休日にクーラーの効いた部屋で本を読む時、最近近所にできたラーメン屋に昼食を食べに行く時、夜中にコンビニに缶チューハイを買いに行く時も、GOKUHをパッと羽織って出ることが多い。

この原稿を書くにあたってなぜなのかと考えてみたのだけれど、おそらく「色んな意味で懐が広い」からだと思う。

サイジングからして文字通り懐が広い。175cm、67kgの僕が着ても、まだまだ余裕のある身幅やラグラン袖は裏地なしのリネン素材もあいまって、風をよく通し、汗をかいてもすぐに乾く。

慎重に削ぎ落とされたデザインは、スタイリングの幅を広げてくれる。

アメリカンヴィンテージのオーバーサイズのタンクトップに、膝上丈のハーフパンツみたいなすれすれのコーディネートにもピッタリくる。

逆にJAN JAN VAN ESSCHEやZIGGY CHENといった最先端モードのファッションともバチっと合う。全くわけがわからない(褒め言葉)。

しかもこのジャケット、春夏アウターという分類とは裏腹に、着られる季節がかなり長いのも魅力だ。先ほども書いたように裏地なしのリネン素材で作られているので、ほとんどシャツ感覚で着られるのだ。

3月はハイゲージのニットと合わせてもいいし、4〜5月のまだ涼しい季節はインナーにシャツを着ればOK。6〜9月の暑い時期は、インナーをタンクトップに差し替える。

僕は人一倍暑がりなので、もしかしたら10月あたりまではニットなどと組み合わせてまだ着てしまうかもしれない。それくらい息が長いし、着まわしやすい一着なのだ。

まだはっきりしたことは言えないのだが、GOKUHは2021AWも秋冬仕様にアップデートされて登場するらしい。今から楽しみでしようがない。

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最終回となる第6弾は当社VISION OF FASHION代表・菊地央樹の「この春夏に買ってよかったもの」です。記事はこちらからご覧ください。

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<NEWS>
【新入荷】
・東西各店にてJAN JAN VAN ESSCHE 2021-22AWコレクションが販売開始。

書き手/鈴木 直人(ライター)